露出小説




   お姉ちゃんのキッス

                              作;ベンジー

第四章 ハダカで縛るの?(後編)



 前の晩、徹夜でオナニーに耽っていた由衣は、本当に具合が悪かった。
 夕飯の用意をするまでは何とか保たせたが、部屋に戻ると一気に疲れが出た。悠人に断り、先にお風呂に入って、ベッドに入ると、睡魔に引きずり込まれた。
 悠人が気にするかもしれないと気づいたのは、朝になってからだ。
(大丈夫だったかしら)
 悠人を起こしに行く時間になり、部屋のドアをノックしたが、返事がない。どうしたのだろうとドアノブに手を掛けた由衣だが、先日の出来事を思い出し、手が止まる。
「悠人、起きて。悠人」
 ドアの外から、何度も声を掛ける由衣。
 いくら呼んでも、全く反応がない。悠人に何かあったのかもしれないと、由衣は意を決して部屋に踏み込んだ。
 ベッドに行儀良く、仰向けで寝ていた悠人だが、相変わらずピクリとも反応しない。
「悠人。どうしたの。起きて、悠人」
 心配になった由衣が、身体を大きく揺する。掛け布団を剥いで、パジャマ姿の悠人に、縋り付く。
「う……うん」
 悠人が寝返りを打ち、掛け布団を引っ張って、由衣に背を向けた。
「悠人!」
 追いかけるようにベッドに上がる由衣。悠人の布団に潜り込むような形になった。
「お姉ちゃん……?」
 悠人が、顔を上げた。
「大丈夫? どこか痛くない?」
「何? もう朝……」
 悠人は、まだ寝ぼけているようだ。目がまともに開いていなかった。
「何とも、ないの?」
「うん、平気だよ。夕べちょっと寝れなくて……」
「良かった。起こしても返事がないから、お姉ちゃん、心配したんだから」
 由衣は、涙目になっていた。
 悠人は何でもなさそうだ。ホッとした由衣は、悠人の背中に抱きつく。悠人は、じっとされるがままにしていた。
 由衣は、ふと思い当たった。
 悠人が夕べ眠れなかったのは、一緒にお風呂に入らなかったせいかもしれない。
 いや、きっとそうに違いないと思った由衣は、
「今夜はお風呂、一緒に入ろうね」
 怖々、言ってみる。今度は悠人が泣き出した。
「良かった……」
「えっ、悠人。何て言ったの?」
 悠人は、涙を拭いながら答えた。
「お姉ちゃんに嫌われたのかと思って、落ち込んでいたんだ。もうお風呂にも入ってくれないし、一緒に寝てもくれないって……」
 今もまだ、肩を震わせている悠人。
 由衣は、夕べ、寝不足で具合が悪かっただけではない。悠人を避けていた。もちろん嫌いになったわけではないが、瑞穂に「縛り」の話などされたものだから、意識しないわけにはいかなかった。
 もし何か刺激があれば、またオナニーが止まらなくなってしまう。それか怖くて、お風呂にも入れなかったのだ。
「ゴメンね、悠人。悲しい思いをさせちゃったね」
 由衣は、悠人の背中を、もう一度力強く抱き締めた。

 その日は、二人、仲良く登校した。
 知らない人が見たら、仲睦まじいカップルに見えたことだろう。いつもなら周囲を気にする由衣も、はしゃぎ回る悠人に合わせていた。
 やってみると、意外に楽しかった。
「相変わらず、仲がいいのね。羨ましいわ」
 校門で会った瑞穂の第一声だった。
「やだ、もう。そんな言い方しないで」
 由衣は、はにかんで見せる。悠人も照れていた。これでは本当に恋人同士のようだ。
 昇降口まで来ると、一輝が追いかけて来た。一年生の悠人と二年生の由衣では教室が違う。「じゃあね」と別れた後で、瑞穂が話し掛けて来た。
「昨日の内に頼んでおいたから、今夜には届くわよ」
「えっ、何のこと?」
「ひどい。忘れちゃったの」と睨み付ける瑞穂。「家に帰ったら、思い出すわよ」と、由衣の肩を叩いた。
 すぐに思い出した由衣だが、学校の廊下で、口に出せるものではなかった。
(本当に頼んじゃったんだ。そんなものが届いたらどうしよう)
 由衣には、何も決心が付いていなかった。
「あら、まだ迷っているの」
 瑞穂には筒抜けのようだ。
「だってぇ、そんなこと……。私と悠人は姉弟なんだよ」
「だから、安心して任せられるんじゃない」
 瑞穂は、大人が子供をたしなめるように、言ってくれた。そんなものだろうかとも思わないではないが、由衣はもう一つ納得がいかなかった。
「それに……」
 瑞穂の顔が、急に悪戯っ子に変わった。
「悠人君も望んでいるかもよ」
 学校が終わると、由衣は急いで家に帰った。悠人より先に着いて、宅配便を受け取りたかった。中身は綿ロープだと、瑞穂は言っていた。そんなものを悠人に見つかるわけにはいかない。
 ――悠人君も望んでいるかもよ
 瑞穂は、本気でそう思っているかしら。悠人が私を縛りたいと思っているって。
 由衣は首を大きく振った。
(そんなわけない。悠人はまだ子供だもの)
 一緒にお風呂に入りたがるのも、子供がお母さんと入るのと同じなのだ。おちんちんを洗わせたりするのも、その延長に過ぎないと、由衣は考えていた。
「ただいま」
 玄関で声を出してみる。由衣が鍵を開けて入ったのだから、誰もいるわけがない。下駄箱の上に何か載っているということもなく、不在伝票も入っていなかった。
 宅配便が届いたのは、夕飯の支度で、由衣が手を離せないタイミングだった。
 悠人が受け取ってリビングに持って来た。物が物だけに、中身がわからないように梱包されていた。
「これなあに」と尋ねる悠人に、由衣は「うん、ちょっと」とだけ答えたが、内心はヒヤヒヤものだった。
 夕食の時間になり、食卓に差し向かえで座る。
 悠人は機嫌が良いようだ。
 瑞穂がいうように、悠人が由衣を縛りたいと望んでいるなら、綿ロープを購入した由衣をどう思うだろう。
 もしかしたら、中身に気づいているのかしら。
「ねえ、悠人……」
 声を掛けてしまってから、由衣は慌てて口を押さえた。
(私ったら、何を訊こうとしているのかしら)
「なあに、お姉ちゃん」
 そんな由衣の気持ちに、悠人が気づくはずもなく、無邪気な笑みを浮かべている。
「ううん、何でもないの」
 由衣は、両手を食卓の上に伸ばして掌を開き、大きく振って見せた。
「変なの」と言いながら、箸を進める悠人。「お姉ちゃんのこと、縛りたいの」なんて、訊けるわけがなかった。
 夕食が済んで、後かたづけが終っても、悠人は「お風呂に入ろう」とは言い出さない。リビングで、二人並んでテレビを見ていた。
 由衣から言い出すのを待っているのだろうか。
「お風呂、どうするの?」
 由衣は、痺れを切らして訊いてみた。
「うん、今夜は寝る前に入るんだ。お姉ちゃんもそうしてよ」
「ええ。いいけど……」
 何か理由があるみたいだ。由衣にも関係があるのだろうか。
 悠人の前でハダカになるのは、まだ恥ずかしい。おちんちんを洗うのも、緊張する。由衣の身体にも火を付ける。オナニーがしたくて堪らなくなるのだ。
 今夜もそうなったら、悠人に手を縛って貰うしかないのかしら。
 由衣は、まだ梱包をほどいていない宅配便の荷物を思い出した。さっき、自分の部屋に置いてきたままになっていた。
 悠人は、まだお風呂に入りそうもない。由衣は一度、部屋に戻った。
 安っぽい再生紙の箱を手に取る。瑞穂が頼んでくれた物だろう。由衣は、今の内に、中身を確認しておこうと思った。
 胸がドキドキしていた。
 ハサミを使わなくても、簡単に開けられるようになっていた。予想していた通り、中身は赤い綿ロープだ。二束、入っていた。
 何メートルくらいあるのだろう。取り出してみると、思っていたより重かったが、肌触りは柔らかい。
 これなら、縛られても痛くないかも……
 由衣は、このロープで縛られた自分の姿を想像して、頬が熱くなった。
「お姉ちゃん、お風呂に入ろう」
 悠人の声が、部屋のすぐ外で聞こえた。今にもドアを開けそうな勢いだった。
「すぐに行くわ」
 今、この部屋に入られるのはマズイ。
 由衣は咄嗟に立ち上がり、部屋から飛び出した。
 ドアの向こうに悠人がいた。後一瞬遅れていたら、綿ロープを手にしているところを、見られていたかもしれない。



 悠人は、先にハダカになって浴室に入り、由衣が来るのを待っていた。
 時間は十時を過ぎていた。いつもは、もう少し早く入るのだが、悠人がこの時間を選んだのにはわけがあった。
 曇りガラスの向こうで、由衣が服を脱いでいる。最も期待が膨らむ瞬間だった。
 ドアが開く音がした。悠人は身体を捻り、由衣を見て微笑む。
 何度お風呂に入っても、変わらない恥じらいを見せる由衣。ハンドタオルで前を隠し、躊躇いながらもバスマットに膝を付く仕草が、悠人には堪らない。
 いつの間にか、身体を洗って貰う手順が、できていた。
 由衣の手の中で膨らむおちんちんが、いつにも増して、パンパンに張りつめていた。今日の本番は、お風呂を出てからだ。
 問題は、悠人がちゃんと言い出せるか、だった。
 それにしても、狭い湯船に、二人並んで浸かる安心感は何だろう。
 この時だけは、エッチな気持ちも忘れて、気持ちが和む。これで手足が伸ばせるような大きなお風呂だったらと、思ったりもした。
 由衣の肩に頭を載せて甘える悠人。
 幼かった頃を思い出す。母親のいない日が多い分、由衣が何でもしてくれた。悠人にとって、由衣はお母さん代わりでもあったのだ。
 お風呂から出た後、悠人は「身体を拭いて欲しい」と言ってみた。由衣は「甘えん坊なんだからあ」と、おでこを小突いた手で、バスタオルを握った。
 脱衣所で、丸裸のまま棒立ちの悠人を、由衣が濡れたままの身体で拭いてくれた。おちんちんは、まだビンビンに張り詰めていた。
 由衣が、悠人のおちんちんの様子に、目を留めていた。
「お姉ちゃんにお願いがあるんだ」
 悠人の言葉に、由衣は、勘違いをしたのかもしれない。この場でフェラチオして欲しいと思ったわけではないのだが、
「ちょっと待ってね」
 由衣は、自分の身体を大雑把に拭くと、バスタオルを胸から下に巻き付けて、悠人の足元に膝を付いた。
 右手を悠人のおちんちんに添え、腰を浮かして目の高さに合わせた。
 前回の快感が脳裏に甦る。由衣の薄い唇に悠人の膨張した肉塊が収まるのだ。誘惑に負けそうだが、今ここでくわえて貰うわけにはいかない。
 悠人は腰を引き、両手でおちんちんを隠した。
「お姉ちゃん、違うんだ」
 由衣が不思議そうな顔で悠人を見上げた。
「今日はベッドでして欲しいんだ」
 悠人は、胸の奥から吐き出すように、口走った。
 本当は、ベッドでフェラチオをして欲しかったわけではない。一緒に寝て欲しかっただけなのだが、正直な気持ちは言い出せない。
 まして、由衣を縛りたいとは、とんでもない話だ。
 今日のところは、由衣をハダカのまま、ベッドまで連れて行きたかった。
「ねえ、いいでしょう」
 悠人は服を着ようともせず、子供のようにダダをこねて見せた。
 ずるいとは思ったが、こうした仕草に、由衣は弱いはずだ。悠人の思惑通り「いいわよ」と口にする由衣。
 今がチャンスだ。
「わーい。それじゃあ、すぐに行こう」
 悠人は、由衣の手を引いて立たせると、そのまま廊下へと出て行く。
「ちょっと待って」
 悠人は止まろうとしなかった。
 由衣に着替える時間を与えるわけにはいかない。悠人は腰にタオルも巻かず、生まれたままの姿で由衣の手を曳き、階段を上がっていく。
「お姉ちゃんの部屋でいいよね」
 由衣の部屋に飛び込んだ全裸の悠人と、バスタオル一枚の由衣。
 二人の前に、赤い綿ロープが散らばっていた。
 悠人は、股間の肉塊に血液が凝縮されていくのを感じた。
 床にある物は、ネットで見たSM用の綿ロープだ。大勢の女の子たちが、あのロープで縛られ、あられもない姿態を晒していた。
 さっき届いた宅配便の箱が、開けられていた。由衣が、ロープを注文したに違いない。
 頭の中が、ものすごい勢いで回転していく。
 悠人は、あわよくば、由衣を縛りたいと思っていた。
 それを感じ取った由衣が、あの赤い綿ロープを注文した。つまり……
(お姉ちゃんは、縛られても良いと思っているんだ)
 悠人が結論を出すのに、たいした時間は掛からなかった。
 なぜ由衣が悠人の気持ちに気づいたのか、とか、いつの間に注文を出したのか、とか、そんなことは、どうでも良かった。
 悠人は、ただ、嬉しかった。
「お姉ちゃんには、何でもわかっちゃうんだね」
 悠人は、綿ロープを拾い上げると、振り向いて由衣を見上げた。



 この状況を、どう言い訳したら良いのだろう。由衣は、頭が真っ白になった。
 悠人のまなざしだけが、ギラギラと輝いていた。
「そ、それは瑞穂が……」
 勝手に注文したの、と言おうとしたが、途中で止めた。
 それよりも逃げたほうが良いかもしれない。
 悠人は、手にしたロープを何に使うつもりなのか。もし悠人が、SM用ロープの使い方を知っているとしたら、由衣は、悠人に縛られてしまう。
 後ずさりしそうになる由衣の手首を、悠人が掴んだ。
「何をするの?」
 由衣は、逃げるタイミングを失った。
 悠人に曳かれるまま、部屋の真ん中に正座する形となった。悠人が、後ろ手でドアを閉める。自分の部屋だと言うのに、由衣は、監禁されたような気分だ。
「縛らせてくれるんでしょ。お姉ちゃんは、俺が、お姉ちゃんを縛りたいって思っていたの、わかっていたんでしょ」
 悠人は何も隠そうとしない。
 SMに、男が女をハダカにして縛る習慣があることは、知っていた。
 瑞穂から「縛って貰えばいいのよ」と言われた時も脳裏を掠めたが、単にオナニーを防止するための手段としてであって、男女の変態的な行為ではない。
(縛られちゃったら、どうなるのかしら)
 由衣の頭の中に、ふと、そんな疑問が生まれた。
 期待と言ったほうが良いかもしれない。怖くて逃げ出したいのに、一方では縛られてみたいと思っているのか。
「ねえ、いいでしょ」
 悠人が、迫って来た。
 由衣は、胸元でバスタオルの合わせ目をしっかりと押さえる。「そんなのダメよ」と拒む由衣。でも、その意志は、足にまでは伝わらない。
 迷いが、由衣の行動を遅らせた。
「お姉ちゃん、手を後ろに回してよ」
 悠人は、綿ロープの端を持ち、ロープの真ん中から二つ折りしていた。
「ホントに、縛るの?」
 由衣の言葉には、祈りと迷いの両方が込められていたのだが、悠人には、まるで伝わっていないようだ。大きく「うん」と頷いて見せた。
(やっぱりダメ!)
 頭の中で、そう叫んだ由衣だが、両手は胸元のバスタオルを離れていた。
 ゆっくりとした動作で、両手は背中へと向かう。途中で何度も躊躇いを見せながら、背中の真ん中で手首が重なる。
(どうしよう。縛られるなんてイヤなのに)
 まるで、催眠術にでも掛けられているようだった。由衣の意識とは無関係に、両手は悠人の持つ綿ロープを受け入れようとしている。
 悠人が、由衣の手首を掴んだ。
「あっ!」
 思わず、声が震えた。
「お姉ちゃん、怖いの?」
 悠人が、控えめな声で訊いて来た。「うん」と首を縦に振ったのは、頭の中だけだった。
 口に出た言葉は、
「いいの。悠人の好きにして」
(私ったら、なんでそんなことを……)
 後悔は、何も待ってくれなかった。
 由衣の手首に、綿ロープが巻き付いていくのを感じた。
 一巻き、二巻き。
 手間取っているようだが、悠人は、軽く絞った後、ロープを結び出した。手首に圧迫感はあるが、痛いというほとではない。
 縄留めができたらしい。由衣の両手が、動かなくなった。
(縛られちゃった。もう、何をされても抵抗できない……)
 由衣は、自分の身が頼りなく思えた。手が使えなくなっただけで、こんなにも不安になるとは思ってもみなかった。
 悠人は、由衣をどうするつもりなのだろう。
 考えている余裕もなかった。悠人が、由衣の正面に回り込んだ。
「バスタオル、取ってもいいよね」
 遠慮がちではあったが、悠人の問いには、逆らい難いものを感じた。どのみち、悠人がその気なら、避けられるものではない。
 思った通りだった。
 由衣が返事をできずにいる内に、悠人の手が、バスタオルの胸元に掛かった。
「えっ、全部……」
 見られちゃうの、と由衣は身震いした。
 一緒にお風呂に入り、悠人には何度もハダカを見られていたが、お風呂以外の場所で、しかも、両手の自由を奪われた状態で、ハダカにされるのは、恥ずかしさのレベルが桁違いだ。
「勘弁して」と思っても、声にはならない。
 悠人は、由衣の肌に触れないようにしているのか、指先の動きが辿々しい。額に大粒の汗を浮かべていた。
 悠人の手により、バスタオルは、一枚の布になって床に落ちた。
 抗う術もなく、丸裸にされてしまった由衣。
 悠人の視線から、胸の膨らみを隠すこともできない。身体を前に倒し、太ももに力を入れて、少しでも羞恥部分の露出を少なくするのが、精一杯だった。
「お姉ちゃん、いいよ。すごくいい」
 何を感激しているのだろう。
 由衣は、顔を上げることもできない。どんな目で由衣を見ているのか。悠人の表情を見るのも怖かった。
「手首を、もっと上にしてよ」
 悠人は、由衣の背後に戻ると、手首を縛ったロープを持ち上げた。
「高手小手縛りって、言うんだって」
 由衣には、もちろん何のことだかわからない。それでも、悠人が手首の位置を首に近づけようとしているのはわかった。
 二の腕が後ろに引っ張られ、由衣は胸を張らなければならない。
 悠人が背後から、由衣の胸の膨らみに、手を伸ばした。
 おっぱいを揉まれるのだと思って、由衣は身体を強張らせたが、悠人の手にはロープに握られていた。
 手首を縛ったロープの余りを、二の腕から胸へと回して来たのだ。
「えっ、何?」
 声に出ていた。が、悠人の手は止まらない。
 ロープはおっぱいの下側を這い、背中に戻って引き絞られた。由衣にとっては、予想だにしない状況だ。縛られると言っても、手首をちょっと背中で、くらいにしか考えていなかった。
 まさか悠人が、こんなことをするなんて。
 由衣が戸惑っている内にも、ロープは二週目に入った。今度は、おっぱいの上側を通り、背中に戻る。ギュッと絞られて、由衣は胸が苦しくなった。
 縄留めに入ったのだろう。悠人は、由衣の背中でごそごそと動いていた。
「あれぇ、変だなあ」
 どうも、うまくいかないらしい。
 ややしばらく悪戦苦闘を続けていたが、胸に回されたロープは緩んだままだ。
 由衣は、心配になってきた。
「どうしたの、悠人」
 背中に向かって、声を掛けてみる。
「うまく結べないんだ」
 悠人は、半分、泣き声になっていた。
 胸に回したロープを引き絞って縄留めをしたいのだが、縛ろうとするとロープが緩んでしまい、だらしなくなってしまうらしい。
「あーん、まただあ」
 悠人が女の子を縛るのは初めてだろう。うまくいかなくても不思議はない。
 以前にも同じようなことがあった。雑誌の付録のオモチャが、どうしてもうまく組み立てられなくて、泣きべそをかいていた悠人。
 由衣が手伝って完成させると、これ以上ないほど喜んだ。
「悠人、頑張って。ほら、もう一度、やってごらん」
 今の由衣に、悠人を手伝ってあげることはできない。応援するのがせいぜいだ。
「うん、わかった」
 一度ほどいたロープを、悠人がまた胸に回した。
 おっぱいの下側を通して背中に戻る。ここまでは順調なのだが、二巻き目を終えた辺りから怪しくなり、いざ、縄留めとなった時には、下側のロープが緩んでいた。
「やっぱりダメだよ」
 悠人がロープを投げ出した。由衣が振り向くと、悠人は涙を擦っていた。
 由衣は、昔のままの悠人が、いじらしく思えた。
「そんなことないわ。そうだ。今度は一巻き目で、どこかに引っかけてみたら」
「どこにだよ」
 悠人の涙声は変わらない。由衣は考えた。
「ほら、ここよ」
 由衣は、縛られた手首を動かす。
「わかるよね? ここの結び目のところに引っかけられるでしょ」
「あっ、本当だ」
 悠人の声に、少しだけ明るさが戻った。
 三度目のロープが胸に掛けられた。背中の回したところで、由衣の手首を縛っているロープの結び目の下に、胸から回したロープを通す。
 相変わらず、辿々しい感じだが、悠人は無言でやっていた。
「そうよ。全部、通し終ったら、一度ロープを引っ張って」
「うん、わかった」
 悠人が力を込めたのだろう。由衣の胸が締まる。
「ううっ」
 思わず声が漏れた。
「大丈夫? きつかったかな」
「いいの。気にしないで。それより、次は反対側から回すのよ」
 悠人は、言われた通りにロープを引き絞ったまま、さっきと逆回りで胸に回した。今度はおっぱいの上側を通す。二の腕にも二カ所にロープが掛った。
 ロープが背中に戻ると、悠人の手が止まった。
「さっきのように、もう一度、ローブを絡めるのよ」
 悠人は、もうすっかり由衣を頼りにしているようだ。由衣は、自分で自分を縛る手伝いをしていることになる。
「通したよ」
「えっ、うん。そしたら、もう一度ロープを引っ張るの」
「わかった」
 ロープが、またギュッと絞られる。
 由衣は、胸を締め付けられたが、声を出さずに耐えた。
「いいわ。それじゃ最後ね。ロープの反対側と結んでちょうだい。緩まないように気を付けてね」
「うん」と答える悠人の声は、生き生きとしていた。縄留めに、また悪戦苦闘していたようだが、何とか結び目を作ることができたようだ。
 悠人が、由衣の正面に立った。
「どお、お姉ちゃん」
 声が、いかにも嬉しそうだ。
 何と返事をしたら良いのだろう。もう両手は動かない。縄留めの際に少しだけ緩みが出たおかげで、それほど苦しさはなかった。
 綿ロープは柔らかく、二の腕や胸の柔肌に食い込んでも、痛いというほどではない。ただ、上半身の自由は、ぜんぜん利かなくなっていた。
「恥ずかしいよ。ハダカで縛られるなんて……」
 由衣は上体を前に倒し、胸の露出をできるだけ隠そうとした。
 首だけ上げて悠人を見上げたが、目の前に、いきり立った肉塊を突き立てられ、息が止まるかと思った。
(あんなになってるなんて……)
 由衣は、悠人のおちんちんを、初めて怖いと感じた。
 ますます身体を丸める由衣だが、悠人は許さない。由衣の目の前に片膝を付いた。
「ねえ、立って見せてよ」
 大きく逸らした由衣の顔を、悠人は、のぞき込むように追いかける。
「お願い、勘弁して」
「ダメだよ。お姉ちゃんの縛られた姿を見たいんだ」
 悠人が、由衣の両肩を掴んだ。
 全身が強張る。
「やめて」と口にする前に、由衣の身体が宙に浮いた。悠人に抱きかかえられたのだ。
 由衣は、掛け布団のめくられたベッドに、仰向けに寝かされた。
 悠人は、仁王立ちになり、腰の凶器を直立させて、由衣を見下ろした。
 無防備な裸身を晒す恥ずかしさは、今までと比べものにならない。それ以上に由衣は、身の危険を感じていた。
 悠人のおちんちんに、心から恐怖を感じた。
「お姉ちゃんの乳首、大きくなっているみたいだ」
 悠人が、手を伸ばして来た。
「触っちゃダメっ!」
 逃げようにも、両手の自由は奪われている。寝返りを打って悠人の視線から逃れるくらいがせいぜいだ。
 これが縛られるということなのか。
 由衣は、手首を擦り合わせ、肩を揺すってみたが、殆ど遊びがない。もしかしたらと試してみたが、ロープが緩む気配すらしなかった。
「ほどいて、悠人。このロープを、ほどいてちょうだい」
 目尻に涙が滲んだ。このままでは、最悪の事態になりかねない。
「ダメだよ。何のために縛ったんだか、わからないじゃないか」
 悠人が、由衣の背中に抱きついた。掛け布団も引っ張った。由衣と悠人は、二人して全裸のまま、布団に入った格好だ。
「いやっ。ダメよ、悠人。そんなのダメ」
「そんなのって、何だよ」
 悠人は、由衣の首に回した腕を離さない。カチカチになったおちんちんの先が、由衣のお尻の肉に突き立てられた。
「悠人、やめて。こんなの、いけないことなのよ」
 由衣は説得を試みる。
「大人しくしてよ」
 悠人の言葉に怒気が込められた。両腕に力を込め、縛られた手首ごと、しっかりと抱きかかえたまま、動こうとしない。
 縛らせたりするんじゃなかった。
 由衣は、後悔していた。悠人も男の子だ。こうなることは、わかっていたはずなのに、なんではっきりと拒否しなかったのか。
 自分から、縛られるための協力までしてしまった。最後までしてもオーケーなのだと、悠人が誤解するのも無理はない。
 でも、姉弟でするなんて……
 由衣は、完全に混乱していた。
 何とか逃げる方法はないか。悠人を説得する言葉はないか。全裸の身を後ろ手に縛られている由衣には、どちらの方法も思いつかなかった。
 どれくらい時間が経っただろう。由衣の肩に、なま暖かい息が掛かるのを感じた。
 悠人は、何もしてこなかった。
 いつの間にか寝てしまったらしい。時計を見ると、午前一時を過ぎていた。
(つづく)



 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

その他 ご意見ご感想が頂ければ幸いです。