芽衣の記録

                                   作・こーでゅろい

「ん?どうしたの?」
ひとり掛けのソファーに腰掛けてテレビを眺めていた俺の前に芽衣が立ちはだかった。
「テレビ、見えないよ」
芽衣はうつむいたまま動こうとしない。つややかな黒髪が表情を隠している。
俺はあきらめて席を立とうとした。その気配を感じて芽衣は顔をあげた。
大きな瞳が涙でほんの少しうるんでいる。頬もすこしばかり赤らんでいる。歯をくいしばっていたと思われる口がぎこちなく開き、薄紅の唇が震えるように動く。
「おじさん」
「ん?なんだい?」
うるんだ瞳が俺の目をじっと見つめている。
「おじさん、わたしもママみたいに縛ってくれる?」

俺の恋人はほんの少しばかり年上だ。アイという。飲み屋でたまたま隣り合わせになり、意気投合してその晩のうちにベッドイン。
寝物語で離婚して個人病院の医療事務をしているということを聴かされた。
まあ、そんなことはどうでもいい。
一人娘がいることもそのとき聴かされたが、あまり気にもとめなかった。
親の遺産で遊び暮らしていた俺にとって、アイは遊び相手のひとりにすぎなかった。一夜限りのお遊びのつもりだった。
ところが、別の日に同じ店に行って飲んでいるとアイがまた隣に座った。まあ、もう一度くらいいいかなとすけべ心を出してまたアイとホテルに行ったんだが、驚いたね。
アイは大きなボストンバッグを抱えていた。その中から赤いロープやら手錠やら、ローターやら、ありとあらゆる性具をうれしそうに取り出し始めた。
二回目でだぜ。しかし、俺だって自分の本性がどSだってことは前々から自覚していた。どMのアイはそいつを見抜いていたんだな。俺がまたあの店に来るものとふんで毎晩通っていたのだと。見染められたもんだよ、俺も。
縛って、たたいて、突いてやったよ。アイがもういやだっていうまでね。
それから俺はアイから離れられなくなった。

つきあって三ヶ月ほどしてから、俺はアイのマンションに出入りするようになった。そのときだよ、娘の芽衣と初めて出会ったのは。
芽衣はそのころ五年生だった。まだからだは丸まっこい幼児体型だったが、母親に似て将来美人になることが約束されたような顔立ちだった。アイの小さいころもこんな顔だったんだろう。
日曜日には三人で動物園や遊園地に出かけたこともあった。まるで本当の親子みたいだった。
しかし、俺の本当の目的は、芽衣が疲れ果てて早い時間に眠ってしまったあと、芽衣のすぐ隣のアイの寝室で変態の限りを尽くしたプレイに興じることだった。どSの俺にしてみれば、隣室の芽衣にアイのはしたない嬌声を聴かせてやりたいと気持ちもあったんだ。
アイもはじめこそ隣室の芽衣に気を遣って声を潜めていたが、あのどM女にがまんなんてできるはずがない。
縄をかけて後ろ手に手錠で縛ってやると、俺のほうが驚くほどの大きな声を上げてよがり狂いやがる。どSとどM、ほんとうにいいコンビだと思ったよ。
そのうち俺は部屋のカギをもらい、アイが仕事に行っているあいだもアイの部屋に入り浸ることが多くなった。
夕方前には芽衣が下校してくる。俺は当たり前のように「お帰り」と声をかけると、芽衣も当たり前のように「ただいま」と答えるようになった。
芽衣は俺が買ってきたおやつを食べて、その日学校であった出来事をぽつぽつと教えてくれた。それから自分の部屋に入って宿題をする。アイが帰ってきて夕食の支度を始める。俺は当たり前のような顔をして夕食をいっしょに食べていた。
芽衣は六年生になっていた。からだも幼女体型から少女体型に変わってきていた。わずかではあったが胸も膨らんできていたようだった。顔立ちもほっそりしてきて、ますますアイに似てきた。
しかしそれでも俺にとって芽衣は「アイの娘」でしかなかった。
その日も俺が買ってきたシュークリームをたいらげ、俺の足元で体育座りで一緒にテレビを眺めていた。
いつもなら学校であったことをひとつふたつ話してくれるのだが、その日はあまりおもしろくもないテレビの画面をだまって見つめていた。
何かいやなことでもあったのかと思って俺も黙ってテレビを眺めていた。
番組がCMに変わったときだった。無言で立ち上がった芽衣が俺の前に立ちはだかったのだ・・・。

「おじさん、わたしもママみたいに縛ってくれる?」
あまりに唐突な発言に俺もすっかりとまどってしまったね。まるで幼いころのアイに告白されたみたいな気になってしまった。
芽衣はその一言を発したきり、また俺の前でうつむいてしまった。細い肩が小刻みに震えていた。
その姿が俺の被虐心に火をつけたんだな。
おもしろい。母娘そろって俺の奴隷にしてやろう・・・。

「芽衣ちゃん、おじさん、驚いてしまったよ。どうしてそんな風に考えるようになったの?」
芽衣は塑像のようにぴくりとも動かない。俺は話を続けた。
「おじさんが来てママとお部屋でしていることが原因なのかな?声が聞こえたりしてた?」
芽衣のからだが一瞬びくんと小さく動いた。
ビンゴだな。
「そのー、なんだ、芽衣ちゃんはときどきママの部屋をのぞいてたりしたのかな?」
一瞬の沈黙。
しかしすぐに首が小さくうなづいた。
「そうかぁ・・・。見ちゃっていたのかぁ・・・。」
俺は白々しくつぶやいた。
「それで芽衣ちゃんもママみたいにおじさんに縛ってもらいたいと思うようになったの?」
首が二回大きくうなづいた。
母親がどMなら娘もどMか・・・。
俺は心の中でほくそえんだ。
俺のどSの性癖は燃え上がった。
「芽衣ちゃん、顔を上げなさい。おじさんにお願いしてるのにうつむいたままというのは失礼だよ」
俺は少しばかり語気を荒げた。
芽衣は驚いたように顔を上げた。目の下の涙腺が大きく膨らんでいた。
「お願いするなら、ちゃんとおじさんの顔を見てお願いしなさい」
唇がわなわなと震えていた。
「ほらっ、じゃないとおじさん、帰っちゃうよ!!」
一瞬困ったような顔をした芽衣は、すぐに俺の目を直視して繰り返したんだ。
「わたしを、ママみたいに、縛ってください・・・」
一語一語かみ締めるようにつぶやいた。
そのとき、俺は勝ったと思ったね。何に勝ったかって?うーん、よくわかんないけどね。
俺はできるだけやさしい声で言ってやった。
「うん、よく言えたね。おじさんがママを縛るのは、ママをとても愛しているからなんだよ。縛ることは愛の表現なのさ。最上級のね。おじさんも芽衣ちゃんを愛しているよ。すごくすごく愛しているよ」
芽衣の瞳に大きく安堵感の色が浮かんだ。
「ただね、芽衣ちゃんもおじさんを愛してくれているなら、その証拠を見せてほしい」
芽衣の表情がほんの少し曇った。
「証拠・・・。証拠ってなに?」
「男と女が愛し合うためにはどちらも生まれたままの姿にならなきゃいけない。知ってるよね?」
芽衣が小さくうなづく。
「芽衣ちゃんの決心のしるしに、いまここで生まれたままの姿をおじさんに見せておくれ」
ある程度予想はしていたと思うのだが、芽衣の動揺が手に取るように見て取れた。
目が泳いでいる。足元も落ち着きなくなっている。
「さあ、どうしたの?さっきの言葉は嘘だったの?嘘つきはおじさん、嫌いだな」
純粋な子どもにとって嘘つきよばわりされることは大きな屈辱である。俺はそこまで冷静に考えて言葉を選んだ。
「わかりました・・・」
蚊の鳴くような声だ。しかしそれは俺の完全勝利を告げるファンファーレだ。俺は心の中で快哉を叫んだ。
芽衣が、上に羽織っていた水色のカーディガンをゆっくりと脱ぎ始めた。俺が前にプレゼントしたやつだ。
芽衣はカーディガンを足元に脱ぎ捨てた。それから刺繍の入った白いブラウスのボタンを上からゆっくりとはずし始めた。
指先が震えているのがわかる。
俺は黙ってそのようすを眺めていた。
芽衣の後ろでテレビからにぎやかなCMが聴こえてくる。俺はリモコンでスイッチを切った。部屋の中では微かな衣擦れの音しか聞こえてこなくなった。
芽衣の耳にははじめからテレビの音などきこえていなかったのだろう。
ブラウスの裾をスカートから引っ張り上げ、とうとう下までボタンがはずれた。
ブラウスの下のピンクのキャミソールの色がまぶしい。
芽衣はブラウスの袖からゆっくりと腕を抜き、これまた足元に脱ぎ捨てた。さっきのカーディガンと違ってふわりと蝶のように足元に舞い降りた。
芽衣はからだの震えを抑えるように、両手で肩を抱きしめて、胸元で胸を隠している。
「だめだよ、早くしないとママが帰ってくるよ。それでもいいの?」
その言葉に芽衣は現実に戻されたように壁の時計を見上げた。
午後4時。
アイが帰ってくるのはまだまだ先だ。
それでも芽衣にはせっぱつまった時間と思えたのだろう。
デニムのスカートのホックをはずし、腰のジッパーを引き下げた。それからほんの少しだけためらいを見せて、スカートをつまんでいた両手を離した。
スカートはストンと足元に落下した。
その小さな落下音に芽衣はからだを前かがみに折り曲げた。
下着を見られまいとしてのことだろう。
「だめだよ、隠しちゃ。そのまま気をつけをしてみなさい」
芽衣はゆっくりとからだを戻し、足元に落ちたスカートから足を抜いた。
「そうだ、学校でしているみたいにきちんと気をつけの姿勢をとりなさい」
ゆっくりと姿勢をまっすぐにしていく。目は閉じている。胸が小さく動いている。息が苦しいのだろう、呼吸音が微かに静かな部屋に響いている。これはこれでかなりエロチックだ。
「うん、立派な気をつけだね」
下着は薄いブルーだ。おなかが少しばかりぽっこりとしていて、幼児体型の名残と見て取れた。
キャミソールの肩紐の下にスポーツブラが見える。生意気にもブラが必要なのか。どれ、どれくらい大きいのか確かめてやろうじゃないか。
「キャミ、取りなさい」
俺はわざと命令口調で言った。
さっきの「気をつけ」の姿勢が学校の先生の命令に思えたのだろう。だったらこちらも学校の先生になったつもりで命令口調で行こうと思ったのだ。
おずおずと肩から肩紐をはずしていく。キャミソールの裾をつかんで一気に引き上げ、頭から抜き去った。
グレイのスポーツブラだ。その生地の下に押しつぶされるような小さな乳房の形がわかった。
芽衣はキャミソールを脱ぎ終わると、今度はためらうことなくスポーツブラに手をかけた。頭から抜き去ろうとして、ブラの下に両手をかけて引き上げた。ブラに押さえつけられていた両方の乳房がぷるんとゆれるようにして俺の目の前に現れた。一瞬芽衣の顔を見えなくなり、思わず俺はからだを乗り出した。
まだほんのつぼみだ。上体を反り返ったら真っ平らになってしまうだろう。Aカップにも満たないんじゃないかと思った。けれども、両方の薄桃色の乳首は自己主張するかのごとく、硬くつんと上を向いている。
スポーツブラを足元に落とした芽衣はあわてるように両腕で胸を隠そうとした。
「だめだよ、きちんとさっきのように気をつけしなさい」
パンツ一枚の芽衣の姿。羞恥に震える幼いからだが俺の目の前にあった。
アイのようなよけいな肉はついていない。すべすべした透き通るような肌だ。わずかに膨らんだ乳房とエロチックな情動にとらわれて屹立している乳首のアンバランスが俺の心を波立たせた。
俺の息子はこの異常なシチュエーションに爆発寸前だった。しかし俺はほんの少し残っていた理性でそいつを黙らせた。
「うれしいよ、芽衣ちゃん。ほんとうにおじさんのことを愛してくれているんだね。とってもきれいだよ」
俺の言葉に目の前の芽衣は目を閉じたままほーっとため息をついた。
「でも、まだ生まれたままの姿じゃないよね。芽衣ちゃんはパンツを履いて生まれてきたのかい?」
芽衣の胸が大きく上下する。
「おじさんの命令、聞けないのかい?」
俺は強い口調で言った。
芽衣はびくんとしたが、一瞬の間をおいたのち、観念したのか、おずおずと手を腰に持っていった。
パンツがすりすりと下に下げられていく。
まあるいおなかが現れた。そこで芽衣の手がびたりととまった。
「ほらっ!!」
俺は急かすように強い口調で命令した。
その声に驚いたのか、芽衣は一気にパンツをあわてるように足首まで引き下げ、くるくると丸めて俺が座っているソファーの脇に投げ捨てた。
芽衣の股間に一本の筋が刻まれていた。その上部にはほんの申し訳程度の産毛のような恥毛が浮かぶように茂っていた。しかし、その恥毛はまあるいおなかにぺたりとはりついていたのだ。
俺は芽衣が投げ捨てたパンツを拾い上げて開いた。芽衣はとまどったような顔でそのようすを見つめていたが俺のすることに何も言わなかった。観念していたのだろう。
案の定、パンツの内側はじっとりと濡れていた。俺がパンツのようすを眺めているのを、芽衣はだまって見つめていた。
あまりむいじめてもかわいそうだと思い、俺はパンツをまるめてまたソファーの脇に投げ捨てた。
「芽衣ちゃん、とってもきれいだよ。ほら、今度は後ろを向いてごらん」
芽衣はゆっくりと振り返った。目の前のテレビの画面に自分の素っ裸が映りこんでいたことだろう。その姿を見つめてどう思ったのだろう。
芽衣のなだらかなスロープを描いた後姿に俺はうっとりとした。肩からしっかりと伸びた長い腕、ほんのわずかくびれ始めたウエスト、少年のように硬く引き締まったお尻。そしてそこから伸びる形のいい長い両脚。ほんとうに美しい芸術品を眺めているようだった。
このまま時間が止まってほしいと思った。
「芽衣ちゃん、後ろに手をまわしてごらん」
俺は買ってきたシュークリームの箱についていた紐をテーブルから拾い上げた。
芽衣は素直に両手を背中に回した。
俺はその両手をつかんだ。すると今まで触れられなかったということもあり、芽衣が驚いたようにからだを動かした。
俺は芽衣の両手を押さえながら紐を手首に巻きつけていった。
「だめだよ、芽衣ちゃん。こうすることが目的だったでしょ?縛ってほしいって言ったのは芽衣ちゃんだよね」
思い出したかのように芽衣の動きが止まった。あとは俺にされるままだった。
興奮していた俺は手が充血して赤くなるほど縛り上げてしまった。
「どうだい?これが芽衣ちゃんが望んでいたことだよね」
両手が不自由になってからだを左右に動かす芽衣の後姿がくねくねと蠕動する。
その姿、後ろ向きなのに、エロチックなんだよね。
ひとしきり動き回ったあと、観念したのか芽衣が静かになった。
そのころあいを見計らって、俺は後ろから芽衣の両肩に手を置いた。芽衣がびくっと跳ね上がる。
「ほら、こっをむいてごらん」
無理やり俺のほうに向かせた。
両手を後ろで縛り上げられてからだを隠すこともできず、恥じらいながら立ち尽くす少女。
振り向かせたとき、一瞬アイと同じ匂いが巻き散らかされたような気がした。
やっぱりこの娘もマゾなんだ。マゾの娘はマゾなんだよな。マゾの匂いがするよ。
俺は前から芽衣の両肩を抱いて芽衣の顔を見下ろした。
きれいだった。恥じらいに潤んだ瞳、ほんのりと差す薄桃色の頬、耳たぶは赤く染まっていた。
キスしたい。
しかし俺は我慢した。
この娘はもっとおもしろいことに使ってやる。
処女のままで俺がすべてを教え込んでやる。
本当に俺だけのメス犬に仕立て上げてやるんだ。
俺は芽衣の両肩に後ろから手を置き、アイの寝室へと押し込んでやった。
そこには大きな三面鏡がある。
それはアイの化粧だけではなく、俺たちのプレイに使われているやつだ。
俺は芽衣を鏡の前に立たせた。
昨夜は縄化粧して乳首に洗濯バサミをかませたアイが映りこんでいた。
それが今はその娘が両手を後ろで縛られて映りこんでいる。
その背徳に俺の頭はたぎった。
なんとか理性を保ちながら、俺は鏡の中の芽衣に語りかけた。
「どんな気分だい?」
自分のあられもない姿を直視できず、芽衣はうつむいたまま答えた。
「すてき、です」
俺は耳を疑った。
素っ裸で縛られて、すてきです?
やっぱりこの娘はあの女と同じ血を引いてやがる。
たいした変態だよ。
でもな、覚えていろよ。
調教は始まったばかりだからな。

俺はそのまま帰ろうかとも思った。帰ってきたアイが縛られた芽衣を見てどう思うだろうか。それはそれでわくわくするようなアイデアだった。しかし、それではせっかくの獲物を失ってしまうことになる。
獲物はもっとじっくりといたぶらなくては・・・。

俺は芽衣を縛っていた紐をハサミで切り、芽衣に服を着るように命じた。
芽衣はちょっと不満そうな顔をしてみせた。その先もあるのだろうと思っていたのだろう。
帰ってきたらシュークリームだけあって俺はいなかったとアイに言えと、もし約束を破ったら二度とこの家には来ないと、俺は芽衣に強く言い置いて街に出かけていった。

祝杯だ。完全勝利を祝して祝杯をあげるんだ。

(おわり)



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