露出小説


   ※私を辱める契約書を作ってください※
   『契約自由化法〜女社長の秘書』

                              作;ベンジー

第11話 投稿サイト

 どうやって帰って来たのかも覚えていない。気が付くと夕子は社長室のテスクに着いていた。ちょうど昼休みが終わろうと言う時間だった。
「何かあったんですか」
 あの子が不思議そうに夕子の顔を覗き込んで来た。
「ええ。まあ、いろいろと」
 夕子は、米倉クリニックで有った出来事を詳細に話して聞かせた。
 検査のことも、露出症ではないという診断結果で出るであろうと言うことも、立ち聞きした電話の内容も。
「残念でしたね」
 あの子にしてみれば、夕子は露出症であると言う診断が出て欲しかったのだろう。そして、夕子もそれを望んでいると思っているようだ。
 冗談ではない。露出症であるとの診断が出てしまったら、破滅への階段を一歩上がってしまうことになる。あの子にとっては夕子をからかう材料になるだろうが、現実的には有ってはならない診断だった。
「そうね。残念だったわね」
 この点に関しては、余裕の受け答えだった。

 ――露出症と診断されるような所見は出ていません

 美倉医師の言葉は信じられる、夕子は、そう思っていた。世界の医学が夕子を露出症ではないと診断したのだ。問題はない。
「その先生、本当に催眠術とか、使えるんですかねぇ」
 あの子の興味も、そっちに移っていた。
「使えるんでしょ。第一人者なんだから」
 夕子はネットで澤野真知子≠フ名前を検索した。歳は四十三歳。心療内科では、かなりの実績を上げ、知名度も高いらしい。
「私も習いたいなぁ。催眠術」
「そんなもの習って、何に使うのよ」
「わかっているくせにぃ」
「言わなくていいわ」
 どうせ「社長にストリーキングさせるためですよ」とか言うのだろう。あの子なら本当にやりそうだった。
「でも、マジで知らないんですか。その先生のこと」
「そうなのよ。どこかで会った、と言うか、見た気はするんだけどね」
 夕子は、タブレットに映った真知子の顔を見ながら、首を傾げる。
「それだけ有名な人だったら、テレビとか雑誌で見たんじゃないですか」
「そうかもしれないわね」
 いや、きっとそうに違いない。夕子は、問題の一つを脇に置くことにした。
 が、それは枝葉末節であり、幹は別にある。真知子の言っていた事故の件だ。郷原の名前が出て来た以上、夕子の両親が亡くなったあの交通事故を指しているのだろう。
 だとしたらなぜ「郷原さんが可哀想」なのか。
 あの事故はお互いにスピードを出し過ぎた二台の車の衝突事故だった筈だ。郷原の過失であり責任は重大。加害者でこそあれ、可哀想≠ニ言われる所以は無い。
 それ以前に、真知子は何かを知っていて夕子に隠している。それが一番の問題だ。何を隠しているのか。隠さなければならない理由は何なのか。
 電話をしていた相手でもわかれば問いようもあるが、誰だか見当も付かない。かと言って、今さら本人、つまり真知子にも聞けない。
 あの時、逃げ出していなければと、夕子は後悔していた。
「事故の件、ホントに何も聞いて無いんですか」
 夕子が知っていることと言えば警察から聞いた通り一遍の事故状況と、事故の後数日間、夕子が意識を失っていたことくらいだ。
 両親を一度に失ったのだ。精神的なショックは計り知れない。その時に心のケアをしてくれたのが澤野真知子なのか。そう考えれば辻褄が合うが、だとしたら何で夕子は、その事実を覚えていないのか。真知子を覚えていないのか。
「私の記憶って、空白が多いわよね」
 もし仮に夕子の記憶がすべて繋がったとしたら、その時、夕子はどうなるのだろうか。漠然とした不安が心の奥に巣食っていた。
「来週、診断を聞きに行くんですよね」
 あの子の言いたいことはわかる。米倉クリニックに行った時に真知子を捕まえて聞けば良いと言う話だ。
「そうね」
 気のない返事になっていただろうか。
「あっ。でも、診断書を貰うの、忘れないでくださいね」
 あの子に言われるまでもなく、そっちが優先事項だった。
「わかってるわよ」
「来週で全部揃っちゃうんですね。やっぱちょっと残念だなぁ」
 二十億の預手と露出症を否定する診断書。どちらも夕子を守るアイテムだ。二つとも来週中には手元に届く。
「何が残念なのよ」
 あの子には悪いが、これはこれで決着を付けなければならかった。

        ◇

「そう言えば、例のサイトが更新されていましたよ」
 あの子の声で目が覚めた。こういうことは度々あった。社長室のデスクで、イスの背もたれに身体を預けたまま仮眠してしまうのだ。
 そう長い時間ではないと思うが。
 そのことについて、あの子は何も言わない。ただ、時間をみて起こすのが秘書としての役目と認識しているのだろう。
「ああ、Y子さんだっけ」
 例のサイト。つまり《露出っこクラブ》か。
(自分で書いておいて、いい気なものだわ)
 そう思いながらも、前回すでに深夜の繁華街で全裸放置されていたY子だ。今度はどんな内容かと期待してしまう夕子だった。

〇Y子 ハダカを見られてしまいました

 夕子の予想だにしない展開に息を飲んだ。他人に見つからないことを前提にした露出ではなかったのか。それとも何かのハプニングか。
 タブレットを手に、俄かに気持ちが逸る夕子だった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A子に前回の続きから書くように言われました。
駅前アーケードに置いていかれた私は、路地裏で息を潜めていました。
見つかったらどうしよう。
ハダカを見られるのは辛いですが、それだけで済むと言う保証もありません。
生きた心地がしないと言うのは、こういうことを言うのでしょう。
怖くて怖くて、涙がいっぱい流れました。
でも、後ろ手に手錠を掛けられたままなので涙を拭くこともできません。
とにかく人がいなくなるまで待つしかありませんでした。
ようやく人の気配が途切れても、すぐに立つことはできませんでした。
恐る恐る路地から表通りを覗きます。
静かなものでした。
見える範囲に人はいません。
明りの点いているお店もありましたから、深夜喫茶とかに入っている人もいるのでしょう。
今がチャンスです。
私はアート―ドに飛び出し、反対側の路地裏まで走りました。
ここから家まで、歩いていくしかありません。
その間、誰にも見られずに済むでしょうか。
考えていてもしょうがありません。
とにかく歩き出しました。
後ろ手のまま歩くのが、こんなにも歩きづらいとは思ってもみませんでした。
人がいなそうな道を選んで歩きました。
何とか繁華街を抜けました。
ここまでは誰にも見られずに済みました。
この先は道が暗くなりますが、人が通る可能性は少ないはずです。
一安心だと思ったところに、人影が見えました。
真っ直ぐこっちに向かって来ます。
見つかった。もうダメ。
今になって思えば滑稽にも思えますが、この時は人生が終わったって思いでした。
「Y子さん、遅かったですね」
人影の正体はA子でした。
そのまま家まで帰って来てなんて言っておいて、実はずっと私を見ていたそうです。
それで、ここまで来れば充分と、姿を現したのでした。
安心した私は足の力が抜け、その場にヘナヘナと座り込みました。
「よく頑張りましたね」
「もう、やだぁ」
「でもまだまだです。次はもっとすごいことしましょうね」
A子の言う「もっとすごいこと」というのが、ハダカを見られちゃうことだったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 夕子は一度、画面から目を離した。
 投稿はまだ続いていた。あの子は知らん顔をしているが、どういうつもりなのか。もし本当にあの子が投稿しているとしたら、このもっとすごいこと≠夕子にもさせようとしているのか。

 ――社長をハダカにして外に出すのは、郷原さんにお任せすることにしたんです

 そのつもりではなかったのか。
 それとも、郷原に任せておいたのでは、夕子をハダカにして外に出すことはできないと踏んだのか。
(ハダカを見られちゃう≠フは勘弁してよね)
 夕子は、含み笑いをタブレットで隠した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
もちろん私は抵抗しました。
不特定多数の人にハダカを見られるのなんてムリだって。
でもA子は聞いてくれません。
「絶対にやるからね」と私のお尻を叩くのです。
結局連れ出されてしまう私でした。
夜の十時頃でした。
その日、A子はスポーツバッグを持って来ました。
普通に服を着たまま歩道を歩き、コンビニに入りました。
大き目のコンビニでしたが、私たちの他にお客さんはいませんでした。
店員は、レジに四十歳前後のおばさんが一人立っているだけでした。
二人でトイレに入ると、A子は、
「着ている物を全部脱いで、この中にいれてくださいね」
そう言ってスポーツバッグを渡されました。
「本当にやるの?」
「やるんです。やらないと、もっとひどいことさせちゃいますよ」
A子は先にトイレを出て行きました。
いつまでも二人でいると怪しまれるからと言って。
個室に入り、一人になりました。
ここでハダカになるのです。
そのままコンビニを突っ切って外に出るのです。
それがA子から言われた命令でした。
店員のおばさんには確実に見られてしまいます。
他にもお客さんが入って来るかもしれません。
コンビニを出た後に鉢合わせするかもしれません。
その人たちに私は生まれたままの姿を晒すのです。
A子は、何でこんなことを考えたのでしょう。
私は、何でこんなことを実行しようとしているのでしょう。
いくら考えても結論が出ないままその日を迎えてしまいました。
そして今、私は着ている物を脱いでいます。
早くしないといけないのに、指が震えてうまくボタンが外れません。
それでもハダカになってしまうまで、そう時間はかかりませんでした。
脱いだ服はA子から渡されたスポーツバッグに詰めました。
下着まで全部です。
後はトイレから出るだけです。
覚悟は決めていた筈なのに、どうしても身体が言うことを聞きません。
私はA子の言葉を思い出しました。
「やらないと、もっとひどいことさせちゃいますよ」って。
どんなことをさせるつもりなのでしょう。
ハダカを見られちゃうよりひどいことって、私には想像も付きません。
やらなきゃダメ!
自分に叱りつけてトイレのドアを開けました。
スポーツバッグは胸に抱えていましたから、前からは恥ずかしいところが見えない筈です。
後ろから見たら、お尻は丸出しなんですが。
さっき通ったばかりのコンビニの店内なのに、全然違うように見えます。
入口の自動ドアがとっても遠くに見えます。
ここからでは店員さんの姿は見えません。
と言うことは向うからも見えていないということです。
私は期待してしまいました。
もしかしたら、このまま見られずにコンビニを出られるかもって。
前かがみになりながら、そっと出口に向かいました。
A子の姿は見えません。
コンビニの外で待っている筈です。
後少しと言うところで、心臓が止まりそうになりました。
お客さんが入って来たのです。
学生風の男性でした。
いきなり目が合ってしまいました。
「いらっしゃいませ」と言うおばさんの声。
視線がこっちに向いてしまいました。
どうしよう。
ここで引き返したところで、すでにハダカなのはわかっています。
もう強行突破しかありません。
スポーツバッグを抱きしめたまま、頭を屈めてお客さんの脇を駆け抜けました。
幸いだったのは、自動ドアが開いたままになっていたことでしょう。
私は止まらずに外に出ることができました。
A子が待っていて、私を抱きしめてくれました。
「よくやりましたね」とほめてくれました。
そのまま路地裏まで連れて行って貰い、シャツとスカートだけ着て逃げました。
誰も追いかけて来ませんでした。
「見れちゃったよぉ。ハダカ、見られちゃった」
私は何度も繰り返していたようです。
後でA子に言われました。
すごいことをしてしまいました。
あんなこと、もう二度とできないと思っていたのですが、
「次は昼間にしましょうね」
そう言われた途端、やることが決定してしまいました。
さらにA子は、とんでもないことを考えていました。
今回はスポーツバッグを抱えていたので身体の殆どを見られていないと言うのです。
せっかくハダカを見られる課題にしたのに意味がないって。
人の気も知らないでと恨みがましい目を向けるのですが、全然、気にしても貰えません。
今もA子は、私に恥ずかしいことをさせるプランを考えているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 一気に読んでしまった。
 本当にここまでやってしまうとは。この子はイヤイヤやっている風でもないし、元々が露出症なのだと思う。そうでなければ、コンビニで全裸になんてなれる訳がない。
 すれ違ったお客さんやコンビニの店員はどう思ったことだろう。
 夕子ならば、追いかけてしまいそうなものだ。Y子の身を心配してではなく、その時の心境を直接聞いてみたいと思ったからだ。
「言葉になんか、できないのでしょうね」
 そう言っておいて、あの子の様子を窺った。
「社長もやってみればいいじゃないですか。スポーツバッグ、用意しておきますよ」
 またこれだ。あの子の脳みそは、常に夕子の先を行っていた。やはり、次のストーリーも考えてあるのかもしれない。
「ねえ。次はどうなると思う?」
 試に振ってみた。
「何日後かのお楽しみですね」
 うまくかわされたのだろうか。
 まあ、いい。夕子にしたところで、投稿を楽しみにしていることには変わりないのだ。Y子がどこまで恥ずかしいことができるのか。
 それは取りも直さず、夕子の未来図になりえるのだろうか。

 夕子はこの瞬間、郷原の存在を忘れていた。
 あの子と遊んでいるくらいがちょうど良い。同じ女同士だ。口では何を言ったところで、無茶はしないに違いない。
 そんなことを考えながら、ブラウザをポータルサイトに戻した。
 と、今日のニュースが表示されているエリアに、とんでもない見出しが載っていた。

『全裸の女性が街中に放り出される』
 
「何よ、これ!」
 思わず声に出てしまった。記事によれば、昨日の午後八時頃、某市の繁華街に駐車した車から若い女性が下され、車はそのまま走り去った。女性は首輪以外、何も身に着けていない全裸だった、と言う。
(首輪って、まさか……)
 夕子の頭に一つの仮説が浮かんだ。
「ああ、それですか。別のサイトには動画入りで載ってましたよ」
 あの子はすでにチェック済みだったようだ。
 言われるままに動画を探し出す夕子。さすがに顔にはモザイクが掛かっていたが、首輪がはっきりと映っていた。
 夕子はデスクの引き出しを開けた。
「やっぱり、そうだわ」
 引き出しに入っていた物をデスクの上に出す。それはあの日、郷原が置いていった首輪だった。
 それと同じ物を、動画の女性が着けていた。



 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

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