露出小説




   露出っこクラブ〜愛美

                              作;ベンジー

プロローグ

 クローゼットの中からお兄ちゃんのベッドシーンを見ることになるなんて。
 愛美は今日ここに来たことを後悔した。

 ハダカで絡み合う二つの肉体。その一つが愛美の兄・芳樹だった。
 芳樹が女の乳房を鷲掴みにする。首筋から這わせた舌が、その先端に取り付く。恋人同士の熱い口づけも何もあったものではない。いきなりトップギアに入っていた。
「ああーん」
 女の喘ぎにそそのかされ、乳房を揉みしだく指先が勢いづく。真っ白な柔肌が掌からこぼれた。
(どうしよう。こんなの見ちゃいけないのに)
 わかっていても、愛美は目を離せない。
 芳樹は、女の乳房を両手で包み、胸の真ん中で合わせると、二つ並んだ乳首を同時に頬張った。
「ああん、もう。悪戯好きなんだからぁ」
 女の声が鼻にかかる。
「いいじゃないか。お前だって感じているんだろう」
 愛美の手が、自らの胸へと動く。
(私だって、あの人くらいの歳になれば……)
十四歳の少女の膨らみに、あの芸当は無理だった。
 相手の女は二十歳くらいか。ショートヘアーに目鼻立ちのハッキリとした小顔は大人の女性を思わせた。
(きれいな人……)
 十九歳の芳樹が、好きになるのもムリはない。
「あうっ」
 芳樹が女の乳首を噛んだ。喘ぎ声に小さな悲鳴が混ざる。片方の乳首を指先で弄びながら、もう片方にしゃぶり付く芳樹。吸っているのか、舐めているのかわからない。
 ベッドが軋む。二人の裸身が汗にまみれていく。
 芳樹の手が、口が、なかなか乳房から離れない。
(お兄ちゃんは、やっぱり大きいおっぱいが好きなのかなあ)
 芳樹が、ベッドの上で仰向けになる。股間から直立した肉塊に愛美の目が吸い付けられた。幼い頃の記憶にあるそれではなかった。大きさも形もまるで違う。全く別の生き物が脈打っているようだ。
(あんなに大きくなるなんて)
 体が前に出そうになる。隠れていることを忘れてしまいそうだ。
 女の顔が肉塊に近づいた。
(うそー)
 口に含まれていく肉塊。
(あれって、フェラチオ……?)
 耳年増の少女でも、それを目の前に見るのは初めてだった。子供電話相談室では、おちんちんにキスすることだと言っていた。でもあれはキスなんてものじゃない。芳樹が女の乳房を舐めるよりイヤらしく見えた。
 女は手で肉塊の根本を押さえ、アイスキャンディを舐めるように舌を使う。肉塊がより大きくなっていく。女はそのまま股間に顔を埋める。肉塊を喉の奥まで飲み込み、頭を左右に振りながら、ゆっくりと出し入れを繰り返す。
「うぐっ」
 芳樹の口から息が漏れた。
(いいの? あれが気持ちいいの?)
 女がいつの間にか芳樹の顔を跨いでいた。愛美は頬が熱くなる。女は丸裸なのだ。あれでは女の子の部分が、芳樹の鼻先だ。恥毛どころか、肉ヒダの奥に至るまで晒していることになる。
「ああん、また……」
 下から乳首を責める指先が、女のツボに嵌ったらしい。
「いいから続けろよ」
 肉塊から口を離した女に芳樹が命令する。股間に顔を下ろす女。だがそれを口に含むことなく、先端から竿の側面へと舌を這わせた。根本に達すると玉袋を持ち上げ、その裏側まで舐め上げる。
「あふっ」
 女が声を上げたのは、芳樹の舌が陰唇に届いたからだ。お返しとばかりに女の口が肉塊を包んだ。頭を上下する動きが速くなる。それに呼応するように芳樹も舌を使う。お互いの秘部を舐め合う、男女の姿が悩ましかった。
(お兄ちゃんがこんなことを……)
 その女が誰かは問題ではなかった。ハダカの芳樹がハダカの女とベッドの上で絡み合っている。その事実が愛美の胸を刺した。
 二人の様子がいよいよ妖しくなっていく。
 芳樹は女の腰を持ち上げると向きを変えさせ、肉塊の上に導いた。先端が陰唇に触れたところで一度動きを止め、後はゆっくりと腰を下ろしていく。いきり立ったモノが女の体内に埋め込まれていく。愛美は息が止まる思いで、その光景に見入っていた。
「あぅ、入っちゃった」
 女がのけぞる。
 愛美は、その表情の変化に気を取られた……その一瞬の出来事だった。上体を弓なりに反らした女と、クローゼットの奥からのぞき見る愛美の目が合った。

     ◇

 芳樹は、高校を卒業するとすぐ家を出た。住み込みで仕事をさせてくれる整備工場を見つけて一年間我慢した後、貯めたお金でアパートを借りた。築十年以上の木造二階建てだ。駅からは少し離れていたが、日当たりは良かった。
 外階段を上がって一番奥の部屋に「榊原芳樹」と書かれた表札が出ていた。愛美がこの部屋に来るのは二度目だ。学校の帰りに少しだけ時間をつぶしてからやって来た。大家さんに妹だと言って生徒手帳を見せると、部屋に入れてくれた。
「お兄さんもイケメンだが、妹さんは、もっと美人になりそうだ」
 大家さんは、五十代後半の男性だった。中学校の制服を着た愛美を見て目尻を下げた。
 部屋は思ったよりきれいに片づいていた。六畳サイズの洋室で、申し訳程度の台所とトイレ、そして組み込み式のクローゼットが付いていた。お風呂はなかった。グレーの絨毯の上にパイプ製のベッドとガラステーブル、テレビにビデオデッキ。家具らしいものはそれだけで、衣類はブティックハンガーに下がっているものの、多くは、段ボール製の衣装箱に入っているらしい。
 愛美は芳樹が好きだった。兄としてではなく一人の男性として愛していた。それもずっと前から。初恋と言って良いのだろう。それが父ではなく兄だったのは、愛美の家庭事情によるものだった。
 芳樹が家を出てからというもの、愛美の想いは募った。同じ市内なのだから会おうと思えばいつでも会える、そう思って我慢していた。それが最近になって、芳樹と連絡が付かないことが多くなった。ケータイに電話しても留守電だったり、メールをしても返って来なかったりということが重なった。
 自分が避けられているのではないか。
 それを芳樹に聞くのは怖かった。でも、どうしても芳樹に会いたい。その気持ちが他の何よりも強くなり、アパートを訪ねることにした。いるかどうかはわからなかった。部屋に入ることができたら、帰ってくるまで待つつもりだった。
(お兄ちゃん、怒るかなあ)
 愛美はベッドに腰を下ろして待っていた。部屋に合わせたのだろうか、小さめの簡易ベッドだ。大柄な芳樹には窮屈ではないかと思えた。
 男の一人暮らしなら、エッチな本とかビデオとかが散乱していてもおかしくない。ところが、それらしいものが全く見あたらなかった。隠す必要もないはずなのだが、あるとすればこの中か。
 愛美は悪戯心を起こし、クローゼットを開けた。上下にレールが付いた折りたたみ式の扉だった。
 ちょうどその時、アパートの窓の外で芳樹の声が聞こえた。返事をする女性の声。
(誰なの? なんで女の人が……)
 愛美は咄嗟に隠れなければと思った。場所はクローゼットしかない。玄関に脱いであった靴を拾い、何とか体を押し込むことはできたものの、内側からでは扉が十分に閉まらない。扉の折り目にすき間ができた。
「脱げよ」
 部屋に入って来た芳樹は、カーテンを引きながら言った。
「まだ外は明るいわよ」
 そう答えながらも、一緒に来た女が服を脱いでいく。着やせするタイプなのだろう。ハダカになると凹凸のハッキリした体型だった。愛美の心が騒いだ。芳樹もハダカになると女をベッドに押し倒した。

     ◇

 芳樹に跨り、背筋を反らしたハダカの女が、まっすぐに愛美を見ていた。
(見つかっちゃった……)
 愛美は心臓が止まりそうだった。芳樹に怒られる。いや、怒られるだけでは済まないかもしれない。二度と口を聞いて貰えないかも。
 そんな恐怖が、愛美を捉えて離さなかったのだが……
 女の動きが止まったのは一瞬だった。愛美を見て微笑むと、体を戻して自分から腰を振り始めた。まるで何事もなかったかのように。
 芳樹の下半身も、そのゆったりとしたリズムに合わせていた。
 愛美は、胸の奥で凍った息を吐き出す。
(お兄ちゃんのおちんちんが、あの人に……)
 いきり立った肉塊が愛美の脳裏に浮かんだ。あんなに大きなものが――愛美は股間に手を当てた――ここに入っているなんて。
 ベッドに仰向けのまま、芳樹は女の乳房に手を伸ばし、柔らかな指遣いで膨らみの麓から包み込む。大切なものを慈しむような動きに見えたのも少しの間だけだった。一気に激しさを帯び、指先が柔肌に食い込む。押し返す弾力を楽しむように揉みしだく。親指と人差し指で両方の乳首を摘み、捻り上げた。
「あくうっ。ひぃいいいいいーー」
 女の口が横一文字に引っ張られ、背筋を反らそうとするが芳樹は逃がさない。
「いいいっ……あっ、イヤっ、はうっ。ああーん」
 喘ぎ声と苦悶の表情に満足したのか、芳樹の指が乳首を離した。膨らみの麓に掌を戻し、そっと支えるだけ形になる。女は力なく両手を下げていた。
 芳樹が腰を使い始めた。埋め込んだままの肉塊で、女の体をこねるように動かす。時折、縦にも突き上げる。女の方も腰を押しつける 。それらの動きは次第に速く、荒々しくなっていく。芳樹の息遣いが乱れ、女の口からは喘ぎ声がこぼれた。
「あふんっ。あっ、いい、いいわ。芳樹、ああっ、いいのうー」
 女は愛美に見られていることを知っている。それなのにあんな声を出して恥ずかしくないのだろうか。騎乗位で、裸身をくまなく晒しているのだ。いや、見せつけているのかもしれない。
 下から突き上げられ、女の体が前後左右に振り回される。白桃のような乳房が揺れる。風に吹かれて、たわわになった枝から、果実がもげて落ちるようだ。
「ああ、芳樹。いいわぁ。もっと、もっとおーーー」
「何て声を出してるんだ」
「だ、だってぇー、いいんだもん」
 女は、腰骨の辺りを両手で押さえつけられていた。どんなに激しく扱われても、決して離れようとはしない。顔は真っ赤に上気し、全身から汗が噴き出す。
 芳樹が、ひときわ激しく突き上げた。
「ひいっ、ダメえ。ああ、あああ、ああああああぁぁぁーーー」
 女の言葉が、意味の通らないものになっていく。
 妹である愛美が、あの女の場所にいることはない。そんなことはわかっていた。でも、まさか、兄のその姿を目の前で見せつけられることになるなんて。
 芳樹が上半身を起こす。腰に女を載せたまま、背中へと両手を回し、抱きしめる。肌と肌とが密着する。思い出したように口と口とが求め合う。舌が絡みつく。唾液が糸を引いた。
 ファーストキスもまだの愛美には、刺激の強すぎる光景だった。
芳樹と女が口を吸い合う姿は新鮮だった。愛し合う男女が、お互いを愛おしくてどうにもならない。少しでも相手と近づきたい。もっと奥まで入り込みたいと願っている。
 愛美には、そう思えてならなかった。
「ともみぃー」
 芳樹がその名を呼んだ。女を抱きかかえたまま体を入れ替え、自分が上になって責め始めた。腰の動きが今までになく激しい。女は両足をアルファベットのMの字型に広げ、秘密の園は、何の妨げもなく芳樹の侵入を許す。集中砲火を浴びせる芳樹。剥き出しになった臀部が大きく前後する。その回数だけ、女の秘孔を肉塊が行き来する。
「あぅ、あぅ、あぅ、あぅ、ひぃいいい……ダメえええーーー」
 女の喘ぎが細かくなっていく。芳樹の動きも単調になっていた。
「ともみ、ともみっ」
「いい……いいわあ。はあん。ああ……も、もうダメっ。あああん。イクっ。イクっ。イッちゃう。ああ……一緒に。芳樹……ああ、来て。い、イクっ。ああ、イッちゃうーーー」
「行くぞ。ともみっ。行くぞ」
「あああ……来てっ。来て、芳樹」
 芳樹の腰が大きなグラインドを描き、女の体が浮き上がる程に叩きつけた。
「ひぃいいいーーー、イクっ。イクっ。イクっうううーーー」
 それがフィニッシュだった。
 芳樹の股間が、女のそれに密着したまま動きを止めた。女は口を横に開き、体を小刻みに振るわせていた。未経験の愛美にも、二人が今どういう状況なのかわかる気がした。芳樹の射精はまだ続いているのかもしれない。
 芳樹が女の上に体を投げ出す。二人の大きな息遣いだけが耳に届く。幸せそうな光景だった。愛美の目尻には涙が溢れていた。
(私もあんなふうに愛されたい)
 心の底からそう思った。兄と妹なんて関係ない。自分が世界で一番芳樹のことを愛している。あの女にだって負けないのだからと、頬にこぼれた滴をぬぐう。今すぐここから飛び出して、芳樹の胸に抱きつきたかった。
「喉が渇いたなあ」
 芳樹は寝返りを打ち、ベッドに体を広げた。
「冷蔵庫に冷たいものとかないの?」
「ここには何にもないって、知ってるだろう」
 今更ここを出るわけにはいかない。芳樹たちが部屋からいなくなるまで、息を潜めて待つしかなかった。もっとも、それまで隠れていられればの話だが。
 女は愛美の存在に気づいている。一言しゃべればそれまでだ。
「あれっ、クローゼット、開けっ放しだったかなあ」
 ピンチは急にやってきた。芳樹がベッドから体を起こし、こちらに向かってくる。愛美は何も出来ずに体を丸めるしかなかった。
「ねえ、下に自販機あったよね」
 女の声がした。
「ああ、コーラとかなら。そんなに飲みたいのか」
「うん、一緒に行こう」
 クローゼットの扉が音を立てて閉まった。女性が芳樹に飛びつき、勢い余って扉に倒れ込んだようだ。
「行こうって、俺たちハダカだぜ」
 暗闇の中で、声だけが届いていた。
「いいじゃない。いつも私にやらせてるくせに」
「わかったよ。でも俺は服、着るからな」
 衣擦れの音が聞こえた。愛美がじっとしていなければならない状況に変わりはない。心臓の鼓動が、外まで届くのではないかと恐怖した。
「ほら、行くぞ」
「はーい」
「お前、ホントにハダカで行くのか」
「そうよ。悪い」
「……ま、いいか」
 それを最後に、人の気配がしなくなった。
 チャンスだった。このままここにいても、いずれは見つかってしまうだろう。危険な賭けには違いないが、二人が飲み物を買いに行った隙に、逃げ出すしかない。
 愛美は、クローゼットの扉を開けた。

第1話 露出っこのお誕生日

 グランドには木々の影が長く伸びていた。トラックも校舎もオレンジ色に染まり、校庭に残っている生徒の数も少ない。日が落ちるまで後三十分もないだろう。愛美はゴールラインの先に立ち、膝に両手を付いて大きな息をしていた。
「マナちゃん、今日はもう上がるよ」
 声をかけたのは森口里奈。愛美と同じ白のティシャツに赤い短パンは、陸上部の練習着だ。春の競技会を目標に、練習にも身が入っていた。愛美はハードルの選手だ。他の部員たちからゴムマリが弾んでいるようだと言われることが誇らしかった。入部以来それなり以上の成績を収めてきた。三年生になった今年は学校からも期待される存在だった。
「じゃ、最後にもう一本」
 スタートラインに向かってゆっくりと歩き出す。後輩たちの顔色が曇った。用具の片づけにだって時間はかかる。暗くなる前に終えたいと思うのも無理はなかった。一同の視線が部長を通り越し、顧問の先生に集まる。愛美は一年生の後半から当時の三年生と対等の口を利いていた。
「榊原が言っているんだ。走らせてやれ」
 顧問は四十過ぎの男性教諭だ。陸上の経験はあるらしいが、あの腰回りでは百メートルを完走できるかも怪しいものだ。
 空気が読めない愛美ではないが、どうしても後一本走っておきたかった。心の中で手を合わせながらも、顧問の指図を当然のことのように胸を張る。部員たちの視線が集まる中、肩まで伸びたストレートの髪を頭の後ろで束ね直す。
 愛美はスターティングブロックを蹴った。

 あの日以来、シャワールームに入ると他の子の胸が気になってならない。芳樹とエッチしていた女性は「ともみ」と呼ばれていた。彼女の乳房は部員の誰よりも大きかった。自分だけが見劣りしているのではないと確かめては安心する毎日だった。
 ハダカになってブースに入る。熱いお湯が練習後の疲れた体に気持ち良かった。
 芳樹に恋人がいたこと。そして、その彼女とのセックスを見せつけられたこと。全部忘れてしまいたい記憶だった。汗と一緒に流れてくれればどんなに良かったことか。愛美はシャワーノズルに顔を向けた。
(あの人は気づかなかったのかなあ)
 そんなわけはない。確かにあの時、彼女は愛美を見て微笑んだ。それを芳樹に告げたらどうなるのだろう。大家さんに聞けば、愛美が部屋にいたことがばれてしまう。何も言ってこないのは、彼女が話をしていないからか。それとも芳樹は、愛美と口も聞きたくないほど怒っているのか。
「ねえ、何ぼんやりしてるの」
 里奈が愛美のブースをのぞき込んだ。
「きゃっ、何見てるのよ」
 愛美は慌てて胸を隠す。
「いつまでも物思いに耽っているからだよ」
 なるほど、里奈以外の部員は皆いなくなっていた。愛美は髪だけ拭くと、バスタオルを巻いてブースを出た。里奈はすでに着替え終わっていた。
「マナちゃんっていい体してるよね」
 愛美がハダカを意識したのは、里奈がそういう視線で見ていたからかもしれない。
「何、急に。オヤジみたいな」
「スレンダーな魅力に溢れているってこと。いかにもアスリートって感じだよ」
「そ、そうかなあ」
 褒められているのか微妙なところだが、とりあえず悪い気はしなかった。
「マスクは最高なんだし、これでもう少し身長があって胸が大きくなったらミスコンでも狙えるんじゃない」
「はい、はい。どうせ私はチビで貧乳ですよ」
 愛美が気にしていることをここまでハッキリと言うのは、この子くらいだろう。愛美は同級生や後輩はもちろん、先生方からも一目置かれる存在になっていた。陸上部の部長を断ったのも、わがままを言えなくなるという理由からだ。陸上競技の成績と態度の大きさでは、間違いなくエースだった。
 帰り道でも、愛美の頭は「ともみ」という女性のことで一杯だった。彼女は愛美が芳樹の妹だということを知らない。あの微笑みの意味は何だったのだろう。男とセックスをしているところを人に見られて平気な女性がいるのだろうか。それにあの時の会話は、ハダカのまま自販機まで行くように聞こえた。普段から芳樹がそれをさせているようにも……
「ねえ、マナちゃん」
 隣を歩いていた里奈が声をかけてきた。
「あっ、ごめん。私、また……」
「何を悩んでいるのか知らないけどさあ、こういう時のために親友っているんだと思うよ」
 愛美は立ち止まって里奈を見つめる。長い髪をおさげにしていた。身長も体重も同じくらい。これで髪型まで同じにしたら後ろからでは区別がつかないだろう。
「うん、ありがと」
「ん?」
 里奈も足を止めて振り向き、首を傾げる。
「気持ちの整理ができたら話すね」
「よしよし、任せておきなさい。じゃ、今日はこれで」
「また明日」
 里奈の気持ちは嬉しかった。里奈だけが愛美の芳樹に対する想いを知っていた。それでも、いや、それだから尚更だろうか。芳樹のアパートで恋人とのセックスをのぞき見たことを知られたくなかった。
「ごめんね。里奈」
 愛美は親友の後ろ姿を見送った。

 日が落ちてすっかり暗くなった路地を一人で歩く。家までもう少しというところでケータイの着信音が響いた。芳樹からではないかと急いで開く。表示されたナンバーに見覚えがなかった。
「はい……」
 名前は名乗らないことにしていた。友達なら名乗る必要もないし、悪戯電話の類なら黙って切るだけだ。
『もしもし、榊原愛美ちゃんのケータイでいいんだよねえ』
 女性の声だった。
 これって「ともみ」さんではないだろうか。
 でも、なんで……
「はい、そうですけど」
『ごめんね、突然。芳樹のアドレス帳見てかけたの。そう言えば誰だかわかるよね』
「はい……」
『これから会えないかなあ』
 電話の女性は「栗田朋美」と名乗った。聞いたことがあるような名前だ。この前のことで話がしたいから駅前のカラオケボックスに来て欲しいと言う。愛美が来るものと決めつけた口ぶりだった。
 三十分後、愛美はカラオケボックスの一室に朋美と二人で入った。四、五人入れば一杯の小さな部屋だ。テーブルを挟んで長いすが二つ。奥にはカラオケの機材と、小さいながらもステージがあった。何度か来たことのある場所だったのが救いだった。
(何の用だろう)
 愛美は不安を隠さなかった。
「ウーロン茶でいいかなあ」
 そんな愛美をよそに、朋美はフライドポテトやらチキンやらを注文する。意外だったのは、朋美が高校の制服を着ていたことだ。今時の女子校にしてはスカートが長目ということを除けば、特に変わったところがあるわけではないが、
「それ、清女{せいじょ}ですよねえ」
「そうよ」
 事も無げに言う朋美だが、清心女子大付属高校、通称「清女」というのは県内でも指折りの進学校だった。スポーツも盛んで文武両道に秀で、わざわざ越境入学してくる生徒も多い。お嬢様学校としても有名で、良家の子女しか入れない学校だった。
 もっと大人だと思っていたのに、朋美は十七歳の高校二年生だと言う。
 切れ長の目に細く通った小鼻、薄い唇。本当にきれいだ。背も高くモデルにスカウトされてもおかしくない。学生鞄の他にボストンバッグを持っていた。芳樹とはどこで知り合ったのだろう。
「愛美ちゃんも入れなよ」
 朋美はテーブルの上の液晶パネルをいじり始めた。慣れた手つきで次々と曲を入れていく。いったい何曲入れたのだろう。
 マイクを持ってステージに立つ。パネルが愛美の方を向いていた。最初の一声うまいと思った。声量も豊富でメリハリを利かせた歌い方だ。店員が注文された品物を持って来ても気にすることもない。時々愛美に向かって手を振ったりもした。
 芳樹はこの人を愛している。愛美にとっては恋敵に当たるわけだ。しかも自分の秘密を握っている。愛美はカラオケどころではなかった。
 五曲ほど歌い終わると、朋美はテーブルの上のウーロン茶を口に含む。愛美とは差し向かいの位置に座っていた。
「私に何の用ですか?」
 愛美の声に不自然な音色が混ざった。
「愛美ちゃんは歌わないの」
「そんな気分じゃありません」
「そっか。うん、そうよね。もうちょっと楽しんでからにしようと思ったんだけど……」
 朋美の表情が変わった。
「私ね、あなたを脅迫しに来たの」
 ごく普通の話し方だった。
 それだけにぞっとするような奥深さを感じ、愛美の不安は恐怖へと変わっていく。
「怖い?」
 愛美は言葉が見つからない。
「返事はなし、か。ま、仕方がないわね」
「……えっ」
「あの日、愛美ちゃんがクローゼットにいたこと、芳樹はまだ知らないの」
「ほ、本当ですか?」
「本当よ。だから脅迫になるんじゃない。黙っていて欲しいでしょ」
 愛美は頷いた。それを見た朋美は、

「それじゃあ、ハダカになって」

(つづく)



 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

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