『チーフインストラクター 明美』
作:ベル
1.
「悔しいわ。何が足りないのかしら?」
準大手フィットネスジムの店長兼チーフインストラクターをしている
中村明美(なかむらあけみ)。28歳、独身。
数ヶ月前に、異例の大抜擢で郊外の新店舗を任されたが
残念ながら会員数が伸び悩んでいた。
本社からも入会金無料キャンペーンや回数券の特別割引など
一通りのテコ入れ対応を許可してくれたのだが
それでも目標の半分程度しかノルマを達成出来なかった。
「本社が実施した事前リサーチの見込みが甘かったんだろうな。
駅前からも近いし、立地条件は悪くない方と思っていたけれど
地元企業で働く人たちが期待していたほど入会してくれなかったからね。
おそらく『仕事帰りに一汗流す』という都会型ライフスタイルは
まだこの地域には時期尚早だったのかも知れないなぁ」
本社企画営業部の部長は、資料に目を通しながらため息をついた。
「すると・・・撤退ですか?」
「引き抜いてまで郊外の店舗へ異動させたのに申し訳ないが
テコ入れした結果がこれではね。
せめて新規会員数がもう少し多ければ
もうしばらく経過を見守りたかったんだが、まあ仕方がないな。
でもお客様からの評判や満足度は高い。
これは営業成績が悪い他の店舗にはない『君の成果』だ。
次の勤務先も選べるし、希望すれば古巣に戻ることも出来るだろう」
「でも他のスタッフは?」
「君が次に連れて行きたいほどの人材がいるなら考慮するが
この店舗でしか実績のない者は厳しいだろうね」
当然と言えば当然だが、明美は納得出来なかった。
もちろん明美の頑張りが満足度の高さに反映された自負はあるが
ノルマ未達成の責任をスタッフに押し付ける気がしてならなかった。
「でもまだ撤退は決定じゃないですよね?
お願いします。もう少し時間を下さい。
お客様からの評判や満足度の高さは、スタッフの成果でもあります。
利用率も少しずつ増えていますし、来月になればもっと良い報告が・・・」
「残念だけれどこの資料が正しいなら、ほぼ決まったようなものだよ。
業績が多少改善した程度ではダメなんだ。
この地域に当社への需要があるかどうか、そこが一番重要なんだ。
確かにキャンペーンがすぐに結果と結びつかない場合もあるが
採算性は無視出来ない。分かるだろう?」
「・・・」
部長の言葉は正論すぎて明美は黙るしかなかったが
彼女が落ち込む様子を見て、部長も妥協せざるを得なかった。
「では、最終結果を判断するのは来月まで延期しよう。
もし、来月の定期報告までに新規会員数のノルマが達成出来れば
来期の戦略会議前でも『需要を掘り起こせた』と判断され
この店舗も存続することなるだろう。だがそれ以上は延ばせないぞ」
「分かりました。あと1ヶ月でノルマを達成してみせます」
「キャンペーンも今までと同じままじゃダメだ。
独自の企画や催し物など、ダメ元だと割り切ってあらゆる手を考えなさい。
難しいチャレンジだとは思うが、君にとっても良い経験になるだろう。
期待しているよ」
「はい!」
明美はあらためて自分の店舗を守る決意を固めた。
***** ***** ***** ***** *****
「みんな良く聞いて。昨日の本社企画営業部長の視察結果を伝えます」
明美はミーティングで、このままだと店舗が閉鎖されてしまうことを告げ
スタッフ全員にノルマ達成の協力を求めた。
しかし新規会員の獲得がいかに難しいか、スタッフも理解していた。
何もしなかったのではなく、してきた結果が今の実績だからだ。
「その代わり、みなさんに約束します。どんなことでも私が責任を持ち
サポートではなく、先頭に立つ役割を果たします」
この言葉通り、明美は自ら率先して手本になるよう
昼夜を問わず頑張ったし、スタッフもそれに応えてくれた。
しかし、すでに入会している会員の利用率は向上しているのに
新たな会員数は相変わらず伸び悩んでいた。
この地域で入会しそうな客層は、ほとんど取り込み終えていたのだろう。
「新規顧客の開拓を『狩り』に例えた話を思い出しちゃうわね」
「どんな話なんですか?」
明美がここに配属されてから面接で採用したスタッフ:美香(みか)が
明美の何気ないつぶやきに応えた。
大学の新卒で採用された美香は、明美を心から尊敬しており
仕事の飲み込みも早かった。
視察の際の会話で『次に連れて行きたい人材』と言われて
真っ先に思い浮かんだスタッフでもあった。
「どんなに腕の良い猟師でも、獲物の居ない山を歩き回っていては
成果を上げられない・・・という例え話よ。
部長が視察の時に言っていた
『まだこの地域には都会型ライフスタイルは時期尚早だった』
という分析は正しいのかも知れないわね」
「なるほど。ウチのフィットネスクラブは
『都市型ライフスタイルの店』に分類されるんですね。
そうすると、他にはどんなスタイルの店があるんですか?」
「他に?そうね、例えばヨガやダイエットに主眼を置いた健康スタイルの・・・」
明美の目に光が甦り、美香を見つめ返した。
「それよ、美香ちゃん!何で気付かなかったんだろう?
今までの経験や成功事例に囚われていたんだわ」
明美は立ち上がると真っ白のホワイトボードに文字を書き連ねた。
『特徴』『需要』『地元企業』『興味』『健康』『エコ』『動機』・・・等々。
それらの文字を線で結んで思考プロセスをツリー化し
あらたなキーワードを違う色で書き加えていく。
学生時代からの明美のクセだが、
単なるインストラクター以上の実績を出してこれた要因の1つでもあった。
「地元企業の最大手:丸角工業はもちろん
その関連会社や下請の中小企業も工場での加工製作が多いから
『仕事帰りに一汗流す』としたら、さらに運動をするのではなく
疲れを癒す銭湯を選ぶ。もしくは早く帰ってビールを見ながらTVを見る。
その一方で、シフトはあらかじめ決められているから
先の予定は比較的立てやすい環境にあるハズなのよ」
「でも彼らに入会してもらうには
銭湯やビールより魅力的な『何か』がどうしても必要ですよ」
「そうね。でもその答えを見つける前に、出来ることから始めましょう」
明美はまず、それぞれの企業の労働組合担当者とアポを取った。
健康管理の大切さを説明しつつ、社員の運動を促す場として
ジムを活用してもらおうと考えたのだ。
2.
翌日のミーティングでも新規顧客獲得が話題になった。
「残念ですが、興味を持つだけでは入会してもらえませんよ。
実際に体を動かしてくれれば理解も深まると思いますが
店舗まで来てもらう『秘策』がないと」
「ええ、私も同じ意見よ。そこで考えたのがコレなんだけど・・・」
用意されていた新しいコスチュームは
セクシー路線の大胆なセパレートタイプだった。
今まではややゆったりとした8分丈のパンツ(ズボン)に
タンクトップとフィットネスウェアを重ね着することが多かったのに対し、
パンツは身体のラインにフィットする膝下までのボトムタイプで
上着もスポーツブラと呼ばれる物だった。
お腹や背中を露わにするコスチュームを提示され、スタッフは戸惑った。
「今までとずいぶん違いませんか?」
「私も含め、スタッフ全員がコレに着替えるってことですよね?」
「ええ。いろいろ考えたんだけれど
私たちの鍛えた身体をもっとお客様にアピールしようと思うの。
頑張れば私もこういう身体になれるんだ、ジムに通えば出来るんだ。
お客様にそう思わせる努力が足りなかったと反省したのよ。
どれも市販の物だし、エアロビクスの大会でも
似たようなコスチュームを見掛けたことがあるでしょう?
もちろんこれから会員になる人にアピールするのにも役立つと思うわ。
地元企業は男性が大半を占めるから
興味本位の会員も増えてしまうとは思うけれど。
やらずに後悔するくらいなら、何でもやってみるつもりよ」
「でも私には大胆すぎます。今までのコスチュームじゃダメですか?」
一番若いインストラクターの美香が、遠慮がちに手を挙げた
「申し訳ないけれど、認められないわ。それとも私と同じ方にする?」
別の箱から取り出したコスチュームはデザイン的にはみんなと大差ないのだが
使われている素材は明らかに薄く、身体にピタッとフィットすれば
ボディラインがクッキリ浮き出てしまうタイプのコスチュームだった。
「私は先日、皆さんに約束しました。
どんなことでも私が責任を持ち、先頭に立つ役割を果たします・・・と。
だから私も役割に見合ったコスチュームを着て臨みます。
スタッフの方が無理を強いられていると感じたら、遠慮なく言って下さい」
明美の覚悟を感じ取ったスタッフは
その日から新しいコスチュームでレッスンを開始した。
3.
「見た?駅前のジムのポスター。カッコいいよね」
「実際にあそこにいるインストラクターがモデルなんだってさ」
「でもちょっとセクシー過ぎない?だってほら、コレ乳首だよね?」
「こんなにポチッと浮き出ているんだから
ポスターが出来上がる前に気付けよって気もするけれど
何か得した気分になるのは俺だけじゃないよな?」
明美は例の新しいコスチュームでポスターを作成し
駅だけでなく地元企業にも配って回った。
もちろん自分の乳首が浮き出ているのは承知の上だった。
「すごい評判ですよ、新しいポスター。
さっきは駅の広報担当から連絡があって
掲示板から持ち去りが続いたので補充したいと言ってきたんですから」
「いくらでも補充するから、持ち去ろうとする人がいたら
分けてあげて下さいと担当者さんに伝えて」
ポスターの反響は大きく、新規会員数も増加した。
企業を訪問する際、例のコスチュームに着替えてから出掛けたのも
男性会員に大きくアピール出来たようで
体験入学した半分以上が正会員になってくれた。
「狙い通りでしたね。ベタな戦略でしたが、こうも見事に効果が出るとは。
男って単純だなぁと思いますよ」
「女の武器も侮れないでしょう?」
「いえ、実は女性客も伸びているんですよ。
ああなりたい、という見本のイメージを提示するという戦略は
アリだったようですね」
「でもこの戦略で新規開拓出来るのも今週まで、と見ているの。
新規会員数の獲得は今月限りの短期決戦だから
もう1歩さらに踏み込んだアピールが欲しいのよね。
フィットネスジムとしての基本は押さえつつ、他所ではやっていない何か。
まずは思い付いている案を1つ、試してみるわ」
明美はすでに次の手を考えているようだった。
***** ***** ***** ***** *****
「チーフ。コレが銭湯やビールより魅力的な『何か』ですか?」
会議室に集まったスタッフは、新たな折込みチラシを手にして唖然とした。
『ビキニヨガ教室、開設。
美しくありたいと心から思えば、あなたの身体は美しくなれる』
キャッチフレーズもさることながら、明美自身がモデルになって
ヨガの「パドマーサナ(蓮華坐)のポーズ」を決めていた。
(背筋を伸ばして座禅を組み、両手の人差し指と親指で
それぞれ輪を作る瞑想ポーズ)
本来であれば最もヨガらしい定番のポーズなのだが
布地面積の少ない、大胆でセクシーなビキニを着ていたのだ。
ブラは乳輪が隠れる程度で乳房がはみ出ていたし
パンツのサイドは紐状で運動向きではなかった。
後ろ姿に限って言えば、ほぼ紐だけと言っても良いレベルだった。
「そうよ。でも、このヨガ教室にどれだけ生徒が集まるか分からないから
まずは私だけが指導役で始めるわ」
「でもこのチラシを見て集まるのは、身体を鍛えたい人というより
どちらかと言うと、その・・・」
「ええ、完全に興味本位の『エロおやじ』が大半になると思うわ。
だからこそチラシと同じモデルの私が関わらないと
引き止められないでしょう?」
「しかし店舗存続のためとはいえ、チーフがソコまでやらなくても・・・」
スタッフが遠慮がちに言うと、明美はキッパリと答えた。
「この前、ウェアを替えた時にも言ったハズよ?
やらずに後悔するくらいなら、何でもやってみるつもりだって。
しかも今月限りの短期で結果を出そうとするなら
従来のキャンペーンに興味を示さなかった人たちを振り向かせないと
目標達成なんて出来やしないわ!」
「・・・分かりました。正直、この地域は都市型セレブマダムより
エロおやじの方が絶対数が多い地域ですし
新会員獲得には労働者層を狙うのが理に適っています。
社員・労働者の健康推進や衛生環境の改善という『名目』を維持しつつ
出来る限りの手を尽くしましょう」
「チーフに及ばないまでも、私たちも一生懸命頑張ります」
明美の決意はスタッフにも伝わった。
3.
「ビキニヨガ教室、でしたよね?予想していたとは言え
露骨なくらいに『エロおやじ』っぽい人ばかりが集まりましたね」
体験入学の当日、集まった人たちを見てスタッフは肩をすくめた。
「いいえ、そうなるように私がクラス分けしたの。
この人たちが入会する時に、周りの人を意識しないで済むようにね。
もちろん女性の応募もあったから、そっちは美香ちゃんに任せたわ」
ビキニにカーディガンを羽織った明美は、ヨガ教室のドアを開けた。
「ようこそ、新設のヨガ教室へ」
「おお、先生の登場だ」「チラシどおりの綺麗な先生だな」
ヨガ教室のメンバーは明美の身体を舐め回すように見つめた。
「さて、皆さんに質問です。
フィットネスジムに通う人は何を求めていると思いますか?」
「まあ、身体を鍛え直したいってのが多いんじゃないかな?」
「そうですね。身体を鍛えたい、ダイエットしたい、健康と若さを維持したいなど
年齢や男女で多少の差はあると思いますが
それらは全て『美しくありたい』という言葉に集約されると思います」
明美は早くもカーディガンを脱ぐと、極小ビキニ姿になり
自身の引き締まった身体を生徒たちに披露した。
「もちろん美しくなるためには相当な努力が必要ですし
また美しさを保つためにも努力が必要です。
その一方で、誰であろうとも努力をすれば美しい身体になりますし
自分に自信が持てるようになれるのです」
明美は生徒の顔を見回しながら言った。
「先生がそんな姿でも恥ずかしくないのは、自信があるからかい?」
ヨガ教室の生徒の一人が明美をからかったが、明美は笑顔で答えた。
「ええ、その通りです。私の身体は努力の成果だと自負しています。
ありていに言えば『自慢の身体を見て欲しい』とさえ思っています。
ですが『誰にでも』という訳ではありません。
芸術と無縁な人が素晴らしい名画を見ても感動しないように
美しくありたいという気持ちを持って努力した人でないと
私の身体を見ても、その良さを理解することすら出来ないでしょうから」
からかった生徒はバツが悪そうな顔をして目を逸らした。
「でも、皆さんは違います。動機は様々だと思いますが
少なくともフィットネスジムに来ているじゃないですか。
これは大きな一歩だと思います。
今日の体験入学を終えた後も、もっとヨガ教室を続けたい
と思ってくれたら嬉しいです。
では早速始めましょう。まずは基本の腹式呼吸から」
あぐらで座った明美は背筋を伸ばし、拝むように両手を合わせて
ゆっくりと深呼吸をした。
「無理をしなくて構いません。ゆっくりと息を吐きながら、力を抜いて・・・」
この日、明美がやったポーズは、いずれも初心者向けの
正統なヨガのポーズばかりだった。
しかしそれをビキニ姿の若い女性が目の前で披露してくれるのだから
エロおやじでなくても興奮せずにはいられなかっただろう。
「疲れて休憩する時も、私の方を向いてヨガのポーズをしっかり覚えて下さい。
見て学ぶことも上達の秘訣ですよ」
すでに半数以上の生徒が慣れないヨガに疲れ
明美のポーズを鑑賞するだけの存在になっていた。
「確かに『自慢の身体を見て欲しい』とは言ったけれど
皆さん、ちょっと露骨過ぎません?」
自分の身体に注がれる視線を感じながら
明美は自分のアソコが濡れてきているのを自覚していた。
「でも、自分の身体をエサにエロおやじを集めたのは私の方よ。
入会すると決めたくなるように、じっくり見せてやるくらいでなくちゃ」
明美はそう自分に言い聞かせながら、ヨガのポーズを変え続けた。
「おおっ」「すごいな」「あんなポーズまで」
いつの間にか、生徒全員が明美の周りを取り囲むように集まり
彼女の動作を凝視していた。
汗ばんできた明美の肌は、ますます妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「ああ、見られている。みんなの視線を感じるわ。
でも恥ずかしいのにワクワクしてる。
もしかして私、身体を見られて興奮しているの?」
一度意識してしまうと、明美は冷静さを取り戻せなくなり
特に硬くなった乳首に気付かれやしないかと、気が気ではなかった。
さらに追い打ちをかけたのが、生徒が発した言葉だった。
「おい、ますます水着が食い込んできてやしないか?」
「バカ野郎!先生の集中力を妨げるようなことを言うな!」
「えっ?」
自分では気付かなかったが、様々なポーズを繰り返すうちに
股間の布地がねじれて少しずつ細くなっていたのだ。
おそらく背後側の人には、紐状になった布地が食い込んだお尻を
晒し続けていたに違いない。
「い、以上で今日の体験入学を終わります。
私のビキニヨガ教室は、定員数を限定したクラスなので
予定数になり次第締め切りとなります。
『美しくなりたい』『美しくありたい』という気持ちが芽生えた方は
どうぞお早目に申し込んで下さいね」
「今すぐでも良いのかい?」
「まだ定員には達していないんだよな?申し込み用紙はどこにあるんだ?」
明美が申し込みを促す(うながす)までもなく
体験入学に参加した全員がその場で入会してくれたが
当然それは、今日のようなヨガ教室が継続することを意味していた。
4.
「またも狙い通りでしたね。ベタな戦略でしたが
チーフの魅力にエロおやじ、もとい男たちは逆らえませんでしたね」
「でも今回はチーフも大きな代償を払っていますよ。
成果は出たけれど、あのビキニ姿で男性客の前でヨガをするなんて
さすがにチーフにしか出来ませんから」
「でも美香ちゃんに任せた女性客の方も、多くの人が入会してくれたのよ。
ビキニでヨガだなんて・・・と思ったけれど、意外と需要があるのね」
「常連客の中にも、コース変更を申し入れてきた人がいましたからね。
すでに身体を鍛えている人ほど
人に見られても良いという自信があるのでしょう」
「ところで、新規会員の獲得数だけれど、集計結果は出たの?」
「ええ、期待していた以上です」
スタッフから手渡された資料は、目標ノルマの9割に達していた。
「この調子ならノルマを達成するんじゃないですか?」
「でも入会してくれた人が口コミで噂を広めてくれたとしても
期日までにあと1割のノルマが達成出来るとは限らないわ。
手応えはあるけれど、もう時間との勝負なのよ」
「ビキニヨガ教室の体験入学をもう1回やってみてはどうでしょう?」
「確かに手堅い方法だとは思うけれど
課せられたノルマを越える分には問題ないんだから
もう1つ、入会させる何かをやっておきたいのよ。
フィットネスジムとしての基本は押さえつつ、他所では真似出来ない何か。
週明けには、企画書にまとめて話すつもりよ」
明美はすでに次の手を考えているようだった。
***** ***** ***** ***** *****
「チーフ。コレが他所では真似できない『何か』ですか?」
会議室に集まったスタッフは、手渡された企画書を見て唖然とした。
『ビキニヨガ教室、第2弾開設。
青空の下で美しさを鍛えれば、あなたも自然と一つになれる』
今回も明美自身がモデルになって
ヨガの「ブリクシャーサナ(木)のポーズ」を決めていた。
(両手を胸の前で合掌しながら、背筋を伸ばして片足で立ち
もう片方の足のかかとを股間に引き寄せて静止するポーズ)
本来であれば大木を連想させる落ち着いたポーズなのだが
前回同様、大胆でセクシーなビキニを着ていた。
だがスタッフが驚いたのは、明美がポーズを決めている場所だった。
フィットネスジムの入口から始まり、コンビニの入口、商店街のアーチ下、
さらには最寄りのバス停、駅の改札口と
あのビキニで出歩けるような場所ではない所ばかりだった。
「いったいいつ撮影したんですか?」
「昨日と今日の早朝よ。人通りの少ない時間を狙ったんだけれど
さすがに駅では注目を浴びちゃったわね。
まあ、撮影は短時間だったし、ある程度は想定していたから
カメラマン役の美香ちゃんにもロゴ入りのコートを着てもらったので
ちゃんとジムの宣伝にもなっていたと思うわ」
絶句したスタッフに代わり、別のスタッフが言葉を継いだ。
「でも、このキャッチフレーズと写真からすると
屋外でヨガ教室を開くつもりみたいですけれど?」
「実際に、こんなに人が集まる場所でやるのは難しいと思っているけれど
例えばニューヨークでは、公園でヨガをやる人を見掛けるのは
別に珍しいことじゃないわ。
中国の太極拳だって、公園や広場でやっている姿を
簡単にイメージ出来るでしょう?」
「そりゃあ、日本でも公園や校庭でラジオ体操をする人は沢山いますよ?
でもチーフのような、大胆でセクシーなビキニ姿ではありません。
第一、恥ずかしくて私には無理です」
スタッフが遠慮がちに言うと、明美はキッパリと答えた。
「この前、ビキニヨガ教室を決めた時にも言ったハズよ?
やらずに後悔するくらいなら、何でもやってみるつもりだって。
もちろんみんなにも同じことをしてもらうつもりはないのよ。
でも私は目標達成のためなら、素っ裸でヨガをやったって構わないのよ。
この店を守るためなら何でもやるって、そう決めたんだもの!」
明美は強い口調でそう言うと、その場で着ている服を脱ぎだした。
「ち、ちょっと。チーフ、待って下さい。男性スタッフもいるんですよ?」
「もう分かりましたから。チーフの決意はみんなにも伝わっていますから」
慌てて周りのスタッフ達は制止しようとしたが
それでも明美は脱ぐのをやめなかった。
「止めないで!そしてちゃんと私の姿を見なさい!
私の言う『何でもやってみるつもり』がどの程度の決意なのかを!」
明美は衣服を投げ散らかすように脱ぎ続け、言葉通り全裸になった。
「どう?これが私の決意よ!
目を逸らさないで、ヌードになった姿を見なさい!
乳首も、お尻も、オマンコも。
入会してくれた人になら、全てさらけ出したって構わないのよ
この店を守るためなら何でもやるって、そう決めたんだもの!」
明美はそう言うと、その場で立ったまま目に涙を浮かべた。
「分かりました。正直、この店の存続のために
チーフがそこまで決意しているとは思いませんでしたが
僕らの前でヌードになっているチーフから目を逸らすのは
かえって失礼なんですよね?
もう目を逸らしたりしませんから、チーフのヌードを余す所なく見せて下さい。
乳首も、お尻も、オマンコも。
僕らスタッフもチーフのような固い決意が出来るように
全てさらけ出したヌードを見せて下さい!」
「ええっ?そういう展開になるの?
もう十分に分かったから服を着直して下さい、じゃないの?」
戸惑う女性スタッフを、さらに別の男性スタッフが叱責した
「そんな訳ないだろう?チーフがヌードにまでなっているんだぞ?
今ここで、俺たちみんなの前で!
ヌードなんてヤケになったって出来ることじゃない。
チーフの固い決意がそうさせているんだよ」
「そうよね。決意のほどを示すために、素っ裸になってみせたのよ?
そんなチーフに慰めや同情は必要ないわ。
この店のスタッフなら、チーフの姿から目を逸らすのではなく
しっかりと見届けてあげる方が正しいと思うわ」
すでに明美が全裸になってしまっているせいもあって
スタッフのモラルも麻痺していたのだ。
「そ、その通りよ。仲間のスタッフにすらヌードを見せられないようじゃ
今回の目標達成したって、やがてお客様たちを引き留められなくなるわ。
さあ、全てさらけ出した私の姿を見届けなさい。
何でもやるって、こういうことよ!」
明美はヨガの「アナンターサナ(竜王)のポーズ」を決めた。
(床に横向きに寝そべり、両足を伸ばしたまま大きく足を開き
さらに左手で爪先を掴んで引き寄せたまま静止するポーズ)
「す、すごい。アソコも丸出しよ!ここまで全てをさらけ出せるなんて・・・」
「もしチーフがヌードヨガ教室を開いたら、どんな男でも即日入会するよ」
「アナンターサナ(竜王)のポーズは
ヨガのポーズの中でも、もっともオマンコを露わになるポーズの1つよ。
さあ、足元に回って私のオマンコをよく見なさい
そうだ、美香ちゃんはカメラを取って来て。
私の決意を示す今の姿を撮って欲しいの」
「えっ?あ、はい。すぐに持って来ます」
「だったら場所を変えませんか?会議室なんかじゃなく、ヨガ教室の方に」
「いいわ。公開出来るような写真じゃないけれど
ヌードヨガ教室らしい画にしましょう。
みんなもコスチュームとマットを用意して、生徒役で参加して」
「どうせ公開しないなら、チーフもアロマオイルを使いませんか?」
「アロマオイル?」
「マッサージとかで使う精油です。肌に艶(ツヤ)が出ますし
植物成分なのでヨガ向きだと思いますよ」
「いいわね。それも持って来てちょうだい」
明美がオマンコさえも露わにした結果、スタッフも躊躇わなくなっていた。
5.
数分後、アロマオイルを全身に塗って艶やかなヌード姿になった明美と
仕事用のコスチュームに着替えて整列したスタッフが
ヨガ教室の部屋に集まった。
「では、今夜限りの『スタッフ限定:ヌードヨガ教室』を始めます。
チーフインストラクターとして、自分の出来る最高のヨガを披露します。
同じポーズを真似るだけではなく、身体の向き・ひねり・姿勢など
私の背後や側面に移動して、近くからも見るようにして下さい。
それと・・・」
「?」
「もし私と同じように、ヌードになってしまいたくなった人がいたら
どうぞ遠慮なく脱いで下さいね」
明美の冗談に雰囲気も和み、スタッフだけのヌードヨガ教室が始まった。
まず明美は「ブリクシャーサナ(クロス木)のポーズ」
「パリブリッタトリコーナーサナ(回転三角)のポーズ」
と、立ち姿勢のヨガに続き
「ゴームカーサナ(牛面)のポーズ」
「ラージャカポターサナ(ハト)のポーズ」
と、座った姿勢のヨガを披露した。
乳房や臀部はもちろん、股間が露わになるポーズでも
明美は動じることなくヨガを続け、隠す素振りさえ見せなかったが
オイルで艶やかになった明美のヌードヨガ姿は
男性スタッフだけでなく、女性スタッフの本能までも刺激し続けていた。
「やっぱりチーフはすごい。力強いポーズをしなやかに見せているわ」
「もはや芸術的な域のヨガだわ。イヤらしさより美しさが勝っているもの」
感心しているような言葉を口にしながらも
女性スタッフも明美の姿を自分に置き換え
仲間の前でヌードヨガを披露する自分を想像していた。
「チーフの覚悟は本物だ。それは十分に伝わってくる。
でも同時に、ヌードを見られて興奮しているんだよな。見ろよ、あれ」
「ああ、みんな気付いてるよ。あんなに乳首が突き出ているんだからな」
男性スタッフは小声で話したつもりでいたが
その声は明美の耳にも届いていた。
「やっぱり気付かれちゃうわよね。
でもヌードを見られているのに興奮しないなんて無理だし
『全てさらけ出した姿を見せる』と宣言した以上
裸だけじゃなく、感じていることすら隠さない方が良いのかも・・・」
ヌードヨガでスタッフを含めた全員が困惑と興奮を深める中
カメラマン役の美香が手を挙げた。
「あ、あの・・・。申し訳ないんですが
カメラのバッテリーが切れちゃいそうなんです。
交換してくるので、ちょっと休憩しててくれませんか?」
「そうね。では一息ついてお茶にしましょうか」
教室の緊張した雰囲気が緩むと同時に、美香は教室を後にした。
***** ***** ***** ***** *****
「それにしてもチーフはすごいです。もし目標ノルマが達成出来なくても
チーフと一緒に仕事が出来て良かったです」
「俺もです。チーフの仕事に対する決意や覚悟が、しっかり伝わってきました」
「でもスタッフのみんなは私の本意を汲んでくれるから良いけれど
世間的には『脱ぎたがり・見せたがりの露出狂女がいるフィットネスジム』としか
思われていないかも知れないのよ?」
「確かに、そういう人もいるでしょうね。
でもそれは『美しくありたい』という理想から離れた人たちの感想だと思います」
「その通りですよ。人に自慢出来るものが財産や地位や品物ではなく
『自分自身の身体』だなんて、素晴らしいことなんですから」
ヌードをさらけ出した自分を肯定する意見を聞き、明美は嬉しくなった。
「お待たせしました。私もお茶をいただいて良いですか?」
「えっ?」
バッテリーを交換しに行ったはずの美香は
明美と同じく全裸になって戻って来た。
「美香ちゃん、その姿は?」
「いったいどうしたの?」
「だって『もしヌードになってしまいたくなったら、遠慮なく脱いで下さいね』って
さっきチーフも言ってたじゃないですか。
もちろん私はまだまだ鍛え方が足りないし、ヨガの技術も未熟です。
でも私はチーフに憧れ、誰よりも尊敬しています。
だからこそ私も、未熟ではあっても、そんな今の自分をさらけ出したい。
そう考えたから私も脱いだんです」
美香は屈託のない笑顔を見せた。
「そう、それよ。私、ずっと引っ掛かっていたの。
チーフの『本当の意図』は何なのかって」
女性スタッフの一人はそう言うと、その場でコスチュームを脱ぎだした。
「ええっ、君まで?」
「ついさっきも私を含め、みんながチーフに共感した言葉を口にしていたけれど
何か足りない、何かが違うって気がしていたの。
私たちはコメンテーターじゃなくて、インストラクターなのよ?
だったら言葉じゃなく、鍛えた身体でチーフへの共感を示すべきじゃない?」
言い終える頃には、彼女も同じように全裸になり
性器を露わにするヨガのポーズをとっていた。
「その通りだ。チーフは全てさらけ出した姿を見せた上で
『スタッフが自分の本意を汲んでくれるから良い』と言ったけれど
最初に共感して裸になったのが一番年下の美香ちゃんだったなんて
先輩として恥ずかしいよ」
男性スタッフの一人も、その場でコスチュームを脱ぎだし
勃起した男根が露わになるヨガのポーズをとった。
「私もチーフに共感しているのよ」「俺だって」
後を追うように残りのスタッフも次々とコスチュームを脱ぎ
気がつけば全員が全裸になって得意とするヨガのポーズをとった。
「目標に向かって苦難を乗り越えてきたスタッフ同士なら
きっと全てさらけ出し合えるハズ。
そう考えたチーフは、まず自分が素っ裸になって性器までさらけ出し
スタッフ自身が自分から裸になれるかどうか、試したんですよね?」
もちろん明美にそんな意図はなかった。
しかしスタッフは鍛えた身体を見せる楽しさを知り
笑顔で性器を晒すポーズを取り続けた。
「この店を守るためなら何でもやるって、そう決めたんだもの!」
その言葉に嘘はなかったが、全裸になったのは感情が高ぶったせいだし
ヌードヨガ教室に至ってはスタッフの勘違いを否定できないまま
引っ込みがつかなくなったせいだった。
「でも、これはこれで良かったのかも。
この経験は強い絆になり、きっとノルマも達成して閉店を回避出来るわ」
明美はそう確信した。
「さあ、再会するわよ。美香ちゃんには引き続きカメラマン役をお願いするわね。
全員が全裸でヨガをするんだから、壮観な画が撮れるハズよ」
明美が手を叩いて促すと、スタッフは再び自分の位置に並んだ。
***** ***** ***** ***** *****
翌週、ネット限定で公募した『ビキニヨガ教室、第2弾』は
企画書に添えたのと同じ写真を公開したのが功を奏したのか
その日のうちに定員を上回った。
もちろんこれほど大胆な企画なので
応募してきたのは既に会員になっている人がほとんどだったが
彼らの口コミで一般コースの会員も伸び、期日までにノルマを達成出来た。
6.
「よくぞココまでの結果を出せたと、私も含め本社役員も感心しているよ」
「はい。スタッフ全員が一丸となって頑張った結果です!」
翌月、再び訪れた部長に対し、明美は満面の笑みを浮かべて胸を張った。
「しかし『ダメ元だと割り切ってあらゆる手を考えなさい』とは言ったが
ここまで大胆な企画や催し物を実行するとは思わなかったよ。
スタッフだって先月と同じメンバーなんだろう?良く説得出来たねぇ」
「この店舗への愛着は、彼らも私に負けていなかったからだと思います」
「なるほど。良いスタッフに恵まれたね。
いや、恵まれていただけじゃない。スタッフを育てたのも『君の成果』だ。
君自身がリーダーシップを発揮し率先して行動したからこそ
君もスタッフも大きく成長し、こうして結果に結びついたんだ」
自分の言葉に頷きながら、部長も嬉しそうに話した。
「さて、今後の話なんだが・・・この店舗は閉鎖することに決まったよ」
「はっ?」
明美は自分の耳を疑った。
「えっ、でも今月の報告までにノルマが達成出来れば
店舗も存続することなるって言ってましたよね?
私たち、そのために頑張って来たのに・・・」
突然の通告に、明美は生まれて初めての立ちくらみを経験した。
「成果は申し分ない。いや、このノルマを達成したことは称賛に値するし
今月の利益率は間違いなく全国でもトップクラスだろう。
しかし大胆な企画や催し物を、別の店舗でも実施出来ると思うかい?
例えば、以前君がいた店舗のスタッフが
『今後はこのコスチュームで仕事をしてくれ』と言われて従うと思うかい?」
「・・・いいえ」
「裸同然のコスチュームや屋外のヨガ教室は、この店舗独自の企画だ。
しかし会社全体でこういったことを実施していると思われては
今まで築き上げたブランドイメージに傷を付けてしまう。
事実、この店舗の企画について
本社のサービスセンターに何件も問合せがあったそうだ。
もちろんマスコミからの取材申し込みもね。
全国展開する当社としては、これらの理由により店舗閉鎖を決定した」
ノルマ達成に傾倒しすぎて考えが及ばなかったが
問合せや取材は当然考えられる展開だった。
「さらに言えば、君が戻る場所もなくなってしまったんだ。
自分でも気付いているかも知れないが
ネット上では君やスタッフの画像が数多く出回っているよ。
ほとんどが隠し撮りされたものだろうが、今や君は有名人なんだよ。
その・・・チーフインストラクター以上の『存在』としてね」
明美は涙をポロポロ流しながら両手で顔を覆った。
今まで何のために頑張ったのか?あの達成感は何だったのか?
スタッフやお客の顔が次々と頭に浮かび
ついに堪え切れなくなった明美は大声で泣き始めた。
「さて、閉鎖後の話なんだが・・・この店舗の経営者にならないか?」
「はっ?」
明美は再び自分の耳を疑った。
「えっ、でも今さっき店舗閉鎖を決定したって言ってましたよね?
私が経営者?どういうことなんですか?」
突然の提案に、明美はますます混乱した。
「実はね、会長がこの店舗にすごく興味を持ったんだ。
さっき説明した通り、当社には裸同然のコスチュームや
屋外のヨガ教室のような企画を実施するジムを継続すること出来ない。
しかし言葉通り『当社には』だ。言い換えれば別の誰かなら出来るんだ。
存続出来れば、この店舗の人気はますます上がるだろうし
このスタッフが居る限り、退会する会員もほとんどいないだろう?」
「ええ、そう思います」
お客様に支持されている自信が、明美にそう答えさせた。
「せっかく君たちが掘り起こした需要を放棄するのは
稼働率も高く利益を生み出す油田を放棄するに等しい、と会長は考えた。
事実、サービスセンターへの問合せは
『ウチの近所の店舗ではいつになったらビキニヨガ教室が始まるのか』
というものがほとんどだったそうだ。
意外にも、マスコミからの取材申し込みも好意的なものが多かった。
裸同然ではあったが、一線を越えなかったことが大きかったんだろうね」
部長は、先日の『スタッフ限定:ヌードヨガ教室』を知らなかったようだが
それでもお客様相手に全裸になってはいないので
明美は黙っていることにした。
「そこで、君が社長として会社を立ち上げ、経営者として存続させるんだ」
「無理ですよ。いくら安くしてもらっても、私に払える額ではありません」
「君の貯金ではね。でも大丈夫。筋書きはこうだよ。
まずは会長のコネが利く会社が
この店舗の権利と備品をまとめて、当社から買い取る。
閉鎖が決まっているから、備品は移動するか処分するしかない。
でも備品を再利用するより売却した方が利益が出るなら
本社の稟議も通るだろう。
そして安く買った権利と備品を、そっくり君が受け継ぐんだ。
正確には『君の会社が』だがね」
「利益が見込めると思っているなら、会長がこの店舗を買い取って
そのまま経営すれば良いんじゃないですか?」
「それは無理だ。会長が会社の資産を不当に搾取したことになるし
何より君とここのスタッフがいなければ
この店舗の経営を続けることは出来ないだろう?」
「でも私には店舗を受け継ぐだけの資金がありませんし
経営を続けるにも資金が必要ですよ?」
「それも考えてある。君が立ち上げる会社の自社株を発行するんだ。
それを会長が出資者として全て買い取る。100%出資ってヤツさ。
先に株を発行し、会長から資金を受け取ってから
店舗の権利と備品をその資金で購入する。
これなら君個人の貯金には手を付けないで済むだろう?」
今の会社に残れなくても店舗とスタッフを守れるなら
明美にとっても悪い話ではない。
「会長側のメリットは?」
「『全て買い取る代わりに配当を多くしてもらいたい』と要求されるだろうが
君にとっても銀行から借りる利息よりは安く済むだろう。
君はより安くお金を借りられ、会長はより多く利息がもらえれば
双方にとってメリットがある。
もしかしたら何らかの株主優待を求められるかも知れないが
優待券みたいな物で良いと思う」
「私の方のメリットは?」
「何と言っても自己資金ナシで、この店舗の経営者になれることだよ。
実質的に店舗が存続されるならスタッフの雇用も守れる。
すでに会員数も確保出来ているから
再開すれば支障なく経営を続けられるだろう。
もっとも一旦は閉鎖されるし
一部の会員は別の店舗に流れる人もいるかも知れないが
再開の際には入会金を免除するとなれば、流出はほとんど防げると思う」
「じゃあデメリットは?」
「本社からのバックアップはなくなるから
まずは営業面の人材補強が必要になるだろうね。
せっかく人気が出たのに、看板やチラシも作り直さなければならない。
さすがに店舗名まで今までと同じという訳にはいかないからね」
実際にこの話を受けたとしても
今まで以上に頑張るしかなさそうではあったが
この会社で、というより
このスタッフと、という気持ちの方が明らかに勝っていた。
「部長はどう思います?もちろん頑張ったという自負はありますが
大きな組織から離脱してもやっていけると思いますか?
正直、私には分からないんです」
「うむ。私は会長が部長職の頃からのお付き合いだが
切れ者のあの人がこの店舗を『油田』に例えるくらいだから
まず大丈夫だろう。
しかし当社のフィットネスジム事業だって
いつまで継続されるかなんて誰にも分からないんだ。
であれば、何を優先し何を守りたいのか。
その点はむしろ君の方が明確に分かっているんじゃないのかい?」
「・・・」
部長の言葉に明美は大きく頷いた。
「私、このお話お受けします」
「おお、そうか。いや、良かった。会長もお喜びになるよ」
安堵する部長に、明美はこう付け加えた。
「でも私からも条件が一つだけあります」
「条件?」
「部長も出資者として私の会社の株を買い
この店舗に関わるようにして下さい。
これからも部長のアドバイスを頂きたいんです」
「しかし本社としてのバックアップは無理だぞ?」
「あくまで出資者として、個人的な判断を助言して頂ければ結構です」
部長はしばらく考えた後、こう答えた。
「予定外の条件なんで、会長が容認してくれたらとして良いかな?
まあ出資比率まで指定しなければ、おそらく大丈夫だろう。
で、私の方のメリットは?」
「部長には、会長とは違う『株主優待』を用意するつもりです」
明美は先日のヌードヨガ教室を思い出しながら
部長の前で、自分のブラウスのボタンに手を掛けた。
「なるほど、これまた予想外の嬉しい『株主優待』だ。
ネットで見たのは隠し撮りばかりで、鮮明な画像はなかったからね。
でも、まだ株主ではないのに良いのかい?」
「構いません。出資対象をご確認のうえで株主になって頂きたいんです。
それに・・・」
「それに?」
「私、自慢の鍛えた身体を見て欲しいタイプなんです」
明美は次々と衣服を脱ぎ落しながら微笑んだ。
【おわり】
【あとがき】
今回は、フィットネスジムのインストラクターという
露出系小説としては王道の設定で書きました。
特にモデルとなる人は居ないので
何となく「明るく美しい女性」をイメージ出来る名前にしました。
ただし、良くありがちなパターンは避けたいと思っていました。
例えば『生徒がインストラクターを取り囲んでコスチュームを剥ぎ取り
集団で輪姦する』みたいなパターンですね。
それも悪くはないのですが、露出要素が少ないんです。
となると『露出系コスチュームやトップレスでレッスンをする』
というパターンが思い浮かびますが
私は、主人公が最後は素っ裸になる作品にしたかったので
自分の性欲ではなく、強い意志をもって自ら裸になるタイプにしました。
決意したとは言え、明美だって裸を見られれば恥ずかしいし興奮もします。
それでも目標と理由があれば、どんなに恥ずかしくても人前で裸になれる。
書いているうちに、そんな芯のあるキャラクターになりました。
読者の皆さんも、こじつけでも良いので
何か理由を作って人前で裸になってみて下さい。
スタッフのような『好意的な仲間』が意外と近くにいるかも知れませんよ?
【ベル】
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