読者投稿小説小説『レンタルなんもしない人』 作;ベル プロローグ:不思議なサービス 『なんもしない人(僕)を貸し出します。常時受付中です。依頼料は自由。 あと国分寺駅からの交通費と、飲食代だけ(かかれば)もらいます。 お問い合わせはDMで。 飲み食いと、ごく簡単な受け応え以外、なんも出来かねます』 この『不思議なサービス』をインスタグラムで見つけた時 森本祥子(しょうこ)の脳裏には 今まで全く考えもしなかった、あるアイディアが浮かんだ。 それは自分がオナニーする姿を見てもらうことだった。 祥子には現在、彼氏がいない。過去の男性経験は2人。 見た目は容姿もスタイルも普通、性欲も普通(だと思っている)。 しかし、この不思議なサービスを知った時、思い付いてしまったのだ。 「ホントに相手が何もしないなら 普段は誰にも見せない『淫らな姿』だって、さらけ出せるのでは?」 それがどんな結果になるのか、深く考えもしないままで。 DM:ダイレクトメールでは、次のように依頼した。 「私のオナニーする姿を見て下さい。 私の身体に触れないこと、私の姿を撮らないことが条件です。 場所は私の住むアパートです。国分寺駅まで迎えに行きます。 こんな依頼でも良ければお返事下さい。よろしくお願いします」 第一章:待ち合わせ 夜の駅前は少し冷え込み、街灯だけがぼんやりと光を放っていた。 祥子はスマホを握りしめ 数時間前にメッセージを送った相手が到着するのを待っていた。 「承知しました。当日は国分寺駅の改札口で待合せしましょう」 彼からの返事はそれだけ。名前も、年齢も、顔も、何も知らない。 彼は『レンタルなんもしない人』。 祥子から依頼した奇妙な内容にも、彼は淡々と応じた。 メッセージのやり取りでさえ、彼は必要最低限の言葉しか使わない。 しかし、その無機質なやり取りが逆に祥子の想像力を掻き立て 心臓の鼓動を速めていた。 「いったい彼は、どんな人なんだろう?」 若くてイケメンかも知れないし、中年の男性かも知れない。 あるいは、ただの変人だという可能性もあった。 しかし、どんな人であっても彼女の計画に影響はないだろう。 なぜなら、彼は『なんもしない人』だからだ。 もちろん今回の依頼内容でも『なんもしない』とは限らない。 自分から申し入れたとはいえ、赤の他人を自分の家に招くのだ。 それでも祥子は、リスクを承知で今から会おうとしていた。 約束の時間より20分も前に、祥子は国分寺駅の改札口に着いていた。 「あの人かな?いや、こっちの人かも? ・・・もう少し、目印となる服装を教え合っておけば良かったわ」 そんなことを考えつつ、祥子は改札口を出入りする人たちの様子を窺っていた。 そこへ、少し他とは雰囲気の違う人が改札口から出て来た。 祥子は何となく、彼が待合せした相手だと察した。 見た目は想像していたよりもずっと普通の、30代の男性だった。 地味なベージュ色のチノパンに白いTシャツ、デニム生地のキャップ。 彼はただそこにいる。そういう表現がピッタリな雰囲気だった。 「森本さんですか?」 彼は静かに、祥子に近付いて尋ねた。 祥子は頷き、彼を『レンタルさん』と呼ぶことに決めた。 「レンタルさん、ですね?今日はよろしくお願いします。じゃあ、行きましょうか」 祥子はそう言って、自分の住むアパートへと歩き始めた。 祥子のアパートは国分寺駅から歩いて10分。 決して広いとは言えないワンルームだが清潔で、彼女の個性が詰まっていた。 彼は一言も発することなく、ただ祥子の数歩後ろを付いて来た。 何もしない、何も話さない。まるで足元の『自分の影』のようだった。 アパートの玄関扉を開けると、祥子は彼を家の中へ招き入れた。 「あ、お邪魔します」 彼はそれだけ言うと靴を脱ぎ、部屋の中へと入っていった。 「えっと。・・・どうぞ、そこでお待ち下さい」 祥子が案内したのは、ベッドの横に置かれた椅子。 彼は部屋を見回すこともなく、そこに腰を下ろした。 彼はただそこにいる。まるでご先祖様の守護霊か、透明人間のようだった。 「早速ですけれど、始めてもらっても良いですか?」 「あ、はい。そうですよね?時間も限られていますから」 祥子はカーテンを閉めると、ゆっくりとベッドに横たわった。 少し照明を落とし薄暗くなった部屋には 甘いアロマキャンドルの香りが漂っていた。 「・・・(確かに今も、彼の視線を感じる。でも、彼はただ見ているだけなのね)」 興味も関心もなく淡々とした様子で、ただ祥子という人物を認識しているだけ。 祥子はそのことに少し安堵すると同時に これからしようとする行為に高揚感を覚えていた。 「えっと。・・・じゃあ、始めますね」 祥子はそう呟き、ゆっくりとスカートに手をかけた。 スカートのジッパーが下がる音が、静かな部屋に響いた。 彼女の指先がパンティーの柔らかい布地に触れ、下半身を先に露わにさせた。 続いて祥子はブラウスとブラを脱ぎ落し 一糸纏わぬ姿になってから、あらためて彼の様子を見た。 「・・・(視線はずっと感じている。でも彼は、本当に何もしないんだ)」 祥子が両手で自分の乳房を揉むと、彼女の身体は次第に熱を帯び 内側から燃え上がっていくような感覚に襲われた。 彼女は震える指で陰唇を広げ、自分のクリトリスに触れた。 その感覚は、いつものオナニーとは全く違うものだった。 普通は誰にも見せない、自分だけの『秘密の儀式』。 それを今、レンタルさんにすぐ近くから見られている。 その事実が、祥子を縛っていた鎖を解き放ち 彼女の感度はますます上がっていった。 第二章:増幅する快楽 祥子は静かに目を閉じた。 視界を遮断することで、感覚が研ぎ澄まされていった。 部屋の静けさが一層際立ち 彼の吐息と自分の心臓の鼓動が耳元に伝わった。 「・・・(今もレンタルさんが、この部屋の隅から私のオナニーを見ている。 彼は何もしない。でも確実に見ている。 私の裸を、オマンコを、クリトリスを。そしてそれを触っている淫らな私を!)」 そう意識することで、祥子は心の迷いを断ち切り 彼女の快楽をさらに増幅させた。 {・・・(本当にレンタルさんは何もしないのかしら? 私を襲わない『ルール』は守るとしても、 自分でオチンチンを触ったりしたくならないんだろうか? いや、もしそんなことを目の前でされたら 私の方が先に理性を抑え切れなくなっちゃうわ)} 彼の視線はもはや恐怖ではなく、羞恥心を煽るスリルになっていた。 そんな不安の中で、祥子はオナニーに没頭した。 左手で乳房を揉みながらに乳首を優しく摘まみ 右手の指先をゆっくりと太ももの付け根から敏感なクリトリスへと滑らせた。 潤いを増した肌が指に絡みつき、ヌルッとした快感が走った。 クリトリスを優しく撫で続けると その小さな塊が少しずつ硬くなっていくのを感じながら 祥子は小さな円を描くように指先へ力を込め 膣穴の奥へと中指と人差し指を挿入し、さらに刺激を与え快楽を求め続けた。 「んっ!・・・く、くはっ!・・・あ、イイ!・・・気持ちイイ!」 意識しないまま、小さな喘ぎ声が漏れ始めていた。 まるで自分の声ではないような、甘くか細い声。 しかし、その声が彼女の快感をさらに高める燃料となった。 指先がどこかに触れるたびに背筋にも電流が走り 子宮の奥がジンジンと痺れていた。 「・・・(自分の性欲を、他者の前で解放するなんて!でも、もうやめられない!)」 その背徳感が、いつもの行為では味わえない『特別な刺激』となっていった。 しばらく経っても、やはりレンタルさんは何もせず ただ静かに座ったままに祥子を見つめていた。 しかし彼の存在は WEB会議のような『画面の向こうにいる人』とはまるで違っていた。 祥子は薄目を開け、彼の姿をぼんやりと見つめた。 彼の無表情な顔が、彼女の興奮をさらに煽った。 「もっと、彼が身を乗り出すくらいのオナニーを見せ付けたい」 祥子は小さな声で、そう囁いていた。 指の動きはさらに速く、大胆になっていき 中指と薬指は肉襞の奥深くまで押し込まれ 同時に親指でクリトリスを力強く擦り付けた。 すでに呼吸は荒くなり、熱い吐息が彼女の唇から漏れ出続けた。 ベッドの上で身体が小刻みに揺れ始め 指が触れている部分から全身へと『甘い痛み』が広がっていった。 「・・・(ああ。こんな恥ずかしい姿を人に見られながら オナニーする日が来るなんて!)」 理性と性欲がごちゃ混ぜになり、もう見続けて欲しいのか襲って欲しいのか 守るべき境目が分からなくなっていた。 視線を向ける『彼の存在』が祥子の快楽を高め 彼女を絶頂という『非日常』へと導いていった。 「あ、あふっ、・・・ダメッ、もう、もうっ!」 絶頂がもうそこまで近付いていた。 身体の奥が熱くなり、すでに理性が失われていた。 指先の動きはますます早くなり 祥子は頭を左右に振って必死に声を抑えようとするが それは無駄な抵抗だった。 自分の意志とは無関係に快楽の波が繰り返され 全身がひきつけを起こしたように震え始めた。 「ああっ、うっ!・・・い、イク。もう、もう。イク、いく、イクう〜っ!!!」 祥子は目を開いてレンタルさんを見つめ 絶叫にも似た声を上げながら背中を大きく弓なりに反らせた。 全身がビクッビクッと痙攣し 身体の奥から押し寄せる快感の奔流に身を任せた。 それは、甘く、痛く、そしてこの上なく気持ちの良い『解放の瞬間』だった。 第三章:恥辱の告白 激しい痙攣が収まると、祥子はぐったりとベッドに横たわった。 呼吸はまだ落ち着かないままだったが 汗ばんだ肌に部屋の冷たい空気が心地良かった。 全身の力が抜け快楽の余韻に浸っていたが ふと顔を上げるとレンタルさんはまだそこにいた。 彼は本当に何もしないまま、ただじっと無表情に全てを見届けていた。 祥子は自分が全裸で しかも先ほどの行為の痕跡がそのままになっていることに気付き 一瞬で羞恥心がこみ上げてきた。 「・・・(とりあえず、何か羽織るものを)」 祥子は無言のまま身体を起こし ベッドの横に置いてあったバスローブを手に取ろうと手を伸ばした。 しかし、その感情はすぐに別のものに変わった。 「これ以上、何を恥じることがあるだろう。 最も淫らで最も無防備な姿を、彼は全て見届けたばかりなのに」 開き直りにも似た清々しい気持ちが、祥子の中に湧き上がった。 その時、レンタルさんが初めて口を開いた。 「まだ約束の時間までしばらくありますから、どんな姿でも大丈夫ですよ」 その言葉に、祥子は思わず笑ってしまった。 自分の心の迷いを彼が察したようなタイミングだったし 同時に彼の徹底した『なんもしない姿勢』に感心した。 彼の言葉は祥子の心を完全に開き直らせ スローブを放り出すと、裸を一切隠さないまま立ち上がった。 「そうですね。・・・じゃあ、一緒にお茶でもどうですか?」 祥子はそう言ってキッチンへ向かい、湯を沸かしてお茶を煎れた。 彼はその間も椅子に座ったまま、ただ祥子の裸を眺めていた。 「濃い方が良かったですか?」 「いいえ、あなたと同じもので」 裸のまま流れるような動作で、祥子は湯呑みを二つ用意した。 キッチンで急須から注いだ湯呑みの一つをレンタルさんに差し出し もう一つを自分の手に持って彼の近くに座った。 彼は湯呑みを受け取ると、静かに一口啜った。 「レンタルさん、少し変なお願いをしても良いですか?」 「はい、構いませんよ。『なんもしないルール』の範囲内でしたら」 彼に何かをしてもらうことは基本的にNGだが 飲み食いと、ごく簡単な受け応えはOKだとあらかじめ確認してあった。 「私に何か質問して下さい。 普段なら誰にも聞かないような、出来るだけ際どい質問を」 祥子は目を輝かせ、挑発するように尋ねた。 彼の無表情な顔に、わずかな驚きの色が浮かんだように見えたが それはすぐに消え去った。 「まあ、質問するだけなら・・・」 彼はゆっくりと口を開いた。 「どうして、僕にオナニーを見られたいと思ったんですか? ずっと前から見られたいと思っていたんですか。 それとも、人に恥ずかしい姿を見られた経験が過去にあって 再体験したかったんですか?」 彼の質問に、祥子の身体が震えた。 自分の心の奥底を覗かれたような気がした。 「そ、それは・・・」 言葉に詰まる祥子を、レンタルさんはじっと見つめていた。 彼は何も急かさない。ただ、答えを待っている。 その視線が、祥子の内側にある淫らな感情をさらに呼び覚ました。 「私の心のどこかに『恥ずかしい姿を見られたい』という願望があって レンタルさんの存在を知った時に それが表に浮かび上がって来たんだと思います」 そう答えた時、祥子の心の中で『何か』が弾けたような気がした。 「もっと、もっと際どい質問をして下さい。 もっと、私を恥ずかしい気持ちにさせて下さい!」 祥子は潤んだ瞳で彼に懇願した。 自分の中の『何か』が変わろうとしている、そんな予感がした。 レンタルさんも何かを察したのか、湯呑みを静かに置いて再び口を開いた。 「あなたの人生の性体験で、一番気持ち良かったことを話して下さい。 今さっき見せてくれたオナニーですか? それとも、誰かに抱かれた時ですか?その時のこと、詳しく教えて下さい」 彼の声は静かで、感情がこもっていない。 だが、その言葉は祥子の心の最も柔らかい部分に突き刺さり 全身に甘い痺れが走った。 第四章:告白と解放 彼の質問は、あまりにも個人的で、まさに核心を突いていた。 この質問に答えることは、 最も恥ずかしい姿を見せることよりも、さらに深い秘密をさらけ出すことになる。 それは一番の親友にも、ましてや将来の夫にも話すことのない 『自分だけの秘密』だった。 しかし祥子は、自分でも不思議なほど確信していた。 さなぎが成虫へと羽化するような、そんな予感。 むしろ祥子は、正直な告白がもたらすであろう『変化』に 甘い期待を抱いていた。 「私が初めて『経験』したのは、大学二年生の時です。 でも緊張し過ぎて、その時はあまり気持ち良くなかったんです。 身体がこわばって、痛みしか感じられなくって・・・」 祥子はそこで一度言葉を切った。 湯呑みから立ち上る湯気が、薄暗い部屋の中でぼんやりと揺れていた。 彼女は過去を回想するように、天井を見上げながら続けた。 「一番気持ち良かったのは、二人目の彼氏との『前儀』だと思います」 レンタルさんは黙ったまま、祥子の言葉を待っていた。 彼の視線は、ただ彼女の瞳に注がれていた。 「彼はとても経験豊富な人でしたが 私は過去の経験のせいで、感じにくくなっていました。 それでも最初は彼のリードに合わせて 無理に気持ち良いフリをしていたんです。 でもある日、彼にされた行為で、今まで感じたことのない感覚を味わいました。 それは彼の実家に行った日の夜でした」 「彼の家族が寝静まった頃、彼が私を起こして書斎に連れて行ったんです。 彼は私が断れない性格だと知っていて まず私だけが裸になるように命じました。 全部脱いだら扉に鍵を掛けると約束してもらい、私は裸になりました。 次に彼は、私を肘掛け付きの椅子に座らせ 両足を肘掛けに載せてアソコを、・・・オマンコを見せるように言いました。 ココは彼の実家ですから、せめて先に鍵を掛けて欲しいと頼んだのですが 椅子に座って足を広げるのが先だと押し切られ 私は従うしかありませんでした」 「彼は私を座らせた後、書斎の照明を点けたまま私の太ももを広げて 舌で私の身体を這うように舐め始めたんです。 私が声を漏らしそうになると、書棚の方を指差し ここの隣が両親の寝室だから声を出さない方が良い、と言いました。 そこには鍵を掛けた扉とは別の引戸があり いつでもコチラに出入り出来るというのです。 まるで蜘蛛の巣に捕らわれた蝶々が さらに太い糸にも絡みついてしまったような状況でした。 私に出来るのは、少しでも声を漏らさないよう 両手で口元を押さえることだけでした」 祥子の声は少し震えていた。 彼女は、湯呑みを両手で包み込むように持ち、温かさを感じながら続けた。 「やがて、彼の舌が私のクリトリスをゆっくりと舐め上げるたびに 全身に電流が走るような、痺れるような『快感』が広がっていくのを感じました。 今まで感じたことのない、甘い痛みが身体中に広がって 彼がクリトリスを吸い上げるたびに 内側から熱い波が何度も押し寄せて来て・・・。 望んではいない状況なのに、SEXよりも感じてしまったんです」 祥子はその時のことを思い出し、自身の太ももを無意識に閉じて身震いした。 この質問は、祥子に過去の経験を鮮明に蘇らせ その快感を追体験させていた。 「声も出せない、気付かれてもいけない。 深夜の書斎で私だけが全裸にされて、クリトリスを舐められる。 そんな状況で快感の波が絶え間なく繰り返された結果 ついに限界を迎えた私は 大きな声で『イクぅ〜っ!』と叫んで失禁してしまったんです。 これは彼にも予想外だったようで 驚いた彼の両親が書斎に駆け込んで来てしまったほどでした。 でもあの時、私の中で『何か』が変わったんです」 「その彼とは、今も続いているんですか?」 「いいえ、すぐに別れました。相手の両親とも気まずくなって 翌朝に一人で帰りました。でも結果的には、それで良かったと思います。 もし別れなかったら、それ以上のことも求められていたと思いますから」 祥子は誰にも話せなかった過去を告白し、湯呑みに残ったお茶を飲み干した。 「では、あなたの中で変わった『何か』を教えて下さい」 「・・・(ああ、そうか。レンタルさんは『なんもしない人』だけど それ以前に『賢い人』なんだわ)」 祥子はそう確信した。 おそらく彼は、祥子の 『もっと、私を恥ずかしい気持ちにさせて下さい!』という懇願に 応えているだけだろう。 しかし、予感していた『変化』には必要な追及だと思えた。 「それ以来、私のオナニーは クリトリスを刺激してあの夜の快感を再現することを目的にしていました。 でも、自分でしても十分に気持ち良くなれるけれど ずっと足りないモノがあると思っていました。それが・・・」 「・・・『他人からの視線』ですか?」 「はい。・・・レンタルさんは、何でもお見通しなんですね」 祥子は苦笑いしながら立ち上がると、キッチンの急須にお湯を継ぎ足した。 「私の中で一番変わったことは 『恥ずかしい姿を見られたい』という願望を持ってしまったことでした。 あれから何人かとお付き合いし、『経験』しそうな機会もあったのですが みんな気を使って部屋の照明を消してしまうんです。 でもそれだと『見られ』ないから、物足りなくって・・・」 「・・・」 「でも今日は、レンタルさんがただ見てくれるだけに徹してくれたから 私は久しぶりに本気でイケました。本当にありがとうございます」 祥子はレンタルさんの目をまっすぐに見つめ、ニッコリと微笑んだ。 彼女の目には、全てを告白したという達成感と解放感に満ちていた。 「ずっと誰かに、心の中までさらけ出してしまいたかったんですね」 レンタルさんの静かな声が部屋に響いた。 それは質問ではなく、確信に満ちた言葉だった。祥子は黙って頷いた。 2杯目の湯呑みを彼に手渡すと 彼女は再び身体の奥がジンジンと痺れるような感覚を覚えていた。 彼もそれを察したのか、新しいお茶を一気に飲み干すと、こう言った。 「まだ約束の時間までもうちょっとありますから、大丈夫ですよ」 それは彼が祥子に、オナニーするよう促しているのだと分かった。 「でも、レンタルさんに舐めてもらうのはダメなんですよね?」 「ええ、それは出来ません。『なんもしないルール』の範囲外なので」 「では、ルールの範囲内で、時間ギリギリまで見て下さい」 祥子は満面の笑みを浮かべて、M字開脚の姿勢になった。 エピローグ:視線以上の価値 あれから数週間が経った。 祥子は、レンタルさんを招いた『あの夜』の出来事を鮮明に覚えていた。 自分の最も恥ずかしい姿をさらけ出し、最も恥ずかしい秘密を告白した。 そして、その全てを黙って聞き届けてくれたレンタルさん。 時間ギリギリまで全裸オナニーを見てもらい 祥子は短時間で再びアクメに達してしまっていた。 彼が去った後、祥子の心には不思議な想い出だけが残っていた。 あの夜以降、祥子は自分の身体をさらけ出すようになった。 オナニーをする時は、部屋のカーテンを開けて電気を煌々と点け 自分の身体を窓の外に向けて指を這わせた。 時折、ふと窓の外に目をやると まるで誰かに覗かれているように感じることがあった。 しかしそれは恐怖ではなく、誰かに気付かれたいという願望かも知れなかった。 「もしかしたらレンタルさんが、どこからか見てくれているのかも?」 そんな突飛な妄想を抱く自分に、祥子は小さく笑った。 そもそも彼は『なんもしない人』だ。 約束の時間以外に、自分のオナニー姿を覗き見ることなどあり得ない。 それでもいつか、別の誰かの視線が自分の裸体に向けられ あの夜の快感を上回る日が訪れる。そんな予感がした。 ある日、祥子は友人から男性を紹介された。 とても優しくて真面目な人で、以前から祥子のことが気になっていたという。 数回のデートを経て彼と二人きりになった時 彼は照明を落とさないまま優しく祥子のクリトリスに触れた。 彼は経験が足りず、ただ単にそういう気配りが出来なかっただけかも知れない。 しかし祥子は彼の服を脱がせ、自らも全裸になると 彼の身体に跨ってシックスナインの体勢になった。 「ずいぶん積極的なんだね。普段の君とは違って、ちょっと意外だった」 「でも好きな相手じゃなければ出来ないことよ? だからアナタも、私を先にイカせるつもりで頑張ってね」 祥子が彼氏の亀頭に舌を這わせると、相手も祥子の陰唇を舐め始めた。 「・・・(ああ、それよ!舐めてくれるだけでアナタは レンタルさんを超えられるわ)」 祥子は彼氏が先にイカないようにフェラチオのペースを抑え 代わりに喘ぎ声や態度で、どこが感じやすいかを示した。 煌々と照らされた部屋で 祥子は初めて、自分の身体を彼氏に捧げていることに恥ずかしさを感じた。 だが、それはすぐに別の感情に変わった。 彼が興奮しながら自分のオマンコを舐める様子が、とても愛おしく思えたのだ。 彼の視線や愛撫は祥子の彼女の裸を慈しみ 彼女の存在を大切にしていることを伝えていた。 ふと祥子は、あの夜のレンタルさんが言った質問を思い出した。 「どうして、僕にオナニーを見られたいと思ったんですか? ずっと前から見られたいと思っていたんですか。 それとも、人に恥ずかしい姿を見られた経験が過去にあって 再体験したかったんですか?」 祥子はあの時、自分に『見られたいという願望』があるとハッキリと自覚した。 それは嘘ではなかったが、本当はもう一つ『別の理由』もあった。 「・・・(私が欲しかったのは、誰かの『視線』だけじゃなかったんだ。 私の身体を興奮しながら求めてくれる、この人のような存在だったんだ)」 そう心の中で呟いた祥子は 彼の優しさに満ちた舌使いに身を委ねながら、安堵と幸福を感じていた。 「もしかしたら一生、レンタルさんとの夜を上回る人とは 出会えないかも知れない」 実際、さっきまではそう思っていた。 しかしそれは、祥子にとっては無駄な杞憂だった。 なぜなら彼女はもう、彼氏の愛撫で快楽の波に翻弄され始めていたからだ。 「・・・(あの夜、レンタルさんをお願いして本当に良かった。 『なんもしない人』という存在が私の心を変えたように 今度は私が彼氏を感じさせて 私が『彼女』で本当に良かったと思わせなくっちゃ)」 祥子は心の中でそう呟きながら、彼氏の亀頭をパクッと咥えた。 【おわり】 ***** ***** ***** ***** ***** (あとがき) この『レンタルなんもしない人』は実在します。 マンガ書籍もあるし、2020年4月にはドラマにもなっています。 主人公の名前:森本祥子(しょうこ)も 実在するレンタルさん(男性)の名前を、少しもじって使わせて頂きました。 興味があれば、インスタグラムやX(旧Twitter)を検索してみて下さい。 今回のような依頼を受けてくれるかどうかは分かりませんが(笑) 実際、冒頭の自己紹介文は 実在するレンタルさん(男性)のインスタグラムと同じです。 (読みやすいように、ひらがなの一部を漢字に変換していますけれど) 取材替わりになればと、マンガ書籍を購入して読ませてもらいましたが 実に不思議な人でした。 私は彼に『悪意のない変わった人』という印象を持ちましたが 彼に依頼をする人が、なにがしかの救いを得られているようなので 作中でも彼が悪人にならないような描き方を心掛けました。 (一緒に食事をしてもらうエピソードなんかは、ほっこりさせていただきました) もし、レンタルさんのような 「飲み食いと、ごく簡単な受け応え以外、なんも出来かねます」 という人が身近に実在していたら 露出っ子の皆さんなら、どんな依頼をするでしょうか? 私は『月刊野外露出』の愛読者ですから 依頼内容の一つの案を、短編官能小説として書いてみましたけれど 「彼にこんなことを依頼してみたい」というアイディアがあれば 短い文章で良いのでベンジーさんまで送って下さい (笑) 【ベル】
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