露出小説




   『露出っこクラブ〜佳織』

                              作;ベンジー

幕間

 大学には入ったものの、何をやってもおもしろくなかった。
 元々、勉強が好きだったわけでもなく、何かやりたいことがあったわけでもない。自分のレールを決めるのを、四年間先送りにしただけのことだ。
 それを意識しているだけ、他の子とは違うのだと、自負していた。
 最初の内は、授業にだってマジメに出た。とりあえずサークル活動にも参加してみた。アルバイトも、いくつか変わった。それらの中に、興味を持って続けられたものはなかった。成り行きでやっているに過ぎなかった。
 合コンも、セックスも、半年で飽きた。
 同世代の男の子は、皆、子供に見えた。大人の愛を求め、妻子ある男性と付き合ってもみたが、結局、新たな苦しみを知っただけだった。
 こんなはずじゃなかった。何かを忘れているのだろうか。

「露出狂」

 それは、もう二度と会うこともない彼からの、とんでもない置き土産だった。
 責任をとってよと、枕を濡らした夜もあった。何に対しての責任だか、自分でもわからなかった。
 ランドセルを背負ってハダカで登校する夢も、運動会の日にハダカで駆けっこをする夢も、修学旅行のバスにハダカで乗る夢も、今はもう過去の話に過ぎない。現実にはあり得ないことばかりだ。
 そんなことはしたいとも思わないし、そんな夢も、今は見ない。
 人前でハダカになるのは、恥ずかしいことだ。それは今も昔も変わらない。恥ずかしいからこそ、性的興奮を得られるというのが、彼の説明だったのだが……

 街で声を掛けられた。
 クラブのホステスのスカウトだった。今のバイトにも飽きていたし、お金にもなるし、多少は興味のある世界だった。
 イヤになったら、すぐに辞めるという条件付きで、その日の夜からお店に出た。「新人です」と言うだけで、お客様は、かわいがってくれた。
 お店に来る男性は、自分の父親ほどの年齢だった。
 それぞれに面白い話を聞かせてくれた。新聞で名前を見たような人の席に呼ばれることもあった。プレゼントをもらったこともある。女社会の嫉妬や軋轢も経験した。フーゾクで働く友だちもいたが、こちらのほうが、ずっと価値のある仕事に思えた。
 ある日、誘われるがままに、お客様とホテルに行った。
 大人のセックスは、心も身体も、満足させてくれた。この人となら、もう一度、恋愛ができると思った。
 別れ際に置いていった五枚の一万円札。
 それを見て、自分のしていることの意味を悟った。

 最近になって、思うことがある。
 やはり、露出が好きなのかもしれない。

 自分でやろうとは思わないが、誰かがやるのを、近くで見てみたい。
 そういう思いが強くなった。
 ストリーキングが出たと噂のあった路地に、何度も通ったことがあった。露出狂たちの集いをネットで検索しまくったこともあった。
 参加する気はない。ただ、この目で見たいだけだった。
 そういう機会に恵まれることは、滅多にあるものではない。そう気づいたのは、最近のことだ。機会がないなら、自分で作るしかないのだろうか。
 教室で隣に座った女の子を見る。
 一度言ってみたかった。
「あなた、露出に興味はないかしら?」

第4章 羞恥地獄

 誰かがエレベーターを呼んだのだ。
 こうなることは、十分に予想ができた。すっかり忘れていた自分が悪いのだ。
 佳織は、視力を失った。今更、後悔してみても、どうにもならない。エレベーターは確実に下へ向かっている。
 この次、このドアが開いた時には、呼んだ誰かが待っている。
 手錠を掛けられた全裸を、発見されてしまう。
 佳織は周囲を見回した。四角い箱には隠れるところなどあるはずもなく、どこにも逃げ出すことができない。佳織にとっては、晒し刑を待つ囚人の檻も同然だった。
 絶望感の中で閃いた。
(そうだ。エレベーターを止めれば)
 佳織は、操作パネルに背中を向けて、手錠の掛けられた不自由な手でボタンを押した。かなり無理のある動作だったが、指先が何とか届いた。
 押されたボタンは四階だったが、すでに通り過ぎている。
 三階、いや二階……
 佳織は焦った。
 一階まで行ってしまうようなら、確実にカミングアウトだ。スーパーの出入り口でもあり、食料品売り場があるフロアには、そろそろ、夕方の買い物客が集まって来る時間である。
 それに、一階まで止まらなかったとしたら、このエレベーターを呼んだ主は、確実にそこで待っていることになるのだから。
 エレベーターが止まった。
 階を表す表示は「2」になっていた。後はエレベーターを呼んだ主が二階からでないことを祈るばかりだ。
 ドアが開く。
 思わず目をつぶってしまった。そんなことをしても何の解決にもならないのに。息を飲む瞬間が過ぎても、特に何も聞こえない。ゆっくりと目を開ける。そこには誰の姿もなかった。
(助かった)
 ホッと息を吐いた佳織だが、再び、ドアが閉まりそうになり、慌ててエレベーターを飛び降りた。ドアに挟まりそうになり、右側の肩を強く打ったが、そんなことは、些末な問題だった。
 二階は、婦人服売り場になっていた。
 フロアには、何人かのお客さんの姿が見えた。佳織は心臓が止まるかと思った。こちらから見えるということは、あちらからも見えているということだ。
 商品数の関係だろうか。上の階なら自動販売機や休憩所がある辺りまで、売り場が広がっていた。買い物客が、ここまで来てもおかしくない。
 子供たちの声も聞こえた。
 膝を折り、背中を丸めて、その場を離れた。後ろ手に手錠をしているため四つん這いになることもできない。前にのめりそうになりながら歩く、何ともおかしな格好だった。
 各階とも、トイレと階段は、同じ位置にあった。
 とりあえず女子トイレに飛び込み、奥の個室に隠れた。便座に座り込んだ佳織は、まだ息が乱れていた。
 誰にも見られなかっただろうか。佳織を見つけた誰かが、追いかけて来てはいないだろうか。胸の鼓動が、外にまで漏れているのではないかと思えた。
(こんなことをしている場合ではないのに)
 佳織の置かれた状況に変わりはない。
 女子高生たちは、プリクラのマシンに、佳織の服を置いて来たという。それを他の誰かが拾って拾得物扱いされてしまったら終わりだ。わかってはいても、すぐに個室から出られない。
 今にも、このドアをノックされそうな気がしてならなかった。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。すごろくで言えば、ふりだしに戻ってしまったようなものだ。ここからまた5階まで、階段を昇らなければならない。
 しかも今度は三階分である。
 人に見つかる可能性も、三倍になったということだ。
 やっとの思いでチェーンの鍵を手にすることができたのに、どこまで苦しまなければならないのか。
 佳織は、永遠に、この状態から抜け出せないのではないかと、恐怖した。
 一つだけはっきりしているのは、ここにこうしていても、服を着せて貰えるわけではない、ということだ。
 佳織は、立ち上がる。
 個室のドアを開けて、一歩踏み出したそのタイミングだった。一番奥の個室のドアが開いた。
「ひやっ」
 小さな悲鳴をあげて個室に戻った佳織だが、ドアを閉めるまでは、できなかった。
「お姉ちゃん、どうしてハダカなの?」
 顔を見せたのは、小学生くらいの女の子だった。
 何で気づかなかったのだろう。外から追いかけて来る誰かのことばかり気にして、先客がいる可能性を忘れていた。
 こうなってはもう遅い。
 佳織は、後ろ手に手錠を掛けた全裸を、少女の小さな瞳に捉えられていた。
「ねえ、なんで」
「えーと、ね」
 この状況を説明できる訳がない。何と言ったら良いのだろう。女の子はこういうことに興味津々のはずだ。納得する答えを聞くまで食い下がるかもしれない。
 そうしている内に、この子の母親が来たら……
「お姉ちゃんがここにいることは、内緒にしておいてね」
 それが、この子の質問の答になっていないことは、承知していた。
「なんで?」
「お姉ちゃんねえ、隠れんぼしているの。見つかったら鬼になっちゃうでしょ」
 咄嗟に思いついた方便だった。
「ハダカで隠れんぼするの?」
「そう。お姉ちゃんたちの隠れんぼは、そういうルールなの」
 下手な言い訳だと思う。この子が納得するだろうか。親に知らせたりしないだろうか。だが、佳織には、これが精一杯だった。
「ふーん」
 女の子は、黙って佳織の身体を見ていた。
 罪悪感がこみ上げた。こんなところを子供に見せるべきではないし、その上、ウソまでついてしまった。それでも佳織は、「ごめんね」とは、言えなかった。
「お願いね」
 そう言って女の子を見た。
「わかった」
 女の子が走り出した。「あっ」と声には出たものの、もう追いつかない。女の子は本当にわかってくれたのだろうか。
 一刻の猶予もなくなった。
 外の様子を大雑把に窺いながら、個室の外に出た。
 二階のフロアで見た買い物客が、いつこのトイレを使わないとも限らない。あの女の子が、母親を連れて戻って来ないとも限らない。とにかく誰も来ない内にと、前屈みの姿勢で階段へ急いだ。

 階段を上るのは、これで何度目だろう。すでに五階から四階への階段を二往復していた。一段目に片足を掛けた時、佳織は思った。
(とうとう人に見られてしまったのね)
 今は二階。
 この先、誰にも見つからずに、服を回収することなんて、できるのだろうか。
 不安は募るばかりだ。
 今までの不安とは、明らかに違っていた。子供とは言え、実際に見つかってしまったことで、今まで妄想の中でしかなかった不安が、現実味を何倍にもした。
 子供だからあの程度で済んだが、次に見つかるのは大人かもしれない。
 そうなったら……
 こんなことになっているとは、あの男も想像していないだろう。それとも、今もどこかで佳織を見ているのだろうか。
 五階までの道のりが、非常に遠いものに思えた。
 時折、聞こえる人の声に耳をそばだてた。小さな物音にも、敏感になっていた。
 万が一にも、人と鉢合わせするわけにはいかない。普段のような足取りで階段を登ることはできず、急いでいるのに急げないもどかしさを感じた。
 時には、大声で叫んでしまいたい、このまま何もかも終わらせてしまいたい、とも思った。葛藤の中、素足だけは、確実に一段ずつ、階段を踏みしめていた。
 踊り場までは、すんなりと来ることができた。
 スーパーというのは、不思議なところだ。店内には、あれだけ人がいるのに、こんなにも、人が通らない場所がある。そのおかげで、佳織も最悪の事態を避けていられるわけだが、これから先も、そうであるとは限らない。
 案の定、折り返して二、三段上がったところで、人の足音が聞こえた。慌てて踊り場の下まで降り、壁に身体を寄せて、固まる。もし、この階段を降りて来るようなら、逃げても間に合わないだろう。ここに佳織がいると、知られるのが怖かった。
(お願い、来ないで)
 佳織は、固まったまま足音が、通り過ぎるのを待った。
 足音の主は、幸い、こちらには来なかった。佳織は、階段を登ることがさらに怖くなった。怖くなったが、登らないという選択肢はない。
 ふっと胸をなで下ろし、足を進めた。
 三階のフロアを目前に控えた時、子供の泣く声が遠くに聞こえた。買って貰いたいオモチャを買って貰えず、ダダをこねているようだ。一瞬ドキっとしたものの、すぐに見つかるようなこともないだろうと思った。
 ところが、子供の声に母親の叱る声が混ざり、どんどん、こちらに近づいて来た。
(逃げなければ!)
 そう思った佳織だが、このまま二階に下りてしまったら、いつになっても上には行けない。多少危険は伴うが、三階のフロアを通り過ぎて四階に向かうべきでないか。
 だが、四階へ向かう階段の様子は、確認していない。
 確認している時間もない。
 頭の中では高速回転が続いていたが、足が止まっていた。そうしている間にも、親子の声が、すぐ近くにまで迫っていた。
 もう迷っている余裕は、なかった。佳織は、本能の命じるがまま、上に向かった。
 とうに結論は出ていたのだろう。危機を感じて、身体が勝手に動いたのだ。
 四階への中段まで登った時、佳織は、背後の人影を感じた。後五秒も、あの場所にいたら、親子に見つかっていたに違いない。
 そんなタイミングだった。
 子供の泣き声は、尚も続いていた。しばらく泣き止む様子もなかった。母親もフロアの真ん中では、みっともないので、とりあえず端まで連れて来ただけなのだろう。泣かせるままにしていた。
 佳織は、自分の足音を気にしながら、四階へ向かった。
 すると今度は、若いカップルの声が聞こえた。
「今日この映画見るって、約束したじゃない」
「しょうがないだろう。急に仕事がはいったんだから」
「だって、ずっと楽しみにしてたんだよ」
「俺だって、そうだよ……」
 四階のフロアの片隅、ちょうどさっき佳織が入っていたトイレの近くで、言い争っていた。
(お願い、こんなところで揉めないで)
 これ以上、階段を上れば、見つかってしまうだろう。言い争いに夢中で、気づかない、なんて虫の良い話はあり得ない。そうしている間にも、話し声が近づいて来る。佳織が後ずさりすると、踊り場に足がついた。
 これ以上、降りれば、三階の親子から素足が見えてしまうかもしれない。
 階段の踊り場。いつ誰が来るか、わからない場所で、佳織は、行くも帰るも出来なくなっていた。スーパーに来てから随分と時間が経っている。夕方の買い物客も、増えて来る頃だろう。いや、これから、益々、増えるに違いない。
(いつまでも、こんな場所に、いられないのに)
 どちらかが、いなくなってくれない限り、ずっとこのままでいるしかない。
 あのカップルが、この階段を降りて来たら……
 あの親子が、この階段を登ってきたら……
 佳織は、不安に押しつぶされそうになりながら、必死に耐えるしかなかった。上からの声も、下からの声も、本当によく耳に届いた。細かい内容まで聞き取れた。
 ようやく子供の泣き声が収まり、何やら相談していたが、ゲームコーナーで遊んで帰るという話に落ち着いた。カップルのほうは同じことの繰り返しで、全く終わりそうにない。
(ゲームって、五階に行くってこと!?)
 佳織は、全身を強張らせたが、四階へ逃げることはできない。今、あの親子が、階段を登って来たらアウトだ。
 この時ほど、緊張したことはなかった。
 もうダメかと思った。
 恥部を隠す自由もない後ろ手錠の全裸を、見つかってしまうのか。
 お店の人を呼ばれて、警備室に連れて行かれて、もしかしたら、警察沙汰にまでなるかもしれない。
 そんなことになったら、すべてが終わりだ。
 佳織は、心が折れる寸前だった。
 親子は、それ以上近づいて来なかった。エレベーターを待っているらしい。佳織がホッとしていると、ブザーが鳴った。映画の上映開始を知らせるものだった。
「もういいわよ」
 女の声が聞こえた。結論は、どうなったのかわからない。とにかく、カップルの声は、しなくなった。
 佳織は、座り込みたくなる気持ちを堪え、やっと、上に向かうことができた。

 まだ問題は、残っていた。
 あの親子が五階のゲームコーナーに行ったのなら、佳織は、服を取りに行くことができない。とにかく五階まで行き、状況を確認するしかないだろう。親子の他にも、人がいるかもしれないのだ。
 四階のフロアに着く。
 ここから上に登るのは三度目だ。全裸でスーパーの階段を登るなど、とても現実とは思えない。そんな出来事を繰り返していた。この羞恥と緊張感は、決して慣れるものではないと、思い知らされた。
 五階への階段は、今まで以上に長く感じられた。
 さっきは誰もいなかったからと言って、今もいないという保証はない。高鳴る胸を抑えながら、やっとのことで、五階のフロアが見えるところまで上った。
 女子高生たちが、佳織の服を広げていた場所には、もう誰もいなかった。
 息を一つ漏らした。
 いよいよ、フロアに出ていかなければならなくなった。
 今までのように、店内の隅のほうをこそこそと歩いていたのとは違い、フロアのど真ん中まで出なければならないのだ。
 佳織の服は、ゲームコーナーに置かれたプリクラの中だ。それを手にすれば、佳織の身に起きた不幸が終る。この羞恥地獄から、脱出できるのだ。
 だが、その道のりが、どれだけ遠く感じられたことか。
 明かりを落としたトイレや薄暗い階段と違い、フロアは、煌々とした照明に照らされていた。それだけでも、佳織を辛くした。
(行くしかないのよ)
 佳織は、覚悟を決めて足を踏み出した。
 二歩、三歩、ゲームコーナーの様子が見えた。誰もいないように思えたその瞬間、全く別の方向に人の気配を感じた。
 ジュースの自動販売機の前に設置されたテーブルに、親子連れが座っていた。さっき、三階にいた親子だ。母親の背中の向こうで、三歳くらいの男の子が、両手で紙コップを持っているのが見えた。
 佳織の身体は、壁から1メートルほど離れている。男の子からは、佳織の全身が見えていたことだろう。
 何の遮蔽物もない。そんな状態で、佳織と男の子の目が合った。

◆ 露出への憧憬

 翌日も、一日そわそわして過ごした。
 教授からは、何も言って来ない。講義がないと、学校に来ているのかさえわからない。キャンパスのどこかで、突然顔を合わせるようなことがあったらどうしようと、気になって仕方がない。
 試験がなかったら、学校をさぼりたいくらいだ。しかも、こんな日に限って、知美が顔を見せない。
 長い一日だった。
 アパートに戻ると、待ちに待った管理人様からのメールが届いていた。
 と言っても、一日来なかっただけなのだが。

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K子へ

報告を読ませてもらったよ。
詳しく書けているね。
百台通過するまで頑張るなんて、K子もただのノーパンでは物足りなくなったのかな。
露出っことして成長している証拠だね。
ますます楽しみになってきた。
次は、学校でノーパンになってみようか。
友だちがいる教室で実行するのは、今までにはない恥ずかしさがあるはずだ。
やってごらん。

管理人
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 そうなのだろうか。物足りなくなっているなんて。
 確かに、アパートを出る時の緊張感は、薄くなってきたと思う。だからと言って恥ずかしさがなくなったわけではない。人とすれ違えばドキドキするし、高いところに上がれば、下から覗かれるのではないかと、ヒヤヒヤもする。
 それでも、何かが変わってきていると、感じていた。
 全裸でコンビニに行くのは無理としても、コート一枚で繁華街を歩くくらいならできてしまいそうな気がした。
 それだって、最初の頃は絶対にできないと思っていたことだ。
 次は学校で……
 禁断の蜜の匂いがした。授業中に、ここでノーパンになったらと、考えたこともあった。だが、それは危険が大き過ぎた。すぐにそんなことは無理だと否定する自分に、疑問は、持たなかった。
 それなのに、学校でのノーパンを、管理人様が言い出した。
 問題は、もう一つあった。

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管理人様、こんばんは。
K子です。

メールをありがとうございます。
管理人様の言うとおり、私は物足りなくなっているのかもしれません。
それが成長なら、喜ぶべきことなのですよね。
次は学校でとのお話でしたが、申し訳ございません。
明日で後期試験が終了します。
その後は、春休みです。
当分学校に行くことはありません。
せっかく頂いたご命令なのですが、実行する機会がなくなってしまいます。
どうしたら良いでしょうか。

K子
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 学校でのノーパン露出は、スリルがあるが、今の私にならできるかもしれないという期待があった。
 管理人様のご命令ならやるしかない。
 メールを打ち終わった頃には、むしろ、やりたいとさえ思っていた。正直、春休みが恨めしかった。メールを読み終えて、すぐに返信したのだが、次のメールは、明日の朝に間に合わないだろう。
 明日一日だけでも、学校でのノーパンを実行して、その上で相談したほうが良かったのかもしれないと、後悔した。

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K子へ

試験中だったのだね。
気が付かなくて悪いことをした。
明日は試験に集中してね。
春休みになったら別の命令を出してあげよう。
それではおやすみ。

管理人
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 意外にも、その日の内にメールが届いた。
 管理人様に気を遣わせてしまったことを申し訳なく思った。明日は試験に集中する、それは当たり前のことなのだが、それ以上に残念な気がしてならないかった。このままでは、明日ノーパンになれない。

 翌日は、悶々とした一日になった。
 試験は、それなりにこなすことができたが、良い成績は期待できないだろう。教授に出したメールの件も気になっていた。
「春休みはどうするの」
 知美が、早速話しかけて来た。
「しばらくはこっちにいるけど、実家に帰ろうと思って……」
「ふーん……」
 メイド喫茶のアルバイトの話をするのだと思っていた。あっさりと引いたのが意外だった。
 実のところ、実家に帰る気はなかった。帰ればインターネットができなくなってしまう。知美への煙幕だったのだ。
「携帯は繋がるのよね」
「もちろん、そんなに田舎じゃないわよ」
 次に知美と会うのは、新学年になってからだろう。
 私の春休みは、もう少し先だった。

 学校から戻ると管理人様にメールを書いた。「試験が終わったので、次のご命令をお願いします」という内容の簡単なものだった。
 返事が来るまでやることがないので、寝ることにした。
 このところ、露出は夜中にしていたし、しない日でも遅くまでネットを見て回ることが多かった。
 寝不足は、明らかだ。
 試験が終わって緊張が解けると、睡魔には勝てなかった。パジャマに着替えもせず、とりあえずベッドに倒れて目を閉じた。
 気づいた時には日が高く昇っていた。部屋の電気も暖房も付けっぱなしだった。
 そんなに疲れていたとも思えなかったのだが、十五時間以上は寝ていたことになる。変な汗の掻き方をしていた。
 とりあえず、お風呂にお湯を入れた。
 浴槽に浸かり、まったりとしていると携帯電話の着信音が鳴った。身体にバスタオルを巻いて携帯を開くと、知美からだった。
「良かった、まだいたのね。今から出かけるわよ」
「ダメよ。私、裸だもん」
 こんな時間になんでと、びっくりさせるつもりだったのだが、
「ちょうど良かったわ。さあ、車に乗って」
 いつの間に入って来たのだろうか。知美は、私の手を引っ張って、部屋の外に連れ出した。
「ちょっと、やだ、こんな格好……」
「いいから、いいから」
 強引に車に乗せられると、すぐに目的地に着いた。歩行者天国のようだ。
「それじゃ、がんばってね」
 知美は、運転席から手を伸ばし、助手席のドアを開けて、私を車外へ押し出した。
 バスタオルも取り上げられた。
 何がどうなっているのわからなかった。
「反対側で待っているから」
 知美の車が、走り去った。
 雑踏の中に、全裸の私が立っていた……

 どうやら夢を見ていたらしい。

 気づいた時には日が高く昇っていた。
 部屋の明かりも、暖房も、パソコンも、点けっぱなしだった。
 セーターの下が汗ばんでいた。胸がまだドキドキしていた。やけにリアルな夢だった。あんなに大勢の人混みの中、丸裸で置き去りにされるなんて。
 私は、そういうことを望んでいるのだろうか。
 お風呂にお湯を入れようとして、ちょっと考え、シャワーだけにしておいた。
 管理人様からのメールは、まだ届いていなかった。このままでは今日もやることがなくなってしまう。
 私は、一人で露出の自習をしようと思いついた。
 おなかも空いたし、とりあえずノーパンでコンビニまで行き、食べ物を買って来ることにした。今なら、前より堂々としていられると思った。
 着替えを済ませ、出かけようとしているところへ携帯が鳴った。
 画面を見ると「知美」の名前が表示されていた。
 私は、服を着ているのを確かめ、念のためドアに鍵を掛けてから電話に出た。知美は教授から伝言を頼まれたと言う。
 忘れていたわけではないが、意識の隅に追いやられていた現実だった。
 今日の午後、大学の教授室まで来るようにとのことだった。もう一度着替え直し、学校に行く準備をした。ショーツも、新しいものに履き換えた。
 試験の終わった学校は、ひっそりとしていた。
 クラブ活動で施設を使う学生もわずかに残っていたが、昨日までの雰囲気はない。学食も閉鎖されていて、自動販売機だけが点いていた。売り切れになっても補充する人はいるのだろうか。
 多少のことは覚悟していたつもりだ。
 あんなメールを送ってしまい、ただで済むとも思えない。普段から紳士面していた大学教授が、どんなふうに裏の顔を見せるのだろう。
 部屋の前に立った私は、緊張した右手を軽く握り、ドアをノックした。
「話は聞いているよ。私の講義は、そんなにわかりにくかったかな」
 教室にいる時と全く変わらない教授の顔が、そこにあった。
 この部屋の入ったのは初めてだ。
 教授室と言うと本の中に埋もれているようなイメージがだったが、意外に、こざっぱりとしていた。奥の両袖机の他に、食卓を二つ繋げたくらいのテーブルが置かれ、イスが六つ用意されていた。
 教授は、その一つに私を座らせ、自分は反対側の席に着いた。
 試験問題をテーブルに置いて要点を説明し、出題の意図を話して聞かせた。
 とてもわかりやすかった。
 どうして、この科目を苦手にしていたのだろう。諸先輩からの伝聞を間違って受け止め、ずっと誤解したまま諦めていたのだろうか。
 最後に教授は、レポートの課題を出した。それをきちんと提出すれば、最低限度の単位をくれると保証してくれた。
「これだけ……ですか」
 言葉の意味は、伝わっていたのだと思う。教授は、笑いながら言った。
「私を狼にしたいのかね」
「いえ、そんな……」
 私は、深々と頭を下げて教授室を後にした。さっきまで、何の覚悟をしていたのだろう。

 学校を離れる前に図書館に寄った。
 つい何日か前までは、ノートをコピーする学生たちの順番待ちで溢れていた。
 今は、閑散として寂しいばかりだ。
 司書もいないので、開架式しか使えないのは痛かったが、それでも何とか必要な資料は揃えることができた。
 教授から、ある程度の場所を聞いていたのが役に立った。
 せかされることもなく、ゆっくりと必要なところだけコピーして、それらの本を元の棚に戻す。ここまでできれば、他に必要なものは時間だけだった。
 帰る道すがら考えた。結局、私は知美に騙されていたわけだ。
 教授にエッチな写真を送ってご機嫌をとれば、単位の件は何とかしてくれる。そんな話は、どこにもなかった。
 教授は、ただ補修をしてレポートを提出させていたに過ぎない。
 ただ、それが公になってしまったのでまずいし、学生も勉強しなくなってしまう。その辺の微妙さが、面白おかしい噂となって流れたのだろう。
 ホッとするやら情けないやら……
 それでも私は、知美に感謝すべきなのだろう。
 教授に頼んでくれたのは、恐らく彼女なのだから。この木枯らしの吹く季節に、心が暖まるのを感じた。

 アパートに帰ると、管理人様からのメールが届いていた。

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K子へ

試験は終わったのだね。
それでは、早速次の命令を実行してもらおう。
ファミレスに行って、一人でボックス席に座る。
オーダーを注文して、ウエイトレスがいなくなったら、その場でパンツを脱ぐんだ。
そのつもりで席を選ぶように。
ノーパンになって料理を食べ、パンツは、座席に置いて帰ってくること。
タイミングと度胸が重要なポイントだね。
がんばっておいで。

管理人
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(今度はファミレスかぁ)
 街中まで行けばいくつかあるが、どこが良いだろうと考えた。あまりお客さんが多すぎては、ショーツを脱ぐなんてできないし、少なすぎたのでは、ご命令の趣旨に反するだろう。
 元々、そんなに選択肢があるわけでもない。私は、実行するファミレスを決めた。
 すっかりやる気になっている私を、もう一人の私がたしなめる。
 レポートはどうするの、と。
 特に期限を切られたわけではないが、早いに越したことはないだろう。
 春休みに入ったことでもあり、自分としても区切りを付けたかった。私のために時間を裂いてくれた教授に、これ以上、迷惑を掛けたくなかった。

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管理人様、こんばんは。
K子です。

新しいご命令をありがとうございました。
すぐにでも実行したいのですが、ちょっとだけ困ったことになっています。
試験の結果がダメで、レポート提出になってしまいました。
卒業にはどうしても必要な単位です。
ご命令は必ず実行しますので、レポートが終わるまで待って頂けないでしょうか。
わがままを言ってごめんなさい。
代わりにと言うわけでもありませんが、最近見た夢を懺悔します。
大学の親しい友だちが突然私のアパートにやって来て、
私を裸のまま車に乗せ、歩行者天国に連れて行って置き去りしました。
死ぬほど恥ずかしい思いをする夢でした。
私にもこんな願望があったのでしょうか。
現実には、絶対にできないことなのに。

K子
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 メールを書き上がるまでの時間より、送信ボタンをクリックする決心をするまでの時間のほうが、遙かに長かった。
 ご命令の実行を、これで二回待たせることになる。怒られはしないか、見捨てられはしないか、と気になってならなかった。
 私は、レポートに取りかかった。
 ノートパソコンでワープロソフトを立ち上げ、頭の中で、できていたところから文字にしていく。自分の両側に広げた資料から、文章を抜き出しては、キーボードを叩く。
 とにかく今は、これを終わらせることが第一だ。
 一刻も早く終わらせて、管理人様のご命令を実行しなければ。私は、露出するためにレポートを書いていた。
 寝るか、食べるか、レポートを書くか。
 そんな一日を過ごして、三日目にようやくレポートは完成した。これだけの分量をよくこの日数でできたものだと、我ながら感心した。後は提出するだけだった。
 一息ついた私は、メールソフトを立ち上げた。
 三日ぶりだった。
 途中で何度もチェックしようという気になったが、その度に、じっと堪えた。
 管理人様からのメールが来てなければ来てないで、来ていれば来ていたで、どっちにしろ、私は左右されてしまうだろう。
 だったら、いっそのこと見ないほうが良い。そう思って我慢した。
 迷惑メールが溜まっていた。毎日処理していてもうんざりするほど来るのだ。三日分もあったら、大切なメールを見落としてしまいそうだった。
 一つずつ時間を掛けて確かめた。
 それでもはやり、管理人様からのメールは、来ていなかった。

 翌日、教授が学校に出ていることを確かめると、私はアパートを出た。郵送でも良いと言われたのだが、直接、持っていくのが礼儀だと思った。
 学校は、さらにひっそりとしていた。昼間でなければ、何か出そうだ。
 教授室では、この前と同じ席を勧められた。
「早かったね。これだけの枚数になると、ワープロを打つだけでも、大変だっただろうに」
 教授は、私の提出したレポートを見て、満足そうに話した。
 教授室で紅茶を頂くとは思わなかった。この中に睡眠薬が入っていて……なんて、勝手な想像を楽しんだりもした。
 本棚に並んでいるのは難しい本ばかりだと思っていたが、その合間に、写真立てが置いてあった。十歳くらい若くした教授が、女性と二人で写っていた。
「教授は、愛妻家なんですね」
 授業以外の話をするのは初めてだった。教授が、私の視線の先を振り返る。
「とちらかと言うと恐妻家かな。私は婿養子だからね」
「婿養子……?」
「家内の実家が資産家でね。おかげで、金にもならない研究を続けさせて貰っているよ」
「そうだったんですか」
 意外な話を聞いた気がした。だが、教授の奥さんがこの部屋に来ることはないだろう。ポーズだけなら、写真立てを置いておく必要もないはずだ。私は、教授の奥さんに、少しだけ嫉妬した。
 教授室を出る時、もう一度、お礼を言った。
「本当に、良くして頂いてありがとうございました。変なメールなんか、送りつけてすみませんでした」
 言ってから、一人で、恥ずかしくなった。
「メールって何のことかな」
「えっ……?」
「君からメールを貰ったことは、ないと思うが」
 教授は、ウソをついているようには見えなかった。
 それでは、私が送ったメールはどうなったのだろう。あれには私の恥ずかしい写真が貼付してあるのだ。
 名前も学校も電話番号も書いてある。携帯のメルアドだって……
 教授には「勘違いでした」と、お詫びして別れた。
 私には、一つの心当たりが有った。そのせいでこんなにも不安でいる。一刻も早くアパートに帰って、確かめなければならなかった。

 アパートに着くと、靴を脱ぐのももどかしく、バッグを放り出して、パソコンの電源を入れた。
 OSの起動する時間が苛立たしい。
 いつもやっていることなのに、こんなに時間がかかっていたのだろうか。
 メールソフトが、新着メールの受信を始めた。自動でそうなるように設定したあったのだが、今はそれも、苛立ちの対象だった。
 用があるのは、昔のメールなのだ。
 受信が終わるのを待って、送信済みアイテムをクリックする。
 このパソコンから送信する相手は、限られている。件名から探して目的のメールは、すぐに見つかった。合格発表を見るような思いで宛先を確認した。
 私は、色を失った。
 宛先は「管理人様」になっていた。
(そんなバカな……)
 あの日、書いたり消したりを繰り返した末、最後はベッドから飛び起きた勢いで送信した。その時、知美から教えて貰ったアドレスと間違えて、いつも送信している管理人様のアドレスへ送ってしまったということか。
 いずれにしても、このメールは教授の元に届いてはいない。
 それはむしろ喜ばしいことだったのだが、問題は二つあった。一つは、絶対に知られてはならない秘密を、他人に知られてしまったこと。もう一つは、私のヌード写真を管理人様に送ってしまったことだった。
 露出っこクラブは、十年以上続いている露出サイトの老舗だ。
 そのマスターが滅多なことはしないと思う。
 そうは思っても、あのメールには、私の個人情報だけではない。教授の名前も大学も書いてある。
 とんでもないことをしてしまったのかもしれない。
 ヌード写真が、露出っこクラブの来月号に掲載されるかもしれない。管理人様から、携帯に電話が掛かってくることだって……

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管理人様、こんにちは。
K子です。

今日は大事なお話です。
他の人に送るはずだったメールが間違って、管理人様のところへ届いていないでしょうか。
まだ、何日か前のことです。
恥ずかしいメールで申し訳ございません。
届いていたら、すぐに削除した頂きたいのです。
見なかったことにして、ホームページにも掲載しないでください。
勝手なことばかり言ってすみません。
よろしくお願い致します。

K子
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 送信トレイの履歴が一つ増えた。
 ネットオークションとインターネットショッピング関連のメールを除けば、宛先は管理人様だけだった。
 どんなメールが返って来るのだろうか。
 管理人様は気づいていなかったのだろうか。多くの迷惑メールと一緒に削除している可能性はある。もしそうなら、私は余計なことをしてしまったことになる。
 返信が来るまで、他のことには手が付かなかった。

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K子へ

K子の言っていたメールは削除済みアイテムに入ったいた。
気づかずに削除していたようだ。
こんなことをしていたのだね。
少しだけK子の見方が変わったかも。
かわいいおっぱいに免じて、これはなかったことにしてあげよう。
それとも、もっと過激な命令を強制する時の脅しに使ったほうが良いかな。

管理人
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 私は、早まったようだ。
 結果だけみれば、何もしないほうが良かった。わざわざ管理人様に、プライベートの情報を与えてしまったことになる。
 それもヌード写真付きで。
 最後にあった「脅し」って、どこまで本気で言っているのだろう。




 今月号はいかがでしたでしょうか。
 こちらにアンケートを設けさせて頂きました。ご回答、よろしくお願いします。

期待通りだった
期待していたほどではなかった
イマイチだが次回に期待する
もう読まない

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