白昼夢
作:吉井葉蘭
―1― 「でもね、男の性欲ってのも理解してほしいんだよ。」 風俗通いが妻の沙希にバレた夫は、沙希が取り乱しわめき散らし、泣き疲れてぐっ たりしたのを見計らって後ろから優しく抱きしめるとそう言った。 「男ってさ、時々とにかく何でもいいからやりたいとか出したいって時があって、 でも沙希の事すごく愛してるから、沙希をそんな性欲処理の道具みたいな扱いした くないんだよ。だから風俗に行って性欲処理はそういう商売女と、でもって愛のあ るセックスは本当に愛してる沙希とだけ、ね?」 (…そんなの…理解できるワケないじゃない…!) 沙希は夫の腕を振り払うと寝室へ閉じこもった。
朝、リビングのソファで眠った夫が寝室へやってきて、昨夜何十回となく言った言 葉を改めて言った。 「本当にゴメンね、沙希を泣かせるような事して。」 (謝ってくれてるんだから、許してあげなきゃ…) (でも…でもそれは…) 沙希は無表情でキッチンに立ち、夫のための朝食と弁当を用意するとまた寝室に戻 る。夫をいつものように笑顔で見送ることはできなかった。 (謝ってくれたのは私を泣かせた事に対してでしょ?) (風俗に行く事自体は悪いなんて思ってないんだわ) (それでも謝ってくれた…) (でも許せない…) (でも謝ってくれた…) 考えが堂々巡りになりそうだ。 (もう…解らない…夫の言ってる事も、自分の気持ちも…) (私、怒ってるの?悲しんでるの?) ため息をつき、混乱した気持ちを静めるため髪を梳かそうとドレッサーの前に座り 引出しを開けるとポケットティッシュがこぼれ出てきた。 街を歩けば嫌でも押しつけられるあの手のものだ。外袋にけばけばしい色合いでテ レクラの番号が印刷されている。 (これって…) しばらくそれを見つめていた沙希は衝動的に電話をかけ、最初に繋がった男と会う 事にしてしまった。
―2― 午前11時、駅前広場に沙希はいた。 電話で何もかもを話してしまった沙希に対し、Lと名乗ったその男は 『だったら、奥さんも性欲のためのセックスってのしてみようよ。』 と誘ってきた。 沙希もそういう事を経験すれば夫の気持ちが理解できて夫を許せるようになるはず だというのがLの意見だった。 その意見に興味を持ったのと夫へのあてつけもあって、誘いを受ける事にした沙希 は今、Lに指定された通りコートの下に、体のラインが出るピッタリとしたニット のセーターと、ミニスカートという格好で彼を待っている。 (この格好、Lさんが言った事と何か関係あるのかしら…) 『沙希さんは優しいご主人との優しいセックスしか経験したことがないんだね、だ ったらいつもと違う事を私としてみようか、会ってすぐホテルなんていうんじゃな くてさ、きっと沙希さんにとってもすごく刺激的だと思うな。』 とLは電話で言ったのだ。そして場所と時間と服装の指定をしてきた。 (ここよね、〇〇駅の駅前広場、時計の下…) (本当に来てくれるのかしら?からかわれただけだったら、どうしよう) そう思っていると 「沙希さん?私です、Lですよ。」 電話と同じ声の男が目の前に現れた。 年齢は30代半ばもしくはそれ以上といったところだろうか、もっとも沙希は男性 の年齢を見た目で測る事が出来ない、そう思ったのは自分のことを俺でも僕でもな く私と言った事と、それがちっとも不自然ではなかったから。 ただ、Lの容姿や年齢などどうでも良かった、沙希が虜になったのはその瞳。 (なんて、綺麗な…) 二重の大きなだの、切れ長の涼しげなだのと言った造作のことではなく瞳そのもの の、こちらに押し迫ってくるような力に沙希は抗いきれない魅力を感じた。 「じゃあ約束どおり、今日一日沙希は私のもの、私の言う事を何でもよく聞いてい い子になるんだよ。」 「…あ…はい。」 いきなり腰に手を回され耳元で優しく囁かれ沙希は考える力を無くしそうになって しまった。 さん付けではなく呼び捨てにされたこともむしろ心地よいくらいだった。 「ちょっとコートの前開けて。」 口調は優しく穏やかだがその中には有無を言わせぬような強さがあり、それはもう 命令だった。 言われるままにするとLは沙希の全身をチェックするように何度も何度も視線を上 下させた。 そして沙希のスカートを見ると 「まだ長いね。よし、私が新しいスカートを買ってあげるよ。」 そう言って沙希の手を取り目の前のデパートへと入って行った。
婦人服売り場の一角、沙希より少し若い店員が接客をしてくれる店でLはミニスカ ートを手に取り沙希に試着するように言った。 ウエストから裾までの丈が30cmあるかないかのタイトミニで、不思議なくらい サイズが沙希にピッタリだった。 沙希が一旦試着室から出るとLは満足したように 「それにしなさい。」 と言い、店員に 「このまま着て行きたいので値札だけ取ってくれないか?」 と頼んだ。店員が朗らかにハイと返事をする。 「それでは、お会計をして参りますので。」 「ああ、私が行こう。」 「恐れ入ります、それではこちらへ。」 スカートから外したバーコード付きの値札を持って店員は会計へと向かう。 Lは、沙希に言い残した。 「…で……それから……ね…。」 「そんな…そんなこと…。」 「楽しみにしてるよ。」 沙希の戸惑いなど意に介さないといった風情でLは試着室のドアを閉め店員の後に 続いた。
(いつまでもここにいたら余計に変に思われるわ) 沙希が意を決して試着室を出ると 「お疲れ様でした。あ、お連れ様は下の階の喫煙コーナーに行かれましたよ。」 と先程の店員が話しかけてきた。 「あ、あの。」 「はい?」 「穿いて来たスカート、もういらないのでこちらで処分してほしいんですけど。」 「ええ、それは構いませんが…?」 「あ、ありがとうございます。」 どことなく様子のおかしなこの女性客を怪訝そうに見る店員から逃げるように沙希 はその店を後にした。
店員の言った通りLは喫煙コーナーのベンチでタバコを吹かしていた。沙希を見つ けると小さく手を上げる。沙希は小走りにLの元へ駆け寄り横に座った。コートを ひざ掛けのように広げて。 Lが、また沙希の腰を抱いて耳元で囁く。 「言いつけは守れたかい?」 「はい…。言われた通りにしてきました。」 「言われた通りになにをしたの?」 「あ、あの…。」 「うん?」 「言われた通りに…試着室にスカートと下着を置いてきました。」 (ああ、いやぁ、そんな事するだけでも恥ずかしいのにこうして口で言わされるな んて) 「下着なんてひとまとめに言うんじゃないよ。」 「あ…ストッキングとスリップと…ブラと…ショーツ…です。全部脱いで置いてき ました。」 「ショーツって言い方嫌いだな、パンティーって言いなさい、どんな風にパンティ ーまで置いて来たの?」 「スカートをたたんで…他のはまとめてその上に置いて、それで一番上にパンティ ーの…内側の…濡れた部分を上にして…あぁ、恥ずかしいです…。」 「濡れたの?試着室で一旦素っ裸になって、それからセーターとスカートだけにな って出て来なさいって命令されただけで濡れちゃったの?」 「は、はい…。」 「そうかぁ。」 コートの下へと手を伸ばしてLは沙希のスカートの中へ指を滑り込ませた。 (あ、そこは…!) 冷たい指先に一瞬ゾクリとする。 「ホントだ、解ったよ。よく出来たね、可愛いよ。」 すぐに指を戻すとLは立ちあがった。 「多分大丈夫だと思うけど、あの店員が探しにくるかもしれないからそろそろ退散 しようか、見つけられて変態女!なんてののしられたくないよね、沙希。」 変態女。その言葉に沙希の胸が異常なくらい高鳴った。それを見透かしたようにL が言う。 「どうしたのかな?変態女の沙希は。」 「いやぁ…そんな…私そんな…。」 「だって私はまだ何もしてないんだよ、こうやって沙希の腰を抱いてるだけなの に、なのにもうそんなに乳首を立たせちゃって」 言われてうつむくと確かに乳首がニットの上からでもハッキリ解るほど形をあらわ にしている。 「乳首立たせて、××××も濡らしちゃって、沙希が変態女だって証拠だよ。」 エスカレーターを使って下りる間中Lはそんな事を言いながら肩を抱く振りをして ニットの上から沙希の乳首を刺激した。つまんだり指で弾いたり…。沙希にできる のはコートをお腹の前で抱きかかえるようにして下半身を隠し、Lからの辱めに必 死で耐えることだけだった。
―3― 「あ、あの、いつもと違う事ってこういう事なんですか?」 外に出ると同時に、思わず沙希は聞いてしまった。 「ああ。」 Lは沙希の手からコートを取り、優しい手つきで着せてやった。 「私のね、夢だったんだよ。沙希みたいなご主人ひとりしか知らないような貞淑な 人妻に信じられないくらいの恥ずかしい思いをさせて、理性を無くさせて一匹の淫 乱なメスにする。それから思いっきり犯してあげるのがね。」 「…。」 「恥ずかしかったかい?」 「あ、当たり前です!」 「そう、それは良かった。」 感情が昂ぶり、つい怒ったような口調で喋ってしまった沙希を、たしなめるでもな くごく自然にLは受け答え、まるで沙希を寒さから守るように抱き寄せ歩を進め る。そんな態度に沙希は動揺を覚えた。 (どういうことなの…?…急に優しくなったり厳しくなったり) 変態女となじるようなことを言い、乳首を責め、かと思えばコートを優しく羽織ら せ、貞淑だと賞賛し、すぐさま、淫乱なメスにする、犯してあげると沙希をおとし める。そしてまた紳士的な態度。 (Lさん…一体何を考えていらっしゃるの…?) 気持ちが動揺すれば理性は崩れるものだという事をその時の沙希は解っていなかっ た。
「さ、着いたよ。ここからが本番だ。」 近くのファミレスへとLは沙希を連れて来て、ガラス張りになっている店の、道路 に面した席を選んで沙希をそこに座るように促した。 円形のテーブルに、道路の方へ体が向くように椅子を並べて座る二人は、ハタから みれば自分達だけの世界にひたっているカップルそのものだろう。 ウエイトレスがその日のランチを運んでくると、レシートを置いて立ち去った。 「沙希は、食べる間ずっと脚を開きっぱなしにしてなさい。もちろんコートの前も 開けるんだよ。」 思いもかけない命令に沙希は目を丸くした。 店の一番奥の席にしてくれたのも、周りに背を向けて、コートも着たままでいいと 言ってくれたのも、他から見えないように気遣ってくれたとばかり思っていたの に。 (ただでさえ短いスカートなのに) (座るとヘアが見えちゃうのに) (その上脚を広げるなんて) 「いやぁ…いやです…外を…道を歩く人に見えてしまいます…。」 「だからいいんじゃない。そのために、わざわざここの店を選んだんだよ。私はケ チな男じゃないからね、本当ならもっと高級なところでも良かったんだけど、おい しい料理よりもこういう恥ずかしい思いをする方が淫乱な沙希の望みだろうと思っ てさ。ほら、沙希のいやらしい部分を外の人に見てもらいなさい。」 Lの声には従わずにはいられないような何かがある、そしてあの瞳…。 (いやぁ…こんなの…恥ずかしい…) そう思いながら沙希は脚を限界まで開いてしまった。 平日の昼間、誰もが短い昼休みを有効に使おうと足早に店の前を通りぬけ、実際に 沙希の痴態に気づく者はわずかだったが、それでも幾人かは驚いたようにそしてニ ヤニヤと笑いながら沙希を見ていた。 ワザとらしいほど何度も店の前を往復しては沙希の濡れた秘所を視姦する者もい る。 (信じられない…本当にこんな事してるなんて、あぁダメ…クリトリスが…ジンジ ンする…あ、ああ…) その部分を落ち着かせるように沙希は自分でも無意識の内に指をワレメに這わせて しまった。 「おや?こんな場所でオナニー?一緒にいる私のほうが恥ずかしくなってしまう ね。」 Lが面白そうにからかった。 沙希は慌ててやめたが中途半端な刺激で、余計にアソコを熱くさせてしまった。 ガラスに発情した自分の顔が映る、頬を赤らめ羞恥に酔いしれている自分が。 「つらそうだね、ラクにしてあげようか?」 Lがポケットから取り出したのは小ぶりなハサミだった。 「擦れて痛そうだから、ラクにしてあげる。」 そう言うとLは沙希のセーターの乳首が当たっている部分に縦長の切れ目を入れ た。 胸元に刃物が当たる事に対して本能的な恐怖を感じたが、それも一瞬の事。 金属のひんやりとした感覚とジリジリという毛糸地の切れる音、それが余計に沙希 の羞恥心を煽った。 (お願い、やめて…もう、こんなことは…) 「はい、できあがり。」 元々体にピッタリだったため、縦に5センチほど入った切れこみは弾けて、いびつ な菱形に広がり、乳首が露出される形になってしまった。 「ほら、もう擦れて痛いなんてなくなっただろう?」 (こんな…いやぁ、私ここまで恥ずかしい思いをしなきゃいけないなんて…。) 「あぁ、もう…。」 「もう、何?」 「恥ずかしいです…ここから逃げ出したい…。」 「解ったよ。私はもう食べ終わったから、沙希が食べたら出よう。」 「もう…喉を通りません…。」 「だめだよ、食べ物を粗末にしちゃ、全部食べるまでここにいるからね。そうだ ね、左手でクリを擦ったまま食べなさい。」 「そんな、そんな…できません…いやぁ…。」 「私の言う事を聞いていい子になるんじゃなかったのかな?」 「それは…そうです…けど。」 「さぁ、早く。」 「あぁ…わ…分かり…まし…た…。」 沙希は必死に食事を口に運んだ。 (こんな…オナニーしながら…こんな…) 「いいね、食欲と性欲を同時に満たしてるって感じで。今の沙希は本能だけになっ たメスそのものだね。」 頭がクラクラしてLの言葉が何故か遠くから聞こえるような感覚だった。
―4― 「寒くないよね。発情して体が火照ってるんだよね、沙希は。」 Lは店を出た途端、今度は沙希のコートを乱暴に剥ぎ取ってしまった。 「ほら、沙希はスタイルいいんだから、後ろで手を組んで胸張って。」 Lがニットの背中を引っ張ったので、その勢いで切れ目が一気に裂け胸が丸見えに なってしまった。 「きゃっ!」 短い悲鳴が余計に周囲の耳目を集めた。 (あぁ、こんな格好で街を歩くなんて…。) ギリギリの丈のタイトスカートで、手を後ろに組んで胸を見せつけるように歩く沙 希を道行く人がみな注目した。 そばにLがいるせいか露骨な言葉をかけてくるものはいないが容赦ない視線に沙希 は気が狂いそうになっていた。 (あぁ、いやぁ。見ないで、見ないでぇ…、私、この人に命令されてるだけなの、 自分からこんな事する女じゃ…) 「百歩歩いたら止まっていいよ。数えてあげるね、1、2、3…。」 一足歩く毎に恥ずかしい蜜が沙希の太ももを濡らす。 (今、何歩?あと何歩?…あぁ…もう…) 百歩といえば女の歩幅で40mといったところか、だがたったそれだけを歩く距離 と時間が永遠のように沙希には感じられた。そして永遠に続いて欲しいと心のどこ かで願っている自分がいた。 (あぁ…いやぁ、恥ずかしいのに…恥ずかしいのに…) (どうして…?こんなに濡れて…どうして…?) 膝がガクガクと震えて立っているのがやっとの状態になってきた。 (だめ…もう歩けない…) 「そろそろ、どれくらい濡れちゃったか検査してあげようね。」 沙希の限界を感じ取ったLはビルの間の物陰に沙希を連れ込んだ。 薄暗い非常階段の下、ビールケースがひっくり返ったまま無造作に置かれている。 そこに沙希を座らせると脚を開くように命じた。 「出来ないなんて言わせないよ、さっきはファミレスで大股開きして、その上今の 今までオッパイ丸出しで歩いてた淫乱女に出来ない事なんてないはずだからね。」 (恥ずかしい…いやぁ、そんなこと言わないで…) 「はい、見てあげるから上手にお願いしてみなさい。」 「あ…沙希のアソコを見てください…。」 「んー、下手だなぁ。沙希の濡れた××××をどうかご覧になってください。そう 言えなきゃ見てあげないよ。」 (あぁ、いやぁ…その言葉だけは言えない…そんなこと口にするなんて女として最 低…でも…) Lがあの綺麗な瞳で沙希を見つめている。 「言ってごらん。」 (あ、だめ。そんな目で見ないで、私…) 「素直になりなさい。本当は見られたいんでしょ?××××も、そこをいじってオ ナニーしてるところも。」 沙希の中で何かが弾けた。 (そう…見て欲しい!さっきみたいに街を歩く人達じゃなくてこの人に見て欲し い…!) 「お願い、お願いです!沙希の濡れた…恥ずかしいおまんこを、どうかご覧になっ てださい!」 Lはクスクスと笑った。 「仕方ないなぁ。見てあげるから脚を開きなさい。」 従順に沙希は秘所をさらし、言われてもいないのに自分から両の手の親指と人差し 指で花ビラをつまんで広げて見せた。 「あーあ、女のくせに男のザーメンみたいな白い液をしたたらせて、欲しくてたま りませんって感じだな、いけない子だ。」 「ああ…。ごめんなさい…。」 「許さないよ。…そうだなぁ…自分で淫乱な変態だってことを認められたら許して あげる、ここでオナニーの続きをしなさい。イク時は私は淫乱な露出女です、露出 が大好きな変態ですって言いながら、いや、叫びながらイクんだよ。」 変態、淫乱、露出女。それらの言葉に沙希は打ちのめされるようなショックを受け た。でもそれは望んでいたものを与えられたような、感激という感情にも似たショ ックだった。 ビールケースに座り、建物の壁にもたれてという不安定な体勢にも関わらず沙希は 夢中でオナニーをした。 右手の中指でクリトリスを押しつぶすようにしていじりまわし、左の手の平で愛液 をすくい取って自分の乳房に塗りつける。 「ああん…はぁ…いい…いいっ!」 「中に指を入れちゃいけないよ、そこは私が後から満たしてあげる場所だから ね。」 「そんなぁ…あぁ…。」 「あぁ、沙希は恥ずかしい子だなぁ。こんな場所で目の前に男がいるのにオナニー するなんて。」 「いやぁ…許して、もう止めさせてください…。」 「そんな事思ってないくせに。イクまでやめさせないよ、さ、イケるよね?イキな さい。」 (あぁ、もうダメ…イッちゃう…イッちゃうう!) 「私は淫乱な露出女です!露出が大好きな変態です!あっ!あああっ!」 全身に震えがくるような快感が走る。夫とのセックスでは感じた事のないものだっ た。 おもらしをしたような濡れ方の沙希のはしたない部分を見つめてLは言った。 「はい、よくできました。ごほうびにホテルで思いっきり陵辱してあげるよ。一匹 の淫乱なメスをね。」 最後の最後に沙希はまた打ちのめされた。
―5― ホテルでの事を沙希はよく覚えていない。 記憶があるのはLが『こういう事はエチケットだからね』とひどく紳士的な事を言 いながらゴムを取り出したところまでだ。 理性も思考能力も全て消えてしまいそうな快楽の嵐の中で、シャワーを浴びながら 後ろから突かれたのと、ベッドの上で自分からまたがって腰を振ってしまった事、 Lのものをしゃぶらせてもらい顔に精液を受け止めた事、覚えているのはそれくら いだった。 全てが終わってもう一度シャワーを浴び、身支度をととのえながら沙希は思った。 (そうか…性欲のためのセックスってこういうことなんだわ) 夫にフェラチオをする時は、夫に気持ち良くなって貰いたい夫に喜んで欲しい、そ の一心でしていたし、ペニスを受け入れた時も肉体的な快楽よりむしろ愛する人と ひとつになっている、その精神的な幸福感が絶頂を導いていた。だが今日は、 (自分がしゃぶりたかったからフェラをさせてもらった) (Lさんの事なんてお構いなしに勝手に腰を振ってしまった) (それは、Lさんもきっとそう) (お互いに快楽を求めるだけ) そうして得た快楽、絶頂…今までに感じた事もないほどの…。 だがそれで夫への愛が冷めたり、夫が物足りなくなったなどという感情は沸かな い。 夫は今でも男としての魅力に満ちた一番愛おしい存在だ。 (きっとあの人も…こういうことなんだわ、風俗に行くってそういうことなんだ わ) 体はだるく、少し頭痛もする。だが、ちょうど午睡の夢から覚めたようなスッキリ とした気持ちだった。 昨夜から頭の中を覆っていた雲が晴れたようなそんな心地さえする。
「じゃあ、ここで。」 最初に会った場所でLは足を止めるとそう言った。 「服は、悪いことしたね。」 「いえ、コートがありますから。」 スカートや破れてしまったニットのことはどうしようもないが、今はコートを着込 み、首元まであるボタンも全てしっかり留めているので、なんら不審なところはな い。 「あの…ありがとうございました。あの、私…。」 今の自分の気持ちを説明しようと思った沙希に対し、Lは全て解っているという微 笑みでそれを制した。 「ご主人と、仲良くしなさいね。」 「はい。」 その言葉を最後にLは沙希に背を向けると去っていった、一度だけ背を向けたまま 沙希に対して手を振って。沙希はその後姿に深々とお辞儀をした。 (帰ろう…。) 夫はきっと帰宅した途端また謝ってくるだろう、そうしたら…。 (笑顔で許そう。それから、今日のご飯はあの人の好きなもの作ってあげよう。) 夕暮れの中、沙希は家路をたどった。
終
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