『恒例の悪戯(いたずら)』
作;ベル
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1
「本当に素敵ですね。ココが会社の保養所だなんて」
幸子は素直に喜んだ。
「もともとはお金持ちの別荘だったらしいんだけれど
それを手放すことになって、先代の社長が譲り受けたらしいの。
ちょっと古いけれど趣き(おもむき)があるでしょう?」
「それに、旅館並みの露天風呂まであるのよ。
管理人さんには到着時間を伝えてあるから、すぐに入れるハズよ」
「わぁ!私、露天風呂大好きなんです」
先輩たちの言葉に歓喜する幸子だったが
毎年恒例の悪戯(いたずら)が予定されていようとは思いもしなかった。
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新入社員の幸子は、祖父母の代から東京育ちで
夏休みにおじいちゃん・おばあちゃんの待つ『田舎』へ行く
という体験がなく、その反動で山歩きやキャンプが大好きだった。
大学生になってからは露天風呂に興味を持ち
秘境と呼ばれるような山奥の温泉にまで足を運んだこともあった。
今日は3連休を利用して、同じ会社の先輩(女性のみ)とともに
山林の別荘地にある会社の保養所を訪れていた。
「じゃあ、幸っちゃんは混浴とかも平気なの?」
保養所の露天風呂に浸かりながら自分が温泉好きであること話すと
先輩たちが興味深そうに幸子へ尋ねた。
「ええ。と言っても、どうせ行くなら周りの景色を楽しみたいので
昼過ぎ頃に行くことがほとんどだったせいか
年配のおじいちゃんと一緒になった事が何度かあるくらいですよ?」
「本当に?若い男の人と一緒になったことはないの?」
「秘境温泉はそもそも、人がいないから『秘境』なんです。
誰にも会わないことの方が多いですし
ようやくたどり着いたら『閉鎖中』なんてこともありましたよ」
「でも、もし若い男の人がいた時は?入るのをやめるの?」
「いいえ、その時はタオルで隠してでも入ります。
もっとも湯船にタオルを入れるのはマナー違反ですから
多少は見られてもお互い様だと思って入ると思います」
「キャー!幸っちゃん、大胆ねぇ(笑)!」
「オッパイの大きい現代っ子は『怖いもの知らず』なのよ(笑)」
幸子の大胆発言に盛り上がった後、先輩の一人が切り出した。
「だったら、この先にあるもう一つの露天風呂に行くべきよ。あなたにピッタリだもの」
先輩が言うには、すぐ脇に見える小道を進むと自然に湧いた温泉があるという。
しかし石瓶に溜まるようになってはいるのだが
お湯の量が少ないため一人ずつしか入れないらしい。
「一番風呂を譲るから、先に楽しんで来なさいよ。
ちょっと離れた場所だけど、温泉好きなら入らないと損よ」
「良いんですか?」
「どうぞどうぞ。新入社員だからって遠慮しなくて良いのよ」
「とっても素敵なお風呂よ。お先にどうぞ」
先輩たちに勧められた幸子は、嬉々としてサンダルを履くと
タオル一枚を手に小道を進んで行った。
「フフフ、行ったわね?」
「恒例とは言え、先輩の話し方は上手いですねぇ」
「まあ1本道だし、いつも通りなら10分もしないで戻ってくるわよ。
高低差はあるけれど、別荘の周りをグルッと回るだけだもの」
「それでもすごく不安でしたよ。今ではカラクリを知っているけれど
道が曲がっているから見通しは悪いし、すでに素っ裸になっているし」
「そうそう。だんだん心細くなるのよね」
「貴方の時は15分以上かかったもの。寄り道しているのかと話していたくらいよ」
「不安になっちゃって、ゆっくりしか歩けなかったんです」
「帰って来た時に『全裸で歩き回った感想は?』と聞かれて
ようやく騙されたと気付いた時は、恥ずかしいやら悔しいやら・・・」
「でもスリルがあったでしょう?」
年配の先輩は笑いながら、湯船から立ち上がった。
2.
「あれぇ、おかしいなぁ?離れているとは聞いたけれど、もうだいぶ歩いたわよね?」
幸子は立ち止まって考えていた。
すでに10分は曲がりくねった小道を歩いてきたが
目的地に着かないばかりか、元いた別荘の方向も分からなくなっていた。
実はこの時点で、幸子は1本道だったはずの小道を外れて進んでいた。
もし他の人なら引き返そうと考える頃なのだが
温泉好きが災いして、幸子はたどり着くことしか考えていなかった。
「せっかく『お先に』と言ってもらったんだし、もうすぐ着くわよ」
間違った小道をさらに進むと、幸子は舗装された道路に出た。
細いとはいえ、私道ではなく一般道のように見えるが
道路の反対側にも今まで歩いてきた小道が続いていた。
「誰も来そうにないし、大丈夫よね?」
幸子は道路を横断して奥の小道へと進んだ。
道路を横断した時点で保養所の敷地外に出てしまったのだが
多少不安になりながらも、幸子は先へと進むことをやめなかった。
「んっ、水が流れる音?」
音のする方向に進むと、竹で編んだ目隠しの裏側に
大きな石をくり貫いて作ったお風呂を見つけた。
さらに向こうには天然石を積んで囲った大きな湯船もあり
竹筒を伝って流れるお湯が湯船に注がれていた。
「あ、あった。コレよね?素敵、頑張った甲斐があったわ」
幸子は目隠しの端をすり抜けて洗い場にたどり着くと、ゆっくりと湯船に浸かった。
「一人ずつしか入れない、というのは私に譲るための方便だったのね。
湯船も洗い場もこんなに広いじゃない。先輩たちに感謝だわ」
しかし、しばらくすると誰かの声が聞こえてきた。
しかも先輩たちにしては声が低い。
「もしかして、男の人?コッチのお風呂は混浴なの?
だからさっき『混浴でも平気なのか』って念を押していたのね?」
間もなく、5人の若い男たちが全裸でやって来た。
大学生くらいだろうか?
「えっ?」「し、失礼!おい、戻るぞ」
学生たちは幸子に気付くと、慌てて立ち去ろうとした。
「こんにちは。お先に頂いています。どうぞご一緒に」
「・・・良いんですか?」
「だって露天風呂ですから。どうぞどうぞ」
幸子がしきりに勧めるので、戸惑っていた学生たちも次第に近付き
同じ湯船に入った。
「ココからの眺めは素敵ですね。思っていた以上です」
「そ、そうですね」
「お姉さんはどちらから?」
「会社の先輩たちと、です」
学生たちは幸子をチラチラと見ながらも、ぎこちないままだった。
一方、幸子は周りの景色に夢中で、彼らの視線をほとんど気にしなかった。
「混浴には慣れているんですか?」
「いいえ。温泉は好きですけれど、混浴は慣れていると言うほどでも」
「そうですか?結構、大胆ですよね?女性はお姉さん一人なのに」
「だって露天風呂ですから」
幸子がニッコリと微笑むと、次第に学生たちも笑顔になった。
彼らは某大学の駅伝チームで、今日から合宿に来たのだという。
「シード権ももらえない弱小チームですが、今年は手応えを感じているんです」
「そうなの?私、スポーツには疎くて駅伝は良く知らないんだけど
頑張る人を応援するのは好きよ」
しかし雑談をするうちに、幸子はいつの間にかタオルを湯船に浸けていた。
「やだ、私ったらお湯の中にタオルを。ゴメンナサイ」
幸子は湯船の中で立ち上がると、湯船の外でタオルを絞り
頭に載せ直して再びお湯に浸かった。
一連の動作で幸子の胸やお尻は露わになり、学生たちは息を呑んだ。
「や、やっぱりお姉さんは大胆ですね。見えちゃいましたけれど?」
「だって露天風呂ですから」
「そ、そうですよね。露天風呂ですもん。見えちゃうこともありますよね」
幸子は学生たちが再びぎこちなくなったのに気付いたが
この時点ではまだ、彼らが混浴慣れしていないせいだと思うだけだった。
「ちょっとのぼせてきちゃったかな?」
しばらく彼らと雑談をした後、幸子は頭に載せたタオルを落ちないように
手で押えながら湯船から立ち上がった。
再び幸子の胸やお尻は露わになり、学生たちは息を呑んだ。
「あ、あの!」
学生の一人に声を掛けられ、幸子は立ったまま振り向いた。
学生たちは一糸纏わぬ姿を露わにした幸子を凝視した。
「す、すげぇ・・・。丸見えだよ」
「バカ、声に出すヤツがあるか!」
「やっぱりお姉さん、大胆ですよ」
幸子もようやく、学生たちが自分の裸を見て興奮しているのに気付いたが
ここのお風呂に満足した幸子はニッコリ微笑んで言った。
「だって露天風呂ですから。お互い裸なら見えちゃっても当たり前ですよね?」
「そ、そうですよね。お互い裸ですもんね」
裸を見られても嫌がらない幸子の態度は、学生たちを安堵させた。
しかしそれが間違いだった
「じゃあ、俺もあがろうかな?実は結構のぼせていたんだよ」
気が緩んだ学生の一人が、幸子と同じように立ち上がった。
しかし、それまで平然としていた幸子は目を丸くした。
その学生の男根が堂々と勃起していたからだ。
「なんだ、お前もか。実は俺も大胆なお姉さんの姿を見て、こうなっていたんだ」
隣の学生も立ち上がると、同じく男根を勃起させていた。
「そりゃ、すぐ隣に素っ裸のお姉さんがいるんだもんな」
「しかもオッパイの先まで突き出ているのに全く隠さないしな」
「だから俺たちまで自然と突き出てきちゃうんだよな」
学生たちが笑いながら話すので、幸子は完全に引っ込みがつかなくなった。
「わ、私だってぜんぜん恥ずかしくない訳じゃないのよ?
でも露天風呂はそもそも、自然を満喫するための場所でしょう?
人目を気にしたり身体を隠したりするのは
やっぱり不自然な行動のような気がするの。違う?」
内心は勃起した男根を見て動揺していた幸子だったが
急にあたふたする訳にもいかず、平静を装い続けた。
「なるほど。お姉さんはソレを混浴でも貫いているんですね」
「でも、わざわざ恥ずかしいポーズは取らないわよ?」
「あくまでも自然に、在るがままに。さすがです」
「お姉さんは露天風呂の『達人』ですね」
学生たちはしきりに感心していたが
幸子が勃起した男根を見た後も冷静に振舞うので
学生たちもますます遠慮なく幸子の裸を見るようになった。
「俺たちも、お姉さんのすがすがしさを見習って露天風呂を楽しもう」
「そうだな。お姉さんの方がココまで大胆になってくれたんだ。
変な気遣いはかえってお姉さんに失礼だぞ?」
仲間の呼びかけに応え、最後まで隠していた学生も男根を露わにした。
「正直、すごく恥ずかしいけど、露天風呂では隠さない方が『自然』なんだよな?」
「ああ、これこそ『裸の付き合い』ってヤツなんだ」
「身も心も、ありのままの姿を見せ合う。素晴らしい入浴法だよ」
学生たちは、感謝の念を示さんとばかりに
男根を勃起させながら幸子に近付いた。
「そ、そうよ。そうなのよ。
混浴の露天風呂こそ、自然を愛する日本ならではの『誇るべき文化』よ。
みんなも同じ気持ちになってもらえて嬉しいわ」
幸子は大小様々な男根が脈打ちながらそそり立つのを見比べつつ
今すぐ逃げ出したい気持ちを必死で抑えていた。
「・・・(もうダメッ!勃起した男の子たちに取り囲まれるなんて、あり得ない)」
コレが幸子の本心だった。
「それじゃ、そろそろ『お暇(おいとま)』するわね」
そう切り出すと幸子は洗い場を横切り、竹で編んだ目隠しの端に駆け上がった。
「えっ?ソコから帰るんですか?」
「その格好のままで?」
「そうよ。だって私、露天風呂の『達人』ですもの。今日はありがとう。じゃあね」
幸子はそれだけ言い残すと、足早に目隠しの裏側に去って行った。
「お、おい。マジで?」
学生たちも目隠しの傍まで駆け寄ったが、幸子は振返らずに小道を進んで行った。
「す、すげぇ・・・。本当にあの格好で行っちゃったよ」
「やっぱりお姉さん、大胆ですよ」
学生たちはあっけに取られながら幸子の後ろ姿を見送った。
3.
「ちょっと!1時間近くも何処にいたのよ?」
保養所の別荘に戻ると、幸子は先輩たちに取り囲まれた。
「足を滑らせて谷底に落ちたんじゃないかって、みんなで探したのよ」
「ケガはないの?本当に心配したんだから」
年の近い先輩は、素っ裸の幸子の足元で泣き崩れた。
「だって、せっかく一番風呂を譲っていただいたのに見つからなくて・・・。
身体が冷えたので、まずはお風呂に入り直しても良いですか?」
幸子はあえて学生たちとの混浴体験に触れなかった。
「ええっ?毎年恒例のイタズラ?じゃあもう一つの露天風呂は?」
部屋に戻って悪戯の種明かしをされた幸子は混乱した。
「それなら学生たちと一緒に入った露天風呂は
保養所とは全く関係ない別の施設で、混浴でもなかったってことなの?」
あまりに戸惑う幸子の様子を見て
不審に思った先輩たちからあらためて問い詰められ
幸子は今日の出来事を告白した。
「ウソでしょう?1時間近くも全裸で歩き回っていただけでなく
そこの男の子たちにヌードを披露して来たっていうの?」
「キャー!幸っちゃん、本当に大胆だったのねぇ(笑)!」
「オッパイの大きい現代っ子とはいえ『怖いもの知らず』にも程があるわ(笑)」
「コレは我が社の社史に残る『伝説』になるわよ(笑)」
内容が内容なだけに、先輩たちの興奮はなかなか治まらなかった。
「もとはと言えば、先輩たちがあんなイタズラを仕掛けたからじゃないですか!」
「いいえ、貴方が露天風呂の『達人』だからこそ成し得た偉業よ。ねぇ(笑)?」
幸子の心は、裸を見られるのとは異質の恥ずかしさで一杯になったが
この一件で幸子は先輩たちに気に入られ、会社での待遇が格段に良くなった。
数週間後。幸子は何気なく点けたテレビに、見覚えのある顔を見つけた。
「あっ、この男の子。知ってる!」
そこには露天風呂で出会った学生たちの一人が映し出されていた。
残念ながらトップ集団ではないのでたまにしか映らなかったが、間違いない。
「本当に駅伝の選手だったのね。他の男の子もいるのかな?
応援するわ、頑張って!」
幸子は彼の勃起した男根を思い出しながら、テレビに向かって声援を送った。
【おわり】
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今回は「混浴の露天風呂」という、露出っ子小説の王道設定(?)で書きました。
混浴ではないのに、主人公が勝手に混浴だと勘違いして
見ず知らずの人と一緒になったら・・・という部分がポイントです。
別のお風呂に全裸のままで移動する行為だけでも露出っ子らしいのですが
短編作品にしたかったので心理描写は少なめにしました。
なお『幸子』という名前の由来は
一緒になった学生にとって『ラッキーな出来事』だから、です。
幸運・幸福の『幸子』です。
読者の皆さんには、露天風呂に行く機会があったら
目隠しの仕切りを越え、その先の小道を歩いて欲しいと思います。
もしかしたら幸子のように、眺めの素敵な別の施設に
たどり着けるかも知れませんよ?
【ベル】
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