露出小説『OL佐伯みなみの野球拳狂想曲』 作;ベンジー 6.決勝戦の特別ルール 「それでは決勝戦です。西田課長、こちらへどうぞ」 みなみの手首を話した有田は、その手をステージの隅で待機していた西田に向けた。 第1試合で全勝した西田は、いつもの制服姿のまま、まだ一枚も脱いでいない。ステージの中央に進み、軽く会釈をする。それは、正面に陣取る社長以下の役員たちに向けられたものだろう。 「このまま続けるんですか」 このまま始めたのでは、圧倒的に不利だ。 みなみは、有田を見つめる。決勝戦では脱いだ服を着直して、制服姿から始められると思っていたのだが、 「そうですよ。脱いだ服は、野球拳が終わるまで着られません」 ねぇ、皆さん、と会場の指示を集める有田。 当然、反対する者はいない。わずかに一部の女子社員から「佐伯さん、可哀そう」と言う囁きが聞かれたが、無視されたのは言うまでもない。 「さあ、お時間も迫って来ました。ここで決勝戦の特別ルールを発表します」 有田が、思わせぶりにメモ用紙を取り出す。 どんなことが書いてあるのか。会場の視線が、その瞬間だけみなみから離れた。 「実はここで先ほど社長からご提案のあった“あいこなら二人とも脱ぐ”と言う特別ルールを発表するところだったのですが、すでに実施してしまいました。なのでこのまま……」 決勝戦を続けます、と言おうとしたのだろう。それを西田課長が制した。 「決勝戦の特別ルールはここにあるわ」 西田課長は、有田が持っていたのと同じメモ用紙を差し出した。 受け取った有田は、 「これ、マジですか」 「マジもマジ。大マジですよ。社長も承認しています」 有田が社長に顔を向けると、社長はそれを肯定するように右手で指図した。 暫し、メモ用紙とみなみの顔を行った来たしていた有田だが、意を決したようにマイクを握り直した。 「それでは改めて決勝戦の特別ルールを発表いたします。決勝戦ではギブアップは認められません。どちらかが全裸になるまで続けて頂きます」 会場に本日最高の大歓声が上がった。 全裸だ。 二人の内、どちらかの全裸が確定したのだ。 有田は、みなみに対する申し訳なさを目で現わしていた。 この場所がステージ裏だったら、手を合わせていたかもしれない。見ていて、みなみの方が気の毒に思えるくらいだった。 ――決勝戦は特別ルールで、ギブアップなしにするつもりなんじゃないかしら 里奈の予想が当たった。 みなみは、下着姿の身を固く抱きしめる。一方の西田課長は、 「佐伯さんを丸裸にしてあげるわね」 と、余裕の笑みを浮かべていた。だがこれはジャンケン勝負なのだ。みなみがここから5連勝する確率だってゼロではないと言うのに。 さらに西田課長は、口元に人先指を立てて見せた。 「わかりました」 みなみは、全社員が見守るステージの上で下着姿になっている自分が信じられなかった。これだけでも恥ずかしくて堪らない。一刻も早くこの場を去りたいと願っているのに、それは決して許されない。 それどころか、西田課長には「丸裸にしてあげる」とまで宣言されていた。 (どうしよう……) いくら待っても答えの出ない質疑応答のループに嵌っていた。 「それでは、決勝戦です。お二人とも用意は良いですか」 野球拳音頭が始まってしまった。もう後には引けない。ギブアップもできない。次に負けたら、ブラジャーを外すしかない。 「アウト、セーフ、ヨヨイのヨイ」 みなみはグー、西田課長はパー。みなみの負けだ。 自分が出した手をじっと見つめるみなみ。それ以外の動きが止まっていた。このまま永遠に動かなければ良いのにと思うしかなかったのだが、 「ついにやりました。やりましたよー、皆さん。佐伯さんのおっぱいが披露されます」 有田が盛り上げるまでもなく、会場は一斉に煽り立てる。同僚の女子社員の乳房が見られるのだ。服の上からでも定評のあるバストだ。その歓喜が強い分、みなみの羞恥心は深くなっていく。 (やるしかないのよ、ね) みなみの両手が背中のホックに回る。ついさっき、里奈はここでギブアップをした。だが、今のみなみには、それが許されない。このままホックを外すしかないのだ。 指先に力が加わる。ホックの外れる音と共に、胸回りの締め付けが緩んだ。 みなみは慌ててカップを押さえる。 まだ、胸の露出はしていない。 泣いて許しを請うたら、今からでも野球拳を中止して貰えるだろうか。 ふとそんな思いに駆られる自分を諌めた。この流れはもう、誰にも止められるものではなかった。それでも (お願い、誰か止めて) 願いも空しく、10秒後には、みなみのブラジャーが脱衣かごに納まった。 両手でしっかりと胸をガードするみなみ。 割れんばかりの拍手は、今やショーツ一枚となった女子社員に向けられていた。 「いいぞー、みなみちゃん。やっぱでけぇぜ」 「残念。俺、見えなかった」 「佐伯さん、顔、真っ赤。あんなに恥ずかしそうにして」 みなみは、とうとう後一枚と言う姿になってしまった。 もう後はない。 次はあいこでも、みなみの脱衣は避けられない。それは取りも直さず、全裸と言う意味だ。 「ああ、佐伯さん。ごめんなさい。私、ちょっとだけ見えてしまいました」 有田の言葉は、真っ赤になったみなみの頬にトドメを刺した。普段なら両手で顔を覆っていたところだが、今は胸から離すことができない。観客に背を向けて蹲り、羞恥と火照りが覚めるのを待つしかなかった。 「もう、有田さんったら。デリカシーってものを知らないのかしら」 有田が西田課長に怒られていた。 必死に言い訳する有田の声を耳にして、いくらか気持ちを持ち直したみなみは、ようやく立ち上がることができた。 とは言え、状況は変わっていない。 みなみはショーツ一枚で、逆に一枚も脱いでいない西田課長と勝負しなければならないのだ。全裸にされるのも時間の問題と、会場の誰もが思っていることだろう。 「気を取り直して、次の勝負です。それでは、どうぞ」 今日だけで飽きるほど聞いた野球拳音頭。これが最後になったらその時は…… みなみは、そうした想いを、必死で頭から追い出した。 「アウト、セーフ、ヨヨイのヨイ」 みなみはチョキ、西田課長はグー。また、みなみの負けだった。 「はい。決着が付きました。本日の野球拳、優勝は西田課長です」 有田が西田課長の右手を上げている間も、みなみはチョキを出したままフリーズしていた。会場の視線が、みなみに集まっているのは言うまでもない。 みなみの全裸が決定した瞬間だった。 「やったぁー。ありがとう、西田課長」 「みなみちゃんのすっぽんぽんだ」 「ちょっと可哀そう。だけど、脱ぐところ見たい」 「全裸だ。全裸だ」 興奮の坩堝と言うやつだ。もはや、この会場で、みなみの脱衣以外を考えている者はいなかったに違いない。 「さあ、佐伯さんに最後の一枚を脱いで頂きましょう。お願いいたします」 有田のアナウンスに合わせて、会場全体が全裸コールに包まれた。 (ああ、ホントに脱ぐんだ。 誰も止めてくれないよね、このための野球拳なんだから。 死ぬほど恥ずかしいよー。 でも、脱がなきゃ、なんだよね) ショーツを脱ぐのに、胸をガードしたままと言うわけにはいかない。それがわかっていても、胸から手が離れない。女の子の本性が理性に勝るのは仕方がなかった。 (なんで……? 脱がなきゃいけないのに) その時、みなみの肩にバスタオルが掛けられた。 高瀬裕也だ。いつの間に来たのか、みなみの後ろに立った高瀬が、ホテルのバスタオルで、みなみの半裸を包んでいた。 「えっ、あ、あの……」 突然のことに戸惑うみなみだったが、高瀬の返事を聞くより早く、会場はブーイングで溢れた。当然である。高瀬が余計なことをしたせいで、見られるべきものが見られなくなったのだから。 「良いわよ。佐伯さんも、これで脱げるでしょ」 西田課長の援護を得て、ブーイングはある程度静かになったものの、完全に納まりが着いたとは言えない。 社長も苦笑いをしていた。 みなみはフッと息を吐き、バスタオルにその身を包んだままショーツを下ろした。そのまましゃがんで、ショーツを脱衣かごの奥に押し込んだ。 立ち上がったみなみは、さながら、風呂上りにバスタオル一枚と言った様相を見せていた。 それでも充分に恥ずかしい。家族以外には見せたことのない姿だった。 「高瀬さん、ありがとう。でも……」 みなみは高瀬に救われた。それは間違いない。だが、それと同時に、ショーツ一枚の姿を至近距離で見られたことも間違いなかった。 ある意味、誰よりも見られたくない相手かもしれない。 「俺、佐伯さんが……じゃなくて、後でゆっくり……」 話の途中だったが、野球拳はまだ終わっていなかった。 有田の絞めの言葉が残っていた。 「はい。それでは表彰式に移らせて頂きます。野球拳に参加された笠井麗子さん、西條里奈さん、壇上にお集まりください」 その言葉で笹井女史と里奈が、渋々、ステージに戻って来る。二人とも、いつもの制服姿に戻っていた。 みなみは、バスタオルの合わせ目をしっかりと握り絞めた。 「優勝した西田課長には、賞品として、このホテルのスイートルーム・ペア宿泊券を差し上げます。拍手〜」 有田から、優勝賞品を渡された西田課長は、特に喜ぶ様子もなかったが、会場全体と社長らのいる役員席に向かって頭を下げた。 「西田課長。その宿泊券、今夜から有効ですが、どなたと行く予定ですか?」 有田は型どおりのインタビューを始めた。 (そんなの良いから、早くお開きにしてよー) それが、みなみの本音だった。全社員が見守るステージ上で、みなみ一人がバスタオル一枚と言う煽情的でスリリングが格好をしているのだ。一刻も早く帰りたいと願うのは当然だった。 「そうねぇ。誰にしようかしら」 こういうのを、官能小説などでは“猛禽類の目”と表現するのだろう。年増女性の妖艶さが滲み出ていた。 「これはこれは。もちろん、指名された方は、断るのナシですよ」 有田も、ここにいる者が指名されることはないと思っていたに違いない。 「高瀬君にしようかな」と西田課長。 これには、会場の女子社員一同が猛反発。社内で一番人気の高瀬だ。この反応は当然。会場は大騒ぎだ。 「これはまた意外なご指名で」 有田がおどけた調子ではぐらかそうとするが、女子社員のブーイングは納まらない。 「何を勘違いしているのかしら」と言いつつ、西田課長は高瀬の前まで進むと「これ、あげるわ。あなたが行きたい人と行きなさい」 貰ったばかりの宿泊券を差し出す西田課長。あたかも、一番近くにいた独身男性が高瀬だったと言う体を見せていた。 だが、これはこれで、女子社員に新たな波紋を広げた。 「私、今夜は空いてま〜す」と手を上げる女子社員が殺到。ステージにいた里奈は、地の利を生かし、高瀬の二の腕を取る。 「ここのスイート、前から泊まりたかったんですぅ」 ブーイングの嵐が激化したのは言うまでもない。 そうした中、高瀬は、さりげない仕草で里奈から二の腕を取り戻すと、 「本当に頂いてよろしいのですか? でも、なんで……」 「あなたが、本当に行きたい人と行くなら、ね。こういう物は、必要な人に渡るのが一番なのよ」 意味ありげな西田課長の目配せに、高瀬がどう納得したのかわからないが、 「わかりました」 (誰と行くんだろう。その人が、高瀬さんの想い人ってこと?) みなみの想いは、会場の大多数の女子社員と同じだったのではないか。 宿泊券を受け取った高瀬が振り向く。 そこにはみなみがいた。見つめ合う目と目。会場がその空気を察し、静まり返る。 「佐伯さん、俺とこの券、使ってくれますか?」 「えっ!?」 みなみは、今、なんと言われたのか、わからなかった。 いや、正確には、聞き間違いではないかと自分の耳を疑っていた。高瀬から、決して言われるはずのない言葉だと思っていたから。 「おっと、これは高瀬くん。全裸の佐伯さんをお持ち帰りだー」 有田の一言は、会場を一際、沸き立たせた。 女性陣の悲鳴とも思える声が上がる中、その一方で、 「佐伯さん、おめでとう。良かったわねぇ」 同じ部署の女子社員からは祝福を受けた。 (えっ? えっ? これって、告白で良い……のかな) みなみの目から涙がこぼれた。全社員の前でバスタオル一枚と言う羞恥地獄から一変、天国に昇ったようだ。 「ほら、お返事しないと。高瀬くんが待ってるわよ」 西田課長に促され、涙目のまま高瀬を見つめるみなみ。返事は決まっているが、言葉にはならない。ただ頷くだけだった。 「高瀬くんの公開告白が成功しました、新しいカップルの誕生です」 ここぞとばかりにまくし立てる有田。 バスタオル一枚のみなみに高瀬が寄り添う。肩を抱こうとした手が宙で止まったのは、みなみの肩が素肌だったからだろう。 下手なカップリング番組より、余程劇的で幸せそうな二人の光景に、悲鳴を上げていた女性陣も、拍手に混ざるしかなかったようだ。 恥ずかしいだけの野球拳が、大逆転のハプニングだった。 「ところで佐伯さん、このままで良いの?」 西田課長が人差し指を唇に当てた。 「えっ?」とは言ったものの、西田課長の言いたいことは伝わっていた。 「全社員が認めてくれたんだもの。皆さんにお礼したいと思わない?」 「お礼って、何をすれば……?」 「わかっているでしょ。野球拳で負けたあなたに、皆さんが何を望んでいるか」 つまり、そう言うことなのだ。 「……わかりました」 みなみは一歩前に出る。 「佐伯さん、何を……」 心配そうに見つめる高瀬を西田課長が制した。 「彼女なりにケジメを付けるつもりなのよ。好きにさせてあげなさい」 みなみは、振り向くことなく、 「高瀬さん、ごめんなさい。せっかく掛けてくれたバスタオルですけど、私、やっぱりズルはしたくない」 言い終わると同時に、バスタオルが床に落ちていた。 みなみは、両手を真っ直ぐに下げ、気をつけの姿勢を取る。全社員の前で、みなみのすべてが晒された。 それまでにない強烈な恥ずかしさが襲って来た。それでも身体を隠すことなく、ステージの中央に立ち尽くすみなみ。 「すっげぇ。正真正銘、オールヌードだ」 「キレイ。スタイルもいい」 「おっぱいが……、おっぱいが……」 「やったー。みなみちゃん、サイコー!」 会場のボルテージも最高潮に達した。 社長も立ち上がり、拍手を送っていた。 ――私はね、佐伯さんの背中を押してあげようと考えてるの (高瀬さんのことも、全部、西田課長の手のひらだったのですね) 拍手が落ち着いた頃、有田のマイクが復活した。 「本日の野球拳も終わりが近づきました。残るは罰ゲームだけです」 みなみは、すっかり忘れていた。会場の大半も似たようなものだろう。全裸になってしまったみなみに、これ以上何をさせようと言うのか。 有田の手には、いつの間にか投票箱があった。 罰ゲームの内容は、あらかじめ集められていた男性社員の投票の中から、みなみ自身がくじ引きするのだ。 「さて、何が出るのでしょうね。佐伯さん。今のご心境はいかがですか?」 マイクを向けられ、思い出したように両手で恥部を隠すみなみ。 そんな仕草にも会場は揺れる。 「な、何でも良いから……、ああ、早く終わりにしてぇ」 みなみの吐露だった。 「何でも良いのですね。引いたら必ず実行ですよ」 「わかってます。何でもやりますから」 恥ずかしさで消え入りたい想いに堪え、みなみは軽く有田を睨みつけた。 「では、どうぞ」 差し出された投票箱に手を伸ばす。隠したばかりのバストが晒されるのは仕方がない。言葉の通り、何でも良いから、早く終わって欲しかった。 最初に手に振れた用紙を取り出し、罰ゲームの内容を確認するみなみ。 次の瞬間、投票用紙が、みなみの手から零れていた。 『翌日、野球拳の最後にしていた格好で勤務する』 (おわり)
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