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松崎詩織の作品紹介

大人の恋は哀しいのです

 松崎詩織の新刊『恋人』は、中年男性と、二十代後半の独身女性との不倫を描いた作品です。作者の恋愛観が反映している作品なのでしょう。特に後半の美奈の長セリフ・長メールには、如実に表れていると思います。
 大人の純愛とは何なのか。誰もが悩むテーマに向き合っているのでしょう。
「自分たちは、他の不倫カップルとは違う。真剣に愛し合っているんだ」
 作品の中の二人は、そう考えています。
 その実、やっていることは他のカップルと変わるところがない。恐らく、どのカップルも同じように真剣な恋愛をしているのでしょうね。この小説を読んでいて、そのように感じました。
 後半は考えさせられましたが、前半部分の、大人の恋愛にしては、くすぐったい二人の関係が、気に入っていたりします。こんな恋愛なら、してみたい気もします。男女の関係にならなければ、案外、楽しいかもしれません。

『誘惑』は反則ギリギリ?

 何よりもまず、官能作家が自分の周りにいる人をモデルに、実況中継のような形で小説を書くという発想が面白いです。でもそれって、実は反則ギリギリだったりしませんか。
 薫と更紗のレズシーンがふんだんに織り込まれていて、且つ、年上の男性に翻弄されていろいろな体験をさせられていくふたりの美女に興奮させられました。コンビニで露出するシーンや全裸で宅配のピザを受け取るシーンも良かったです。
 私の一番のお気に入りは、薫がパプニングバーで全裸にされ、ステージにM字開脚吊りにされてバイブ責めを受けるシーンです。作者の中にも、こんな目に遭いたいという願望があるのかなって想像させてくれます。
 更紗と先生が、小説に書かれたことを実際にやってみることになった時には、この先どうなることかと思いました。薫が次のストーリーを書けなくて困っていましたね。あの終わり方にはびっくりしましたが、最初の方でしっかり伏線が書かれていました。うーん、なるほどと手を打ってしまいました。
 最後は最後でどうなることかと、ハラハラさせられました。いつもの詩織ワールドとも、前作『欲望倶楽部』とも、ひと味違う世界を読ませて頂きました。
『欲望倶楽部』はエッチ&ミステリー

 私が大ファンの女性官能小説家・松崎詩織が変身を遂げようとしています。12月3日に出たばかりの新刊『欲望倶楽部』を読んで頂ければその意味がご理解できると思います。
 まず最初に感じたことは「これ、本当に詩織さんの文章?」ってことです。男性が主人公だったこともあり、今までと全く違うイメージでした。「残り香」とも違います。松崎詩織の新境地と言ったところでしょうか。
 4つの短編が微妙な関係があって面白かったです。ただの連作ではなかったのですね。途中でラストが読めたよって思ったのですが、最後にしっかり裏切られて……
 エッチな題材の奥にミステリーが仕込まれているのです。一冊で二度美味しいというわけです。
 読み終わった後、もう少しこの世界に浸っていたいと思わせる作品でした。まだ出たばかりだと言うのに、早くもパート2にも期待している私がいます。そう思わせるような拡張性のある作品だと思います。
『残り香』は4つエピソードで4倍お得

 読後の第一印象は、近親愛を共通のテーマにした4つの短編を一気に読んだ感じでした。ひとつずつのエピソードがそれぞれに主張をしているような感じです。作者らしい過激なエッチシーンと衝撃的な出来事で読者の心を掴み、謎の手紙やエッチシーンのじらし効果で後ろへ後ろへと引っ張られていきます。最後になるまで展開が読めず、どうなるのだろうと思わせるストーリーです。そういう意味ではミステリー小説のようです。
 最後まで読んだら読んだで「あれっ」て思わせられたり、奥が深いです。巻末に解説を探してしまいました。多少強引かなって思われるところもありますが、それも含めて楽しませて頂きました。
露出ファンにもM奴隷ファンにも喜ばれる作品です

『くちづけ』は松崎詩織の主張が最も多く出ている作品だと思われます。やくざにレイプされる寸前に助けられ、家族のために自分の身を売る決意をした女子高生がどうしても守りたかったものは何なのでしょうか。何人もの女性を奴隷のように扱う男は、実は本当の愛を求め続けた結果だったのでしょう。そしてそのたどり着いた場所は…… また、天皇制や憲法9条に対する作者の主張が展開されています。主人公の女子高生がクラスメイトの前で全裸になることを強制されるシーンなど、露出ファンにもM奴隷ファンにも喜ばれる作品と言って良いでしょう。ドロドロした人間関係を描きながら、最後は綺麗にまとめるところが女流作家・松崎流と言ったところでしょうか。
 同時収録の『ナースコール』は末期ガン患者をお世話する看護士のお話です。死を目の前にした患者に対する看護士の純粋な想いを描写して、このまま綺麗に締めくくるのかと思ったら……病院へ行くのが怖くなるのが嫌な人は読まない方が良いかもしれません。
 もうひとつ、『女性専用車両』は男の子がひたすら苛められるストーリーです。途中では、どこまでやる気なんだとドキドキさせられますが、読み終わってみるといつもの詩織さんの小説だって思ってしまうのですから、不思議な作品でした。
官能のせつなさの両方を満足させてくれます

『双子の妹』
 第一印象は「やられた!」って感じです。 タイトルから想像していた内容をみごとに裏切られました。 単純な女教師ものではありませんでした。双子の使い方にもいろいろとあるものです。松崎詩織の作品は女性ならではの濃厚なエッチシーンに目が向きがちですが、ストーリーとしての意外性も楽しめるものになっています。短編を書くたびにアイデアを搾り出すところは、さすがプロ作家というところでしょう。どこからが作者の願望で、どこまでが実体験なのかなあ、なんて考えながら読むのも楽しいと思いますよ。今後の作品にも期待が持てます。
 この本には以下の二作品が同時収録されています。
『陵辱の果てに』
 偶然が重なってひたすらかわいそうな主人公。 救いの無い陵辱地獄を堪能したい方にお奨めです。この小説、長編でやって欲しかったかなって思うのは私だけでしょうか。
『先生と私』
 実はこの作品が一番気に入っています。すばらしいです。ストレート真っ向勝負のストーリーは『フラジャイル』以来ではないでしょうか。先生と奥さんと私、3人の微妙な関係とその裏にある悲しい現実が泣かせてくれます。切なさの余韻に浸りたい方にお奨めです。
『教育実習生』は露出がいっぱい

 女流官能小説家・松崎詩織のデビュー作です。文庫には『フラジャイル』『危険な遊び』『教育実習生』の3作がこの順番で納められています。『フラジャイル』は、女子大生を娘に持つお父さんは読まない方が良いかもしれません。彼氏の浮気を目撃したその日の内に他の男をアパートにひっぱり込んだり、その男の前でオナニーしてしまったり、別れた筈の男と図書館でエッチしてしまったり、とにかく過激な性生活が描写されています。その反面、女性作家らしく文章の美しさを保っていて、女性読者にも読みやすくせつなさの余韻も残してくれる作品です。
 『危険な遊び』は公園での露出シーンが見ものです。個人的にはこれが一番好きだったりします。
 『教育実習生』には過激な性描写が溢れていて、プールの授業や電車の中での露出命令など、読者の皆さんの嗜好に合う内容となっています。
 予断ですが、この文庫のタイトルが『教育実習生』になっているのは、やはり官能小説は女教師ものが売れるということなのでしょうか。