露出小説お姉ちゃんのキッス 作;ベンジー 第五章 何もしちゃダメなんだからね(前編) 1 悠人が目を覚ました時、腕の中に由衣がいた。 二人とも全裸だった。 未だ、夢の中なのか。射し込む朝日に目蓋を擦りながら、記憶を辿る悠人。 (そうだ。夕べ……俺、寝ちゃったんだ!) 悠人は、上体を起こして、由衣を見下ろした。赤いロープが、由衣の細い手首に巻き付いていた。あの不器用な縛り方は、間違いない。悠人が縛ったのだ。 「起きたの?」 由衣が、頭を少しだけ捻った。 「あっ、お姉ちゃん。ゴメン。俺……」 悠人は反省していた。縛っておいて、由衣の承諾も得ず、先に寝てしまったのだ。 「ひどいよ、悠人。お姉ちゃんをこんな格好のままにして」 「だから、ゴメンって」 由衣は怒っているのだろう。悠人は、どうしたら良いか、わからなかった。 「これ、ほどいてよ」 由衣は、背中を向けたままだった。 悠人は、急いで手首のロープに手を掛けた。結び目が、思ったよりきつくなっていて、ほどくのに苦労した。ハサミを使おうとも思ったが、ロープを切ってしまっては、もう使えなくなってしまう。 朝から、大汗を掻きながら、何とかほどくことができた。 両手が自由になっても、すぐに由衣は起き出して来なかった。ベッドの上で手首についたロープの痕をさすっていた。 肩の間接にも違和感があるらしい。二の腕を脇に押し付けたまま、肩を回した。 白い背中が、やけにまぶしかった。 カーテンも引かずに寝てしまったようだ。 若い男女が、全裸のまま同じベッドで一夜を明かしたのだ。悠人の股間は、早くも元気いっぱいになっていた。 「悠人。お姉ちゃん、着替えるから……」 一瞬、何のことか、わからなかった悠人だが、すぐに部屋から出て行けと、言われているのに気づいた。 「あっ、うん。ゴメン」 悠人は、散らばったロープに足を引っかけながら、丸裸でベッドを降りる。 マヌケな退散だったと思う。 自分の部屋に戻り、パンツを履いた。 由衣は、どれくらい怒っているのだろう。ビクビクとする一方で、由衣の裸身を抱き締めた感触が、腕の中に残っていた。 (お姉ちゃんと、一晩中、一緒だったんだ) 悠人には、不思議な満足感があった。いつもこうなら良いのにと、真剣に思っていた。 朝食の支度の前に、由衣は、もう一度お風呂に入ったらしい。食卓で向かい合った由衣から、シャンプーの香りが漂って来た。 悠人は、怖々と訊いてみた。 「お姉ちゃん、怒ってない?」 返答がない。さっき「朝ご飯よ」と呼んでくれたきり、会話をしていなかった。 不安になる悠人。 お茶碗を手にしたまま、上目遣いで由衣を見た。 「最初から、そのつもりだったの?」 由衣が口を開いた。反射的に、背筋を伸ばす悠人。 「そんなことないよ。お姉ちゃんの部屋にロープがあるなんて、知らなかったし」 由衣が通販で、SM用のロープを買い込んでいるなんて、知らなかった。 「ホントに?」 「うん」と大きく頷いた悠人だが「そう言えば、なんで知ってたの?」 悠人の反撃に、由衣が絶句した。 「……だから、あれは瑞穂が」 瑞穂は、何度かこの家にも来ていた。悠人とも一緒に遊んだことがある。 「えっ、瑞穂って、星埜先輩のこと?」 「そうよ。瑞穂が勝手に頼んだの。私じゃ、ないわ」 悠人は、そうかもしれないと思った。冷静になって考えてみたら、由衣がSM用ロープなんて頼むはずがない。でも、 「だったら、なんで協力してくれたんだよ」 由衣は、うまく縛ることができなくていた悠人に、縛り方を教えてくれた。自分から、後ろ手に縛られてくれたのだ。 「だって、悠人が泣きそうだったから……」 「それだけ?」 「そうよ。それだけよ」 由衣は、食べかけの食器を重ねて持ち、席を立ってしまった。 (やっぱり、怒っているんだ) 仕方がないだろう。いくら協力してくれたからと言って、一晩中、ハダカで両手を縛ったままにしておいたのだから。 もう、縛らせてくれないだろうか。 悠人は、茶碗のご飯を掻き込むと、食器を持ってキッチンで持って行った。 洗い物をしている由衣の隣に立ち「ゴメンなさい」と食器を差し出す。由衣は、じっと悠人を見つめた後、濡れた指を、悠人の顔の前で弾く。 「冷たっ」 水が、悠人の顔に掛かった。 「お姉ちゃんに恥ずかしいことをさせた罰よ。思い知りなさい」 由衣は、笑っていた。 許してくれたのだと、悠人は嬉しかった。 「本当にゴメン。俺は、お姉ちゃんと一緒に寝たかっただけなんだ」 悠人は、拝むように手を合わせた。 「もしかして、ハダカで?」 由衣は、洗い物の手を休めずに、訊いて来た。 「うん。正直に言うよ。できれば、ハダカで抱き合って寝たかったんだ。それだけだよ。お姉ちゃん、縛っておかないと、逃げちゃうだろう」 由衣の顔が真っ赤になった。夕べの姿を、思い出したのだろう。 「そんなこと……」 「じゃあ、今夜から一緒に寝てくれる?」 成り行きとは言え、随分と大胆な発言だと、悠人は思った。 言ってしまったものは取り返しが付かない。悠人は、背中から由衣の首に腕を回し、由衣の後ろ髪に自分の顔を押し付けた。 「お願いだよ。お姉ちゃんが大好きなんだ」 由衣の手が止まった。水道の水は出しっ放しだ。 (また、怒らせちゃったかな……) 悠人は、不安になった。少しの沈黙の後、由衣は小さな声で答えた。 「考えとくね」 2 由衣は、悠人と並んで、いつもの通学路を歩いていた。 二人とも、黙ったままだ。 横目で悠人を見る。気づかない内に、由衣より少しだけ、背が高くなっていた。 (かわいいだけだったのに) いつも由衣に甘えてばかりいた弟が、いつの間にか由衣のヌードを撮ったり、お風呂でフェラチオさせたり、ハダカのままロープで縛ったり…… 一晩中、縛られたままでいたせいで、肩の関節がおかしかった。 手首には、わずかながら、ロープの痕が残っている。お風呂に入ってよく揉んだせいで、意識して見なければ、わからないだろう。 男の子だから、エッチなことに興味があるのは仕方がない。でも、実の姉を相手に、そこまでして良いものだろうか。 今夜からは、一緒に寝て欲しいと言う。 それもハダカで。 姉と弟の間柄で、許される限界を超えているに違いない。ハダカで抱き合って寝るなんて、幼い頃にも、した覚えがないのだ。 (ホントに寝るだけ、なのかしら) 由衣は、自分の想像に、顔が火照った。 由衣は夕べ、悠人に縛られた。全裸のまま、何も抵抗できなかった。悠人は、由衣を好きにできたのだ。 思い出すと、胸が痛む。 怖くて、切なくて、逃げ出したくてもどうにもならなくて…… あの気持ちは、何だったのかしら。 由衣に抱きついた以外は、何もしないで寝てしまった悠人。 エッチな妄想をしていたのは、由衣の方だった。 きっとそうだ。そうに違いないと、自分に言い聞かせた。ハダカで寝たって、きっと朝まで同じベッドに寝ているだけなのだ。 また、縛らせて欲しいと言われるのかしら。 もう一度、縛られたら、あの気持ちの正体が、わかるのかしら。 「何?」 悠人に尋ねられた。いつの間にか、悠人の顔を見つめていたらしい。 「ううん、何でもない」 由衣は、慌てて顔を背ける。まさか、二人で一緒に寝ているところを想像していた、とは言えなかった。 悠人は「変なの」と笑いかけた。 無邪気な笑顔だ。幼かった頃と、ぜんぜん変わっていない。こうしていると、悠人が由衣を縛ったなんて、信じられないくらいだ。 (でも、もし「したい」って言われたら……) あんなに大きくしていたおちんちんを、どうするつもりなのか。 ――今日はベッドでして欲しいんだ 由衣は、思い出した。 悠人は、夕べ、ベッドでフェラチオして欲しいと言っていた。二人でハダカのまま布団に入り、おちんちんをしゃぶって貰ってから、一緒に寝るつもりだったのだ。 由衣の部屋でロープを見つけて、悠人は、縛るほうに、夢中になってしまったのだろう。縛り終えたら、満足して寝てしまったようだが。 (縛られたら、抱き合って寝るなんて、できないのに) 男の子とハダカでベッドに入る。そうした妄想をしないではない。由衣もカレシは欲しいと思うし、セックスにも興味はある。 特に気になる男の子がいるわけではないが、相手は、少なくとも、悠人ではなかった。 悠人は、何を望んでいるのかしら。 それは、由衣自身に対しても、言える疑問だった。 3 悠人と一輝は、いつもの隠れ家に潜んでいた。 一輝は、悠人の様子を見て、一目で何かあったと気づいたらしい。早速、この場所に引っ張られた。 「由衣さん、今度は何をしてくれたんだ?」 一輝のストレートな質問は、いつもの通りだ。悠人も、一輝に聞いて貰いたい気持ちがあったが、こうやって、面と向かって訊かれると、話すのをためらってしまう。 「うん、それが……」 夕べの出来事を、由衣と二人だけの秘密にしておきたいとも思うのだが、 「縛らせて貰えたのか」 「えっ!」 「図星みたいだな。悠人もやるじゃないか」 一輝の目の色が変わって来た。ますます顔を近づけて来る。悠人の逃げ道がなくなっていった。 「ロープは、どうしたんだ?」 一輝の追及は止まない。 「お姉ちゃんが、通販で買ってた」 「へぇー、由衣さんってマゾだったのか。見かけによらないものだなあ」 悠人は、ネットで見た女の子たちを思い出した。ハダカで縄を掛けられて、恍惚とした表情を見せていた。そうされるのが気持ちいいようだ。 一輝は、由衣もそうだと言っているのか。 「お姉ちゃんは、星埜先輩が勝手に注文したって……」 「そんなの、照れ隠しに決まっているじゃないか」 決めつけているのは、一輝のほうだと、悠人は少しだけムッときた。 「由衣さんが変態みたいに言われるのは、イヤだったかな」 悠人は、返事をしなかった。 でも、一輝の言う通りなのだろう。悠人にとって由衣は、誰よりも素晴らしい女性なのだから。 「悠人って、ホントにわかりやすいよなあ」 「どうせ、そうだろうよ。一輝には、すべてお見通しってわけだ。でも、お姉ちゃんはマゾなんかじゃないぞ」 悠人は、珍しく食って掛かった。一輝も少しだけ意外そうな表情を見せたが、 「由衣さんだって、悠人だったから、そこまで許したんだろう」 「えっ、それって……」 今度は、悠人のほうが言葉に困った。一輝の言っている意味がわからない。 「もし相手がオレだったら、由衣さん、縛らせてくれたと思うか」 一輝が続けた。 相手が、一輝だったら…… 悠人の胸が痛んだ。今まで感じた覚えのない感覚に戸惑いながらも、 「そんなわけないだろう」 声が大きくなっているのに気づき、慌てて口を押さえた。 一輝が、思わせぶりな目つきで見ていた。 悠人は睨み返す。 (そんなわけない。ハダカのお姉ちゃんを縛れるのは俺だけだ) 一輝が「ちょっと待った」というように、両手の掌を向けた。自分で思っているより、怖い顔になっていたらしい。 「だから、そういうことだよ。全く、うらやましいぜ」 「うらやましい?」と、悠人は首を捻る。 「そうだよ。あんなきれいなお姉ちゃんがいるってだけで、男子生徒の妬みを買っているんだぞ。自覚がないのは悠人だけじゃないのか」 悠人は、ずっと由衣と一緒だった。そこに由衣がいるのは、当然のことだった。 それでも最近は、あれっと思うことがある。 由衣にではなく、由衣を見る男子の視線にだ。通学路を並んで歩いている時など、何度も振り返っている奴もいた。 「そう言われてみれば……」 「なっ、思い当たる節があるだろう。みんなにばれたら、殺されるかもよ」 「うげっ」 一輝の言う通りなら、悠人の命はないかもしれない。一輝に促されるままに、悠人は夕べの出来事を話してしまった。 全裸の由衣を後ろ手に縛り上げ、無抵抗のまま一晩中抱き締めていた、と。 一輝も、そこまでは想像していなかったようだ。「ほおー」と感心したような素振りを見せていたが、とんでもないことを言い出した。 「オレにも縛らせてくれないかなあ。一度、頼んでくれよ」 「そんなのダメだよ」 悠人は、即答で拒否した。 「ちぇ、ケチ。独り占めなんてズルイぞ。まったく……」 一輝は、うらやむ様子もなく、ニタニタと笑っていた。 からかわれたのかと顔を熱くする一方で、悠人は、胸をなで下ろしてもいた。 「しゃーない。自分で頼んでみるか」 悠人は、一輝の目をのぞき込んだ。さっきも感じた胸の痛みが甦る。たいした痛みではないが、ざわざわと擦られる感じだ。 「橋渡しくらいは、してくれよな」 一輝が、悠人の背中を叩いた。 何でもお見通しの一輝だ。悠人の動揺に、気づいていないわけがない。 (お姉ちゃんに告るつもりなのか) ハダカの由衣が一輝に抱かれるシーンを思い浮かべ、悠人は頭を強く振る。それ以上は、想像したくなかった。 「そんなに怖い顔するなよ」 一輝が、もう一度、背中を叩いた。 「それより、次はどうするんだ。これで終りではないんだろう」 「えっ、う、うん、まあ……」 悠人の心理が、そのまま現れたような受け答えだった。 ――お姉ちゃんと一緒に寝たかっただけなんだ 今朝、由衣に告げていた。「考えとくね」と言われたキリ、返事は貰っていない。由衣とハダカで抱き合って寝るのは、無理かもしれないと思っていた。 「はっきりしない奴だなあ。それで、おっぱいは柔らかかったか」 一輝の質問が、露骨になってきた。 「う、うん。柔らかそうだったけど……」 「何だ。揉んでないのか」 「とんでもない。揉むどころか、触らせてもくれないんだ」 悠人は正直に答えた。一晩中、由衣を抱き締めてはいたが、首の回りに手を回しただけで、それ以外の素肌には触れていない。 ロープを胸に回す時、少しだけ乳肉の柔らかさを感じただけだ。 「何のために縛ったんだよ」 一輝の言葉は、唐突に聞こえた。 「そんなこと言っても」 「この前言ったじゃないか。縛ってしまえば、朝まで由衣さんの身体を好きにできるって。おっぱいどころか、オマンコだって見放題、触り放題だろう」 悠人は、顔が真っ赤になった。 縛られて身動きできない由衣のおっぱいを揉みまくり、両足を広げさせて、秘密の花園を大公開させているところを想像したのだ。 そんなことをしたら、由衣はどれだけ恥ずかしがるか。 いや、その前に絶対嫌われてしまう。 次の日から、一緒に寝てもくれないし、お風呂にも入ってくれなくなるに違いない。 「やっぱり無理だよ」 悠人には、今のままでも十分だった。 「大丈夫だと思うけどなぁ。由衣さんも、望んでいるかもしれないぞ。一晩中、放っておかれる方が、ずっと辛いって。そうじゃなきゃ、縛らせてくれたりはしないさ」 一輝は力説していた。どこにそんな根拠があるのかと、疑いたくなるほどだ。 「そうかなあ」 悠人には信じられないが、一輝は自信満々だった。 「女っていうのはなあ、口では『何もしないで』って言いながら、されるのを望んでいるものなんだ。しないほうが、後になって文句を言われることだってあるんだぞ」 不思議と説得力があった。経験談のように話すからだろうか。 由衣が望んでいるなんて…… お風呂で、身体を洗わせてもくれないのに。 「本当に大丈夫かなあ」 悠人は、上目遣いで一輝の顔を覗いた。 「大丈夫だ。頑張ってみろよ」と一輝は太鼓判を押した上で「仮に一度や二度、怒られたって、お前達は姉弟なんだから、いつまでも怒ってはいないさ。由衣さんだって、きっと悠人の気持ちをわかってくれるよ」 一輝は、言い終わると、悠人の目を見て大きく頷いた。 そうかもしれないと、思ってしまう悠人だった。 4 その日、由衣は、いつもより早く家に帰って来た。 大きめのTシャツとハーフパンツに着替え、自分の勉強机に頬杖を付いた。 悠人は、まだ帰って来ない。一人でいると、いろいろなことを考えてしまう。由衣の目は、自然と昨日届いた宅配便に向いていた。 中身は、夕べのロープだ。 由衣の両手の自由を奪い、恥ずかしい格好で一夜を過ごさせた元凶だ。 (今夜も、縛られちゃうのかな) そう思うと、由衣の股間に甘い痺れが走った。 ロープを捨ててしまおうかと、考えなかったわけではない。 でも、できなかった。 ハダカで縛られるのは、恥ずかしくて辛い仕打ちだ。もう二度と縛られたくない。そう思う一方で、ロープの持つ妖しい魅力も否定できない。 一糸まとわぬ丸ハダカの由衣。 何をされても抵抗できない。自分は悠人の思うがまま。無力な私…… 女の子なら、絶対、そんな目に遭いたくないはずなのに、なぜか頭から離れない。 一晩中、放置されていた記憶は、決して不快なものではなく、むしろ、悠人の腕と温もりに包まれた安心感だけが、思い出される。 でも、何かが足りない。 身体の奥深くに潜んだ欲求が、足りない何かを求めて止まない。 (私ったら、何を考えているのかしら) 由衣は、背筋を伸ばし、頭を振った。 悠人は思春期の男の子だから、エッチなのは当たり前。女の子のハダカとか、SMとか、何でもやってみたいだけ。 だから、姉である自分さえしっかりしていれば、何の問題もない。 由衣は、無理やり自分に言い聞かせた。 こんなことばかり考えてはダメと、由衣は立ち上がった。 ふとカレンダーが目に留まる。 (そうだ。明日はゴミの日だ) 由衣は、ゴミ箱からゴミをビニール袋に空けると、悠人の部屋に向かった。 悠人が中学生になった頃から、悠人の部屋の片づけはしないようにしていた由衣だが、ゴミの回収だけは別だった。放っておくと、ゴミ箱が溢れていた。 パジャマを脱ぎ散らかし、ベッドの布団は乱れたまま。床にはアニメ系の雑誌が散乱し、ゲームソフトがケースから飛び出していた。 小さい頃の方が、ちゃんとしていたのにと、由衣は目を細めた。 (エッチな本とかも、どこかに隠しているのだろうなぁ) いたずら心を押さえ、部屋を出ようとした由衣だったが、悠人の机に意識を奪われた。A4版のOA用紙が数枚、裏返しになっていた。 インターネットの画像をインクジェットプリンタで印字したものだろう。裏からでも、表が透けて見えている。恐らく、女の子が縛られている画像だ。 由衣は、いけないとは思いながらも、誘惑には勝てなかった。 戸惑いがちの手で、机の上の紙を手に取る。全裸の女の子が後ろ手にロープを掛けられていた。恥ずかしそうに顔を背ける仕草が、哀しげだった。 (私も、こんな顔をしていたのかしら) OA用紙をめくっていく度に、過激なポーズになっていく。「高手小手縛り」と書かれた画像もあった。悠人が、夕べ、言っていたものだ。 全裸で縛られたまま、板の間に正座して首を前に垂れる姿にもドキッとしたが、最後の一枚を見たときには、思わず悲鳴を挙げていた。 タイトルは「M字開脚縛り」となっていた。 両手を背中で縛られてるのは他の数枚と同じだが、最後の一枚は、足も縛られていた。 それも、アルファベットの「M」の字の形に両足を折り、膝の上下に掛けられたロープで、背中へと引き絞られている。 その結果は、見るも無惨。 女の子のもっとも恥ずかしい部分が、これでもかというほどに露出していた。 見せつけていると言ったほうが良いかもしれない。M字開脚縛りで仰向けに寝かされた女の子は、全くの無防備だ。 男の子に見つかったら、間違いなく犯されてしまうだろう。抵抗のできる余地は、なさそうだ。 (悠人は、私をこんなふうにしたいのかしら) 由衣も胸が、どんどん高鳴っていく。興奮しすぎて苦しいほどだ。 こんな写真を見ていてはいけないと思いながら、目が釘つげになっていた。写真ではモザイクが掛かっているが、もし由衣がこんな風に縛られたら…… 由衣の手が、股間に伸びようとした時だった。 「ただいまぁ」 階段の下で、悠人の声が聞こえた。 由衣は、慌てて持っていたOA用紙を机に裏返し、悠人の部屋を出た。「おかえり」とだけ声を掛け、ゴミのビニール袋を持って階段を降りた。 すれ違い様に、悠人の視線を避けてしまう由衣だった。 悠人はパジャマに着替えていた。 夕食の間も、由衣は、悠人と目を合わせないようにしていた。合った途端に「縛らせて」と言われそうで怖かった。 こちらを気にしているのがわかる。 「今夜は一緒に寝てくれる?」と頼まれ、「考えておくね」と答えたままになっていた。「ベッドでフェラチオして欲しい」と言われた件も、実行していない。 (悠人は、どこまで期待しているの?) 由衣は、テーブルの下で、股間が疼くのを感じていた。 特に何の話もない内に食事も済み、悠人はリビングのテレビを付けた。ソファーに腰掛けると、対面式のキッチンからは、悠人の後頭部しか見えない。 何か言ってくるものと思っていた由衣は、すっかり拍子抜けだった。 洗い物を終えて、明日のお弁当の用意も済ませた。 コーヒーを入れて、悠人の前に置く。「ありがとう」と言っただけで、悠人はテレビのバラエティー番組に夢中だ。由衣も毎週、楽しみにしていた番組なのに、今日はあまり面白くない。 由衣は、テレビを見ずに、悠人の顔ばかり見ていた。 (今日は、縛ってくれないのかしら) ついさっき、縛られるのは怖いと感じたばかりなのに、いつの間にか、真逆のことを考えている由衣がいた。 「今週も面白かったね」 番組が終わったらしい。悠人が話しかけてきた。由衣は、テレビの内容など、殆ど頭に残っていない。「そうね」と相槌を打つのが精一杯だった。 「お風呂、入ろうか」 悠人が、時計を見ながら言った。 「あっ! いけない」 由衣は、両手で口を塞いだ。お風呂に、お湯を張るのを忘れていた。 (つづく)
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