読者投稿小説




   小説『彫像の代役』


                              作;ベル

1.アクシデント

とある共学の県立高等学校で
部活中に美術準備室の清掃をしていた清原果那(きよはら かな)は
カーテンを開ける際に、窓際に置かれた石膏の彫像を落とし割ってしまった。

「ああっ、やっちゃった!これ、去年の卒業生が寄贈してくれた像なのに」
近くにいた先輩はすぐに破片を拾い集めたが
果那はショックで立ち尽くすだけだった。
「すみません、弁償します」
「簡単に言うけれど、いくらするか分かっているの?」
「分かりませんけれど、アルバイトでも何でもやって、必ず弁償します」
「無理よ?ウチの学校は理由を問わず、校則でバイト禁止されているんだから」
「でも私、これ以上お金のことは両親に頼めないんです」
「・・・」
果那の家が苦しいのは、美術部員にも知られていた。
両親が経営していた洋食店がコロナ過の影響で閉店になり
学校で食べる昼食のお弁当も、急に見劣りするようになったと
果那の同級生から聞いていたからだ。

「とりあえず、顧問の西島先生に相談しましょう」
果那は先輩と一緒に、美術室にいる顧問に会いに行った。



2.代役

「壊れてしまった物はしょうがない。故意にやったんじゃないんだから。
とは言え、コンクール前にあの石膏像がないのはなぁ」
顧問は頭を掻きながら言った。
他の美術部員も集まり、石膏像を直せないか検討したが
頭部の破損が激しくて修復は難しそうだった。

「ちなみに、おいくらぐらいなんでしょうか?」
「原寸大の『ミロ島ヴィーナス半身像』だったよな?
卒業生が寄贈してくれたヤツだけど、そんなには高くなかったハズだぞ?」
顧問がネットで調べたところ、同等品は18万円前後で売られていたが
在庫なしと表記されていた。
彫像の石膏像としては安いのかも知れないが
高校生がポンと支払える額ではなく、果那は泣きそうな顔になった。

「石膏像の代金については後で考えよう。
部活動中の事故なら、学校側とも協議する余地はある。
でも美術部としては、コンクール前に課題の石膏像がない方が問題なんだ。
いつ手に入るのが分からないんじゃあ、練習の遅れは否めない」
「・・・それは私が何とかします」
「何?」
果那は泣きそうな顔のまま手を挙げた。

「私がヴィーナス像の代わりを務めます。
写真や資料があるから、ポーズを細かく指示してもらえれば・・・」
「それはお前が石膏像役をやるって意味なのか?」
「待って。ヴィーナスは上半身裸なのよ?仲間の前でそんなこと出来るの?」
「私のせいなんだから、私に出来ることは何でもやらないと!」
果那はそう言うと、涙を堪えながら着ていたセーラー服を脱ぎ始めた。

「果那ちゃん、やめなよ」
「いくら像を壊したからって、そんな事までしなくても・・・」
美術部員たちは必死に止めようとするが、果那は静止を振り払って脱ぎ続け
顧問と美術部員たちの前で形の良い乳房をさらけ出した。
高校生らしいまだ小さな膨らみは、穢れを知らない果実のようだった。

「おおっ!」「すげぇ、オッパイ丸見えだ」
「恥ずかしくないのかな?」「バカ、見てんじゃないわよ」
「男子も察しなさいよ。石膏像が壊れたなら、みんなでお金を出し合えば
果那がヴィーナスの真似をする必要なんてないのよ?」
「その石膏像がすぐに手に入らないから、果那も脱ぐって決めたんだろう?
俺たちがお金を出し渋っているような言い方はやめろよ」
美術部員同士が言い争う中、顧問は大声で言った。

「ちょっと待て!お前たちは果那がどんな気持ちで服を脱いだか考えろ!
石膏像を壊した責任を取るためか?それとも、お金が払えないからか?
違うぞ。果那は我々の感受性を刺激するためにヌードになったんだよ!」
「えっ?」
果那は顧問の方を振り返った。

「考えてもみろ。ミロのヴィーナスだぞ?美の化身だぞ?
その代わりを務めようと思ったら、ヌードになるのが当たり前だろう!」
「当たり前?」「どうしてそうなるんです?」
美術部員たちの問いに、顧問は真顔で答えた。

「キリスト教では、人間は神の形を真似て作られたとされているそうだ。
他の動物たちとは違い、人間だけが神を模倣した特別な存在なんだ。
だからこそヌードに美しさや神々しさを見出し、芸術として昇華させてきたんだよ」
「それ、今の状況と関係あるんですか?」
「大アリさ。芸術に限らず、音楽も、数学も、天文学も
ありとあらゆる学問は、全て『神の領域』に近付くための手段なんだから」
顧問は自分の見解を語り始めた。

「その中でも芸術は『美』を追求する学問として発展した。
キリスト教徒はこう考えた。
人間が神を模倣した存在ならば、ヌードこそ神の姿に近いはずだ。
実際、お前たちだってアスリートの鍛えられた肉体には魅力を感じるだろう?」
「うん、確かに」「カッコいいよね」
「それが『感受性』だ。神の魅力を見出す感性なんだ!」
授業で見せたことがないくらい、顧問は熱く芸術を語った。

「さて、一般の学生より感受性が高いからこそ美術部に集まったお前たちだが
果那がすごいのは、自分がヴィーナス像の代わりを務めるなら
どうやってみんなの感受性を刺激すれば良いかを瞬時に判断し
それを実行したことだ」
「それがヌードなんですか?」
「その通り。果那が静止を振り切ってまでヌードになったのは
お前たちより芸術を理解し『神の領域』に近いからだぞ」
「おお、そうだったのか」「そういう考えがあってこそだったのね」
美術部員たちは歓喜したが、一番戸惑っていたのは果那だった。

「ええっ、どうしてそうなるの?最初に先生が言った通りよ?
石膏像を壊した責任を取るためよ?お金が払えないからよ?」
だが必死で弁解する果那の言葉は、誰にも届いていなかった。
しかも顧問がさらに追い打ちをかけた。

「しかし、まだ高校生の果那では
ヴィーナスと同じ姿になった程度では代わりを務められない。
女神の豊満で引き締まった肉体には、遠く及ばないからだ。
では、見る者の感受性を刺激するにはどうすれば良いか?」
「?」
「答えは決まっている。神の姿に近付こうとするなら『オールヌード』
すなわち全裸になってようやく、ヴィーナスの代わりを務められるんだ。
みんな、理解出来たか?果那の邪魔だけはするなよ?
あいつはまだ、上半身しかヌードになっていないんだからな!」
「分かってるよ、先生」
「果那がせっかくやる気になっているのに、邪魔なんてするもんですか」
美術部員たちは顧問の説明に納得し、果那に注目が集まった。

「ええっ、どうしてそうなるの?みんな本気で言ってるの?」
だが、すでに他の選択肢はなさそうだった。
男女を問わず、美術部員たちはみな
自分が全裸になるのを待ち侘びているんだと『肌』で感じていたからだ。
「でも・・・」
果那はチラッと右側の男の子を見た。

「ずっと好きだった坂口先輩の前で
告白もしないまま、芸術を理由に裸になるなんて・・・」
果那の目は、涙が再び溢れそうになっていた。
だが次の瞬間、坂口先輩はその場で立ち上がると声を上げて手拍子を始めた。
「ヴィーナス。ヴィーナス!ほら、みんなも応援しろよ。
それ、ヴィーナス。ヴィーナス!」
「ヴィーナス。ヴィーナス!」「ヴィーナス。ヴィーナス!」
試合中、相手の技で倒れたプロレスラーを鼓舞するように
美術室にヴィーナスコールが鳴り響いた。

「坂口先輩まであんなに声を出して・・・。
もう私が脱ぐしかないってことなのね」
観念した果那はスカートのホックに手を掛けると、足元にスルッと脱ぎ落した。
落ちたスカートから一歩前に進むと、今度はパンティーの両端に指を掛けた。
少しだけ前屈みになってゆっくりと膝まで下ろすと
ヴィーナスコールの声もだんだんと小さくなり
顔を上げなくても自分に視線が集まっていると分かったが
果那はそのまま足首を引き抜いて、脱いだパンティーを床に落とした。

「おおっ!」「本当に全部脱いだわ」「すげぇ、陰毛まで丸見えだ」
「恥ずかしくないのかな?」「バカ、恥ずかしいに決まっているじゃない」
「それでも果那がヌードになったのは、私たちの感受性を刺激するためよ?
自分の役割を理解した上で、ヴィーナスに徹しているのよ」
美術部員たちが歓喜で盛り上がる中、顧問は大声で言った。

「お前たち、ヌードになった果那の姿をよく見ろ!
オッパイを見ろ!お尻を見ろ!陰毛の生え具合を見ろ!
変に意識しないで、全部見てやれ!もっと近付いて遠慮なく見てやれ!
嫌々やってそうか?それとも後悔してそうか?
違うぞ、果那はそんなレベルを超えたんだ。
あいつは『神の領域』に一歩近付いたんだよ!」
「それ、ヴィーナス。ヴィーナス!」「ヴィーナス。ヴィーナス!」
ヴィーナスコールを叫ぶ坂口先輩と顧問は
まるで芸術教を崇拝する信徒のようだった。
一方、全裸になったものの終わりが見えない状況が続き
果那の不安はますます増していった。



3.デッサン

「さあ、画用紙を準備してイーゼルを立てろ!椅子を並べて輪を作れ!
今すぐデッサンを始めるぞ。鉛筆を握れ!準備は良いか?
果那はヴィーナス像のポーズを意識して、輪の真ん中に立つんだ。いいな?」
「えっ?」
熱く芸術を語っていた顧問は、美術部員たちに指示を出し
この場を仕切るのは自分の役目だとばかりに、生き生きと歩き回った。
果那は言われるがまま、輪の中央にある台の上に立つと
美術部員たちは一斉に果那の姿を描き始めた。
台は直径150cm*高さ20cm程度の小さな物だったが
周囲より高い位置に立てば果那の身体を遮る物はなく
美術部員の遠慮ない視線は全方位から注がれた。

「人前で裸になるのが、こんなに恥ずかしいだなんて・・・」
果那の脳裏には、恥ずかしいという言葉しか浮かばなかった。
成り行きで全裸になってしまった果那だったが
顧問が言うような『神の領域』や『感受性』など考えた事もなかった。
それでも、石膏像を壊してしまった自責の念が
かろうじて身体を隠さないまま、果那を台の上に立たせていた。
だが顧問には、そんな主人公の心情を察することは出来なかった。

「おい、果那。姿勢が崩れてきたぞ。
もっと顔を上げろ!背筋を伸ばせ!今のお前はヴィーナスなんだからな」
「はいっ」
顔を上げるたびに、周囲から向けられる真剣な眼差しを意識してしまい
果那は何度も逃げ出したくなる衝動に駆られたが
輪になって囲まれていてはそれも叶わず
どんなに恥ずかしくても身を晒し続けるしかなかった。

壊してしまった『ミロ島ヴィーナス半身像』は、頭部から股下までの立像だ。
両腕がないので、どのようなポーズをとっていたかは不明だが
美という観点からすると、身体を隠すようなことはしていないと推察されていた。
むしろ美の女神でもあるヴィーナスは、両腕があっても
その豊満で均整の取れた肉体をためらうことなく露わにしていただろう。

しかし果那はごく普通の女子高生だった。
形は良いがまだ小さな乳房、ピンク色の小さな乳輪、チョンと突き出た乳首。
整えたことのない自然な陰毛、なだらかな曲線を描く恥丘と臀部。
少しだけ色が濃くなった陰唇、そこに隠れている乳首よりずっと小さな陰核。
同じ部活の先輩に憧れるような、キスさえ未経験の果那は
ヴィーナスの代わりを務めるような身体としては、まだまだ未成熟だった。

だが美術部員たちにインスピレーションを与えるには十分だった。
同じ学校に通う同年代の女子高生が
全裸になったばかりか、何も隠さず目の前に立っているのだから。
少なくとも美術部員たちは、男女を問わず
果那が恥ずかしがっている事に気付いていなかった。
だからこそ誰もが真剣そのもの。
疲労を上回る集中力で、一気にデッサンを描き上げていった。

***** ***** ***** ***** ***** *****

「よーし、一旦休憩にしよう。お前たち、すごい集中力だったぞ。
同じポーズが続くと疲労もたまるから、休憩後は違うポーズにするからな。
果那も、よく頑張った。もうしばらく頼むぞ」
「俺、こんなに短時間でここまで描き上げたの初めてだよ」
「完成すれば過去最高の出来になるわ」「僕、やっぱり美大を目指すよ」
美術部員たちが達成感に浸る中
石膏像を壊した時に一緒にいた先輩が、果那に近付いてきた。

「果那ちゃん、お疲れさま。はい、お水。のどが渇いたでしょう?」
先輩はペットボトルと一緒にタオルを差し出した。
バスタオルのような大きな物ではなく、細長いスポーツタオルだったが
それでも胸元から股間までを一時的に隠せたのが果那には嬉しかった。

「すごいよ、果那ちゃん。私には絶対に真似出来ないよ」
「ありがとうございます。
だけど壊したのは私なんだから、出来ることは何でもやらないと・・・」
「でも恥ずかしくない訳じゃないんだよね?」
「もちろんですよ。ずっと恥ずかしいままです。
石膏像を壊してなければ絶対にやってないです。でも・・・」
「でも?」
「昔の人が神様の姿を想像しながらヴィーナス像を作った時も
同じように裸になってモデルを務めた女の人がいたんだなあって思ったら
恥ずかしいけれど誇らしい気持ちにもなったんです」
「すごいよ、果那ちゃん。それこそ『神の領域』じゃない?」
先輩に褒められて、果那の気持ちは明るくなった。



4.再開

「さあ、画用紙を代えてイーゼルを移動しろ!椅子を並べ代えて扇型になれ!
今すぐデッサンを始めるぞ。鉛筆を握れ!準備は良いか?
果那はさっきの台の上に座るんだ。いいな?」
「えっ?」
果那は言われるがまま、扇型の中心に位置する台の上にしゃがんだ。
美術部員同士の間隔も狭まり、だいたい正面側120度の範囲に集まった。
しかしどんな座り方が良いか分からずに戸惑っていると、顧問は大声で言った。

「果那、ヌードにもだいぶ慣れただろう。
だから今度は、自分が考えたポーズをしてみせろ!
変にミロ島のヴィーナス像は意識しないで、思い付いたままで良い!
どうせお前は未熟なヴィーナスだ。完璧じゃなくて当たり前だ。
お前なりに美を体現することで『神の領域』に一歩近付くんだよ!」
さっきはよく頑張ったとねぎらってくれた顧問だったが
やはり芸術が全てに優先するようだった。

「すごいよ、果那ちゃん。私には絶対に真似出来ないよ」
ふと、さっきの先輩の言葉が果那の頭をよぎった。

「違いますよ、先輩。やってみたから言えるけれど
ヌードモデルとしてなら、裸になるのはそんなに難しいことじゃないんです。
美術室の中で美術部員だけが相手なら、きっと先輩にだって出来るんです。
だって恥ずかしがりやの私でさえヌードになれたんですから。でも・・・」
果那は台の中央で両膝を揃えた姿勢で腰を下ろすと
両手を斜め後ろに突いて天井を見上げた。

「でも今、私に求められているポーズは違うんです!
ただのヌードではなく、現役の女子高生では出来ないような
みんなの『感受性』を刺激するポーズ。
未熟なヴィーナスの私が、石膏像を壊した償いとしてすべきポーズ。
それってやっぱり、アレしかない気がするんです!」
果那は天井を見上げたまま静かに大きく息を吸うと
揃えていた両膝をゆっくりと広げた。

「キャーッ!」「ウソでしょう、そこまでする?」「すげぇ、完全にアソコが丸見えだ」
「恥ずかしくないのかな?」「バカ、恥ずかしいに決まっているじゃない」
「それでも果那があのポーズをとるのは、私たちの感受性を刺激するためよ?
自分の役割を理解した上で、ヴィーナスに徹しているのよ」
美術部員たちが歓喜で盛り上がる中、顧問は大声で言った。

「お前たち、『感受性』の目で果那の姿をよく見ろ!
オッパイを見ろ!お尻を見ろ!陰唇の襞(ひだ)を見ろ!
変に意識しないで、全部見てやれ!もっと近付いて遠慮なく見てやれ!
恥ずかしがっているか?それとも嬉しそうか?
違うぞ、果那はそんなレベルを超えたんだ。
今、あいつが露わにしているのはオマンコではなく『天国の扉』だ。
あいつは『神の領域』にたどり着いたんだよ!」
「それ、ヴィーナス。ヴィーナス!」「ヴィーナス。ヴィーナス!」
もはや美術部員たち全員が、芸術教を崇拝する信徒だった。

「さあ、描け!正確かどうかなんて気にするな。
お前たちの『感受性』の目が捕らえた果那の姿を、画用紙にぶつけるんだ!」
最高のインスピレーションを受け取った美術部員たちは
歓喜の声をあげながら、一気にデッサンを描き上げていった。
一旦手を止めて、果那の足元に近付きオマンコを凝視する男子や
ブラウスの上から自分の乳首を刺激する女子もいた。
斜め前の男子は右手で鉛筆を持ったまま、自分で股間を押さえていたし
後列の女子は座ったまま、果那と同じように足を広げて描き続けていた。
果那はそれらの様子に気付いていたが、両膝を閉じないままでいた。

「みんなが見てる。私のアソコをみんなに見られている!
人にアソコを見せるのが、こんなに恥ずかしいだなんて・・・。
でも、今の私は石膏像のヴィーナス。
恥ずかしいなんて考えちゃダメ。石膏像になりきるのよ!」
そうは言っても、果那の耳にはいろんな声が届いていた。
「丸見え」「オマンコ」「濡れてる」などの言葉が多かったが
この行為が『神の領域』に近付くためだという大義名分のせいか
「イヤらしい」「変態」「淫乱」といった否定的な言葉は聞こえてこなかった。
しかし何を聞いても、果那の脳裏には
恥ずかしいという感情しか浮かばなかったし
美術部員からの視線を意識すると、石膏像になり切れず
愛液がジワッとにじみ出てくるのが分かった。

「私はどうしてこんなポーズを選んじゃったの?
こんなに恥ずかしいのに、どうしてコレしかないと思っちゃったの?」
果那は次第に今のポーズをとった事を後悔し始めていた。
顧問が言うような『神の領域』や『感受性』が理由ではないと理解していたが
今さら隠そうとしたら何もかも終わる気がして、果那は身動き出来なかった。

結果的に、果那は乳房の真ん中で突き出た乳首や
パックリと開いた陰唇の中に見える陰核と濡れた膣穴。
さらにその下にある肛門がヒクヒクと震える様子さえ
美術部員たちにさらけ出し続けた。
顧問や美術部員たちも、芸術という『名目』に没頭することで
この状況を正当化しようとしていた。

「もうコンクールはもらったも同然だぞ。他校にあるのはただの石膏像だ。
だが『神の領域』に近付いたヴィーナスは、我が美術部と共にいる。
さあ、仕上げにかかれ!自分の感受性を込めて鉛筆を握れ!」
「おおーっ!」「最高の絵が描ける気がするわ」「感受性マックスだ!」
果那とは対照的に、顧問と美術部員たちはハイになって描き続けた。

***** ***** ***** ***** ***** *****

「よーし、終了だ。お前たち、すごい集中力だったぞ。
分かっているとは思うが、今日のことは美術部員以外に話すなよ?
果那もよく頑張った。本当にヴィーナスがお前に憑依したようだったぞ!」
「俺、こんなに集中して作品を描き上げたの初めてだよ」
「完成すれば生涯最高の出来になるわ」「私もやっぱり美大を目指すわ」
美術部員たちが達成感に浸る中
石膏像を壊した時に一緒にいた先輩が、再び果那に近付いてきた。

「果那ちゃん、お疲れさま。はい、お水。のどが渇いたでしょう?」
先輩はペットボトルと一緒にさっきのスポーツタオルを差し出した。
ようやく身体を隠しても良いんだと思うと、果那はホッとした。

「やっぱりすごいよ、果那ちゃん。私には絶対に真似出来ないよ」
「ありがとうございます。
だけど石膏像を壊した報いだとしたら、もう十分に償っていますよね?」
「でも恥ずかしくなかった訳じゃないんだよね?」
「もちろんですよ。ずっと恥ずかしいままでした。
石膏像を壊してなければ絶対にやってなかったです。でも・・・」
「でも?」
「昔の人が神様の姿を想像しながらヴィーナス像を作った時も
同じように裸になった女の人はやっぱり隠さなかっただろうなあって思ったら
どんなに恥ずかしくても全て露わにしようって気持ちになったんです」
「すごいよ、果那ちゃん。それこそ『神の領域』じゃない?」
先輩に褒められて、果那の気持ちは晴れていった。



5.エピローグ

後日、デッサンに参加した美術部員たちがお金を出し合い
原寸大の『ミロ島ヴィーナス半身像』を買い直した。
ネットでいろいろと検索した結果、同等品がすぐに購入出来ると分かったのだ。

だが残念ながら、コンクールには誰も入賞出来なかった。
石膏像を愚直にデッサンしようとしても、脳裏に焼き付いた果那の姿が影響し
豊満で引き締まった肉体の女神の姿が
どうしても女子高生っぽくなってしまうのだ。
それでも美術部員たちの画力レベルは、誰もが大幅に向上していた。

果那はその後も部活動は続けたが
どんなに頼まれてもヌードモデルをやることは拒否した。
「私の中では、石膏像を壊してしまった償いとしてやったんです。
ヌードになりたかった訳ではありませんから」
というのが果那の言い分だった。
それでも諦めきれない数人が、果那に何度か直談判したこともあったが
美術部員とは言え、現役女子高生をヌードモデルにした部活動は
県立高等学校では例がなく、二度と実現しなかった。

恥辱を乗り越えたことで精神的にも成長した果那だったが
一方で、自分の裸を見られた時の高揚感が忘れられずにいた。
まだ処女だった事と、異性と付き合った経験がない事で
かろうじて一線を越えずに過ごしていたが
誰かに裸を見られたいという願望は日を追うごとに強くなっていた。

「ヌードモデルを経験した人はみんなそうなのかな?
もしこれが『神の領域』に近付いた代償なら、もう元には戻れないのかも・・・」
果那はそう確信していた。
【おわり】





【あとがき】
今回の作品のイメージモデルは、朝ドラ『おかえりモネ』に出演中の
清原果耶(きよはら かや)さんです。
地方都市に住む女子高生のような素朴さと
困難から逃げないひたむきな努力家の役を演じていますが、
『午後の紅茶』のCMでは大人びた表情を見せる女の子です。
興味を持った方は画像検索してみて下さい。

露出に興味を持つ露出っ子なら
自分がヌードモデルをする場面を想像したことがあると思いますが
美術部に入部する女の子なら、実現の可能性は低くても
自分がヌードモデルになる可能性を全く考えない子はいないと思います。
自分自身ではなく、例えば先輩がヌードモデルをやるのだとしても
高校生が裸になるには『大義名分』が必要でしょう。

今回は、石膏像を壊してしまった『負い目』と
『神の領域』という顧問の屁理屈が後戻り出来ない流れを作り
周囲の雰囲気にも押されて果那は裸になりましたが
同じような状況に追い込まれれば、誰も逆らえなかったのではないでしょうか?

ところで、本作にはウソも混じっています。
キリスト教では「人間は神の形を真似て作られた」とされているのは本当ですが
ヴィーナス像は古代ギリシャで製作されているので
厳密にはキリスト教ではなく
それ以前の、主神ゼウスをはじめとする多神教(ギリシャ神話)の産物なんです。
でも、熱く語る顧問が間違っている知識を披露するのも面白いかと思い
そのままにしました。
結果的に果那を裸にさせたので『良いウソ』だという事にしましょうか。

さて、読者の皆さんだったら、どこまで出来そうですか?
とりあえず、自分の部屋の姿鏡の前で
ヌードモデルになったつもりで『神の領域』を体現してみませんか(笑)。
【ベル】 



 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

その他 ご意見ご感想が頂ければ幸いです。