エンディングA.カミングアウトを拒否する
「だ、だめよ。できないわ」 「どうしてもだめですか」 「いやよ。それなら自分のことだけじゃなくて、秘密倶楽部のこと、浩介君のことも全部ばらすわ」 「とてもさっき僕達の将来を案じていた人とは思えませんね。でも先生も同じ立場なんですよ。未成年に対する淫行罪で告発されることになるんです。あなたの素行を調べられたら他にも色々出てくるんじゃないですか?」 あの野球部の子たちのことが浮かんだ。あの子たちは巻き込めない。 「まあ、いいでしょう。そこまで言うのであれば本番で告白するのはかんべんしてあげます。そのかわり予行演習をやってもらいます」 「予行演習?」 「学校が休みのとき、誰もいない体育館の壇上でストリップをした上で、自分が露出狂であることを告白するんです。それを僕に見せてください。これならできるんじゃないですか?」 「そ、そうね・・・」 「まあ、観客が僕一人というのは物足りないでしょうけど、そのとき奈緒先生が想像力を働かせて、全校生徒や父兄が見守っている、と思えばいいんです」 なんとなく嫌な予感はしたが、浩介君が譲歩している以上、彼の要求を飲むしかなかった。それに、擬似とはいえ卒業式でのストリップ、カミングアウトに興味を引かれたのも事実だった。 当直の時、奈緒先生に体育館の鍵をこっそり持ち出してもらい合鍵を作った。 我が校の体育館は老朽化のため数年前に大改装が行われた。そのとき最新のAV機器を導入したため、バスケットやバレーボールなどの室内競技の県大会や全国大会に使われることがよくある。天井には数台の移動カメラがあり、そのコントロール室が体育館の舞台の下にある。インターネットで繋ぐことにより、手元のアイパッドで全てをコントロールすることができるようになっているのだ。 メカに弱い奈緒先生はそんな設備があることなど思いも寄らないだろが、写真部である僕は県大会の取材で操作を教えてもらったことがある。 うまく先生を騙して、体育館でのストリップとカミングアウトの予行演習をさせることを承知させた。こっそり撮影して、卒業式のときに上映してやろう。
次の日曜日、私は約束した時間に学校の体育館にやってきた。普段は日曜日でもバレー部やバスケ部が練習しているのだが、たまたま地区予選が重なりどちらの部も校外に出払っている。がらんとした体育館はちょっと不気味だった。 体育館の舞台の中央より向かって左側には演台が引き出してあり、中央にはマイクスタンドが置いてあった。卒業式の時と同じ状況にしたつもりだろう。舞台の下、演台の正面に1つだけ椅子が置いてあり、そこに浩介君が座っていた。 「約束通り来てくれたんですね」 「しかたないでしょう?」 「じゃあ、これを覚えてもらえますか?」 差し出されたメモにはこの様に書かれていた。
"私は皆さんに謝らなければならないことがあります。私は人前でハダカになったり、いやらしいことをされたりするのが大好きな変態の露出狂です。これからその証拠をお見せしたいと思いますので、ご覧になっていてください"
「別に嘘はついてないですよね?」 「・・・そうね」 「全くその通りでなくてもかまいません。もっと奈緒先生自身を表す的確な言葉があれば自分でアレンジしてください」 「・・・」 「では壇上にあがってください」 私が舞台右袖にある階段を登り、舞台の中央に立つ。浩介君も一緒にあがった。 「マイクを確認してください」 「あ、あ・・・」 私が喋ると、その言葉がそのままがらんとした体育館全体に反響する。ただし音量は押さえられており外まで漏れる心配はなさそうだ。 「そうそう、観客が僕一人では寂しいでしょうから、小道具を使います」 浩介君が手にしていたアイパッドを操作すると、ざわざわというざわめきが聞こえ始めた。 「3学期の始業式に全校生徒がここに集まったときの音を録音しておいたんです。奈緒先生はそのとき舞台に上がらなかったけれど、光景は覚えていますよね。そのときのことを思い出しながら喋ってください」 「わかったわ」 「じゃあ手順の確認です。先生の立ち位置だけ確認しますから、まだ服は脱がなくていいですよ。あ、そうだ奈緒先生、下着つけてますか?」 「ええ」 「なーんだ、伊藤先生と付き合ったとたん普通の女に戻っちゃったんですね。がっかりだなー。じゃあブラはいいですからショーツだけ先に脱いでおいてください。それでまずスカートから脱いで、ノーパンの変態露出女教師だってことをしっかりアピールしてくださいね」 私は素直にショーツを脱ぐと浩介君に手渡した。彼はそれをポケットにしまう。 「素っ裸になったら舞台の奥まで下がってください。おっと、忘れていた」 浩介君がアイパッドを操作すると天井からシャフトが降りてきた。講演や式典のときに看板や国旗を吊るすためのものだ。よく見るとシャフトに黒い手錠のようなものが2つぶらさがっていた。シャフトは私の頭の高さより少し上まで降りてきた。 「次はそれを自分で両脚に嵌めてください」 指差された床の上に50cm位の金属のバーの両端に革ベルトの輪が付いた奇妙なものが置いてあった。 「これは?」 「開脚バーです。脚を開いた状態で固定するんですよ。自分でベルトを開いて足首に巻いてしっかり締めてください」 「・・・」 「終わったら次は、手を片方づつその手錠でバーに繋いでください」 「そんなことしたら私動けなくなってしまうわ」 「そうですよ、奈緒先生は自分で自分を磔にするんです」 「そんな・・・」 「安心してください。そのままになんかしませんから。それに手錠を見てください。プラスチックで出来ているでしょう?子供の玩具ですよ。大人の力で思いっきり引っ張れば簡単に壊れますよ」 触ってみると確かに軽くちゃちな感じがした。これなら万が一でも大丈夫だろう。 「ねっ!本当はもっと本格的なものが欲しかったけど手に入らなかったんです。シャフイに手錠でつながれた奈緒先生をそのまま吊り上げようとしたら、それだけで手錠は壊れてしまいますよ」 「わかったわ」 「自分を磔にし終わったら、こう言ってください。"変態露出狂の奈緒は晒し者にされて、大勢の人に辱められるのが大好きです。皆様のお気のすむまで奈緒を嬲りものにしてください"」 自分自身を貶める最低の言葉だ。 「・・・そう言えばいいのね?」 「そうです。奈緒先生がずっと望んでいたことですよね?」 口上こそ述べなかったが、カジノの特別ショーで私はそれと全く同じことされて、しかも私はそれを悦んで受け入れたのだ。いまさら恥ずかしがることでもない。 「じゃあ、通しで服を脱いでやってみせてください。先生は舞台の右袖で待っていてください。僕が校長先生のかわりに奈緒先生を呼びますから、そうしたら中央に出てきてさっきの手順でお願いします」 そう言うと、浩介君は舞台を降りて正面の椅子に座りアイパッドを操作する。
「ここで皆さんにお知らせがあります。誠に残念ですが上野先生が本日付けで退職されることになりました。このあとどうされるかは、上野先生ご自身が直接みんなに話したいと言われましたので、お別れの挨拶を兼ねてお話いただきたいと思います。それでは上野先生どうぞ!」 おそらく自分の声を録音してパソコンで処理したのだろうが、本物の校長先生のかなり近い声が響く。それに続いて拍手の効果音。そして訪れた一瞬の静寂。 私は舞台中央に進み出て、マイクに向かって喋り始めた。 「皆さん、上野奈緒です。この度一身上の理由で退職することになりました。実は私は皆さんに謝らなければならないことがあります。それは退職理由とこの後私がどうするのかに深くかかわっています」 いったんここで言葉を切り、深呼吸し体育館の中を見渡し、全校生徒の集合した始業式のときの様子を思い浮かべた。 「私は今までずっと世間体を気にして、自分を偽って生きてきました。でももう限界です。これ以上自分を偽ることはできません」 教えられてもいない口上がすらすらと出てくる。 「私は変態の露出狂なんです。裸になるのが好きです。恥ずかしい姿を見られるのはもっと好きです。いまからその証拠をお見せします」 私はスカートのホックをはずし脱ぎ落とす。ノーパンの下半身がむき出しになる。 「ご覧の通り、私は常にノーパンです。それは何時でも、何処でも、誰にでもオマンコを見てもらえるようにするためです」 私はブラウスを脱ぎ落とす。 「今日はブラをつけていますがいつもはノーブラです。ノーブラで歩くと乳首が服に擦れて凄く気持ちいいんです」 ブラをはずして下に落とし、オッパイを両手で持ち上げて乳首を突き出す。 「ほら、乳首がたっているでしょう?こうなるとノーブラだってまわりにすぐばれちゃうんです。そうすると皆の視線が私の胸に集まるのがわかるんです。それが凄く気持ちいいの・・・」 全裸になった私はくるりと後ろを向くとお尻をプリプリ振りながら舞台奥へ向かう。 脚を開脚バーの長さに合わせて開いてそのまま前屈する形でバーを拾う。観客にはアナルもオマンコも丸見えになっているはずだ。その前屈した体勢のまま、左右の足にベルトを巻きつけ締める。体を起こして倒れないように慎重に前を向き、ぶら下がっている手錠をつかむ。まず左手に手錠をかける。手錠はシャフトに通してあるだけで位置が固定されているわけではないので、左手を手錠ごとスライドさせて右用の手錠をつかみ、右手にも手錠をかけてしまう。そして仕上げの口上を言う。 「変態露出狂の奈緒は晒し者にされて、大勢の人に辱められるのが大好きです。皆様のお気のすむまで奈緒を嬲りものにしてください!」 その瞬間拍手の効果音が入る。カジノの特別ショーのことがフラッシュバックする。 急激に気持ちが高まる。まさか、これって、私、体への刺激が全く無しで、自分の言葉だけで、過去のプレイを思い出しただけでイク? 「い、いやっ、こんなのイヤッ!」 そういっても、もう気持ちの高ぶりは止まらない。急激に上りつめる。浩介君の驚いた顔が見える。 「イイッ、イク、イク、イクー・・・」 私は気を失った。 手首に体重がかかる痛みで目をさます。シャフトが引き上げられ、足が10cmほど宙に浮いていた。えっ?これって玩具じゃなかったの? その疑問に、浩介君が答えた。舞台にあがり私の目の前にいる。 「それは玩具じゃないんですよ。最近のプラスチックって金属よりも強いんです。このままずっと吊っておきましょうか?明日大騒ぎになりますよね」 「そ、そんな、約束がちがうわ!」 「奈緒先生、自分の言った言葉でイクなんて、あなたは僕の想像以上に淫乱でしたね。いったい何を想像したんですか?」 「・・・」 「まあ、いいでしょう。さっきの奈緒先生の姿をみれば、誰でもあなたがとんでもない露出狂のド変態だと理解するでしょう。もう僕にはついていけません。約束どおり秘密倶楽部は解散します。データや写真も全て廃棄します」 そういうと浩介君はアイパッドを操作して私の足が下に完全に着くまで降ろした。 そして私の左手に小さな鍵を握らせた。 「手錠の鍵です。自分ではずしてください。万が一落としてしまうと明日までそのままになってしまいますから注意してくださいね。手錠と開脚バーは差し上げます。それじゃあ僕はこれで・・・」 そう言い残して浩介君は体育館を出て行った。 鍵を落とさないように慎重に扱って右手の手錠をはずす。鍵が本物でホッとした。左手もはずして、続いて開脚バーも解く。そこまでして私は床にへたり込んでしまった。 オマンコに手をやると、あふれるほど濡れている。 (自分の言った言葉でイクなんて、あなたは想像以上に淫乱でしたね) さっきの浩介君の言葉が頭の中でリフレインする。 私は自分がすでに引き返せないところまで来てしまっていたことを悟った。
卒業式の当日、卒業証書授与の前に、私は退職の挨拶を全校生徒の前ですることになっていた。一応、伊藤先生と結婚を前提に付き合っていることも報告したが、まだ婚約もしていないので内密にしておいてくれるよう頼んだのだが、あっという間に噂が広まってしまい、結局卒業式のあとクラスの皆がお祝いパーティーを開いてくれることになった。卒業式には伊藤先生のご両親もみえることになっており、今晩正式な顔合わせが予定されていた。
「ここで皆さんにお知らせがあります。誠に残念ですが上野先生が本日付けで退職されることになりました。ご存知にかたもいらっしゃると思いますが上野先生は伊藤先生とご結婚される予定です。それでは上野先生ご挨拶をどうぞ!」 私は呼ばれて舞台の右袖から中央に進み出る。 と、そのとき体育館内の照明が全て消えて薄暗くなる。それと同時に舞台奥に映画鑑賞用のスクリーンが降りてきた。そして映写が始まり音声が流れる。 "私は今までずっと世間体を気にして、自分を偽って生きてきました。でももう限界です。これ以上自分を偽ることはできません。 私は変態の露出狂なんです。裸になるのが好きです。恥ずかしい姿を見られるのはもっと好きです。いまからその証拠をお見せします" 映像のなかの奈緒が次々と脱いでゆき、恥ずかしいせりふを言う。 皆、呆然とその映像を眺めていたが、最初に我にかえったのは、伊藤先生だった。 「おい、止めろ、映写を止めるんだ!」 「だめです、コントロール室のドアにロックがかけられて暗証番号が変わっています」 校長先生も叫ぶ。 「上野先生!これはどういうことですか!」 生徒達も父兄も大混乱になった。そんな中私はじっと浩介君を見つめていた。 浩介君が頷く。 なんとなくこうなる予感はしていた。だから今日はショーツを履いてきていない。 「静かに!静かにしてください!」 私はマイクに向かって怒鳴った。一瞬で会場が静まり、映写の音声だけが流れる。 「この映像について今から説明させていただきます」 そう言いながら、私はスカートのホックに指をかけた。
(エンディングA 終わり)
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