『犬嫁』(アナザーストーリー編)
作;ベル
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洋太は思い出した。裏島の話を、桜子にするのは二度目だった。
彼女に話した『裏島の記憶』の大部分は洋太の事故経験談だったが
特に、檻に入れられていた裸の女の件(くだり)は
女性にとって印象深かったに違いない。
そう言えば、旅行先を沖縄に決めたのも桜子だった。
もしかしたら彼女は、旅行を企画した時には
『裏島の風習=犬嫁』の事を知っていたのかも知れない。
好奇心が旺盛で情報通の桜子なら、十分にあり得る。
「でも、もしそうなら桜子は、自分のそうした素質を自覚した上で、この島に?」
鉄格子の隙間から桜子の頭を撫でながら
洋太は自分の中に不思議な感情が芽生えるのを感じた。
翌朝、朝食を取りながら老婆が洋太に確認した。
「祝言をあげたら、当然、次は披露宴なんじゃが、洋太は今日帰るんじゃろう?」
「はい。荷物もホテルに預けたままだし、休暇の予定も今日までなので
昼過ぎの船で発つつもりです」
「元々、この島では外からの嫁を取らんから
犬嫁の風習も息子の嫁で最後になるハズじゃった。
思いがけず犬嫁の祝言をあげることが出来てわしも嬉しかったが、
せっかく洋太が嫁様を貰ったのに
一人暮らしの身では犬嫁の面倒を見続けることは出来ぬ。
せっかく遠いところを訪ねて来てくれたのに
中途半端な躾け(しつけ)しか出来なくて、すまんのう」
老婆は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいえ。突然やって来たのはコチラだし
無理難題を快く引き受けてくれて感謝しています」
「いやいや、礼を言うのはこっちの方じゃ。
幼い頃から見聞きしていたわしでさえ
着ている物を脱いで犬嫁の姿になるのは相当辛かった。
なんせ親戚中の者が見とったで、祝言の日は涙が堪えきれんかったほどじゃ。
それに比べて、肝の据わったたいした嫁様じゃよ」
「その当時とは比べようもないでしょう。
今回は私とおばあさんしか居なかったんだし」
「それはそうじゃが、あの子は犬嫁のしきたりを知らんのじゃろう?
島の外から嫁を取らんのは、理由があるんじゃ。
しきたりを知らぬ余所者では
犬嫁の勤めを果たし終える前に耐えられなくなるからなんじゃよ」
言われてみればそうかも知れない。
嫁ぎ先に絶対の服従を誓わされるだけでも辛いのに
素っ裸で飼い犬として扱われるなんて
躾けと言われても納得出来るハズがない。
「だがあの子は一度脱ぎ始めたら、わしの言うがまま四つん這いになり
無理に曳こうとしなくても明るい庭先に出よったじゃろう?
島のおなごでも、最初からそこまで出来る者は少なかったのう。
わしも昔は同じように縁側の柱に繋がれたが
初めて庭に連れ出された時は、義母の顔も見れずうつむいてばかりで
よう叱られたというのにのう」
「・・・」
洋太は言葉を失った。なぜ桜子はそこまで出来るのだろうか?
「どれ、そろそろエサをやらねばな。昼までは犬嫁のままで良いんじゃろう?」
「あ、はい。・・・いや、桜子に聞いてみないと」
洋太はあわてて老婆の後を追った。
老婆の姿を見つけた桜子が、犬小屋の中から四つん這いのまま這い出て来た。
もちろん犬小屋から出れば、周囲からは丸見えになる。
石を積み上げて作った垣根は大人の胸元ぐらいしかなかったからだ。
しかし人が少ない島とはいえ、周囲を警戒している様子は全くなかった。
「よしよし。ほら、エサじゃ。だがヨシと言われるまでは食うてはならぬぞ」
「はい、お母さん」
昨夜と同じく、桜子は素直に返事をしたが
寝不足だったのか、どことなく目つきが変わったような気がした。
「ヨシ」の声と共にエサ皿に顔をうずめ
ご飯粒にまみれになりながら懸命にエサを食べる桜子。
その仕草には昨夜のようなぎこちなさはなかった。
老婆からお湯を満たした洗面器を手渡され
洋太は暖かいタオルで桜子の顔を拭きながら囁いた。
「どうしたんだい?今日はすっかり犬嫁に成り切っているね(笑)」
「そうよ。だって私は洋太の犬嫁だもの。
たとえ島の人に会っても、洋太に恥ずかしい思いはさせないわ」
「えっ?」
桜子を拭う洋太の手が止まった。
「何を言ってるんだ?恥ずかしいのは素っ裸になっている桜子の方だろう?」
「そうじゃないわ。
今朝、お母さんが私を檻から犬小屋に移しながら、こう言ってたもの」
桜子は四つん這いのまま洋太を見つめて言った。
「犬嫁がいつまでも恥ずかしがってばかりいると
その家は近所の人から『躾けも満足に出来ないのか』と思われてしまうんだって。
だから犬嫁は犬に成り切って、犬のように振る舞い
主人に忠実な態度を示すのが『犬嫁の勤め』なんだって」
「そうかも知れないけど、それはこの島の風習で
今はもう誰もそんなことはやってないんだろう?」
洋太は思わず立ち上がった。
「犬嫁の風習が廃れた(すたれた)のは過疎化のせいよ。
誰もやらなくなったからじゃないわ。
それに犬嫁の風習が今も受け継がれているかどうかは、重要じゃないの。
だってお母さんに頼んで犬嫁にしてもらい、最後までやると決めたのは
私自身なんだから」
桜子は四つん這いのまま洋太を見つめて、大きな声で叫んだ。
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「おお、義範の言ったとおりじゃ。犬嫁じゃ、犬嫁がおるわい!」
突然の声に振り返ると、石垣越しに二人の老人がコチラを覗いていた。
檻から犬小屋に移したと言っていたから、その時村人に見つかったのだろう。
突然の出来事に、さすがに桜子も洋太の後ろに身を隠した。
「何です、あなたたちは!」
「何ですって、そこに居るのは犬嫁じゃろう?何を怒っとるんじゃ?」
「あんたが旦那かえ?若くて立派な犬嫁じゃのう」
老人たちは悪びれもせず、桜子を見つめ続けた。
「おや、篤司に正樹かえ?年寄りのクセに耳が早いのう。もう来なすったか」
どうやら老婆の知り合いらしい。
「それにしても犬嫁を見るのは久しぶりじゃのう。
美鈴がおらんようになってもう27〜28年になるが、アレも良い犬嫁じゃった」
「前の犬嫁を知っているんですか?」
洋太の影から顔を覗かせながら、桜子が老人たちに話し掛けた。
「ああ、よう知っとるよ。お前さんのように色白でのお。
アレの旦那が散歩好きなもんで、島のあちこちで見掛けたわい」
「最初は泣いてばかりで犬小屋から出ようとしなかったんじゃが
半年もしたら港でも見かけるようになったほどじゃよ」
老人は笑顔で答えてくれた。
「もっと聞きたいじゃろう?いろいろ話してやるから、コッチさ出て来い」
老人に手招きされて、石垣の方に向かう桜子。
洋太は、彼らと桜子の互いの間に入って視界を遮ろうとしたが
老婆が洋太の手を引いてそれを制した。
「ほんに若くてきれいな犬嫁じゃわい」
「おじいさん。もっと美鈴さんの話を聞かせて」
「おお、いいともいいとも。何でも聞かせてやるぞい」
老人たちはすっかり桜子の虜になっていた。
「アレの旦那は漁師でのう。親子揃って腕も良かった」
「それがお母さんの旦那さんと息子さんだったんですね?」
「そうじゃよ。漁のない日は、アレの旦那がよく散歩に連れて行ってたのう。
島のどこにでも犬嫁を連れて出掛けるんで有名じゃったよ」
「美鈴はあまり目が良くなかったんじゃが、犬嫁は眼鏡を掛けられんからのう。
観光船が近付いてもアレの旦那の船と思い込んだまま防波堤におって
あわてて隠してやったこともあったんじゃよ」
「写真好きの村長の息子をそそのかして
『最後の犬嫁になるかも知れんから、遠慮しないで沢山撮っとけ』なんちゅうて
村のあちこちで写真を撮っておった。わしは今でも何枚か持っておるよ」
「わしも持っとるよ。賽銭箱の上で股をおっぴろげているヤツじゃろう?」
「美鈴さんは、そんな事までやらされていたんですか?」
桜子が警戒しなくなったのを見て
老人たちはあつかましくも庭の中にまで入って来た。
「あいつらにまで裸を見られて、恥ずかしくないハズはないのに・・・」
洋太は悶々としながらも、昨日桜子を庭に連れ出した時の
異様な興奮を思い出していた。
「やらされていたとは言えばそうなんじゃが、犬嫁として飼われていれば
最後は旦那の言うことなら何でもやれるようになるんじゃよ。
もっとも犬嫁とはそういうものじゃ。
旦那の言うことに従えんようじゃ、犬嫁とは言えん」
「しかし躾けが良ければ、半年も経たずに素っ裸でいることが当たり前になり
やがて人に裸を見られて過ごすのが好きになってしまうんじゃよ。
わしが若い頃の祭りや酒盛りでは、犬嫁を終えたおなごが酔っ払うと
所構わず服を脱いでは裸踊りをしとったもんじゃ」
「そうなんですか?お母さんも昔は犬嫁だったんでしょう?」
桜子が振り返ると、老婆は首を横に振った。
「誰もかれもが、という訳ではない。中にはそういう者もおったというだけじゃ」
「だが美鈴は、犬嫁は祝言の日から一年間と決まっておるのに
しばらく素っ裸で過ごしておったじゃろう?
犬嫁を務め終えた後も、わしの家には素っ裸で回覧板を持って来とったよ」
老人の一人は桜子に話し掛けながら、彼女の足元にしゃがみ込んだ。
「アレの旦那が村一番の腕っぷしでなけりゃ
誰だって美鈴にちょっかいを出していたハズじゃよ。
若くて可愛い、最後の犬嫁じゃったからなあ。
そう言えばあんたも、どことなく美鈴に似ちょる気がするのお(笑)」
桜子は微笑みながら、四つん這いのままゆっくりと向きを変えた。
「自分からアソコを晒すつもりか?いったいどこまでやるつもりなんだ?」
だが、そんな桜子の行動に、洋太も興奮し勃起していた。
「ほう。犬嫁としての素質も、美鈴に負けんようじゃのお」
「どれ、わしにも見せとくれ。ケツをこっちに向けるんじゃ」
もう一人の老人が興奮しながらしゃがみ込むと
桜子は同じように老人へお尻を向け、少しだけ足を広げた。
老人たちは手を叩いて喜ぶと、さすがに桜子の顔も赤くなっていた。
今まで気丈に振舞っていたが
裸を見られる事が恥ずかしくなくなった訳ではないようだ。
「どうしてその人は犬嫁を務め終えた後も、素っ裸だったんですか?」
洋太は老人たちに聞いた。
「きっと美鈴は、誰も自分に手出し出来ないと分かっとったんじゃよ。
もちろんアレの旦那がそうさせたんじゃろうが
美鈴自身、人に裸を見られて過ごすのが好きになってしまったんじゃなあ」
「本当に?無理やり続けさせられていただけじゃないんですか?」
「それはないじゃろう。自分でもそうしたかったから
いつ訪ねて行っても美鈴は素っ裸だったんじゃ。
アレの旦那が漁に出ている時もスッポンポン。
犬じゃない、首輪もしていない人間の嫁がスッポンポン。
しかも何も隠そうとしないまま、普通に話したりするもんじゃから
わしゃ目のやり場に困ったもんじゃ」
「そう言いながら、用もないのにしょっちゅう来てたのはお前さんたちの方じゃよ」
老婆が呆れ顔でたしなめた。
「ああ。その度に魚や干物を買わされたことも憶えておるよ。
あんたの躾けが効き過ぎたんじゃよ(笑)」
「わしらの他にも務め終えたことを惜しむヤツラは多くてのお。
美鈴目当てに立ち寄る客が、必要もない品をよく買わされとったわい。
美鈴は文字通りの『看板娘』じゃった(笑)」
事の真相は定かでないが、彼らの話からすると
前の犬嫁は島の人から見ても相当な露出狂に躾けられたらしい。
「私、マ・・・美鈴さんのようになりたい!洋太、私を散歩に連れて行って」
突然、桜子が洋太の方を向いて言った。
「何を言い出すんだ。俺たちは、もう昼過ぎの船で帰るんだよ?」
「だってこのまま帰ったら、洋太が島中の人からバカにされちゃうよ。
『やっぱり余所者に犬嫁の躾なんて無理だった。
余所者の犬嫁なんて島の犬嫁に遠く及ばなかった』
そんなふうに言われたくないよ」
「どうしてそこまで意地を張るんだ?訳が分からないよ」
「決まっているじゃない。私は洋太の犬嫁なんだから!」
桜子は本気でそう思っているらしい。
「たしかに、庭先で終わりなら『犬嫁ごっこ』と言われるじゃろうなあ(笑)」
「しかし余所者にしては上出来じゃよ。
わしらは十分見せてもろうたし
犬嫁がその気でも、旦那にその気がないんじゃ仕方あるまい。
島の者にバカにされたってええじゃないか、のう?」
老人たちは明らかに洋太を挑発していた。
「お待ち。いくら犬嫁でも、そのまま出掛けたんじゃ
手や膝を擦りむいちまって、散歩どころじゃなくなっちまうじゃろう。
コレを着けて行きなされ」
老婆は犬小屋の屋根を持ち上げると、中から長い布を取り出した。
「経験した者でないと分からんじゃろうが
四つん這いで歩くっていうのは、相当キツイもんなんじゃ。
手足が疲れる前に、手や膝の痛みで動けんようになるだけじゃよ。
・・・さあ、コレで良いじゃろう」
老婆が付けてくれた布は、手や膝に巻いただけの質素な物だったが
地面に擦れる部分に皮が貼ってあり、かなり使い込まれているようだった。
「わしにも洋太の嫁様が意地を張る理由は分からん。
じゃが、おぬしらはこの島に住み続ける訳でもなかろう?
嫁様の気持ちに応えてあげなされ。それが男の甲斐性ってもんじゃよ」
老婆は鎖をほどきながら、小声で洋太に囁いた。
「・・・よし、散歩に行こう。村の人に復活した犬嫁を見せつけてやろう!」
「はい!」
洋太は桜子の鎖を握り締めて庭を出た。
「おお、そうじゃ。それでこそ犬嫁の旦那よ。庭先ぐらいで満足しちゃあいかん」
「こうしちゃおれん。何十年ぶりの犬嫁じゃ。皆に知らせてやらにゃいかんぞ」
老人たちは先を争うように山の方へ走り去った。
「どうする?あいつらの反対方向に行っても良いんだよ?」
「それじゃあ意味がないわ。お母さんの家は、港に一番近かったでしょう?
この先には数件の家屋が見えたから、そっちが村の中心のハズよ。
私、洋太に恥ずかしい思いは絶対にさせないから」
「気をつけてな。島の者ならしきたりは分かっているハズじゃが
久しぶりの犬嫁に興奮し過ぎるヤツがいないとも限らんからのう。
それとコレを口に入れておくがええ。賢い犬は吠えないもんじゃ」
老婆は木綿で出来た、新しいお手玉のような物を桜子の口に入れた。
洋太と桜子は大きく頷くと、港と反対方向に進み出した。
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緩やかな上り坂を越えると、すぐに最初の家が見えた。
洋太は自分の中に、再び不思議な感情が湧き上がるのを感じた。
「裸の女を連れて歩くのが、こんなにも誇らしくて気持ち良いだなんて。
桜子を庭に連れ出した時の興奮は錯覚じゃなかったんだ。
前の犬嫁の旦那も、こんな気持ちだったんだろうか?」
洋太の男根はいつの間にか勃起していた。
「おーい、来たぞ。本当じゃ、本当に犬嫁じゃあ〜」
さっきの老人たちに聞いていたのだろう。最初の一人が声を上げると
それぞれの家から男女を問わず、次々と顔を覗かせた。
過疎化が進んだ村は年寄りばかりだったが
新しい犬嫁を見ようと興味津々で待ち構えていたらしい。
「ええのう、若い犬嫁は。やっぱりええのう」
「もう犬嫁を目にすることはないと思っとったよ。長生きはするもんじゃ」
数人の村人に取り囲まれても、桜子は逃げ隠れしなかったが
耳まで真っ赤になるほど顔が赤くなっていた。
「あんたが旦那かい?この子は何ていう名前だい?」
ベルと刻まれた首輪のプレートを見ながら、一人の女性がたずねた。
「彼女の名前は・・・チェリー。そう、チェリーです。首輪は借り物なんですよ」
桜子からとっさに連想したが、悪くない名前だ。
「この辺りが村の中心ですか?」
「いいや。もう少し行くと、神社がある。その境内が村の中心じゃよ。
せっかくじゃから、そこへお参りしていきなされ」
初対面の洋太に、肌黒い老人は笑みを浮かべて答えてくれた。
「本当に若い犬嫁はええのう。肌の張りが違うわい」
彼は犬と同じように桜子の頭から背中を撫で回した。
「ふっ、くふ・・・ふうぅん・・・」
口にお手玉を入れた桜子は、吐息を漏らすばかりで声を出せず
時々その手がお尻に伸びても我慢するしかなかった。
こういう場合、毅然とした態度で断るべきなのか。
それとも村人のなすがまま受け入れるべきなのか。
洋太は老婆からもっとしきたりを聞いておけば良かったと悔やんだ。
洋太と桜子が神社に向かって歩き出すと
その後を追いかけるように村人がついて来た。
「若くて立派な犬嫁じゃのう。いつ頃から躾けておるんじゃ?」
「あ、えっと・・・実は昨日からなんです。まだしきたりも良く分からなくて(笑)」
洋太の返事に、老女は目を丸くして驚いていた。
「本当かえ?いや、そりゃたいしたもんじゃ。
あんたの犬嫁は島のおなごの血を引いとるんかのう?」
「いいや。もしそうだとしても、平然と犬嫁に成り切れる訳じゃなかろう?
わしらは幼い頃からたくさんの犬嫁を見てきたが
いざ素っ裸にされると、どんなに気丈な者でも泣き震えておったからのう」
「年頃の娘の中には、どうしても犬嫁になるのがイヤで
見合いを断り続けたり、祝言の前に島から逃げ出す者もいたんじゃよ」
「そういう事もあったでしょうね。
チェリーも皆さんが顔見知りだったら、同じように泣くかも知れません」
洋太は桜子の頭を撫でながら答えた。
洋太と桜子が家を出てから、もう20人以上に見られていた。
しかし二人がようやく神社に辿り着いた時
すでに境内には同じくらいの村人が集まっていた。
どうやら村人同士で連絡を取り合っていたらしい。
桜子もハアハアと息を切らしている。
ゆっくり歩いたつもりだったが、慣れない四つん這いで疲れたらしい。
「少し休もうか?勝手に集まった人達のことは気にしなくていいから」
洋太は境内の入口にある鳥居の下で立ち止まり
桜子の口から木綿のお手玉を取り出しながら聞いた。
「洋太、見て。・・・どうなってる?」
「何が?」
「私のアソコ、すごく濡れてない?」
「えっ?・・・ああっ!」
洋太が桜子の背後から覗き込むと、秘部から大量の淫汁が溢れていた。
垂れ落ちた淫汁は太ももの内側を伝って
膝に巻いた当て布にまで染みを作っていた。
「息切れしていたのは疲れたんじゃなくて、興奮していたんだ!」
「ええ、そうなの。さっきから目まいがするくらい興奮しっ放しなのよ。
酔った時みたいな、ふわふわクラクラした感じがずっと続いてるの。
もしアソコを触られたら、今すぐにイッちゃいそうなくらい欲しくて堪らないわ」
「やっぱり恥ずかしくなくなった訳じゃなかったのか?」
「当たり前でしょう?たった一晩でそこまで犬嫁に成り切れるハズないじゃない」
「でも朝は、平気で犬小屋から出て来たじゃないか?」
「私を檻から犬小屋に移した時、お母さんからこう言われたわ。
自分から犬嫁になりたいと言った以上、洋太に恥をかかせるなって。
イヤだのヤメタだの言い出すようなら、結婚しても長続きせずに離婚するが
辛くても逃げ出さずに添い遂げる覚悟を示せれば、きっと良い嫁になる。
そういう考えが犬嫁の風習にはあるんだって」
二人が話している間も、島のあちこちから人が集まり続けていた。
「だからずっと気丈に振舞っていたのか?」
「お母さんは犬嫁の経験者だし、急な申し出にも応じてくれたから
コッチが躊躇したら失礼だと思ってそうしてたわ。
でも庭先でおじいさんたちに見つかった時は
本当に泣きながら逃げ出したいほど恥ずかしかったのよ。
・・・でもその頃からなの」
「何が?」
「何となく『人に裸を見られるのが好きになるって、こういう事なのか』って
分かり始めたの。
そして、恥ずかしくても見られ続けていると
心の奥に『見られたい気持ち』が芽生えてくるの。
裸でいることの開放感や見られることの優越感が生まれるのよ」
桜子は笑顔でそう言った。
「それって、露出狂じゃないか!」
「分かってる。恥ずかしくなくなった訳じゃないのに見られたいだなんて
自分でも変だと思うけど
素っ裸を見られ続けるとそういう気持ちになるんだって、ママが言ってたもの」
「何だって?」
「・・・私、この島のこと、ずっと前からママに聞かされて知っていたの」
「えっ?」
「おじいさんたちが話していた『前の犬嫁』の美鈴さんって、私のママのことなの。
私、美鈴さんの娘なの」
「ええっ?」
洋太は飛び上がりそうなほど驚いた。
「美鈴に似ているとか、島の女の血を引いているとか島の人に言われたけど
実はその通りだったのよ。
ママは島を出た後に私のパパと知り合ったから
話に出て来た腕っぷしの強い漁師は私のお父さんじゃないんだけど
お母さん(=老婆)は『洋太が孫を連れて来た』と喜んでくれたわ」
「いつそんな事、話したんだ?」
「今朝、早く。檻から犬小屋に移された時よ。
だからお母さんは私たちが散歩に出ると言っても止めなかったんだと思う」
散歩に出る前、桜子が意地を張る理由は分からないと老婆は言っていたが
自ら言うまで黙っていようと決めていたのだろう。
「・・・何か運命的な巡り合わせだね」
「今まで黙っていてごめんなさい。私も半信半疑だったの。
でもおじいさんたちの話は、私も知らない事ばかりだったわ。
ママは島の生活は幸せだったと言っていたけど
裸で港に行ったとか、犬嫁を務め終えた後も素っ裸だったなんて
教えてくれなかったもの(笑)」
「ようやく桜子が犬嫁にこだわる理由が分かったよ。
でも、この先どこまでやるつもりだい?」
「それなんだけど、こういうのはどうかしら・・・」
桜子は洋太に小声で囁いた。洋太はその内容を聞いて、ますます勃起した。
8
「おおい、何やっとるんじゃ。コッチじゃ、コッチ。みんな首を長くして待っとるぞ」
庭先にやって来ていた老人たちが
鳥居の下で立ち止まっていた二人を呼びに来た。
いつの間にか境内には50〜60人の村人が集まっていた。
「今でも『見られたい気持ち』は高まり続けているのかい?」
「ええ、これ以上押さえきれないくらいよ。
ママと同じことは出来ないけれど、さっき話した事には挑戦したいの。
遠慮なんてしないでよ。だって私、洋太の犬嫁だもの!」
洋太は桜子の口に木綿のお手玉を入れ直し、境内の奥へ向かった。
境内の中央には漆(うるし)で塗られた
畳2枚分ほどの立派な円卓が置かれていた。
高さは座卓ほどしかないが
四隅にはろうそくを灯した提灯(ちょうちん)が掲げられ
まるで舞台が設置されているようだった。
「そんな約束をした憶えはないんだけど」
「久しぶりの犬嫁じゃからのう、村中が歓迎しとるんじゃよ。
なに、遠慮は要らん。犬嫁を一目(ひとめ)見たくて集まった連中ばかりじゃ」
洋太は皮肉を言ったつもりだったが、老人たちには全く通じなかった。
しかし村人も好意的であることは本当のようだった。
「あの台はお披露目用なんで、盤面が回せるんじゃよ。
どの席からも犬嫁の姿を見ることが出来るようにのお。
もっとも台を使うのは最初の頃だけじゃよ。
さっき『前の犬嫁』の話をしたじゃろう?
美鈴は務めを終える頃になると、自分から寄って来て
いくらでも見せてくれたもんじゃよ(笑)」
「美鈴は務めを終えた後の夏祭りでも、堂々と素っ裸になっておったよ。
もちろんアレの旦那がやれと言わなければ脱がないハズじゃが
盆踊りが始まると皆の前で浴衣の帯を解き始めてのお」
「わしも憶えとるよ。足袋(たび)と下駄(げた)だけの素っ裸で
団扇(うちわ)片手にずーっと踊り続けておった。
盆踊りの輪の中で、たった一人だけ素っ裸で舞う美鈴は
犬嫁とは違う『女の色気』に満ち溢れとったよ」
「・・・(今の話、ママの言っていたとおりだわ)」
すでにお手玉を口に入れた桜子は黙って聞いていたが
やがて自らその円卓に四つん這いのまま上がった。
「ちょ、ちょっと待つんじゃ。勝手に上がらせちゃイカン!
余所者とは聞いていたが、しきたりを全く知らんのじゃな」
神主と思われる老人が洋太の背中を叩いた。
「神社では、犬嫁はこの面を着けることになっておるんじゃよ。
より犬らしく振舞えるようにのう」
洋太は神主から犬を模したお面を手渡された。
時代劇に出てくるような、狐を模したお稲荷様のお面に似ていた。
「なるほど。お面を着けていれば、少なくとも表情を隠すことが出来る。
それだけ恥ずかしいこともやらせることが出来る、という訳か。
桜子もお面のことは聞きそびれていたのかも知れないけれど
顔を隠せるのはコチラにとっても好都合だ」
洋太は受け取ったお面を桜子に着けてやった。
あらためて桜子が円卓の上で四つん這いになると
神主が何か唱えながら払い串(棒に白い紙が付いた道具)を振り
桜子の背中やお尻を撫で続けた。
「今、この犬嫁は清められ、汚れなき者となった!
眼福(がんぷく)にあずかりたい者あれば
近くに寄って、自らその姿を眼(まなこ)に焼き付けよ!」
要するに、近くから見ても良いと神主のお墨付きが出た訳だが
洋太が傍観していると、たまたま近くにいた白髪の老人がささやいた。
「ほら、お前さんが台を回すんじゃよ。犬嫁の旦那はお前さんじゃろう?
この島に来たのは、皆に自慢の犬嫁を見てもらうつもりだったんじゃろう?」
「そんな約束をした憶えはないんだけど」
そう言いながらも、洋太はゆっくりと盤面を回した。
「本物じゃ、本物の犬嫁じゃあ〜」
「ええのう、やっぱり犬嫁は島の宝じゃ。犬嫁こそ未来に遺すべき宝じゃよ」
「こうして犬嫁をながめていると、島に活気があった頃を思い出すのう」
すぐに円卓の回りは村人で埋め尽くされたが
人が入れ替わっても桜子の身体に触れようとする者はなかった。
時々、神主が何か唱えながら払い串の紙でお尻を撫でるだけだ。
どうやら旦那以外は台に触れてはいけない決まりもあるらしい。
「昔から犬嫁は見られるダケなんですか?」
洋太は盤面を回しながら、白髪の老人にたずねた。
「いや、そんなことはないんじゃが
そもそも犬嫁とは、自分の旦那に忠実であることを示すための風習じゃ。
素っ裸になって秘部を晒すこともいとわなくなるように躾けられるが
務めを終えた後は、妻として子を産み育てる立場になるんじゃから
他所の男に抱かれることなど、まずなかったじゃろう。
自分の妻を淫乱な売女(ばいた)にしたい旦那など、おるはずもないからのう」
「・・・(最初は虐待のように思えた風習だったが
旦那が決まった上で行われるから、素っ裸でも安全性は高かったのか。
意外だったな)」
洋太が台の上に目を向けると、桜子が小刻みに身体を震わせていた。
目まいがするくらいの興奮はずっと続いてるらしい。
「じゃあ、誰それ構わず触らせたりすることは?」
洋太はさらに白髪の老人にたずねた。
「それに似たような行事ならあったのお。
『裸参り』と言うてな
犬嫁の務めを終える頃に、旦那と一緒に村中の家を訪ね歩くんじゃよ。
犬嫁は『含み紙』と呼ばれる紙を咥えて行くんじゃ。
出迎えた家の者は、暖かな手拭いで犬嫁の身体を拭いてやるんじゃが
犬嫁が含み紙を落とさぬ限り拭き続けてやらねばならんのじゃ」
「犬嫁をもてなす、という事ですか?」
「じゃがそれは建て前で、出迎えた側が少しでも長く身体を触れるように
犬嫁の方が耐え続けなければならないんじゃよ。
身体中を触られ、弄られ(まさぐられ)、撫でられ、揉まれ、
やがて堪え切れずに吐息を漏らすと、含み紙が落ちる・・・という訳じゃな。
しかし含み紙を早く落としてしまうと
その後の家同士の付き合いが悪くなることもあったくらいじゃ」
「・・・(早々に終わらせようとしたのは、嫌な相手だったから・・・と
相手に思われるからか?
でも犬嫁を触らせてはいけない決まりはないんだな)」
桜子のお尻が自分の前に来た時に覗き込むと
秘部の奥から大量の淫汁が溢れていた。
洋太の頭にお面の下の表情が思い浮かんだ。
「皆さん、聞いて下さい」
洋太は手を停めて集まった人に呼び掛けた。
「私の妻:チェリーは、昨日犬嫁になったばかりですが
おとなしくて従順なだけではなく
素っ裸を見られるのも、人に撫でられるのも好きなんです。
そうだよね、チェリー?」
桜子は洋太の方を振り返り、黙ったまま大きく頷いた。
『島の人達に触られてイク』
それが桜子が洋太に囁いた提案だった。
「へえ、もうそこまで躾けてあるのかい?」
ニヤついた老人の一人が、桜子の背中を遠慮なくさすった。
「どれどれ、本当だ。とってもおとなしいや」
別の老人の手が背中からお尻へと進み、桜子を柔らかく撫でた。
「ん、くふっ・・・」
桜子は身震いしながらも、姿勢を保ったまま堪え続けた。
「ちょ、ちょっと待つんじゃ。勝手に触らせちゃイカン!
余所者とは聞いていたが、しきたりを本当に知らんのじゃな」
神主と思われる老人が洋太の背中を叩いた。
「犬嫁に触れさせて良いのは、いくつかの段階を経た後じゃ。
いくら躾けに自信があっても
昨日犬嫁になったばかりで触らせるなんて、急過ぎるわい」
「でも私たちは今日帰るつもりなんです。
せっかく犬嫁になれたのに、次はいつ来れるか分かりません」
「しかし・・・」
「では、こうしましょう。
チェリーが『イヤ』とか『やめて』と言ったら、すぐに中断します。
でも全ては堪え切れないだろうから
呻き(うめき)声や喘ぎ(あえぎ)声は除外します。どうですか?」
もちろん木綿のお手玉を口に入れたままでは、何も言えるハズがない。
「・・・犬嫁がイヤだと言えばやめるんじゃな?」
神主は腕を組みながら悩み続けた。
「ええじゃろう。余所者の犬嫁の躾けがどれほどのものか
しっかりと見届けさせてもらうわい」
神主は再び何か唱えながら、白い紙を結び付けた払い串を振り
桜子の背中やお尻をさっきよりも強く叩いた。
「今、この犬嫁はさらに清められ、最も汚れなき者となった!
ご利益を授かり(さずかり)たい者あれば
近くに寄って、自らその御霊(みたま)に触れよ!」
要するに、身体に触っても良いと神主のお墨付きが出た訳だが
村人の反応は今ひとつだった。
どうやら予想以上の展開に戸惑っているようだ。
「どうしたんです?チェリーを撫でてくれる人はもういないんですか?」
「・・・じゃあ、わしも撫でさせてもらおうかな」
別の老人が手のひらを上にして、桜子の乳房を揉み始めた。
「ほお。乳首の硬い、良い犬嫁じゃわい。
犬嫁は感じやすい方が可愛いからのう」
島の風習に熟知した村人の愛撫は老獪で、強引に揉んだり触ったりはせず
柔らかく撫でながら桜子の反応を楽しんでいた。
「女でもいいのかい?」
「どうぞ遠慮なく。あなた方も犬嫁を経験してきたんでしょう?
当時を思い出しながら撫でてやれば、チェリーも喜びます」
「へえ、余所者と聞いたけど、話が分かる旦那みたいだねえ(笑)」
意外にも女性の方が遠慮なく秘部を撫でた。
「くっ、うっ・・・くふぅ・・・んんーっ」
喘ぎ声すら出せない桜子は、身体を大きく捩じらせ身悶えた。
「なんじゃ。こんなに濡らしているのに、意外と頑張るのお」
「旦那に逆らえず島に連れて来られたのかと思ったんじゃが
こりゃあ島の犬嫁にも負けておらんぞ。大したもんじゃわい」
桜子は必死に腰を引いて逃れようとするが
『イヤ』とも『やめて』とも言わないので、身体を触る手は次第に増え続けた。
「んふっ!・・・ん、んんーっ!」
実は既に、桜子は何度もアクメを迎えていたのだが
村人の手に支えられて倒れることも出来ず、連続アクメを繰り返していた。
もし桜子がお面を着けていなければ、洋太はそれを察していたかも知れない。
しかし表情が分からない洋太は傍観し続けた。
「(洋太に『遠慮なんてしないで』なんて言わなければ良かった。
ママ。私、イキ過ぎて壊れちゃいそう。でも、でも・・・)」
ついに桜子は失禁し、意識を失ってしまった。
しかし洋太も含め、周囲の人達がそれに気付いたのは、もっと後だった。
9
「・・・結局、今日も帰れなかったわね」
辺りが薄暗くなった頃、老婆の家で意識を取り戻した桜子は、そう呟いた。
「気がついたのか?」
洋太は布団に寝かされた桜子のそばに駆け寄った。
「もっと俺が気をつけていれば、ココまでやらせなかったのに」
「まさかお手玉がアダになるとは、すまんかったのう」
洋太と老婆は深々と頭を下げて詫びた。
「私の方こそ迷惑を掛けてしまって、本当にごめんなさい」
桜子は身を起こして土下座した。すでに裸ではなく浴衣を着せられていた。
「洋太。私のこと、嫌いになった?」
桜子は頭を下げたまま聞いた。
「なぜ?」
「私、洋太に大切なことを隠したまま旅行に来ちゃったでしょう?
もちろん裏島に行ってみたいという気持ちはあったけど
犬嫁の風習を知っていたとか、私のママがこの島の出身だとか
洋太には何にも話さなかった」
「そうだね」
「犬嫁の風習は過疎化で廃れたって聞いていたし
お嫁さんを素っ裸で飼うなんて話、私も半信半疑だったの。
でも実際に納戸の檻を見せてもらったら
ママに聞いた話が急に現実味を帯びてきて、私の中に何かが芽生えたの」
「うん。今思えば、南京錠を受け取った時から様子が変わった感じだった」
「それから裸になって、首輪を着けて、檻の中で過ごして・・・。
自分でも驚くくらいに、犬嫁の生活を受け入れられた。
でも、お母さん(=老婆)から洋太に恥をかかせない様に言われなければ
おじいさんたちに見られた時点で終わっていたと思う。
村の人に見せるつもりは全然なかったんだもの」
「それを聞いてちょっと安心したよ」
洋太はようやく笑顔を見せた。
「でもね。ママが犬嫁だった頃の話を聞いているうちに
ママが言っていた『見られたい気持ち』が分かり始めたら
もっと多くの人に見られたくなって・・・」
「もうこのまま帰るなんて出来ないと思った・・・だろう?」
「うん。だって犬嫁が素っ裸で過ごすことは黙認じゃなく
島中が公認している風習なのよ。
こんなことが出来る場所なんて、この島しかないもの」
「じゃが、神社の件はやり過ぎじゃよ。犬嫁になったばかりなのにのう」
「ええ、反省しています」
「わしもそこまでやるとは思いも寄らなんだでよう。
犬嫁のことを、もっと話しておくべきじゃったと悔やんでおるよ」
「でも今日の件で、俺は確信したよ。
こんな女を嫁にもらってやれるのは、俺しかいないだろうって」
「本当に?私のこと嫌いにならないの?」
「ああ。やり過ぎたのは確かだけど、主人に忠実で
辛くても逃げ出さない犬嫁に成り切ろうとしたからなんだろう?
見られたい気持ちだけじゃ、あそこまで出来ないよ」
「・・・ありがとう、洋太。・・・ありがとう」
桜子は洋太に何度も頭を下げた。
「洋太はほんに、ええ嫁様をもろうたのお」
老婆も目を潤ませながら頷いた。
「明日の便を手配し直しておいたから、今日はゆっくり休むといいよ。
そうだ。うっかりしていたけど、もうその首輪も取らないと(笑)」
「その事なんだけど・・・」
桜子は老婆の方を見ながら、首輪を手で押さえた。
「お母さん。ママに聞いたんだけど、犬嫁も家屋に入れることがあるんでしょう?」
「いいや、犬嫁のしきたりは厳格じゃ。そんなことは・・・あっ!」
老婆はハッとした後、にやりと笑った。
「ほんにお前は美鈴の娘じゃのう。よう似とるわい。
洋太。まだ話していない犬嫁のしきたりを、もう一つ教えてやろうかの」
老婆は洋太を手招きした。
「犬嫁になる前に祝言を上げたのじゃから、二人は夫婦になったということじゃ。
じゃが犬嫁として過ごす間、旦那がずっと禁欲する訳にもいかんじゃろう?
だから夫婦として夜の生活を『営む(いとなむ)時』は
家屋に入っても良いし、立って歩いても良いとされておる。
もちろん素っ裸のままだし、首輪も付けたままじゃ。
ただし夫婦だけしかいない時は禁じられとるから
家族や親戚のいる時となるが、やはり冬は布団で寝たくなるからのう。
犬嫁を務め終える頃には妊娠しとった、という話もよくあったわい」
「つまり家族の見ている前でセックスするってことですか?」
洋太は驚いて聞き返した。
「夫婦が夜の生活を営むのは、当たり前じゃろう?
とは言うても、普通は別の部屋に行ったり、布団に潜り込んで営むもんじゃが
美鈴は隠し事が嫌いじゃったから
わしらの前でも堂々と息子を『受け入れ』ておったよ(笑)」
かすかな物音に洋太が振り返ると
立ち上がった桜子が浴衣の帯を解いていた。
「私、ママのようになりたいの。
お母さんに洋太を受け入れているところを見られちゃうけど
私のこと嫌いになってないなら、営んでくれるよね?
洋太にも『見られたい気持ち』が芽生えるとうれしいな(笑)」
浴衣も脱ぎ落とした桜子は、素っ裸のまま洋太の近くにしゃがみ
洋太の浴衣の上から男根を撫でた。
「旦那に忠実になっても、コッチの主導権は変わらないままか?」
洋太は浴衣の裾から飛び出た男根をあらわにしながら
老婆の見ている前で桜子と唇を重ねた。
【おわり】
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