露出小説


   ※私を辱める契約書を作ってください※
   『契約自由化法〜女社長の秘書』

                              作;ベンジー

第7章 最後の砦

 星崎工業所の朝はラジオ体操から始まる。
 玄関前の広場に全社員が集まり、学校さながらの朝礼台に昇った当番の号令に合わせてラジオ体操第一を実行する。それが決まりとなっていた。
「今日は総務の村上知佳さんか」
 当番に男女の区別は無い。村上知佳は上下水色のジャージ姿だ。
 制服はスカートなのだが、当番の時だけは着替えていた。以前に突風のため女子社員のスカートが大きく捲れ上り、下着が丸出しになるという事故が有ったからだ。
 近所の子供たちが最後列に並んで体操しているのも、いつものことだ。
 体操後には上司から連絡事項があったり、諸注意があったりすることもあった。社員の結婚やおめでたの報告があったりもした。
 夕子がスカート姿で朝礼台に立つと、男性社員はそれだけで喜んだ。
 その日、出社した夕子は玄関の前に立った。
 妄想の中で、夕子が何度もひどい目に遭った場所だ。普通に服を着ていても、気恥ずかしさを感じずにはいられない。
(こんなところでハダカされてたまるものですか)
 夕子は踵を返した。

        ◇

「《契約自由化法》のお勉強は終わったんですか」
 あの子はいつもこれだ。
 昨日は章雄と会っていたことを知っているのだ。若い女の子なら「夕べのデートはどうでした」と聞いて来るところだろう。
(章雄も可哀想なものね。あの子にも気にして貰えなくて)
 夕子にしたところで、待ち合わせの時間ギリギリまで《契約自由化法》の資料を読んでいた。ネットの中には、その手の記事が溢れていた。
 夕子は読み漁った。中には眉唾な記事もあったが、概ね理解したと言って良いだろう。
「完璧よ。弁護士にだって負けないわ」
 夕子は胸を張った。
 夕子は自身のM性について、ある程度は自覚していた。あの子や郷原との会話の中で、追い込まれていく自分の妄想を楽しんでいた部分は否定できない。だがそれもこれも、公序良俗と言う最後の砦が堅固だと信じていたからに他ならない。
 どうしようもなくなったら警察に保護を求めれば済む。郷原が誘拐や拉致と言った非合法な手段を取らない限り、これで安泰の筈だった。

 ――そうでもないかもしれませんよ

 あの子の言葉は、夕子の基盤を揺るがした。
 T自工との特許売買契約成立により手形が不渡りになる心配はなくなったが、最後の砦は、やはり堅固であって欲しい。
 夕子は空いた時間を、そのためにだけ使った。
 成果は次の通りだ。
 医療の分野で高い支持を受けている同法だが、それは魔法の薬に限ったことではなかった。心療内科の部門でも大きな期待がなされていた。性同一性障害に悩む男女に身体改造や戸籍の変更が認められたように、露出症に悩む患者にも法的な措置が取れないか、多くの医療機関が研究に乗り出していた。
 過度の露出症に悩む患者の間では、すでにいくつかの治療例が出ていた。
 露出を抑え過ぎたせいで精神崩壊を起こす可能性が認められる場合。ストレス障害を起こす危険がある場合。期間を定めて露出を解禁することにより、やるだけやったと露出からの卒業を謀る場合。過度の露出を強要することにより、露出を忌避するように仕向ける場合。などである。
「ハダカで外を歩いても、警察に捕まらないという意味ですか」
 あの子らしい、端的な質問だ。
「まあ、そういうことよ」
 この事実は夕子を打ちのめした。法律が、公衆の場でハダカでいられる権利を保障しようと言うのだ
 現実に多くの男女が《ペット契約書》を結び、同法の適用を受けようとする動きがあり、実例も報告されていた。
 若い女の子が全裸四つん這いで公園を散歩させられていたり、鉄の檻に入れられたまま、トラックの荷台に載せられ街中で晒し者にされたり、日本一の観客動員数を誇るテーマパークでストリーキングを強要されたり……
 夕子が最も印象に残った例は、丸裸のまま後ろ手に手錠を掛けられ、羞恥の部位をどこも隠せずに歩行者天国を歩かされている画像だった。
「マニアって、ここまでするんですねぇ」
 もっとも、ネットに氾濫している投稿には誇張やヤラセも多いことだろう。同法の適用を受けようとする男女の大部分が、専門家の承認と言う高い壁を乗り越えることができずに挫折していたのもまた事実だった。
 確かなのは、屋外でも合法的にハダカでいられる余地がある、と言うことだ。
「あなたならどうする?」
 夕子の問いに、
「関係ないですよ。外でハダカにならないのは警察に捕まるからではないですから」
 これが普通の考え方だった。
 露出症の気があると自認する夕子ではあったが、妄想の世界で楽しむ機会はあっても、現実の世界で、ハダカで外に出ることはできない。
 確かなのはもう一つ。ハダカでいられる′利を取得することは、現実にはかなり難しいと言うことだ。
 深刻な露出症に悩み、医療機関の治験患者にでもなる覚悟がなければ、その権利は得られない。得られたとしても、代償の大きさは計り知れない。一時の快楽を求めるだけの目的では、到底成し得ない選択だった。
「それで、社長はハダカになれるんですか」
 夕子は顔を顰めた。イヤな聞き方をするものだが、それこそが本題だった。
 今回の代位弁済契約に《契約自由化法》の適用を受けようとすれば、専門家の承認は避けて通れない。問題は、夕子がハダカになる必要性が認められるかどうかだ。
「難しいと思うわ」
 それが結論だった。
 普通ならあり得ない。債務不履行による罰則と考えるには無理があり過ぎる。
「つまらないの」
 あの子の言葉に苦笑いの夕子だった。
 ただ一つだけ可能性があるとすれば、特殊な例として罰則の妥当性を認めて貰うことか。
 第一に、当事者がその罰則を受けることを認めていること。第二に、その罰則が課されるに充分な不法行為が成立していること。
 この二つはすでにクリアしていると言って良いだろう。夕子は代位弁済契約書に署名・捺印している訳だし、十億円の手形債務をハダカで外に出ることでチャラにできるなら安い物かもしれない。
 そして最後に、与えられる罰則が、当該当事者に限って言えば、非人道的な虐待に当たらないこと。雪男を氷漬けにしたのでは罰にならないし、炎の魔神を火あぶりにしたのでは、罰を与えることにはならない、と言う発想である。
「かなり微妙なものになるだろうけどね」
 全裸で放り出されると言った行為は、一般女性ならば耐えがたい屈辱であることに間違いない。しかし、当事者が露出症であった場合、苦痛であることに変わりはないが、一般人が受けるそれと同等のものとは言えない、とする見解だった。
「すごいです。社長が重度の露出症だとカミングアウトするんですね」
 あの子が手放しで喜んでいた。
「しないわよ。あくまで可能性の話をしただけだわ」
「そうなんですか」
「それにもし、あなたの言うカミングアウトをしたとしても、認めて貰えるかどうかわからないわよ」
 夕子がネットで仕入れた知識の範囲で考えた結論だった。
 もちろん、認めて貰う必要もないのだが、それでも認めて貰おうとしたら、まず夕子が心療内科を受診して、専門医に露出症であるとの診断を出して貰わなければならない。
「じゃあ、すぐに行きましょうよ。心療内科」
「そんなに私を露出症にしたいの」
「大丈夫です。社長なら必ずそう診断されますよ」
 何が大丈夫なのか。
 夕子が露出症と診断されたら、代位弁済契約書に《契約自由化法》の適用を受ける道が拓かれてしまうではないか。
「行かないわ」
 逆に、心療内科へ行きさえしなければ、夕子の身の安全は保障される……筈である。
 法律家でもない夕子に、これが正解だと言い切る自信はなかった。
 最後の砦は堅固であるに限る。
 夕子はむしろ否定して欲しかった。専門家に「そんな法解釈はあり得ない」と断言して貰えたら、どんなに心強いことか。
(郷原さんだったら、どうするのかしら)
 会社には法務担当もいたし顧問弁護士もいたが、相談する気にはなれなかった。せめてどちらかが女性だったら、話は違っていたのかもしれない。
 夕子は、自分の考えをレポートにまとめておいた。
「どうしようかなぁ」
 夕子は、朝刊の折り込み広告を広げた。

『女医による、女性のための心療クリニック。あなたの心をケアします』

 このキャッチコピーが気になってならない。
 どこにでもある心療内科の広告だが、いかにもタイミングが良過ぎるのではないか。郷原が仕掛けた罠かもしれない、と思う一方で、女の先生なら相談してみても良いかと思わないでもない。
 露出に興味があることは自覚している。
 だがそれは、綺麗な服を着たら人に見せたいと思う程度のものであり、女性なら誰でも多少は持っているものの範囲ではないのか。
 少なくとも、露出症と診断されることはないと考えていた。
 あの子には「行かないわ」と宣言したものの、
「やっぱり気になっているんじゃないですか」
 広告が見つかってしまった。別に隠そうともしていなかったのだから仕方がないが。
「そうじゃなくて、私が露出症ではないという診断が貰えるかもしれないでしょ」
 それが真意だと主張したのだが、
「いいから。いいから。はい、予約を入れましょうねぇ」
 あの子の目に輝きが戻っていた。「これは命令よ」と言わんばかりに。
 夕子は広告に載っていたQRコードを読み込み、心療内科・米倉クリニックのHPを表示させた。

        ◇ 

 その日、帰り際になって、あの子が言い出した。
「そう言えば、見ましたか、例の投稿、更新されていましたよ」
 通りを恥ずかしい格好で歩いた女性の件か。続きは気になっていたものの、郷原と《契約自由化法》の二つに振り回されて、忘れていた。
「ありがとう。帰ったら見てみるわ」
 金曜日の夜はフィットネスクラブに通っていた。幼い頃からスイミングスクールに通っていた夕子は、学生時代、水泳部で活躍していた時期もある。仕事の都合で毎週とはいかなかったが、一心不乱に泳いで帰ることもストレス解消の一つとなっていた。
 例の投稿は、自宅に戻ってからのお楽しみとなった。

 自宅のパソコンで投稿のページを開いた時には、夜も更けていた。
 早速、目的のタイトルが目に入った。

○Y子 路地裏でハダカにされました

 ハダカって……ノーブラ・ノーパンではなかったの?
 夕子の心臓が早鐘ように鳴り始めた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A子から「この前の続きをしましょう」と言われました。
ノーブラ・ノーパンで街を歩いた続きです。
今回は十二時を過ぎていました。
駅前アーケードには、ほとんど人の姿が見えません。
殆どのお店も閉まっていました。
また、この前と同じ格好をさせられるんだと思いました。
続きと言うからには、あの格好のままで電車に乗せられるのかと思っていたら違いました。
「痴漢に襲われなくて残念でしたか」
A子にからかわれながら路地裏まで行きました。
この前、あの格好に着替えさせられた場所です。
「じゃあ脱いでくださいね」と言われ、また同じ格好をさせられるのだと思いました。
ブラウスを脱ぎ、ブラを外して待っていると、
「今日は先にスカートも脱いでくださいね」
逆らい難い言葉遣いでした。
ちょっと不安はあったのですが、逆らったとしても、どうせ最後にはやらされてしまうのはわかっています。
私はスカートを脱ぎました。
「パンツもね」
A子は、ここで全裸になれと言うのです。
さすがにそれはと躊躇していると、
「十秒以内に脱がないと、そのままおいて帰りますよ」
怖い顔で言うのです。
私は脱ぐ決心をしました。
野外で全裸になるのは初めてではありません。
でも、こんなに人が近くにいる場所で脱いだことはありませんでした。
パンツを脱いで全裸になると、A子は私の服を全部トートバックに詰め込みました。
「今日はこれから宝探しゲームをします。Y子さんは、その格好で宝物を探し出してくださいね。制限時間は終電が来るまでです」
A子がとんでもないことを言い出しました。
ハダカで宝探しゲームだなんて、何を考えているのでしょう。
でも、A子には逆らえません。
「宝探しでも何でもするから、服を返して」
そうお願いしたのですが、A子はニヤリと笑って言いました。
「ダメですよ。だって、探し出す宝物って、このトートバックなんですから」
A子は私の服を通りのどこかに隠してしまうと言うのです。
いくら人が少ないからと言って、全くいないわけではありません。
路地に隠れながら、どこまで探しに行けるでしょうか。
さらに残酷な事実に気づいてしまいました。
A子がなぜ「制限時間は終電まで」と言ったのか。
終電が駅に着いたら、乗客たちがこの道へ降りて来ます。
その前にトートバックを見つけないと、私の人生は終わってしまいます。
そういう意味だったのです。
「じゃあ、百まで数えてからスタートしてくださいね」
A子が駆け去りました。
私は数え出します。
百って、こんなに大きい数字だったでしょうか。
数え終わると同時に、素足のまま路地裏からアーケードに出ました。
遠い明かりに裸身が照らされます。
でも、恥ずかしがっている場合ではありません。
早くトートバッグを探さなければ。
人に見つからないように、細心の注意を払いながら走り回りました。
消火栓の根本に、それらしいものを見つけました。
A子にしては簡単過ぎるとも思いましたが、何しろこっちは全裸です。
すぐに駆け寄ろうとしましたが、目の前のコンビニが私の足を躊躇させます。
こんな格好でコンビニの前を走り抜けるなんて。
でも、それしか道はないのです。
私は思い切って走り出しました。
「お願い。こっちを見ないで」
店員さんはいたでしょう。
お客様も何人かいたかもしれません。
その中に、私の姿に気づいた人がいるかもしれません。
確認する余裕もなく、消火栓のところまで辿り着きました。
それは間違いなくトートバッグでした。
片手で掴むと、一番近くの路地裏に駆け込みました。
「やったあー。これで終わりだ」
そう思ったところに誰が立っていました。
心臓が止まるかと思いましたが、A子でした。
トートバッグを持った私を見て、ニヤニヤと笑っています。
「ギミックに引っかかりましたね」
急に不安になりました。
言われてみれば、そのトートバッグは軽すぎます。
私の脱いだ服が入っているとは思えません。
「そっちは偽物なの。帰りはその中の物を着けて帰ってくださいね」
「ウソっ!」
中身を見てびっくりしました。
手錠が一つ入っていただけで、衣類は何もありませんでした。
「着けてあげますね」
A子はそういうと、私を後ろ手にして手錠を掛けたのです。
「Y子さんの服はご自宅の玄関に置いておきますね。明るくなるまでには帰ってくださいよ」
「そんな、ムリよ。待って頂戴」
何を言っても聞いてくれません。
A子はそのままアーケードに出て行ってしまいました。
このまま置いて行かれたのでは大変です。
追い掛けようしましたが、タイムアップでした。
終電が駅に着いてしまったのです。
人の群れがこっちに向かって来ます。
その中にA子が消えていきます。
私は路地裏に引き返し、蹲りました。
そこで人の流れが過ぎるのを待つしかなかったのです。
全裸で後ろ手に手錠を掛けられた姿で。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(これは一体、何?)
 夕子は自分の目を疑った。このコーナーは体験談の筈だ。つまり、書かれていることは事実。投稿して来た女性が実行して来たことになる。
 駅前の路地裏で全裸になるなんて。
 夕子は自分の体験と比べていた。あの子の命令でノーブラ・ノーパンになり、ショッピングモールを歩いた。それだけでも気を遣ってしまう程の羞恥と興奮を覚えたのだ。
 それなのに、このY子さんは全裸。それだけでも信じられないと言うのに、その上、後ろ手に手錠を掛けられて放置されるとは。
 家までは、普段なら電車に乗って帰る距離の筈。それを不自由かつ屈辱的な姿で歩いて帰ったのか。
 明るくなるまでに辿り着けたのか。
 家の鍵はどうしたのか。手錠はどこで外して貰えたのか。
 次々と疑問が湧いて来る。
 もし夕子がこんな目に遭ったら……
 女性が全裸で野外に放れ出された画像は、《契約自由化法》の勉強をしている際、ネット上で何度も見ていた。それらの殆どはイメージ画像だった。それでも、こんなことを実行しているのだと想像することで、夕子の心は乱されていた。
 投稿記事には画像こそ添付されていないものの、いや、それだからこそ真実味があった。
 Y子と言う女性は、現実に街中で全裸にされた。夕子には絶対に無理だと思っていた出来事が、ぐっと身近に迫って来た。
《契約自由化法》の適用を受けようとする精神疾患を抱えた女性たちだけでなく、一般女性の中にも、こうした現実は存在していたのだ。
(全裸になっても良いということなの?)
 答えてくれる者はいない。
(全裸になりたいの?)
 夕子は自分に問うた。もちろん、街中で全裸なると言う意味である。
 こちらはすぐに答えが出た。
(全裸になんて、なれる訳ないじゃない)
 夕子は思った。昨日、章雄との逢瀬で満足のいくセックスができなかったせいだ。郷原とのやり取りでストレスが溜まっているせいだ。
 正常な精神状態でないから、おかしなことを考えるんだ。
(でも、あの子に命令されたら……?)
 夕子はあの子に逆らえない。あの子もこの記事を読んでいる筈だ。わざわざ更新されていると教えてくれたのは、意味があってのことなのか。
 夕子の指が、いつの間にか女の花弁を弄っていた。



 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

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