露出小説ヒーローごっこ 作;ベンジー 第2話 脱げなかったショーツ 今度こそ、声が震えていたかもしれない。 (本当にハダカにされちゃうの。ハダカで磔にされちゃうの) ここは野外だ。いつ誰が来るとも限らない。 相手は子供とは言え男の子だ。ハダカを見られるのが恥ずかしくない訳がない。そのまま手足の自由を奪われたら、それこそ何をされても抵抗できない。 胸の鼓動が急激に高鳴る。 覚悟はして来たはずなのに、いざとなると怖くて堪らない。 「どうしたの。脱がさないの」 ちょっとした悪女を演じる朱音だったが、そうやって男の子たちを挑発していないと、この場から逃げ出してしまいそうだった。 だが、男の子たちはフリーズしたように、下を向いたまま動かない。 「ハダカにしていいわよ」と言ってから、目を合わせられなくなっていたから気づかなかった。「ハダカを見たいのか」と問われて、小さく頷くのが、この男の子たちの限界だったのだ。 (ビビッているのは、お互い様ってことかしら) それを見て取った朱音。ここは、年長者の貫禄を見せる場面だ。 「いいわ。お姉ちゃんが脱いであげる」 顔を上げる男の子たち。ようやく目が合った。驚きと期待の入り交ざった思いを、その目が見せていた。 男の子たちに背を向け、自らの手でTシャツの裾を捲り上げる。ついさっき、ショーツを丸出しにされただけで、あれほど恥ずかしかったのだ。これ以上脱いだら、あの何倍もの羞恥に襲われるに違いない。 それでも朱音は、手を止めようとしなかった。 一度止めてしまえば、それ以上脱ぐことができなくなると、本能が教えていたのだ。 声を発する者はいなかった。 ある程度、予想はしていたことだった。ブラジャーのホックを外す手が震える。朱音の脱衣シーンを黙って見続ける男の子たち。 夕日の下で、衣擦れの音だけが聞こえていた。 「これでいいかしら」 朱音はショーツ一枚になった。 全裸になるつもりで脱ぎ始めたのだが、途中で手が止まってしまった。どうしても、最後の一枚だけは脱ぐことができなかった。 両手を胸に当てがったままの朱音に対し、返答のない男の子たち。 何を考えているのか。 朱音の裸身に目を奪われ、言葉を失くしているだけなのか。それとも、年上のお姉さんのハダカを見ることに、後ろめたさを感じているのか。まさか、ショーツを脱ぐのを待っているなんてことは…… 居たたまれない思いに駆られる。早くどうにかして欲しいのに。 「さあ、お姫様がハダカになったわよ。『ヒーローごっこ』するんでしょ。磔にでも何でも、さっさとしなさいよ」 意を決して、振り向く朱音。 両手は胸を抱いたままだが、男の子たちにとっては、かなり煽情的な格好に違いない。 顔を上げていた男の子の一人と目が合った。 「お、お前、恥ずかしくないのかよ」 こんなところでハダカになって、と言いたいのか。 小さな声だが、フリーズが溶け始めて来たらしい。願ってもないチャンスだった。 「恥ずかしいわよ。死ぬほど恥ずかしい」 「だったら、なんでそんな格好してんだよ」 チラチラと覗き見るように視線を送る男の子たち。 「身代わりだって言ったよねぇ。あなたたち、お姉ちゃんのハダカ見たんだから、もうカナちゃんをイジメちゃダメなんだからね」 カナのためだと強調する朱音だったが、それは同時に、男の子たちへのエールでもあった。 「まだ全然見てないぞ。もっとちゃんと見せろよ」 「そうだ、そうだ。こいつの身代わりなら、まだ全然だ」 「『ヒーローごっこ』の続きだ」 三人とも、大きな声になっていた。 言いながら、朱音とバックネットを交互に見遣る仕草がおかしかった。 でも、これで再開できる。 「やっと、やる気になったわね」 「当たり前だ。今度は解けないように縛ってやる」 目力が込められていた。朱音に自力で解かれたのが、余程、悔しかったようだ。 「いい物持って来たわ」 朱音は、男の子たちに背を向け、提げて来たスポーツバッグから革製の手枷と足枷、南京錠を取り出した。この日のために、ネットで取り寄せたモノだった。 親に見つかりそうになり、焦ったのはまた別の話。 それらのグッズを興味深げに見つめる男の子たち。カナは少し離れた位置から見ていた。 「手首に巻いたら、この金具で留めるのよ」 スポーツバッグの脇にしゃがみ込み、身体を丸め、膝ごと胸を抱くようにしながら、手枷の使い方を教える朱音。近くに寄った男の子たちは、手枷より気になって仕方がないモノがあるらしい。 ハダカになる前に教えておけば良かったと、朱音は少し後悔した。 「わかったから、手首、出せよ」 その言葉は、教えて貰ったばかりの使い方を実践しようと言う意図だけではなかったに違いない。 手を出せばどうなるか、そこにいる誰もが知っていた。 「エッチ」 頬の火照りを覚えつつ、ふと見ると、男の子たちの顔が真っ赤になっていた。 ゆっくりと右手を差し出す朱音。左手はしっかりと胸をガードしたままだ。もうすぐ、そんな努力も無駄になるとわかっているのに。 朱音の右手首に皮の手枷が着けられた。 次いで左手首。金具もしっかりと留められた。男の子たちにとっては、初めての体験であっただろうに、そこまでは難しい作業ではなかったようだ。 「手枷の金具をこの南京錠でバックネットに繋ぐのよ。そうすればもう、お姉ちゃんはどんなことしたって逃げられないわ」 そう。繋がれてしまったら…… 一瞬、男の子たちの目付きが変って見えたのは気のせいか。 「いいぜ。しっかりと繋いでやるからな」 男の子たちは南京錠を手に立ち上がり、三人揃って、蹲ったままの朱音を見下ろす。少し薬が効き過ぎたのかもしれない。 「手枷を繋いだら、次は足枷も着けるのよ。それで磔が完成するの」 「足も動けなくするんだな」 男の子たちの喜ぶ様子が見て取れた。自らをより追い込んでいく朱音だが、 「これで本物の『ヒーローごっこ』ができるわね。良かったじゃない」 まだ、お姉ちゃんの余裕が残っていた。 「磔にしてやるから、早く、さっきみたいにバックネットに上がれよ」 すっかり調子に乗っているようだ。これまでにない圧力だった。ハダカ同然の姿で必死に胸を隠す女を取り囲むと、男の子が男の子でなくなるのか。 「あなたたち、目が怖いわよ」 これ以上はマズイかもしれないと思い始めていた。 「お前の方こそ泣きそうじゃん。怖いのはこれからだからな」 「ウソっ!」 知らない内に、涙目になっていたのか。 ショーツ一枚で手枷を付けた朱音。これから磔にされようとする女の子なら、泣いて許しを請う場面に違いない。 右手の指先が、自ずと目じりに触れていた。 「今の内に涙を拭いておけよ。磔になったら、拭けなくなるからな」 (ホントに泣かされちゃうの?) 気弱になる自分を叱りつける朱音。 「あなたたちなんかに泣かされるものですか」 男の子たちも負けてはいない。一人が、 「『ヒーローごっこ』のお姫様は、ハダカでイジメられるんだぞ」と言えば、 「ハダカで磔だぞ。恥ずかしいんだぞ。お前だって、絶対、泣いちゃうぞ」と続く。 この子たちにも、女の子に恥ずかしい思いをさせると言う認識はあるようだ。それがどういうものか、十分の一もわかっていないくせに。 「お姉ちゃんを泣かせたいんだ」 男の子を煽る言葉ではなくなっていた。 「泣いても許してやらないからな。手加減なんかしちゃダメだって、お前が言ったんだからな」 それを聞いていた隣の男の子が、 「手加減ってなんだ?」 聞かれた男の子は、 「知るかよ。もっとイジメて良いってことだろ」 朱音の目じりから涙が消えていた。 「ねぇ、あなたたち。女の子をイジメるってどういうことだか知ってるの?」 「知ってらぁ」と異口同音。 「お姉ちゃんは磔にされただけじゃ泣かないわよ。お姉ちゃんが嫌がることをしないとダメなの。あなたたちにできるのかしら」 決死の逆襲だったが、男の子たちの反応は薄かった。 「そうかよ。なら、イヤって言ったらお前の負けだからな」 心の内を見透かされているのだろうか。 「負けたらどうするって言うの?」 こう返してしまった時点で負けだったのかもしれない。 「いいから起てよ。お前はバックネットに上がって手を広げればいいんだ」 要は、早く朱音を磔にしたいだけのようだ。 「はい、はい。わかったわ」 朱音は胸を抱いたまま立ち上がり、バックネットに向かった。 (負けたらどうなるか、聞いておいた方が良かったかしら) わかっていたことだが、立てば恥ずかしさが何倍にもなる。そして、いつまでも胸を隠していられるわけでもない。 男の子たちが持って来た脚立を使い、バックネットの基礎に上がった。 まだ、男の子たちに背を向けたままだ。ショーツ一枚の女子高生を、どんな目でみているのだろうか。 ここからが一大決心だった。 男の子たちの二人も、朱音の両側に上がって来た。二人とも、南京錠を持っているのだろう。それを使う瞬間を待っているのだ。 「早くしろよ。ビビってんのか」 そう。まさに朱音はビビっていた。「手加減」の意味も知らない男の子たちの言動に少しだけ余裕を取り戻したものの、ここから先は未経験の領域だった。 「わかってるわよ」 逃げ出したくなる思いを封印して、正面に向き直る。左手は胸に置いたままだが、右手はバックネットの金網を掴んでいた。 「両手を真っ直ぐ横に伸ばすんだぞ」 男の子の声も、少し裏がっていたかもしれない。 「だから、わかってるって」 朱音の声は、それ以上か。 左手が胸から離れると、待ち構えていたように、左側にいた男の子が手首を掴んだ。手枷の金具に指を掛け、腕が真っ直ぐに伸びるまで引っ張った。 「あれっ、これちょっと難しいぞ」 南京錠を掛けるのに苦労はしたようだが、カチャリと音がするまで、そう長くは掛からなかった。 次は右手の番だ。朱音が落ちないように左側の男の子と協力して、右手を引っ張る。南京錠の扱いは、右側の男の子の方が上手かった。 二度目の施錠音。手首に掛かる自分の体重。自力では外れない手枷。 「はぁう……」 朱音の視線はどこを見るとなく、無意識の内に息が漏れた。 静寂を破ったのは、下から見上げる男の子だった。 「おっぱいだ。おっぱいだ」 朱音の頬が急激に熱くなる。思わず両手に力を籠めるものの、金属音がするだけで言うことを聞いてくれない。 磔にされ、胸を晒すのは、こんなにも恥ずかしいことだったのか。 「こいつ、顔が真っ赤だ」 「そんなに恥ずかしいんだ。恥ずかしいんだろ。言ってみろよ、恥ずかしいって」 両側からはやし立てていた二人も基礎から飛び降りる。三人並んで、十字磔にされた朱音の裸身を見上げた。 朱音は顔を伏せ、唇を噛むことしかできなかった。 「おっぱい、でけぇ」 「今度は絶対に解けないぞ。ずっと磔のままだ」 「もう、おっぱい隠せないもんな」 男の子たちの言葉を聞くまでもない。視線が胸に集中していることがわかる。どんなに恥ずかしくても、両手を手枷と南京錠でバックネットに繋がれ、今の朱音には男の子たちの視線から逃れる術はない。 ついさっき、着衣のまま磔にされた時とは異質の恥ずかしさだった。 それだけではない。両手を広げ、何もかも無抵抗となった姿が、これほど自分を惨めな思いにさせるとは、思ってもみなかった。 「さっきみたいにスカートめくらなくたって、パンツ丸出しだぜ」 「おっぱい、揉んでやろうか」 「もう許してって言ってみろよ」 言われるまでもない。もういい。もう十分。早く南京錠を外してと、口から洩れそうだ。 少なからぬ後悔に、圧し潰されそうになる。 上手く両手を繋ぐことができたら、次は足枷も着けて貰おうと考えていた朱音だったが、そんな余裕は、疾うになくなっていた。 「これで終わり? お姫様をハダカで磔にしてイジメるのが『ヒーローごっこ』じゃなかったの? あなたたち、やっぱヘタレなんだ」 用意していた言葉も、最早、それどころではなかった。 男の子たちは、朱音に何でもできる。朱音は、それを拒めない。男の子たちがその気なら、恥ずかしいだけでは済まされない。 ショーツを脱がなくて本当に良かったと思う。せめてもの救いと言って良かった。 散々、男の子たちを煽って来た朱音だったが、事ここに至っては、泣いて許しを請うしかない。一分でも一秒でも早く、磔から解放して欲しかった。 カナが口を開いたのは、そんな時だった。 「あたしは、パンツも脱がされたんだよ」 (つづく)
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