読者投稿小説




   小説『海水浴場の安全祈願』

                              作;ベル

私は礼子。23歳。短大を卒業してから、地元の神社で巫女をしています。

今年で三年目ですが、毎年ある海水浴場で安全祈願をしています。


海開きの時は、私も神主様のお手伝いをするのですが

巫女の私には白装束を着て海に入り

海の神様を鎮める・・・という役割があります。

神様に対する生け贄、もとい『捧げ物』という役割なので

胸か浸かるまで海に入るのですが

白装束は生地が薄くて透けやすいので

水着や下着は着けないことになっています。

その為、私は毎年、依頼主であり立会人の市役所の人たちに

透けた白装束の姿を見られてしまうのです。


ところが昨年、残念なことに、その海水浴で死亡事故が起きてしまいました。

祈祷のせいで事故が起きた訳ではないのですが

私は、責任を感じた神主様から

「今年だけは古来の形式にのっとり、白装束無しで海に入ってくれ」

と頼まれました。

それはつまり、全裸になって海に入る・・・ということです。

もちろん私は丁重にお断りしましたが、神主様に何度も懇願され

結局は断り切れずにお受けしてしまいました。


海開きの当日、浜辺にはいつもより多くの人が集まっていました。

どうやら私が裸になるという噂が広まっていたようです。

誰が噂を広めたのかは分かりませんが

市役所からは一度も会ったこともない人が、かなり来ていたように思います。

私は波打ち際から少し離れたところに神事の道具を並べたり

陶器の器に塩を盛るなどして

周りを意識しないようにしながら準備を進めました。


「それでは災厄除けの『お祓い』を執り行います」

神主様は榊の葉を海水に浸した後

海原に向かってお祓いするかのように振って

災厄除けの祈祷を唱え始めました。

そうしている間も、私の耳には集まった人たちのヒソヒソ話が聞こえてました。


「あの巫女。衣装を着ていてもエロいよな?」

「毎年、スケスケになった白装束姿を惜しげもなく見せてるって聞いたぜ」

「それ、本当だよ。でも噂では、今年は素っ裸になるんだってさ」

「そんなこと出来る訳ないだろう?市役所の連中だって来ているのに」

「だけど、その連中も毎年来ていたんだろう?

スケスケがOKだったなら、もしかして素っ裸になるってことも・・・」

「・・・(人の気も知らないで)」

そう思いましたが、神事が始まった以上、今さら後には引けませんでした。


「それでは災厄除けの『お祓い』に続き、安全の『ご祈祷』に移ります」

神主様が振り向いてそう言うと、いよいよ私の出番です。

私は胸元から正方形の和紙を取り出し、それを二つ折りにして口に咥えました。

そして海原へ向かって深く頭を下げると

腰の帯を解いて赤い袴を脱ぎ、白装束だけになりました。

いつもならこの姿で海に入るのですが、今年は違います。

私は一旦深呼吸をしてから、白装束の結び目を解いて

生まれたままの姿になりました。


「おお、すげぇ!本当にスッポンポンじゃん」

「今年は素っ裸になるんだって噂は、本当だったんだ」

私の背後にいる人たちからとどよめきが起き

厳かな雰囲気が違うモノに変わるのを感じました。

「・・・(私、もう成人した女性なのに)」

そう思いながら、野外で多くの人たちに裸を晒し続けました。


「・・・(今、向こうを振り向いてしまったら、続けられなくなってしまう)」

そう察した私は、再び海原へ向かって深く頭を下げると

身体の前で両手を合わせたまま、お祈りの姿勢で海に入りました。

海開きの時期なので、水の温度は問題ないのですが

恥ずかしさと緊張で身体が震えていました。


さいわい、ある程度海に入れば身体が隠れるので

少しですが落ち着きを取り戻せました。

しかし、役割を終えて岸の方を振り向いた時

あらためて集まった人の多さに気付かされました。

「・・・(それでも戻るしかないんだわ)」

身体の前で合わせた両腕を少し上げて、どうにか乳首だけは隠し

私は岸の方へ戻り始めました。


「でも、これって本当に良いのかな?

神事という名目で、若い女性を裸にするなんて・・・」

「神事だから許されているんだろう?」

「市役所の連中だって来ているんだから、公認なんだよ」

「それに実行してるってことは、本人も拒否しなかったってことさ」

「・・・(人の気も知らないで)」

そう思いましたが、岸に近付き、股間が水面から出て陰毛が露わになると

今度は無駄口が減って、さらに視線が集まったような気がしました。


「・・・(みんな、もう見ないで)」

注目を浴びていると分かっていても、私は股間を隠せませんでした。

もし口に咥えた和紙を取り、両手を合わせたお祈りの姿勢をやめてしまったら

神事だからという『建前』すらなくなってしまいます。

私は岸に上がってからも、その『建前』だけは必死に守り続けました。


「・・・(でもあとは、神主様の前で一礼をすれば終わりだから)」

そう思いながら神主様の前に歩み寄りましたが

まだ終わりではありませんでした。


「それでは安全の『ご祈祷』に続き、亡くなられた方の『ご供養』に移ります」

「えっ?」

これで終わりじゃなかったの、と思ったのは私だけではなかったようでしたが

反対する人はいませんでした。

神主様は海水に浸した榊の葉で、私の頭や肩を軽く叩き

鎮魂の祈祷を唱え始めました。

そうしている間も、私の耳には市役所の人のヒソヒソ話が聞こえてました。


「事前の打合せでは、ご供養の予定はなかったのでは?」

「神主様は、昨年の事故を大変心苦しく思われていたようだ。

予定にないからって、そんな方からのご供養の申し出を断れる訳ないだろう?」

「まあ、巫女がまだ裸のままでいてくれるなら、反対する理由もないか」

「・・・(人の気も知らないで)」

そう思いましたが、私はすでに全裸姿を晒していましたし

ここまで我慢したのに、今さら神事を台無しにするなんて出来ませんでした。


だから『広報』という腕章を着けた市役所の人が

私の方にカメラを向けていると気付いても

そして、シャッターを切る音が何度となく聞こえても

私は神事という『建前』を最後まで続けました。

やがてそのご供養も終わり、ようやく巫女の衣装を着直すことが出来ました。


***** ***** ***** ***** *****


後日、市役所から、海開きの様子が掲載された市報が届きました。

あの時の写真がどうなっているか確認すると

しっかり押さえていたはずの胸元から両腕が離れ

私の乳首と陰毛が露わになった状態で

神主様が私の肩を榊の葉で軽く叩いているモノクロ写真が掲載されていました。


「私がうつむいていたから、顔が分からない構図になっているけれど

市報なのに、こんな写真の掲載が許されるなんて・・・」

やはりウチの市役所は変だと思いましたが

きっと私は来年も、神主様に何度も懇願されれば

結局は断り切れずにお受けしてしまうような気がします。

【おわり】


***** ***** ***** ***** *****


(あとがき)

以前にも書いた気がしますが、実際に露出行為を行動に移すには

大義名分があった方が良いのではないか・・・と思っています。

本心はさておき「仕事だから」「頼まれたから」「社会貢献の一環だから」

という理由があれば、「露出狂ではないんです」と言い訳出来ますからね。

「芸術だから」という理由でヌードモデルをやるのも、同じだと思います。


今回の場合は「神事だから」「神主様に懇願されたから」「ご供養だから」

という理由で、主人公は自分を納得させましたが

皆さんなら最後までやり遂げられるでしょうか?


「理由なんか必要ないわ。私は楽しいから裸になるんだもん」

もしそんな返答が出来るなら、あなたを『露出っ子』に認定します(笑)

【ベル】





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