読者投稿小説小説『種同一性障害』 作;ベル プロローグ:ペットブリーダー ペットブリーダーとは、ペットとして飼育される犬猫を繁殖・販売する専門家。 仕事内容は子犬・子猫の育成だけでなく 犬種や猫種の特性に合わせたしつけや、飼育環境の管理など多岐にわたる。 そんな多くのペットブリーダーの中でも、高島美玖(みく)は 犬へ愛情を惜しみなく注ぎ、健全な子犬を育ててくれると評判になっていた。 しかしそこには、人には言えない秘密があった。 実は美玖には、性同一性障害ならぬ『種同一性障害』という悩みがあった。 身体は人間なのに、心は『犬』。 もちろん、今までずっと人間として育って来た自覚があったし 人間としての知性を失ってはいない。 それでも、本当の自分は犬なんじゃないかという気持ちが 常に美玖の頭の片隅にあった。 第一章:ブリーダーの日常 朝の日差しが、犬舎のコンクリート床を暖め始める頃 美玖は担当するゴールデンレトリバーの雄(オス):ジェシーがいる 広いサークルの前で立ち止まった。 ジェシーはその美しい被毛を日に当てて穏やかに寝そべっていたが 美玖に気付くとすぐに駆け寄って来た 「よしよし。ジェシー、良い子ね。今日も元気いっぱいだね」 犬舎の朝は、清掃作業から始まる。 美玖は慣れた手つきでケージの施錠を確認し、床の掃き掃除をする。 日光が差し込む犬舎には、独特の匂いがある。 早朝の匂い、木材の匂い、そして犬たちの体臭が混じり合った生命の匂い。 深く息を吸い込むと、美玖はまるで自身の魂が潤されるように感じられた。 美玖の働く犬舎はいつも清潔だったが 慣れ親しんだその匂いは彼女をリラックスさせてくれた。 拭き取り後もコンクリートに染み付いた排泄物の臭いと 乾いたフードの香りが混ざり合う匂いでさえ 安堵出来る故郷に帰省した時のようで 美玖はそんな匂いを嗅いでいるとホッとしてしまうほどだった。 「いけない、いけない。まだまだやることは山積みよ」 美玖は背筋を伸ばし、テキパキと朝の仕事をこなしていった。 しかし、その知的な瞳の奥で、彼女の『犬』としての本能が 清掃の間は常に葛藤するようになっていた。 「本当は、この子たちの世話をするブリーダーではなく 彼らの仲間として一緒に過ごせたら良いのに・・・」 『性同一性障害』が心と身体の性の不一致なら 美玖が抱える『種同一性障害』は魂と肉体の種の不一致だった。 「自分の魂は、この身体には不釣り合いなんじゃないかしら?」 美玖はそんな違和感が拭い切れずにいた。 一通りの清掃を終えると、各ゲージにエサと水を配り 子犬たちがいるサークルに向かった。 まだ生後二ヶ月のゴールデンレトリバーは 絹のように滑らかで柔らかい毛並みをしていた。 美玖はその小さな身体を抱き上げると 彼らがじゃれついてくる感覚に、身体の芯から震えるような快感を覚えていた。 それは、子犬の育成という仕事の喜びとは異なり もっと根源的で動物的な『充足感』だった。 ブリーダーとしてのプロの顔に戻った美玖は、他の犬舎を巡回し始めた。 彼女が育てているのは、皆、血統書付きの優秀なゴールデンレトリバーばかり。 彼らの艶やかな被毛、力強い筋肉の躍動 そして何よりも一途なまでの忠誠心と歓喜の表現は 美玖の心の一番深い部分を揺さぶった。 美玖はそんな感情を抑え込むために、人前では常に自制心を保っているが 時折誰もいない瞬間を見計らって『本能』に従ってしまうことがあった。 美玖は周囲を素早く見回して、誰にも見られていないことを確認し 静かにゆっくりと膝を折った。 そのまま手のひらを地面につけると、彼らと同じように四つん這いになった。 この姿勢こそ、彼女の身体と魂が求め続けていたものだった。 「ああ、この姿勢になるとゾクゾクする・・・」 膝と手のひらに、清潔な床のひんやりとした感触が伝わってくる。 人間の直立した姿勢とは比べ物にならない、身体の軸が安定する感覚。 さらに、床に顔を近付けたことで 犬舎の匂いがより濃厚に美玖の鼻腔を満たした。 それは単なる嗅覚の刺激ではなく 自分の居場所を見つけたような『安心感』と『解放感』だった。 「美玖さん、新しい見学のお客様がいらっしゃいましたよ」 放送設備にスピーカーで呼ばれた美玖は 慌てて手を床から離して起き上がった。 美玖は心の中の『犬』を再び鎖に繋ぎ、プロのブリーダーの顔に戻った。 しかしその顔は、ほんのわずかに火照っていた。 第二章:嵐と共に訪れたチャンス ある日の業務の終盤、美玖は事務所で 深刻な表情をした店長から相談を受けた。 「高島さん、今夜の未明には大型の台風が最接近する見込みだ。 風雨が強まるから、犬舎の巡回はもちろん、もしもの停電に備えて 誰かが一晩泊まり込みで警戒待機する必要があるんだが・・・」 通常、この警戒待機は体力もあり 犬舎の設備にも詳しい男性である店長が、その役割を負っていた。 しかし、店長は申し訳なさそうな表情で続けた。 「実は、妻の親の介護で、今夜はどうしても家を空けられない。 悪いがスタッフの誰かに頼むしかないんだが・・・」 責任感とは別の『予期せぬ興奮』で 店長の言葉を聞いた美玖の心臓は大きく跳ねた。 犬舎での一泊。 それは、彼女の秘めたる願望にとって、またとない機会だった。 犬舎は、美玖にとってある種の聖域だ。 もしそこで一晩中、たった一人で過ごせるのなら 人目を気にすることなく心のままに『犬』として過ごせる。 そんな事まで許されるチャンスが、向こうからやって来たのだ。 「・・・(誰にも見咎められることなく、四つん這いになり、床の匂いを嗅ぎ 彼らと同じ空間で、同じ姿勢で夜を過ごすことが出来るじゃない!)」 美玖は、ブリーダーとしての冷静な判断を装い、すぐに口を開いた。 「私で良ければ、代わりますよ?」 店長は驚きと安堵の表情を見せた。 「え、良いのかい?高島さんこそ、ご両親と同居中だろう?」 「大丈夫です。私の家は高台にあり、浸水の心配もありません。 それに、子犬たちの状況は私が一番把握していますから 責任のあるブリーダーとして当然ですよ」 言葉は理性的だったが、美玖の瞳の奥には抑えきれない『熱』が宿っていた。 それはプロの義務感ではなく 自らの本能的な渇望を満たす機会を得た、純粋な歓喜だった。 「じゃあ、頼んだよ。明日は早めに出社するから」 店長が帰宅し、他のスタッフも犬舎を去った後 美玖は一人、広大な犬舎の中に佇んでいた。 すでに外からは、強風が窓ガラスを叩く音が聞こえてくるが 対策はスタッフがいる間に全て終わっていた。 むしろ台風の荒々しい音が、美玖の胸の高鳴りとシンクロしていた。 美玖は、まず全ての犬たちの様子をチェックし、問題がないことを確認した。 それから事務所のドアに鍵をかけ 自分のスマホを机の上に置いて犬舎へ向かった。 これで外部との繋がりは遮断された。 残るは彼女と、この犬舎にいる犬たちだけだ。 「みんな、今夜はずっと一緒だよ」 美玖はゆっくりと服に手をかけた。 まずは作業着を脱ぎ、そして肌着を一枚、また一枚と脱ぎ 全て棚の上の箱に仕舞った。 人間の衣服は、今夜の美玖にとっては不要な拘束具だった。 犬舎で全裸になる行為と感覚は、鳥肌が立つほど新鮮だった。 靴すら履かない完全な素っ裸になった美玖は 背筋がゾクゾクするほど歓喜した。 犬舎の冷たい空気と、自分の体温。素足で立つ床の感覚。 美玖は深呼吸を終えるとゆっくりと膝を折って、清掃済みの床に手をついた。 「ああ、犬舎に全裸で四つん這いになれる日が来るなんて!」 美玖は感極まって、涙ぐんでいた。 夜を過ごす犬舎には、犬用のベッドやクッションはない。 その代わり、それぞれの犬ごとに専用の古い毛布が床に敷かれていた。 「ジェシー、あなたの毛布を使わせてもらっても良いかしら?」 人間の尊厳を脱ぎ捨てた美玖は、ジェシーに見守られながら身を横たえてみた。 「ああ、ジェシー。あなたの匂いがするわ」 この瞬間、彼女の身体は雌犬としての反応を見せ始めていた。 美玖はゆっくりと四肢を伸ばし、毛布の上で『伏せ』の姿勢を取った。 関節の構造が違うので、犬と全く同じ姿勢にはならないが 肘で上半身を支えながら頭を低く下げ 下腹部が毛布に触るまでガニ股になると、また一歩『犬』に近付けた気がした。 この姿勢をしばらく続けた後 美玖は赤ちゃんがハイハイをするように、四つ足で犬舎の中を歩き始めた。 視線が低くなったせいか 部屋の隅の僅かな傷や床の木目の模様が、はっきりと認識出来た。 「人間の視線とは違うから、より動物的で鋭敏な感覚が脳を刺激するみたい」 美玖は些細な出来事も楽しんでいた。 そこへジェシーがゆっくりと美玖に近付き、身体を寄せてすぐ隣に座った。 「ジェシー。今夜みたいな私でも、あなたたちの仲間と認めてくれるの?」 いつもなら頭を撫でてやる場面だが、美玖はあえてそうはせず 四つん這いの姿勢のまま身体を擦り付けて愛情を示した。 ジェシー以外のゴールデンレトリバーも集まって来て、美玖を取囲んでくれた。 「あなたたちも歓迎してくれるのね?」 犬たちは言葉を発しないが、美玖の心はますます満たされていった。 第三章:長靴を履いた犬 体温が伝わるほどに身を寄せ合うジェシーや 他のゴールデンレトリバーたちの優しい密着。 人間の社会で常に纏っていた理性と常識から解放された美玖にとって 彼らとの動物的な交流は、魂が求める最も純粋な時間だった。 しかし、ふとテレビの台風情報の画面を見た時 ブリーダーとしての責任が美玖の陶酔を打ち破った。 外の風雨は勢いを増すばかりだ。 嵐の中でも犬舎の屋根や周囲に異変がないか、確認する必要があった。 美玖は、名残惜しそうに犬たちから離れると、四つん這いから立ち上がった。 全裸のまま移動すると、美玖は事務所の隅に置いた長靴に足を滑り込ませた。 長靴だけを履いた裸の女性。そんな奇妙な姿に 美玖は再び身体の奥底からゾクゾクするような高揚感を覚えた。 「大丈夫よね?こんな嵐の中を出歩く人なんかいないわよね?」 そう心で呟きながら、美玖はLEDライトを手に取った。 当初は、ビニール傘も用意したが 犬舎のドアを開けた途端、突風が傘を一瞬で裏返して無残に破壊した。 「あっ!・・・もういい。傘なんかいらないわ。 だって、今夜の私は犬。長靴を履いた一匹の『雌犬』だもの」 美玖は壊れた傘を放り投げ、開き直るように口角を上げた。 そもそも美玖は、犬に衣装を着せたりすることを好まなかった。 「素足だとケガをする恐れがあるから長靴は仕方がないとしても もう少し犬らしく見えるように出来ないかしら?」 ふと目を向けると、先週引き取られた犬の首輪が 置かれたままになっているのに気が付いた。 美玖はその首輪を手に取ると、自分の首に装着した。 「私は長靴を履いた犬。この首輪を着けている間は、裸が私のあるべき姿よ」 強引にそんな自己暗示をかけた美玖は 雨と風が吹き荒ぶ屋外へと踏み出した。 たちまち叩きつけるような雨粒が、美玖の裸の肌に容赦なく降り注いだ。 肌を打つその感覚は、痛みよりもむしろ解放感をもたらした。 雨が彼女の髪を濡らし体温を奪うが 美玖は意に介さずに建物の周囲を歩き続けた。 美玖はLEDライトで地面と建物の屋根を隈なく照らしながら 犬舎の建物をぐるりと巡回した。 その足取りは、いつもの人間らしい規則正しい二足歩行だったが 全裸で歩く開放感は美玖の『本能』を刺激し続けた。 「屋根に異常はないか?排水溝に何かが詰まって、溢れ出してはいないか?」 美玖の頭の中は、ブリーダーとしてのプロの思考で満たされていた。 その一方で、全身を覆う雨と風、そして肌が直接感じる外気の刺激は 彼女の『犬』としての本能を常に揺さぶっていた。 周囲の道路は、嵐のために完全に無人だった。 美玖が裸で歩いていると知る者は、誰も現れないだろう。 しかし、この絶対的な孤独感と 誰かに見られるかも知れないという極限の緊張感が 彼女の心に複雑な火花を散らした。 彼女は自分を「長靴を履いた犬」と呼んだが、巡回を続ける自分の姿は 長靴を履いてLEDライトを持つ、二足歩行の人間だ。 彼女の魂が犬であったとしても、その肉体は人間の女性だった。 だからこそ、美玖の頭の片隅では『理性』が常に囁いていた。 自分の心の奥底にある『露出願望』を満たすために 自分が犬だと言い訳しているだけではないのか、と。 本当に犬があるべき種ならば、服を着ない開放感はまだしも 性的な興奮はしないのではないか、と。 事実、嵐に乗じて、この非日常的な解放感に興じている自分を 美玖はハッキリと自覚し始めていた。 しかし、雨に濡れた裸のから体温が奪われているにもかかわらず 美玖は子宮を熱く疼かせていた。 当直者としての責任は、周囲の巡回確認という形で果たされているが その行為の裏側には、全裸で屋外を歩くという 『抗いがたい背徳感』に魅了されていた。 やがて、美玖が犬舎を一周し終えた頃 雨は続いていたものの風は一時的に小康状態になった。 おそらく台風は離れ始めたのだろう。 「ああ、すっかり冷えちゃったわ。 早く身体を拭いて、ジェシーたちに温めてもらわないと」 しかし美玖は、長靴を脱いでタオルで身体を拭き終えても 首輪だけは外さなかった。 その方がジェシーたちの仲間らしい姿だと思ったからだ。 「ただいま。みんな、台風はもう心配なさそうよ」 美玖はそう言うと、部屋の真ん中に敷いた毛布の上で 再び四つん這いになった。 先ほどの嵐の中で冷やされた肌には、まだ外気の余韻が残っていたが そんな彼女が求めたのは、犬たちの体温による温もりと種族としての受容。 そしてその毛布の上での安息だった。 第四章:雄犬ジェシー 犬たちは美玖の期待通りに、自然と彼女の周りに集まって身体を寄せ すぐ隣で座ったり、『伏せ』の姿勢を取った。 しかしその後の展開は、美玖が思い描いていた安らぎの場とはならなかった。 一番慣れ親しんでいるはずのジェシーが どこか落ち着かない様子を見せ始めたのだ。 他の犬たちは穏やかに美玖に寄り添うか、ただじっと見つめているだけなのに ジェシーだけは少し甲高い声でクゥンクゥンと鳴き、美玖の周りを何度も回った。その動きは、いつもの甘えや遊びを誘うものとは違っていた。 美玖の全身から発せられる嵐の興奮と、背徳感に濡れた独特の匂い。 そして彼女が装着した首輪が ジェシーの動物的な本能を強く刺激しているようだった。 美玖は四つん這いの姿勢のまま、ジェシーに顔を向けた。 「どうしたの、ジェシー?そんなに落ち着かなくなって・・・」 美玖は優しく語りかけたが、ジェシーは言葉に反応する代わりに 美玖の背後にゆっくりと回り込んだ。 そして、美玖の顔ではなく足の方から近付くと 彼女の最もプライベートな部分に鼻を近付けた。 冷たい外気に晒されていた美玖の体温は暖かさを戻しつつあったが 屋外での興奮が残った彼女の下半身が発する匂いは 慣れ親しんだジェシーだからこそ感じ取れたのだろう。 ジェシーは、その部分をクンクンと嗅いだ後 まるで子犬が母親の顔を舐めるように 美玖の最も敏感な場所にそっと舌を伸ばした。 「えっ?ちょ、ちょっと待って!ジェシー、どうしたの?」 不意を突かれた美玖は、全身に電気が走ったかのような激しい衝撃を受けた。 それは予想外の行動であり、ブリーダーとしての理性と人間としての倫理が 即座にジェシーを止めさせようと叫んだ。 「ジェシー!ダメよ!やめなさい!」 そう口にはしたものの、美玖の身体は 数十分もの野外露出と、嵐の中での背徳的な興奮によって すでに限界まで『熱』を帯びていた。 四つん這いの姿勢は、ジェシーを拒絶するのに最も不利な体勢だったが 美玖の心の奥深くにある『雌犬』としての本能が ジェシーの行為を拒み切れずにいた。 「あ、ああ・・・。ジェシー、ダメよ。それ以上はダメ!」 ジェシーの舌の熱と感触が、美玖のクリトリスに直接触れた。 それは、人間に触れられた時とは全く違う 純粋な好奇心と動物的な本能に満ちた感触だった。 美玖の身体は緊張で硬直したが、すぐに抗いがたい快感へと変わっていった。 それは、全裸で首輪を付けたまま四つん這いになるという 彼女の『種同一性障害』が導いた行為の終着点だった。 「ああ、ダメよ。・・・はうぅ〜んっ!」 拒むだけの理性を失った美玖は ジェシーが舐めやすいよう、無意識のうちに腰をわずかに浮かせていた。 しかも四つん這いの体勢を保ちながら、腰をゆっくりと揺らし ジェシーの舌が当たる角度を調整までした。 この時、美玖の理性はこの行為を 危険で異常なものだと警鐘を鳴らし続けた。 しかしジェシーの舌使いによって 美玖の身体は常識という鎖で繋がれていた状態から 『犬』の本能を覚醒させていった。 一方、ジェシーもまた、美玖の反応の変化を理解したかのように さらに熱心に陰唇を舐め続けた。 美玖は拒絶の言葉の代わりに小さな喘ぎ声と吐息を漏らし その手は毛布へ爪を立てるように強く握りしめられていた。 犬舎の外の風は次第に小康状態になりつつあったが 美玖の心の内面では、今、最も激しい嵐が吹き荒れていた。 第五章:交錯する本能 四つん這いになりながら、ジェシーの行為を受け入れる美玖の姿は 人間としての理性が完全に残っていないことを示していた。 ジェシーが舌を動かす度に美玖の脊髄を駆け上がる衝動は 彼女がこれまで人間社会で培ってきた常識や倫理観を 根底から揺さぶり、突き崩していった。 しかしそれは、単なる快感だけではなく 自分が『犬』という種族の一員として受け入れられているという 魂の深い部分での『安堵感』を伴っていた。 美玖は、もはやジェシーを止めようとしなかった。 むしろ、ジェシーが彼女の『種同一性障害』を証明し 肯定してくれているようにすら感じられた。 「もし私を人間の女性としか思わないなら ジェシーはこのような行動を示さないハズじゃない? これは、お互いの動物的な本能が種の壁を超えて あるいは種の壁がないものとして、交信している証拠よ」 両手と膝で身体を支えながら、美玖は全身の力を抜いた。 ジェシーの鼻息と舌の動き、そして犬舎の乾いた匂いが 彼女の五感を支配した。 この瞬間、彼女の意識は人間の言葉や思考から離れ 純粋な感覚の世界へと移っていった。 一方、美玖が完全に抵抗をやめたことを感じ取ったかのように ジェシーはさらに大胆なった。 彼が低い喉の音を鳴らしながら 美玖の股間に自分の下腹部を押し当てるように身を滑り込ませると 人間のソレとは違う形の存在が美玖の膣穴に触れた。 それは温かく、力強く、そして純粋な雄犬の陰茎だった。 「んっ!」 美玖は、反射的に呼吸を止めた。 四つん這いの姿勢のまま、身体全体が彼の温もりを受け入れる形になった。 この瞬間、彼女はブリーダーでも人間でもなく ただ一匹の『雌犬』として存在していることを痛感した。 「ああ、ジェシー・・・」 美玖の声はかすれるほど弱々しかったが、それは制止の言葉ではなく むしろ、受け入れ難いほどの戸惑いと興奮が混じり合った 本能的な呼びかけだった。 ジェシーは前足を美玖の背中に載せると 背後から彼女の股間へと、さらに強く身体を押し付けた。 「あひっ!」 二つの異なる種族の身体が動物的な衝動によって 毛布の上で密着し一つになった。 美玖はジェシーの熱い体温と力強い息遣いを、濡れた膣穴で受け止めた。 同時に、美玖の頭の中では僅かに残った理性が 最後の警告を発していた。 《やめさない!こんなの間違っているわ。あなたは人間なのよ?》 しかしその警告は、ジェシーの腰の動きと 美玖の子宮の底から湧き上がる快感によってかき消された。 彼女の心は長年の抑圧から解放され 嵐の夜に最も純粋な形で、『種同一性障害』を克服しようとしていた。 美玖はもう一度、深く息を吸い込んだ。 「はふっ!・・・お、おお、おおおお〜っ!」 美玖はその吐息と共に 人間の女性としての全ての『矜持』を毛布の上に手放した。 そして静かに、しかしはっきりとジェシーの動きに合わせ 全身で彼を受け入れ続けた。 ジェシーの力強い体躯が美玖の腰に当たる度に 彼女の身体は長年の悩みから解放されるかのような 根源的な喜びと快楽を感じていた。 周囲の犬たちも、この二人の異様な状況を静かに見守っていた。 彼らにとっても美玖は、この群れの中の奇妙な『一員』であり ジェシーとの交尾は、群れリーダーとの自然な出来事の一つに過ぎない。 そう思っているようだった。 美玖は四つん這いの姿勢をさらに深くし、額を床の毛布に押し付けた。 それは雌犬としての本能的な『恭順』の姿勢でもあった。 ジェシーの荒々しくも純粋な本能に、彼女は自らの魂を重ね合わせ 彼の射精と共に絶頂を迎えた。 第六章:終焉と目覚め 犬舎の窓を叩いていた風雨の音が遠ざかり、周辺は静寂に包まれた。 それは物理的な嵐の終息であると同時に 美玖の内面で吹き荒れていた長年の葛藤が一つの極点に達し 鎮まった瞬間でもあった。 美玖は、額を毛布に押し付けた姿勢のまま、しばらく動けずにいた。 全身を貫いた激しい快感の余韻と、魂が深く満たされた感覚が 彼女の身体を支配していた。 彼女の心は罪悪感や倫理的な動揺とはかけ離れた 純粋な充足感と安堵に満たされていた。 ジェシーは美玖の背中から離れると その大きな頭を美玖の横腹にそっと寄せて『伏せ』の姿勢をとった。 他の犬たちも彼らの交尾が収まったことを確認するかのように 再び穏やかな寝息を立て始めた。 犬舎の中は特別なことは起こらなかったかのように、静かな時間が流れていた。 美玖はゆっくりと毛布から顔を上げ、濡れた額を手の甲で拭った。 その肌はまだ熱を帯びていたが、心は驚くほど静かで澄んでいた。 彼女はジェシーの方を振り向くと、その大きく忠実な瞳を見つめた。 「ありがとう、ジェシー。あなたのおかげで、私は前を向けそうよ」 美玖は人間の言葉で語りかける必要を感じなかったが 声に出して感謝を述べた。それはブリーダーとしてではなく この群れの一員として感謝を示す、純粋な気持ちだった。 ジェシーもまた、美玖の言葉を理解したかのように 低い喉の音を鳴らして再び美玖の頬にその頭を押し付けた。 美玖は全裸のまま、ジェシーの柔らかい被毛に身体を預けた。 彼女の頬に触れるジェシーの温かさは 彼女が長年求めていた最も心地良い『自分の居場所』の感触だった。 「夜が明けるには、まだ数時間あるわ。だからもう少し、このままでいさせて」 首輪はまだ美玖の首に着けられていたが 彼女はジェシーと身体を寄せ合ったまま、毛布の上で穏やかな眠りに落ちた。 ***** ***** ***** ***** ***** 翌朝。犬舎に朝日が差し込む頃、美玖は目を覚ました。 床で寝たせいか身体は少し痛かったが 不思議なほど疲労感はなく、清々しい目覚めだった。 彼女はゆっくりと立ち上がり 毛布の上に残されたジェシーの精液が垂れ落ちた跡を見て 昨夜の出来事が夢ではなかったことを再確認した。 美玖は、首にかけていた首輪を外した。 それは彼女の秘密の儀式の道具ではなく 一夜限りの『種の証明』を果たした記念品のように感じられた。 美玖は首輪を元の位置に戻し、事務所へと向かった。 シャワーを浴びて作業着に着替え直すと 全てがいつもの日常に戻ったように見えた。 しかし、一つだけ決定的に違っていた。 彼女の心の中に長年あった 『種同一性障害』による違和感が消え失せていたのだ。 鏡に映る自分の顔は、血統書付きの良質な犬を育てる 評判のブリーダー:高島美玖の顔だった。 理性と知性に満ちた、プロフェッショナルな表情。 しかしその瞳の奥には、以前にはなかった穏やかな安堵と 静かな自信が宿っていた。 午前7時、店長が他の誰よりも早く出社してきた。 「高島さん、昨夜はありがとう。何事もなくて良かった。 犬たちにも異常はないようだね」 「はい、全て問題ありませんでした。子犬たちも元気ですよ」 美玖は、いつものように完璧なプロの笑顔で答えた。 彼女は、もう決めていた。 自分の身体が人間であることを認めてブリーダーとして生き 犬たちを守り育てていこうと。 それはジェシーとの交尾を通じて 彼女の魂が『自分の居場所』を見つけた成果だった。 美玖は夜勤の報告書を書き終えると犬舎に戻り ジェシーがいる広いサークルの前で立ち止まった。 穏やかな目で見つめ返してくるジェシーの頭を、美玖はそっと撫でてあげた。 「今日はこれで帰るわね。明日も一日、頑張ろうね」 これからも美玖は、人間として生きていくだろう。 しかし今、彼女の魂は満たされ、静かな調和を見出していた。 人間の理性と犬の本能という、二つの異なる種族の間に 美玖は自分だけの『均衡点』を見つけたのだから。 【おわり】 ***** ***** ***** ***** ***** 本作は、2025年10月号のTOPICSに掲載されたアンケートで ベンジーさんが問い掛けた内容がキッカケの作品です。 >性同一性障害ならぬ『種同一性障害』(私の造語です)をテーマにした >小説を考えています。身体は人間なのに心は「犬」。 >そうした悩みを抱えた女性の物語です。どんなイベントが欲しいですか。 う〜ん、脱帽です。斜め上からの発想、まさに大御所視点。 これは完全に『あたおか』ですね(褒め言葉) 上記に続く設問を見る限り、単純な犬ではなく ペットとして飼われる犬(=のように扱われるメス奴隷)のように感じましたが 私はコレを、ベンジーさんから出された『お題』として書き始めました。 設定上の譲れない前提は 性同一性障害ならぬ『種同一性障害』を持つ女性が主人公 ・・・という点ですが 「心が『犬』なら、交尾の相手も犬?それとも人間?」 という、さらにマニアックな方向に仕上がってしまいました(苦笑) きっとベンジーさんが発表する作品とは、内容が大幅に違うと思いますが 同じテーマのスピンオフ作品くらいに思って、楽しんで下さい。 【ベル】
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