夜の再会

夜の街は、湿ったアスファルトにネオンの光が滲んでいた。
風は冷たく、しかしどこか優しく、僕の頬を撫でては路地の奥へと消えていく。
路地裏の小さな広場、普段は誰も立ち寄らないような場所に、彼女はいた。
数年ぶりの再会だった。

少女――いや、もう少女とは呼べないのかもしれない。
彼女、ミカは、そこに立っていた。
黒いコートが風に揺れ、肩から滑り落ちそうになるたびに、彼女は無造作にそれを引き上げた。
その仕草は、まるで夜そのものを抱きしめるようだった。

「久しぶりだね」と、彼女は言った。
声は低く、どこか煙草の煙のように掠れていた。
彼女の目は、昔と同じく、星屑を飲み込んだような輝きを放っていた。

「こんなところで何してるんだ？」と僕は尋ねた。
彼女は笑った。
唇の端がわずかに上がり、まるで秘密を隠しているかのような笑みだった。
「アートだよ。見てて。」

ミカはコートを脱ぎ捨てた。
風が一瞬、彼女の素肌を撫で、長い黒髪が夜の息吹に踊る。
彼女の肌は、月光の下で白磁のように輝き、肩から腕、腰のラインまでが、まるで彫刻のように浮かび上がった。
彼女が身にまとっていたのは、薄い布のドレス――いや、ドレスというより、まるで夜そのものを切り取ったような、透けるような布だった。
風が吹くたびに、布は彼女の身体に寄り添い、離れ、また寄り添った。
夜の風が彼女の素肌を撫でていく様子は、まるで自然と彼女が対話しているかのようだった。

「これが私のパフォーマンス」と、彼女は言った。
「私の身体はキャンバスで、夜は私の絵の具。
見る人の心に何かを刻むために、私はここに立つ。」
彼女は広場の中央に立ち、ゆっくりと回転した。
風が彼女の髪を乱し、布が波のように揺れる。
彼女の動きは、まるで音楽に合わせて踊っているかのようだったが、そこには音がなかった。
ただ、夜の静寂と、遠くで鳴る街のざわめきだけ。

「恥ずかしくないのか？」と、つい口に出してしまった。

ミカは立ち止まり、僕をまっすぐに見つめた。
「恥ずかしい？ それって、誰が決めたルール？ 私の肌は、私の物語。夜がそれを引き立ててくれるの。」

彼女は一歩近づいてきた。
彼女の香水――いや、彼女自身の匂いだろうか、夜の花のような甘さと、土の匂いが混ざったような香りが、僕の鼻腔をくすぐった。
彼女の指先が、僕の腕に触れた。
冷たく、しかしどこか熱を帯びた感触だった。
「ねえ、感じてみて。
この夜、この風、私の存在。全部がアートなんだよ。」

ミカの言葉は、僕の心に小さな波を立てた。
彼女の目は、まるで僕の奥底を見透かすようだった。
彼女は再び広場に戻り、風と対話するように動き始めた。
彼女の足元では、落ち葉が小さな渦を巻き、彼女の動きに呼応する。
夜の風が彼女の素肌を撫でていくたび、彼女は目を閉じ、まるでその感触を味わうように微笑んだ。
彼女の髪が風に揺れ、肩から鎖骨、腕のラインが月光に照らされて、まるで生きている絵画のようだった。

「どう思う？」と、彼女は突然立ち止まり、僕に尋ねた。

「美しい」と、僕は正直に答えた。
言葉に詰まりながらも、それが本心だった。

彼女は満足げに頷き、こう言った。
「なら、私のアートは成功したってこと。あなたの中に、何かを残せたから。」

夜は更け、ミカは再びコートを羽織った。
彼女の素肌は夜に隠れ、まるでパフォーマンスが一つの夢だったかのように、静寂が戻ってきた。
「またどこかで会おうね」と、彼女は軽く手を振って、路地の闇に消えていった。

僕は立ち尽くし、夜の風が僕の肌を撫でていくのを感じた。
彼女の残した余韻が、胸の奥でまだざわめいていた。