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第13話 愛美の初体験

 日が落ちて外がすっかり暗くなるまで、愛美はリビングで膝を抱えたまま過ごした。食卓に作ってあってオムライスのラップを剥がして食べる。お風呂は沸かすのは面倒なのでシャワーで済ませた。
 愛美は自分の部屋に戻ると、パジャマに着替えた。
 パソコンの電源を入れる。管理人からのメールを期待したのだが、来ていなかった。今の気持ちを聞いてもらおうと思ったのだが、何から書いたら良いかわからない。聞いて欲しいことがたくさんあった。ディスプレイの前でキーボードに手を置いたまま、一文字も進まなかった。
 今頃、朋美は芳樹と愛し合っているのだろう。愛美にはオナニーを禁止しておいて、自分だけ気持ちのいいことをしているのだ。考えないようにしても、記憶がそれを許さない。下半身が熱くなる。眠っていたもどかしさが目を覚ます。愛美はじっとしているのも辛かった。
 君枝も今頃は……
 まだ見ぬ父の影は浮かんで来ない。君枝が乱れている様子を、思い浮かべることもできない。愛美が思うことは一つ。
「私もお父さんに会いたい」
 君枝を恨んではいけないことくらいわかっていた。でも、何も今日出かけなくたってと口惜しかった。
 今までにもこんな日はあった。それなのになぜ今日に限って寂しいのだろう。オナニーだけでもできれば気が紛れるのだが。時折、股間に近づこうとする右手を必死に堪えた。
 ケータイが鳴ったのはそんな時だった。
『マナちゃん、デートはどうだった?』
 里奈からだ。そういう話になっていたのを思い出した。
「まあまあ、かな」
『ふーん、聞かない方がいいのかなあ』
「そう思うなら聞かないで」
『わかった。じゃ聞かない。話は変わるけど、さっき喜多君から電話があったんだ』
「えっ!」
(靖史から里奈に?)
 愛美は隣の家に顔を向けた。
『何かあったの? 喜多君落ち込んでいたわよ。マナちゃんを怒らせちゃったって』
「それだけ。何か言ってなかった?」
『聞いてないわよ。だから電話したんじゃない』
 喉まで出かかった。
 朋美のこと。露出のこと。君枝のこと。靖史とのキスのこと。
 すべて里奈に聞いてもらいたかった。
『ねえ、マナちゃん。喜多君のこと、真剣に考えてあげたら。あの子、いい子だよ』
「うん、そうだね」
 いつもなら完全否定しているところだろうが。
『口止めされていたんだけど、この前のケータイドロボウの件だってすっごく心配していたんだから。あの後、何度もマナちゃんに変わったことはないかって電話して来て』
「そうなんだ」
『何があったか知らないけど、今から電話してあげたら』
「うん、でも番号知らないし……」
『教えるからメモして』
 愛美は、机の引き出しから適当な紙切れを見つけて、里奈の言う番号を書き取った。
「でも、なんで知ってるの?」
 里奈と靖史がケータイで話していることのほうが、不思議に思えた。
『喜多君、クラスの女子に聞きまくったんだって。私とマナちゃんの番号知らないかって』
「私の番号も」
『うん、でもマナちゃんには掛けられないんだね』
「そうなんだ」
『じゃ、きっと掛けてあげてね』
「わかった」
 電話が切れた。
 愛美はメモとケータイを交互に見た。自分から電話する気なんかなかったのに、なんでメモなんか取ったのだろう。だいいち、電話を掛けて何を話せば良いのか。
 靖史が、これまでに何度も、愛美のピンチを救ってくれたことは、間違いない。それなのに、今朝の公園では散々に罵ってしまった。朋美のことを持ち出したのも愛美の方だ。靖史が朋美の乳房を口にしたことが面白くなかった。それで落ち込んでいるなら、謝らなければならないのは愛美の方だ。
 愛美はメモの番号をプッシュした。
『もしもし、愛美ちゃん?』
 ケータイの向こうで靖史の声がした。謝ろうと思って電話したのに、声を聞くと言葉が出なかった。
『朝のこと、ごめん。俺が悪かった。でも、愛美ちゃん、いや、榊原さんから電話をくれるなんて思わなかったから、びっくりしたよ』
「ヤッくん、自分が悪いことをしたと思っているのよねえ」
『ああ、だから謝って……』
「だったら今から謝りに来なさい。お隣同士なんだから、すぐに来れるでしょ」
『だって俺、もうパジャマだぜ』
「パジャマで十分。すぐに来るのよ。わかった」
 愛美は電話を切った。
 こんなはずじゃなかったのにと、後悔している場合ではない。愛美はパジャマを脱ぎ捨てた。適当に丸めてタンスを開ける。お出掛け用の服を出したが、この時間にそれはおかしいだろうと思い直し、部屋着にした。白い無地のTシャツにライトブルーのハーフパンツ。ブラジャーも着けた。ショーツも選んで、履き直した。髪にもブラシを入れた。
 姿見の前に立つ。これなら不自然ではない、そう思ったところでチャイムが鳴った。
「本当にパジャマで来るかなあ」
 靖史は、風呂上がりの頭を、梳かしてもいなかった。
「だってすぐに来いって……」
「わかってるわよ。さあ、どうぞ」
 愛美は、慌てて着替えた自分のほうが、おかしく思えた。
 靖史をリビングに通す。一応、お客様用の座布団を出して勧めた。勢いで言ってしまったが、なんでこんなことになったのか、愛美にもわからなかった。
「コーヒーでいい?」
「う、うん。何でも」
 愛美がお盆にカップを二つ載せてリビングに行くと、靖史が正座していた。肩が上がっていた。学校の教育指導室に呼び出された生徒のようだ。
「何、緊張してんのよ」
「だって……」
「初めて来たわけでもないでしょ」
 そう。靖史は何度も来ていた。但し、幼なじみとしてだが。
「どうぞ」
 愛美が座卓の反対側からコーヒーを勧めた。インスタントだが、ソーサーに角砂糖が二つ載っていた。
「ごめん。榊原さんがそんなに怒っていたなんて知らなかった」
 靖史が深々と頭を下げた。愛美は声を出して笑い出す。靖史は、謝りに来なさいという言葉を真に受けていた。そんな靖史の態度が、おかしくてならなかった。
「何、笑っているんだよ」
 靖史も、ようやくおかしいと気づいたようだ。
「ごめん。もう少し笑わせて」
 愛美の笑いが治まったのは、靖史がコーヒーを飲み干した頃だった。
「本当にごめん。私のほうが謝らなければならなかったのに」
「えっ、愛美ちゃん、いや、榊原さんが」
「愛美ちゃんでいいわよ。キスした仲でしょ」
 靖史が頭を掻いた。
「私ねえ、ずっと誰かが守ってくれているんだって感謝してたの。それがヤッくんだってわかって、本当ならお礼を言わなければいけないのに、変なことで頭に来ちゃって」
「ああ、あのお姉さんのおっぱい……」
「ほらまた」
 靖史は伸ばしかけた背筋を丸めた。
「足も崩しなよ」
 靖史も、少しはリラックスできたようだ。元々が幼なじみなのだ。この時間に若い男女が二人きりでも、子供の頃に戻れば良いだけだ。
「あれ、おばさんは?」
 靖史は、君枝がいないことに、やっと気づいた。
「いないよ。今日は遅くなるって」
「それじゃ……」
「緊張した? 取って食べたりしないわよ」
(ドキドキしてきちゃった)
「だってさあ」
 靖史は、愛美の顔をまともに見ることもできないようだ。部屋のあちこちに視線を移していた。
「ねえ、男の子って、そんなおっぱいが好きなの?」
(やだ、私。何言ってるの)
「えっ、まあ……」
「ハッキリしなさい」
「う、うん。好きだよ」
「やっぱり朋美さんみたいに、大きい方がいいんだ?」
「うん、いや、そんなことは。愛美ちゃんのおっぱいだって十分かわいいし……」
「もう、エッチなんだからあ」
 愛美は服の上から両手で胸を覆った。
「こんなことしても遅いか。散々、見られちゃったんだものね」
「そ、そ、そんなことないよ。いつも遠くからだったし、よく見えなかったと言うか。ああ俺、何言っているんだろう」
 靖史の視線は相変わらず定まらない。愛美の口から笑みがこぼれた。
「もっと近くで見たかったんだ?」
(ああ、誰か止めて)
「えっ」靖史の目に、期待が宿る。
「見せてあげようか」
「愛美ちゃん……」
 愛美は、座卓の脇を回って靖史の隣に正座した。靖史はあぐらをかいていた。
「大きなおっぱいが良くても、好きなのは私じゃなければダメなのよね」
(こんなこと言うために呼んだんじゃないのに)
「うん、俺は愛美ちゃんが好きだ」
 靖史の目が、まっすぐに愛美を捉えた。
「ちゃんとキス、できたら、ねっ」
 愛美が瞳を閉じた。
 二つの若い唇が重なり合った。力任せの幼いキスでも、気持ちを伝えるという役割は十分に果たしていた。公園でのキスより長く、深く、お互いを求め合う。
「愛美ちゃん、俺……」
 靖史の両腕が愛美の体を包んだ。正座とあぐらでは抱き合うのに不自然な形だ。愛美も靖史も、それ以上どうしたら良いのかわからない。
 朋美だったらどうするのだろう。
「愛美ちゃんがバージンじゃなかったら、もっと気持ちのいいことしてあげるのに」
 そう言っていたのを思い出した。
「バージンなんて、早く卒業しちゃいなさい」
 君枝もそんなことを言っていた。まだついさっきのことだ。
 愛美は靖史の手を取った。
「ここじゃダメ。お母さんが帰って来たら困るでしょ」
 靖史を自分の部屋へと導く。脱ぎ捨ててあったパジャマや下着をベッドの下に押し込むと、靖史をベッドに座らせた。愛美もその隣に座る。
「私としたら、朋美さんとはダメなんだからね。それでもいいの?」
「うん、いいよ」
「朋美さんだけじゃないわよ。他の女の子としたら殺すからね」
「愛美ちゃんなら、きっとそうすると思うよ」
「忘れないでよ」
 靖史の首に手を回し、愛美から唇を押しつけた。靖史のような力任せのキスではない。朋美にしてもらったように、舌を使って靖史の唇を舐めた。
「愛美ちゃん、そんなキスができるんだ」
 靖史は驚いているようだ。
 愛美の膝が震えていた。本当はものすごく怖かった。それでも、朋美とのたった一度の経験が、勇気とアドバンテージになっていた。
 靖史が愛美を押し倒す。ベッドの上でのキス。今度は靖史も舌を絡めてきた。二枚の舌が口の中で交差し、行き来する。稚拙ながらも大人のキスへ成長していった。
「愛美ちゃんのおっぱい、見せてもらってもいいかな」
 靖史が体を離した。愛美は横を向いたまま頷く。それを見てTシャツをまくり上げようとする靖史の手を掴んだ。
「もう一つ聞いて。私は朋美さんの奴隷なの。それでもいい?」
「奴隷ってなんだよ」
「だから奴隷よ。カレシができても解放しないって言われてるの」
「そんなの俺、わかんねえよ」
 靖史は愛美のTシャツを脱がしにかかった。今度はかなり強引だった。
「わかった。わかったから明かりを消して」
 愛美が大きな声を出すと、靖史も手の動きを止めた。ブラジャーが殆ど顔を出していた。靖史はベッドから下りて、壁のスイッチまで行く。
 部屋が暗くなった。
 愛美はもう迷わなかった。Tシャツを脱ぎハーフパンツを脱ぐと、布団に潜った。ブラジャーとショーツも脱いで床に落とした。壁を向いて丸くなり、靖史を待った。
 衣擦れの音が聞こえた。それもわずかの時間だった。愛美の背中を肌のぬくもりが包んだ。靖史の両手が二の腕ごと愛美を抱きしめる。お尻の部分に硬いものが当たる。朋美との行為ではなかったものだ。
(これがおちんちん……?)
 ロストバージンがいよいよ現実のものとなり、愛美は背筋が震えた。
 靖史の手が後ろから乳房を探ろうとする。それを避けようとして脇の下に力が入る。でも、その抵抗も出来レースのようなものだ。間もなく、すり抜けた指先が、愛美の乳房に届いた。
「いやっ」
 男の子の掌に、乳房を直接、揉まれている。そう思うだけで恥ずかしい。
「こんなに柔らかいんだ」
 靖史の声が、それをより強くする。愛美の背中がより丸まっていく。
 最初は遠慮がちだった指先も、次第に荒々しくなっていく。掌全部で乳房を包み込む。指と指に挟まれた乳首が、見る見る内に大きくなる。より敏感になっていく。
「ダメっ、あっ、そんな……」
 乳房を揉む手が、いよいよ激しさを増した。お尻に当たる肉塊もより硬くなっていた。
 腕を取られ、愛美は仰向けになる。
「あん」甘えた声に、驚かされた。
 愛美の上に靖史が重なった。正面から抱き合いキスを交わす。お互いの舌を舐め合う。十分に唾液を交換した後に、その舌は唇を離れ、首筋から胸の谷間へ、さらに乳房へと移動していった。
 舌先が乳首を舐めた。
 その甘く痺れるような感触が体の奥へと下りていく。オナニーでは決して味わえない触感が、愛美の体を開いていく。何もかもが靖史に占領されていくようだ。舌に侵されていないほうの乳房には、荒々しい指の刺激が与えられていた。
「ああ、ダメぇ」
 他の男の子なら、絶対に許せないような行為だった。それが今の靖史になら、快感になるのだから女の体はわからない。
 愛美はおかしくなっていく。何かが変だ。今までの自分でなくなっていくような感覚に戸惑いながらも、靖史から受ける愛撫を拒もうとしない。口では何と言おうと、心の奥から湧き上がる欲求は、もっともっとと告げていた。
 靖史の舌が乳首を離れた。
 腹部を這い、さらに下へと向かっていく。お臍も通り過ぎた。いよいよ羞恥の源泉へと迫る舌先。乳首はもう片方の指が担当していた。
 愛美の手が若草の茂みを覆う。
 もう迷わないと決めたはずなのに、女の子の部分を靖史に晒すのは耐えられない。少女としての本能が行動となって現れた。
「怖いの。本当にこれ以上は……」
 破瓜の痛みは聞かされていた。女の子が守らなければならないものと教育されて来た。それをまさに破られようとしているのだ。靖史を受け入れようとする欲求も、女の子の痛みを怖がる思いも、どちらも本当の愛美だった。
「ダメだよ。俺、止まらないよ」
 靖史は若草を覆う愛美の手に顔を押し付けた。
「ああ、どうしてもなのね」
 いつかは通らなければならない道なのだ。愛美はゆっくりと手をどけていった。障害物のなくなったその場所に靖史の唇が下りていく。体ごと股の間に潜り込み、秘密の肉を漁ろうとする。
 愛美は今、女の子の部分を靖史の目の前に置いていた。この暗さなら女の縦割れが見えることはない。それでも恥ずかしさで気が遠くなる。自分でもハッキリと見たことのない部分を鼻先で観察されている。熱く滑りを帯びた花芯がエッチなことを期待していると靖史に告げている。もう足を閉じることはできない。靖史の唇が繊毛をかき分けていたかと思うと、さらにその下へと下りて行った。
「あひぃ」
 花芯に滑りを帯びた何かが触れた。甘美な刺激が全身を駆けめぐる。舌を舐め合うキスと乳房への愛撫で、女の子の部分はエッチな証拠を示しているのだろう。オナニーを待ちわびている時のように、熱く疼いていた。
(靖史がアソコを舐めているんだ)
 朋美にされた時とは全く違う。その舌先は、何かを探し求めるように触れては去り、またの別の場所にも触れる。もしかしたら怖がっているかもしれない。靖史もきっと初めてなのだ。
「愛美ちゃんのココ、濡れてるよ」
 靖史が股間から顔を上げた。
「バカっ、もう、何考えているのよ」
 愛美は首を目一杯捻り、両手で顔を覆った。必死に耐えてきた恥ずかしさを、これ以上に上塗りする言葉はない。
「ご、ごめんよ。もう言わないから」
 靖史は愛美の秘部にしゃぶり付く。セックスする時は、ここを舐めるのだと、知識としては、知っていたのだろう。ただそれをどう実践したら良いかわからず、思ったことを口にして、愛美に怒られた。挽回しようと必死になっている、そんなところだろうか。
「ああっ、いやっ、ダメっ、もっと優しく、ああ、いやあー」
 敏感な部分を扱うには、いかにも乱暴な舌遣いだった。舌だけではない。秘肉に唇を押しつけ、舌先でその奥まで侵入を果たそうとする。愛美のあげる声に応じるかのように、その動きを活発にする。
「もういい。もういいって……」
 それでも靖史は止まらない。秘肉の滑りをすべて舐め取るように舌を這わす。その刺激が新たな潤いの呼び水となる。いつまでたってもキリがなかった。
「あああ、ダメだって言ってるのにぃ」
 その言葉は、靖史の耳に届いていたのだろうか。
「愛美ちゃん、俺……」
 靖史が上体を起こしたかと思うと、愛美の濡れそぼった部分に腰を近づける。堅さを増した肉塊が秘肉に当たる。靖史は指先で目的の場所を探り始めた。
「ちょっ、ちょっと待って」
 愛美は本気で靖史の体を押しのけた。
「どうしたんだよ」
「ごめん、ちょっとだけ。すぐに戻るから、ホント、ちょっとだけ待ってて」
 ハダカのままベッドを飛び出し、部屋を出て階段を駆け下りる。
(確かこの辺に……)
 君枝の部屋の明かりを付けると、愛美は整理ダンスを漁りだす。三つ目の引き出しで目的のものを見つけた。
「お母さん、いいよね」
 五センチ四方のビニールの包みに話しかけた。
 愛美は、それを握り締めると自分の部屋へと戻る。階段は暗いままだったのに、部屋のドアを開けると明かりが点いていた。
 靖史が、ベッドの上にハダカの上半身を起こしている。
「やだ、もう。見えちゃうじゃない」
 少女の裸身が蛍光灯の下にさらけ出されていた。急いでスイッチを切り部屋を暗闇に戻すと、愛美は靖史に抱きついた。ハダカの胸と胸とが触れ合う。靖史の両腕が背中に回されたた。
「わざとやったでしょう」
「えっ、うん。だって愛美ちゃんのハダカ、見たかったんだ」
「もう、恥ずかしいんだからね」
「ごめん。でも俺……」
 愛美は靖史の肩に顎を載せていた。こうしているだけで良かった。でも、靖史がそれでは済まないことも知っていた。
 体を離し、靖史の手を取って小さなビニールの包みを握らせた。
「女の子を守るのは男の義務なんだぞ」
 暗い部屋、カーテンから差し込む夜の明かりに、靖史が渡された包みをかざした。
「これって、コンドーム……?」
 愛美は顔を伏せた。
「愛美ちゃん、こんなの持ってたんだ」
「バカっ、お母さんのよ。決まっているじゃない」
「そうか。そうだよね」
「もう、ホント、知らない」
 両手で顔を覆い、横を向く愛美。その肩を靖史に掴まれ、正面に戻される。愛美は胸を抱いた。
「俺まだ責任とか取れないけど、愛美ちゃんが好きなことだけは絶対だから」
 大まじめのようだ。
「あなたって、そればっかりね」
 愛美は体を伸ばし、唇を合わせた。これまでで一番長いキスになった。
(次はどうするんだっけ)
 愛美はセックスについて、知っている限りのことを頭に浮かべた。一番参考になったのは朋美と芳樹のセックスだった。若い恋人同士の生本番を間近で見る機会など、そうそうあるものではない。
 愛美の脳裏には、芳樹のアパートで初めて見た朋美の姿が甦った。
「今度は私がやってあげるね」
 唇を離すと、愛美は布団の中に潜る。真っ暗な中、手探りで靖史の体を下りていく。股間にそそり立っているモノの姿は見えない。当たりを付けて伸ばした手に、肉の塊が触れた。思わず手を引いてしまう愛美。こんなことではいけないと思い直し、掌でそれを包む。肉塊はますます堅くなっていくようだ。
(こんなに大きいの、口に入るかしら)
 肉塊の先端に唇を当ててみる。
「な、なに。えっ、何してるの?」
 戸惑っているのは、愛美だけではないようだ。少しだけホッとした気持ちになる。
 抵抗がないわけではない。オシッコの出口を舐めるなんて、最初にその行為を知った時はショックだった。でも、朋美はしていた。芳樹のペニスを喉の奥まで飲み込んでいた。男と女が愛し合うということは、きっとそういうことなのだ。
 靖史が洗い髪だったことを思い出し、舌先を出してみる。膨らんだ風船のように皮がつっぱっていた。その先端はさらに敏感なのだろう。ほんの少し触れただけで肉塊が大きく脈打った。
(これ、オシッコじゃないよね。確か、ガマン汁って……)
 舌先が液体を感じた。何かの本で読んだ覚えがある。男の子は、セックスの前にこうなると。靖史は催促しているのだ。
 愛美は大きく口を開けて先端をくわえた。
「うううっ」
 靖史が呻る。
 感じているんだ。アソコを舐められた時のように気持ちがいいんだと、愛美は思った。
(もっと良くしてあげるね)
 朋美がやっていたのを思い出す。口に含んだまま頭を上下させてみた。唇がペニスの一番太い部分をこすり上げる。舌先は先端をなめ回す。それらの刺激にいちいち反応する肉塊。根本に手を当てていなければ逃げられてしまいそうだ。
「ああっ、愛美ちゃん……あぐぅ」
 靖史の息も荒くなる。
(いいのね。これでいいのね)
 愛美は首を振る動きを速める。歯を立てないように気を付けながら、舌と頬で肉塊を締め付ける。喉の奥まで侵入を許す。咽せそうになっても必死に堪えた。靖史が喜んでくれるならと頑張った。
「ううっ。ま、まずい。このままじゃ……」
 口の中に射精してしまうということか。
 靖史のペニスが逃げ出した。池のコイがエサを求めるように、愛美が口を開けて追いかける。もう一度くわえようとした刹那に抱き上げられ、体勢が入れ替わった。愛美が下になり、無防備になった股間に靖史が顔を埋めた。
「ああん」
 靖史の舌が秘肉を責める。お返しのつもりなのか、吸い付くように粘膜を貪る。さっきまでのおっかなびっくりは消えていた。舌先が秘密の花園を巡回し、その中心に刻まれた深い溝を探り当てる。
「イヤっ、あっ、はひぃ、は、はあうぅぅうん」
 攻守が反転した。体を逆向きにしているため、顔の脇で肉塊が揺れていた。顔を伸ばして、それをくわえる。愛美と靖史はお互いの秘部を舐め合う形となった。
(これってシックスナイン? 本当に愛し合った二人にしかできない行為だって……) 
 愛美が肉塊を激しく吸うと、靖史が舌を尖らせ秘孔を責める。いやらしい音を立てるのも構わずに貪り合う。気持ちがいい。良すぎて頭がおかしくなりそう。愛美は幸せに酔っていた。
 靖史が急に起きあがる。愛美から渡されたコンドームの袋を破った。
 酔いから覚めていく。より深く結ばれるために必要な行為だ。わかっていても、やはり怖い。もっと靖史を受け入れたいのに、腰が引ける。暗闇の中、靖史の指の動きから目が離せない。
「あれっ、これってどっちが表なんだあ」
 緊張感のない声に、愛美は息を吐く。コンドームを付けようとして、何度も失敗している靖史。愛美はその背中に寄り添った。
「愛美ちゃん、俺……」
 どうやら準備ができたようだ。靖史が向きを変えた。
「うん」と、小さく頷く。
 愛美は仰向けになり、顔を覆う。靖史がその手の隙間に割り込み、口付ける。いよいよその時が来たのだと、愛美は覚悟を決めた。
「優しく……してね」
「俺、愛美ちゃんが好きだ」
 もう一度深いキスを交わしながら、靖史の手が愛美の下腹部へ下りていく。散々舐め合ったその部分は十分に潤い、破瓜の期待と怖れに震えていた。靖史は指先でその場所を探していた。
「ここ……で、いいのかなあ」
 指が止まった。
「ばかっ、そんなこと、女の子に聞かないの」
「ごめん。悪かったよ」
 靖史にとっても酷なことだったのかもしれない。ここだと思った場所に腰を近づける。肉の凶器が、秘孔の入り口に迫った。
「優しくだよ」
 秘肉のわずかな隙間に押し入って来る。
 ぬるっとした感触に緊張していられたのも束の間だった。引き裂かれるような痛みが、その部分から体の奥へと入り込み、全身へと広がっていく。
「ひぃいいっ、いぃいぃいいいぃぃーー」
(痛い。やっぱり痛い。こんなの、いつまで続くの)
 愛美は奥歯を噛みしめた。
「好きだ。愛美ちゃんが大好きだ」
 耳元で囁きながらも、下腹部に加わる圧力は止まらない。痛みは治まらない。好きだと繰り返す言葉だけが、愛美の支えだった。
「もう少し……後ちょっとだよ」
 多分そうなのだと思う。
 でも、さっきから少しも進んでいないような気がした。もっと痛くなりそうな予感はあるのだが、何かにつっかえているように動かない。
(私が苦しそうな顔をするから……?)
 そうは思っても、この状況で痛くないふりはできない。気を逸らせるほど生やさしいものでもない。靖史を受け入れるには、どうしても避けることができないことなのだと、耐えるしかなかった。
「愛美ちゃん、ごめん」
 靖史の腰が大きく動いた。
「はぐぅ」
 一際強い痛みが全身を走る。体の中で何かが切れた、そんな感じだった。
 愛美の体が硬直する。靖史の動きが止まる。侵入が止まっても、痛みがすぐに消えることはない。むしろ全身に広がった痛みが、その部分に引き返して来るようだ。
 喉の奥に詰まった息が、少しずつ漏れていく。
 痛みはまだある。でもその中心に愛する者の存在が確認できた。愛美は靖史と結ばれた。それを実感できることが嬉しかった。
「大丈夫? 愛美ちゃん」
 靖史の顔が近くにあった。
「平気。ヤッくんがいっぱい好きって言ってくれたから」
「良かった。まだ痛い?」
 愛美は、靖史の欲望が、未だ満たされていないことに気づいた。さっきまで口の中にあったアレは、今、愛美の中で息を潜めている。
「うん、でも大丈夫。動いていいよ」
 返事代わりのキスの後、靖史は腰を使い出した。ゆっくりと、いや、怖々と言った方が良いのかもしれない。貫通したばかりの秘孔に怒張した肉の塊を出し入れする。その隙間から生ぬるい液体がにじみ出し、お尻の肉を伝う。シーツに染みをつくることは避けられないだろう。
「くうぅぅぅ」
 痛みはまだある。でも、さっきのものに比べれば何と言うことはない。靖史が喜んでくれるなら耐えてみせると、愛美は下唇を噛んだ。
 秘孔をゆっくりと行き来していたペニスが、次第に動きを速めていく。単調な動きだ。それでも愛美の中でその存在感を大きくしていく。ただ痛いだけではない。内側から愛美を好きだと主張しているのだ。
「好きだ。愛美ちゃんが好きだ」
 靖史はささやき続ける。内と外、両側からの呼びかけに愛美の心が溶ける。愛されているという実感だけが体を包む。腰がより活発に動き出した。肉の塊が暴れ出す。もう痛みは感じなくなっていた。
「ああっ、いやっ。あっ、あっ、ダメっ、そんなにしちゃ。ああ、ダメぇ」
 靖史が愛美の体を抱え上げる。アソコに挿入を許したまま上体を起こされ、靖史と向かい合う。両手で抱きしめられ、胸と胸とが合わされる。自分の体重で体が沈み、肉塊の先端が、ようやく最深部に達した。わずかにぶり返した痛みも間もなく消えた。
「愛美ちゃん、いいよ。いい。最高だよ」
 靖史の声もうわずり始めた。愛美の変化を感じ取るように、腰の動きも荒々しさを増す。肉塊は制御不能の暴れん坊となって責め立てる。汗が飛ぶ。喘ぎ声も大きくなる。
「あうっ、ひいぃ、い、あっ、いい、あああーーー」
 オナニーでは味わえない快感が動き始めた。花芯のずっと奥から湧き出す快感だ。これから、どれほど大きくなるかわからない。そんな予感に理性が酔った。
「なんか、ダメっ。これ変だよ。ああ、頭が……おかしく、ああ、ダメっ。変。私、おかしくなっちゃう。ああ、ひいぃいいぃぃ。ダメぇーーー」
「おっ、俺も。ダメかも」
 そうしている間も、ずっと腰は動き続ける。下から突き上げられるというより、お尻に回した靖史の手で、愛美のお尻が押しつけられているようだ。
「これ何? あん、あん、あああ。イヤっ。あん、どうにかなっちゃう。ああ、はふぃ、あん、あああーーー」
 愛美は靖史にまたがったまま首を大きく振った。そうしていなければ意識が飛んでしまいそうだ。いや、それすらも考えての行動ではない。何がそうさせているのかわからない。本能のままに体が動いた。
「愛美ちゃん……俺、愛美ちゃん」
「あーん、私、もうダメ。どこか。ああ、どこかに行っちゃう」
「俺も。うっ、愛美ちゃん、ううっ」
 靖史の両腕に力が込められた。力強く抱きしめられ、秘孔を満たした肉塊が震える。その振動が愛美にも伝わり共振する。体が一つに繋がった。
「ああ、ダメっ。いっ、イクっ。イクっ。イッちゃう。もうダメっ。イッちゃうぅぅぅ」
「俺も、俺も、愛美ちゃん、あぐぅ」
「ああ、あああーーー、イヤっ、ひいぃーーー」
 愛美の体は大きくのけぞり、やがて、仰向けに横たわる靖史の体に重なった。
(つづく)


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