ハンバーガーショップの変態女
「ねえ、ねえ。知ってる。ハンバーガーショップの変態女の話」
「聞いたわよ。ドアを開けっ放しでオシッコしてたってんでしょう」
「えっ、うっそー。まじぃ」
ベンジー女学院は昼休みだった。コギャルたちはいつも新しい情報に飢えている。ちょっとでも変わった話を耳にすれば、それはたちまちの内に学院内に広まるのだ。そんな彼女たちにとって、まさに耳よりの話題だった。
「人がいるの、知らなかったのかしら?」
「そんなことないよ。それにハンバーガーショップのトイレよ。誰が入って来るかわからないのよ。人がいなければ、あんたも開けっ放しでするぅ?」
「いやよ、そんなの」
「でしょう」
「いや、あんたならわからない。そそっかしいもの」
「なによお」
教室の隅で始まった会話に参加しているのは、今のところ四人。いや、側で聞き耳を立てている生徒もいるから、この情報も今日の内には全校生徒に伝わるだろう。尾鰭をつけて、何倍にも膨れ上がって。
「鍵が壊れてたんじゃないの?」
「そんなことないよ。わたし、ちゃんと確認したもの」
「えっ、あんた、その変態女見たの?」
「見たわよ」
「ねえ、どんな人だった?」
「どうせ男に相手にされないようなドブスなんじゃないの?」
「それが結構ハクイのよ」
「わたしも見たわ。きれいな顔してよくやるわよね。じょーじょーって音を立てながら、恥知らずってあのことね」
「なんでー。なんでそんなきれいな人が変態しなきゃいけないのよ」
「ばかねえ。そこが変態の変態たる所以でしょうよ」
「そうか」
それが変態だと言われて納得してしまうのだから、話題にされている変態女、もとい、ドアを開けたまま放尿をしていたと言う女性もかわいそうなものだ。だが、コギャルたちにとって、その女性にそうした行動をとらせた原因とか背景とかは一切お構いなしなのだ。ただ、その非日常的な現象だけがひとり歩きをする。不明な部分は想像で補う。だから末端まで伝わる頃には、どのように脚色されているかわかったものではない。
「わたしも見たかったなあ」
誰かが言った。それは口に出さないだけで、そこにいる女生徒の共通の感情だったのかもしれない。放課後、そのハンバーガーショップに行ってみようと言う話がまとまってしまった。
その日の授業が終わり、さっきの四人組は帰り道に着いた。予定通り、ちょっと遠回りをしていた。
「その人、怖くないの?」
「怖いと言う感じでは無かったわ」
「今日もいるかしら?」
「さあ、わたしなら二度とあの店には行けないけどね」
「そうよね」
そんな話をしている内に例のハンバーガーショップの前に着いた。駅からそう離れてもいない、人通りの多い舗道にその店は面していた。四人はそこで自分たちと同じ制服を見つけた。先客はふたり。店の中を伺っていた。
「あら、あんたたちも来たの?」
四人組のひとりが声を掛けると、ふたりは背中を震わせて振り返った。
「ちょっと静かにしてよ」
「えっ、どうしたの?」
「だから、来てるのよ、あの変態女」
窓ガラス越しに店内をのぞき込む。本当だ。来ている。あの女性……間違い無くドアを開けっ放しでオシッコをした、あの人だ。
彼女は二人掛けの席に座ってドリンクに口を付けている。確かにきれいな人だ。周りに座っている男性たちがちらちらと横目で見ているのがわかる。体にフィットしたミニのワンピースを着ているのも、視線を集める理由のひとつだろう。あんな人がどうしてそんな変態的なことをしなければならないのだろう。今日もこれからトイレに行くのだろうか。六人のコギャルはストーカーとなってハンバーガーショップ脇の植え込みの陰に張り込んだ。
「今からパンティを脱ぐのかな?」
「えっ、何、それ?」
「トイレに行く前に、席で脱いで行ったんじゃないの?」
「そんなことはないと思うけど……」
「違うの? テーブルの上に置いたまま、ノーパンで店を飛び出したって聞いたけど」
これだから人の噂と言うものは恐ろしい。実際に現場を見たのは、この中のふたりだけ。直接話をしたのも一緒に来たふたりだけ。それがどういうわけか、先に店の前で待っていたふたりにも伝わっているし、ノーパンなんて話はした覚えがない。だいたいあのミニでノーパンになったらりしたら、道を歩けたものではないと思うが。
「それじゃあ、オシッコする時、スッポンポンだったって言うのは?」
「店を出た後、公園の藪でオナニーしてたって言うのは?」
人の噂にはなりたくないものだと、つくづく思った。人の口には戸は立てられない。こんな話になっているなんて、あの人は知っているのだろうか。いや、これからもどんどん広まるだろう。いったいどんな話になっていくことか。
「何よ、それ?」
一緒に来たひとりが何かを見つけたようだ。
「あっ、これ。デジカメよ。知らないの?」
「知ってるわよ。それを何に使うのかって聞いているんでしょう」
「何って……雑誌に投稿できるかなって思ってさ」
「オシッコするところを写真に撮るの?」
「うん、高く売れると思わない?」
「でも、それってヤバいんじゃない?」
「大丈夫よ。あの人だって喜ぶわよ。それにもし許してくれって言ったら……」
「あっ、席を立つわ」
話は中断した。六人の女生徒は、彼女を追いかけるように店に入った。
「いらっしゃいませ」
これもコギャルだろう。元気の良い声が店内に聞こえた。だが、それをかまってはいられない。彼女はトイレに入っていった。
彼女に気づかれないように、そっとトイレに入り口に隠れる。テーブルにはパンティを脱いで行かなかったようだ。
このデジカメを持った少女、実は半年前にも同じことをしている。その時の相手は新入生だった。なまいきだからしめてやろうと言うことになり、体育館裏に呼び出して恥ずかしいリンチを加えた。その姿を写真に撮って投稿したのが大賞に選ばれたのだ。賞金を手にして味をしめたのだろう。今度の標的が放尿の彼女だったわけだ。
個室のドアが開く音が聞こえた。
「どうするつもり?」
「決まってるじゃん。乗り込むわよ」
デジカメを持ったひとりが真っ先に飛び込んだ。なるほど個室のドアは開いていた。洋式のトイレに座った彼女の姿が見えた。ミニのワンピースを持ち上げてパンティを下げている。一瞬ではあるが、薄いヘアがはっきりと見えた。 彼女は、正面に立った人影に気づいてスカートの裾を下げた。それはデジカメのフラッシュが瞬くのと、ほとんど同時だった。彼女もそれがカメラだとわかったのだろう。慌てて顔を背けた。
「何! あなたたち」
彼女は、初めそんなことを言ったと思う。突然の侵入者を年下の女の子と認めたのだろう。言葉には強気の部分が残っていた。
「あっ、ダメよ。隠しちゃ」
「うん、惜しかった。今の、ヘアが写ってないかもね」
そういう問題じゃないと思う。逃げ出さなくていいの、ってカンジ……でも、なんかその場を離れられない、四人組もそんなところだろう。
「雑誌に投稿するんだから、もっとサービスしてよ」
信じられないことを言うものだ。ワンピースの彼女は、まだ放尿の最中らしい。トイレから立つでもなく、ドアを閉めるでもなかった。片手でスカートの裾を引っ張り、もう片方の手を目の上にかざしていた。フラッシュはその後も何度か瞬いた。
「やめて。そこ、閉めてちょうだい」
彼女がそう言うのも当たり前だろう。いくら自ら開けておいたと言ったって、その姿を写真に撮られたり、大勢でのぞき込まれたりすることを望んではいないのだろうから。
「自分で開けっ放しにしたんでしょう。オシッコするところをみんなに見せたかったんでしょう。だから写真に撮ってあげるんじゃない」
「もう終わったから勘弁して。早く向こうに行って」
「あら、終わったの。だったらそのワンピースを脱いでちょうだい」
「なんでそんなことをしなくちゃいけないの?」
「いいのかしら、そんな口きいて。あなたがどこの誰だか、調べはついているのよ。ご近所にこんな写真ばらまかれたくはないでしょう」
これはきっとはったりだ。今朝聞いたばかりで、そんなことわかるわけがない。それをどうどうと言いきってしまうのだから、コギャルというのは恐ろしい。だが、彼女には十分な脅しになったようだ。
「写真、ばらまくの?」
「そう、一杯焼き増しして。大きく引き延ばすのも良いかしら」
「これなんか、顔がはっきり写っているじゃない」
それは最初の一枚だろう。デジカメと言うのは、撮った写真をその場で確認できる。液晶画面を見ながら言っているのだから、説得力は十分だ。
「どうするの? ワンピースを脱ぐ? それとも引っ越しの方が良いかしら?」
彼女はパンティを上げることもできず、黙っていた。まだ、あそこが濡れたままになっているはずだ。
「わかったわ。脱ぐから、ちょっとだけドアを閉めて」
年下の女の子に囲まれた状態では、トイレットペーパーを使うことも惨め過ぎたのだろう。彼女はまだ観念したわけではなさそうだ。
「このままで良いじゃない」
「そうよ。早く脱いでよ」
過激なのはこのふたりだけだ。後の四人はただ成り行きを見守っていた。他のお客さんが来ないかどうかだって心配だったろうに。
「お願い。まだ拭いてないの。それまでだけでも……」
ドアを閉めて欲しいと言うことか。声が大分弱気になっていた。その態度が余計に加虐者を煽るものだと言うことを、彼女は知らなかったようだ。
「拭いてないのくらいわかってるわよ。ずっと見てたんだから」
「どうせパンティも脱ぐんだもの。拭かなくても良いんじゃない?」
女の子って、残酷なことを平気で言うものだ。本当にどこまでさせるつもりなのだろう。
「ねえ、なんでそこまでさせるの?」
残りの四人の内のひとりが聞いた。
「だって、わたしは素っ裸でオシッコしてたって聞いたもの」
「ひぃー」
彼女が悲鳴を上げた。この子たちは自分をこの場で素っ裸にしようとしているのだとわかったのだ。そして、その姿も写真に撮るつもりなのだろう。雑誌に投稿する為に。
「わかったでしょう。早くスッポンポンになってよ」
彼女が何を考えていたのかわからない。コギャルたちの目的は十分に理解していたはずだ。全裸の写真を撮られれば、さらに事態は悪くなる。それでも彼女はワンピースの背中に手を回した。パンティは膝のところに絡んだままだ。ワンピースをまくり上げる。長い髪が布の間からこぼれ出た。
「ひゅー、ノーブラなんだ。まさかとは思ったけどねえ」
彼女はワンピースを胸元に当てて肩を震わせた。ハンバーガーショップのトイレでこんな姿にされるなんて、思っても見なかっただろうに。それも年下の女の子数人に強制されてである。
「じゃあ、ちょっとこれ預かるわね」
デジカメを持っていない方のコギャルが、彼女のワンピースをひったくっる。油断していたのか、あきらめていたのか、それはいとも簡単だった。彼女に残された衣服は、膝まで下げたままのパンティとストッキングだけとなった。そしてまた、フラッシュが瞬く。二回、三回。彼女は胸と股間に手を当てて上半身をねじった。
「もう良いでしょう。早く服を返して」
そうだ。もうこれくらいにした方が良い。余り度が過ぎると、コギャルたちだって無事では済まない。ところが、
「あなた、自分の立場がわかっていないみたいねえ」
デジカメのファインダーから外した視線が、冷たく光っているように見える。まだ、何かさせようというのか。
「ねえ、このワンピース、トイレに落ちて立ってお店の人に渡して来てよ」
とんでもないことを言うものだ。そんなことをされたら彼女は……
「パンティは帰りにテーブルの上に置いていくんだからね」
つまり素っ裸で帰れと言うことだ。こんな町中からどうやって帰れと言うのだろう。ストリーキングでもするしかないか。
「そんなこと……あんまりです」
「それが嫌なら、もう少し撮影に協力してちょうだい」
「えっ、もう終わったんじゃ……」
「まだ、何も肝心なところを撮ってないじゃない。両手を頭の後ろで組んで足を開くのよ」
「そんな、ひどい」
「できないならハダカで帰るのね。これ、持って行って」
再びワンピースを取り上げると、隣のコギャルに手渡す。
「待って。やるわ」
彼女は蒼くなっていた。それを見てデジカメがまた構えられた。
「どうぞ。いつでも良いわよ」
彼女は今度こそ覚悟を決めたようだ。ゆっくりと手が胸を離れ、次いで股間から体をなぞるようにして頭の後ろに上がっていった。彼女は首をねじって片方の腕に押しつけた。バストがさらけ出されている。もう隠す術はない。だが、足はまだしっかりと閉じられていた。そこでまたフラッシュが瞬く。
「じゃあ、パンティも取っちゃって」
彼女がはっと顔を戻し、頭の後ろの手を下げようとした。
「ダメよ。手を下げちゃ」
声が大きくなって来た。
「ち、ちょっと、外に聞こえるわよ」
「良いじゃない。誰か来ても恥ずかしいのこの人だけだもの」
「そうだけど……」
「それより、パンティを脱がしちゃってよ」
コギャルのひとりが、ためらいがちに彼女のパンティに手を掛けた。
「いやっ」
それは女の本能だったのだろう。彼女は両手で自分のパンティを押さえた。
「手を下げちゃいけないって言ったのに、どうしても言うことがきけないようね」
そう言うと、デジカメを隣のコギャルに預けて、二人がかりでパンティとストッキングを奪い取った。
「こんなことはしたくなかったんだけど……あなたがいけないんだからね。」
彼女の細い腕を背中にねじ上げる。そして、脱がしたばかりのストッキングで両手首を重ねて縛り上げた。
「これでもう恥ずかしいところを隠せないわね」
彼女は肩を激しく動かして見せたが、手首は容易にはずれそうにない。すぐに観念するしかなかった。彼女はとうとう素っ裸、それも両手の自由を奪われて洋式トイレに座らされているのだ。
その姿を写真に収めると、
「さあ、今度は足を開くのよ」
もう、すっかり命令調だ。年下の女の子にこんな扱いを受けて、彼女はいったいどんな思いでいることだろう。足を開こうとしなかったのは、せめてもの抵抗だったのかもしれない。
「逆らうわね。じゃあ良いわ。しばらくそこで反省なさい」
コギャルたちはその場を離れようとした。全裸で後ろ手に縛られた彼女ひとりを残して。それを悟った彼女が「あっ」と小さな声を上げる。コギャルたちの足が止まった。
「待って。足を開きます」
コギャルたちが元の位置につく。彼女は覚悟を決めて足を開こうとした。
「ちょっと待ちなさいよ。その前に詫びを入れて貰うわ」
女の最も恥ずかしい部分を素直に開かなかったことを詫びろと言うのだ。こんなに理不尽な命令もないだろうと思う。
「でも、どうやって……」
詫びを入れたら良いのか、彼女にはわからなかった。
「詫びだもの。その場に手をついて頭を下げるの。決まってるじゃない」
なんと彼女に土下座しろと言うのだ。しかもそこはトイレの中である。
「こ、ここでですか?」
両手を縛られているので、彼女はバストを隠すこともできない。少しでもコギャルたちに視線を逃れようと、前屈みになる。コギャルたちに命令されなくても、土下座と変わらない姿勢だった。
「ここが嫌なら、お店の中でも良いわよ」
彼女に救いの道は無かった。コギャルたちがふたりかがりで彼女を個室の外に連れ出した。まだ女子トイレの中とは言え、個室を出てしまったことで新たな羞恥に襲われていたことだろう。そんな気持ちにはお構いなく、コギャルたちは彼女を床に座らせた。
「さあ、手をついて謝るのよ」
「……」
「あら、ごめんなさい。両手は使えなかったわね。でも、まだほどいてあげるわけにはいかないわ。代わりに額を付けるのよ」
彼女の頬がひきつった。まさか、そこまでしなければならないとは。彼女は意識が切れかかっのか、頭を大きく振り嫌々をして見せた。
「なら、そのまま表に放り出すわよ」
コギャルたちがまた彼女の両側から二の腕を掴む。彼女はそのふたりの顔を交互に見比べたが、すぐにその顔を正面に戻した。
「こんな格好で表に出すなんてあんまりです」
「何があんまりよ。素直に詫びを入れないあなたが悪いんじゃない。ちゃんと謝れば済むことなのよ」
「わかりました……謝ります。だから……」
「そう、それで良いのよ」
このまま大勢の前に連れ出されると聞いて、彼女は観念したようだ。
「でも、また逆らったのだから普通に謝っただけでは許さないわよ。何かお仕置きをしなきゃね」
「お仕置き……ですか?」
今や彼女は、この年下の女の子たちに敬語を使わなければならなかった。それだけでも、どれだけ屈辱的だったことか。
「何か良いお仕置きはないかしら」
「そうね。床を嘗めさせるのってどうかしら?」
「ははははっ。それは良いわ。あんたもえぐいこと思いつくわね」
「それほどでも」
「と言うわけなの。床を嘗めて貰うわよ。そしてこう言うの。逆らって申し訳ありませんでした。どうか、わたしのきたないお××こを写真に撮って下さいってね」
彼女は返事もできなかった。言われた通りにするしかない。何でも素直に従って、早くこの場から解放されたかったのだろう。きちっと正座し直し、頭を下げていった。
「さ、逆らって申し訳ありませんでした……」
「はい。それで」
「わたしの……きたない……ああ、どうしたも言わなければダメですか?」
「ダメよ。きたない、なんだって」
「あ、あそこを……」
「あそこじゃないでしょう。はっきりおっしゃいなさい」
「は、はい。きたないお、お××こを……撮ってください」
そう言わされてしまった以上、彼女は女の最も恥ずかしい部分を写真に撮られることになるだろう。トイレの床に彼女の頬から滴が落ちた。
「ちょっと声が小さいけど、まあ良いか。その分たっぷりと床を嘗めるのよ」
彼女はさらに頭を下げた。床に近づければ近づけるほど、それだけむき出しのお尻が上がることになる。惨めな姿には違いない。
「そうだ。ちょっと待って。彼女、まだ流してなかったわよね」
コギャルのひとりが個室の脇の用具入れを開けた。なにやら物色しているようだったが、その中からモップを持って来た。そして、それを彼女が座っていた洋式の便座に中に入れた。彼女がさっきしたオシッコはまだ残っていたのだ。
コギャルは、それをたっぷりしみ込ませたモップで、彼女の目の前の床を濡らした。
「さあ、良いわよ。あなたのしたオシッコ、嘗めてちょうだい」
どこまで残酷なことを考えつくものだろう。素っ裸で後ろ手に縛られたまま土下座をさせられるだけでも屈辱極まりないと言うのに、その上、自分のしたオシッコで濡れた床を嘗めろと言うのだ。しかもそれに逆らえば、このままの姿で表に放り出すと言うのだから、選択の余地も無い。モップの滴が彼女の膝まで流れて来た。その床を見つめたまま、彼女は動きを止めた。
「どうしたの? また逆らうつもりかしら」
「……」
「早くなさい。わたしたちだって、それほど暇じゃないんだから」
そうしている間も定期的にストロボが瞬く。彼女に、自分の姿がどのように写っているのかを想像させるのは、酷と言うものだろう。だが、それ以上顔を下げることもできなかった。
「できないと言うならこうしてやるわ」
モップを手にしていたコギャルは、自分がバカにされたと思ったに違いない。形相が変わった。そして、モップをもう一度便座の中に浸けると、オシッコをだらだらとこぼしながら彼女の頭上に持って来た。
彼女の髪にオシッコの滴が雨のように落ちる。びっくりして頭を上げようとするのをモップの杖で押さえ付けた。彼女の髪も背中も、オシッコでずぶぬれになった。それでも許さず、さらに力を入れて彼女の顔を床に擦り付ける。
「さあ、お嘗め。トイレのドアを開けたままオシッコするような変態女には、これがお似合いよ。全くいいざまだわ」
床に流れるオシッコとモップから落ちるそれで、彼女は目も口も開けてはいられなかった。臭気が鼻を突く。唇からオシッコが侵入してくる。そんな仕打ちを受けても、両手を縛られていては何の抵抗もできない。この悪夢が覚めるまで、ひたすら耐えるしかなかった。
「もう、それくらいで良いわ。そろそろあそこの写真を撮らせて貰いましょう」
彼女はオシッコにむせながら、やっと顔を上げることができた。オシッコだけでなく、床に落ちていたゴミや泥も付けて、顔中汚れきっていた。
「あら、写真を撮るのにせっかくの美人が台無しね」
コギャルはモップを彼女の顔に押しつけた。これでも拭いてやっているつもりなのだろう。彼女には、すでに抵抗する気力も無かった。
「張り合いがないのね。いいわ。足を開いてちょうだい」
彼女は言われるままに床の上で足を開いた。彼女の女の部分がこれでもかと言う程にさらけ出される。そしてフラッシュ。その後、もう一度便座に座らされて写真を撮られた。局部がはっきりと写ったやつをである。
「どうせなら、ウンコもしてくれないかなあ」
彼女はもう、そんなことはどうでも良かった。本当に出なかったのだろう。コギャルたちのいじめにも反応が鈍くなっていた。
「いいわ。今日はこれで許してあげる」
「ねえ。縛ったままで良いの?」
「ストッキングだから、時間を掛ければほどけるでしょう」
「ワンピースは?」
「表のくずかごにでも入れておいたら良いわ」
「そんなことしたら……」
彼女は素っ裸のまま店内を横切って取りに行かなければならなくなる。だが、コギャルたちには、所詮、他人事だったのだ。
「わかった? ワンピースはくずかごの中だからね。後は好きにしてね」
彼女にはもちろんすべて聞こえていたに違いない。首を一度縦に動かしただけで、後は何を見ているのか、視点も定まらない様子だ。そんな彼女の口にコギャルはパンティをつっこんだ。さっきまで彼女が履いていたものである。
「ごめんね。後ちょっとだから我慢してね。今、あなたに騒がれると困るのよ」
そんなことを言いながら、ハンカチを出して彼女の口を塞いだ。
「そうそう。ドアは閉めておいてあげるわね。わたしたちは変態じゃないから」
それが最後だった。
コギャルたちがいなくなったハンバーガーショップのトイレに、彼女はひとり取り残された。その身には一片の布きれも付けることなく、素っ裸で後ろ手に縛られたまま、便座に座らされていた。口に押し込まれたパンティのせいで声を出すこともできない。助けを呼ぶこともできず、後ろ手のストッキングもほどけなかった。コギャルたちにはさんざんなぶられ、その恥ずかしい姿を写真に撮られ、それをネタにまた脅してくるかもしれない。約束を破って写真をばらまくかもしれない。そして、自分の噂をどのように吹聴するのか。
◇
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
自分はただちょっと冒険がしたかっただけなのに。いつまでこうしていなければならないのか。もし、後ろ手のストッキングがほどけなかったら。ほどけるより早く、誰かがこのドアを開けたら。また、ほどけたとしても、素っ裸の身で店の表のくずかごまで、どうやってワンピースを取りに行けと言うのか。
彼女の悪夢は、終わったわけではなかった。
(おわり)
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