読者投稿小説




   小説『村祭りの神輿担ぎ』

                              作;ベル
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1.

田舎暮らしに憧れて脱サラした私は
3年前に妻の美央と一緒に、この村へ引っ越して来ました。
私たちは積極的に村の行事にも参加し
都会的なセンスやパソコン知識を駆使した甲斐もあって
村の人たちとはおおむね良好な関係を築いていきました。

この村には『裸神輿(はだかみこし)』という、古くから伝わる祭りがあります。
褌1枚でお神輿を担ぎ、村中を練り歩くのですが
一世帯から必ず一人ずつ参加するのが決まりです。
参加するのは子供でも良いのですが
去年まで担ぎ手として参加していた私は
先日、階段を踏み外し、運悪く足を骨折してしまいました。

「美央、今年は不参加にしよう」
「ダメよ。誰かが出ないと、何を言われるかわからないわ」
「・・・確かに。2年前に出なかった吉田さん、村八分みたいになったもんな」
吉田さんとは、私たちと同じく他の地域から越してきた人です。
愛想は悪くなかったのですが、裸神輿に不参加だったため
村の人たちから無視されるようになってしまいました。

「・・・私が出るわ。私がお神輿を担ぐしかないもの」
「えっ、美央が?大丈夫かな?
確かに女じゃダメだとは言われてないが、褌姿で参加出来るのかい?」
「事情を話せば、きっとTシャツくらい着せてもらえるわよ」
「そ、そうか・・・。すまないな」
一抹の不安はありましたが、最後は私も同意しました。



2.

祭りの当日になり、私が松葉杖を突いて神輿の様子を見に行くと
すぐに妻を見つけることが出来ました。
彼女も法被に褌という定番の姿でしたが
やはりTシャツの着用は認められなかったみたいでした。

美央は村で一番若い人妻です。
周りの男がニヤニヤしながら、妻の胸元や素足の太ももを見ていました。
普段はみんなから羨ましがられる立場でしたが
骨折している私は、そんな妻を遠くから見守る事しか出来ませんでした。

「いつもならお神輿を担ぐ時は、担ぎ手は法被を脱ぐのだけれど
美央は今回どうするのだろう?」
そう思っていると、裸神輿が始まりました。
やはり担ぎ手は皆、次々と法被を脱いで神輿を担ぎ始めましたが
意外なことに妻が先頭の担ぎ手で
しかも86cm Dカップのバストを丸出しにして神輿を担いでいました。

「美央は晒(さらし)すら巻かせてもらえなかったのか!」
褌自体も男物とは違って幅が細いようで
お尻の方は完全に食い込んでいて、ほぼ丸出し。
前側も陰毛が少しはみ出ていて、ほとんど全裸同然でした。
私は自分が不甲斐なくて堪りませんでしたが
妻が逃げ出さずに堪えているんだと思い直し、見守り続けました。

「わっしょい、わっしょい!」「ワッショイ、ワッショイ!」
村の連中は妻の姿を見て、歓喜しながら掛け声を浴びせました。
言葉にならないほど恥ずかしいはずですが
それでも妻は唇をかみしめながら、お神輿を担ぎ続けました。

「これじゃあ、美央は見世物じゃないか!」
自分の妻が顔を真っ赤にさせるほど辱められているというのに
骨折している私は間に割って入る事も出来ず、見守る事しか出来ませんでした。
しかし本当の羞恥体験は、この後に起こりました。



3.

「わっしょい、わっしょい!」「ワッショイ、ワッショイ!」
お神輿は村の中心部を目指し、緩やかな坂道を登って行きました。
坂道の先には神社があり、その石段をお神輿が登るのですが
石段の序盤付近で妻の褌が緩み始めたようなのです。
しかし、石段の途中で担ぎ手が抜けると、お神輿が傾いてしまい
下手をするとお神輿ごと石段から転げ落ちてしまいます。
私も去年参加したので分かりますが
一旦登り始めたら、そのまま上まで進むしかありません。

「わっしょい、わっしょい!」「ワッショイ、ワッショイ!」
妻は褌を押さえることも出来ず、石段を登り続けましたが
石段の中盤付近で、ついに妻の褌が脱げてしまいました。
(骨折している私は、石段の下からお神輿の様子を仰ぎ見ることしか出来ず
褌が脱げてしまった瞬間を見届けることは出来ませんでしたが)

「わっしょい、わっしょい!」「ワッショイ、ワッショイ!」
身体を隠すことも出来ず、担ぎ手集団から抜け出すことも出来ない妻は
石段の上でお神輿の到着を待っていた村の人たちに
一糸纏わぬ姿をさらけ出すしかありませんでした。
後から聞かされた話では、妻が石段の上に上がった瞬間
歓喜した村の人たちから大歓声が起こったようです。

しかもこれで終わりではありません。
このお祭りでは、五穀豊穣・家内安全・商売繁盛を願いながら
お神輿に打ち水を掛けるのが定番なのです。
もちろん担ぎ手も一緒に水を浴びせられるので
だからこそ始めから褌一丁になってお神輿を担ぐ、という訳なんです。

「わっしょい、わっしょい!」「ワッショイ、ワッショイ!」
その先頭で素っ裸になってお神輿を担いでいる妻は
村の連中にとって格好の的であり、餌食でした。
呼吸をするのがやっと・・・というくらい
たくさんの水を浴びせられ続けた妻は
その様子を、多くのカメラやスマホで撮影されてしまいました。

「ドンッ!ドドン、ドンッ!」
終了の合図である大太鼓が鳴らされた頃には、妻は身体を隠す気力も失せ
フラフラと賽銭箱の前にへたり込んでしまいました。
骨折している私が、ようやく石段の上まで登った時には
褌が脱げて一糸纏わぬ姿になってしまった妻の周りに
人だかりが出来ていました。

「いやぁ、良かったよ。美央さん、大活躍だったね」
「おかげで今年のお祭りは大盛況だった。
これならきっと、神様も願いをかなえてくれるだろうよ」
村長は悪気なく褒めてくれましたが、私も妻も複雑な思いでした。

***** ***** ***** ***** *****

しかし悪いことばかりではありませんでした。
妻だけでなく私に対しても、村の人たちの態度が劇的に改善したのです。
畑で取れた農作物の差し入れは後を絶えず
私の仕事に関しても、向こうから協力を申し出てくるくらいでした。

「裸を散々見られたんだから、これぐらいの見返りがないと。ね?」
今では妻も笑い飛ばせるようになりましたが
意外と恨みには思ってはいないようでした。

しかし私が石段の上るまでの間、妻はどんな状況だったのかを話しませんし
私も自分の身代わりになった妻を問い質すことが出来ず
今も真相は分かりません。
しかし祭りの時、村の連中が高揚していた状態を考えると
妻が指一本触れられずに済んだとは、どうしても思えないんです。

しかも噂によると、妻の全裸写真は村の男の間で共有されているようなのです。
私は今、村の男たちとの信頼関係を築き
妻の画像が保存されている共有データにアクセスしようと目論んでいます。
【おわり】

***** ***** ***** ***** *****

(あとがき)
一時期、コロナ過で全国のお祭りが中止になりましたが
最近はほとんどのお祭りが開催されるようになり
風物詩としての様相を取り戻したように感じます。
やっぱりお祭りって、活気があって良いですよね。
しかしそのお祭りも、地域特有の文化や風習を伝える反面
村社会に属するなら強制的に参加せざるを得ないイベントでもあります。

今回は恥ずかしい思いをする妻ではなく
妻を見守るしかない夫の視点で書きましたが、露出っ子の皆さんには
「もし自分が、隠すことも逃げ出す事も出来ない状況に追い込まれたら・・・」
と思いながら読んで欲しいですね。

実際、お祭りというのは特別な場なので
裸に近い格好になっても、案外と許されるんじゃないかと思いますよ(笑)
【ベル】


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