遅刻の罰は……(中編)
作:ベンジー
一時間目の授業が終わり、まきは自分の席に戻りました。前原先生が教室からいなくなると男子生徒が寄ってきました。まきは両方の肩を抱いて身を縮み込ませるくらいしかできませんでした。 (こっちに来ないでよおーーー) 無駄よね、多分…… 案の定、ひとりの男子生徒がまきの目の前まで寄って来ました。 「夕べの報道特集、録画してあったら貸して欲しいんだけど」 そう言いながらスリップの胸元を覗き込んでいます。まきのテレビオタク・ビデオ狂は有名ですが、報道番組がその範疇に入っていないのは皆知っている筈です。 「今週はマハールの内戦問題だったろう」 「ああ、知ってる。それでさあ……」 (なんでまきの回りでマハールなのよう) どこにあるのかも分からないような国の内戦なんてまきに関係ないじゃない。ビデオをダシにしてまきの下着姿を近くで見たいだけなのね。 今日は一日こんなかしら。 哀しいけどまきの制服はキャビネットの中。 早く今日が終わって、って昨日も言ってましたね。結局、まきは二時間目のチャイムが鳴るまで男子生徒に囲まれて、興味の無い報道ニュースを聞かされました。
二時間目は中村先生(♀)の授業でした。中村先生はスリップ姿のまきを見て激昂しました。 「一体これはどういうこと」 クラスメイトのひとりが事情を説明しますと、中村先生は尚激昂しました。そして、まきの手を掴んで、 「一緒にいらっしゃい」 まきは廊下に連れ出されました、スリップ姿のままで。 (ええー、どこに連れていくの) まきがこんな姿で授業を受けていることは、クラスメイトと前原先生だけの秘密だったのです。今までは堅く守られてきました。それが中村先生の行動で学校中に知れることとなりました。 廊下ですれ違う生徒も先生も、皆、まきを振り返りました。学校の廊下にスリップ姿の女生徒がいれば当然です。 (もう嫌や。早く教室に帰して) そんなまきの気持ちは激昂した女教師には伝わらず、とうとう職員室まで連れて行かれました。 「前原先生、一緒に校長室まで来てください」 前原先生は中村先生の剣幕と彼女に引きずられているまきの姿に驚いていました。 まきは校長先生の机の前に立たされました。両脇には中村先生と前原先生がいます。 「校長先生、これを見てください。前原先生は女生徒にこんなことをさせているのです」 (あーん、見なくていいのにー) 校長先生は、両手を胸に抱いて肩をつぼめるまきの姿に視線を残したまま、前原先生に尋ねました。 「これはどういうことだね」 前原先生は今までの経緯を説明しました。 「遅刻はいかんが、これはやり過ぎではないかね」 「そうですよ。女生徒を裸にするなんて、教師のすることではありません」 裸の女生徒を学校中ひっぱり回すのは、教師のすることなのでしょうか。 「この次遅刻したらどうする積もりだったのですか」 中村先生は、尚も校長先生の前で前原先生を責めました。それがあまりに執拗でしたので、前原先生も意地になってしまいました。 「もちろん下着も脱いで貰いますよ」 「下着もって、ぜ、全部ですか」 「そうですよ。それでも直らない場合は校庭で磔にすることになっています」 中村先生のこめかみに血管が浮き出ていました。ぶち切れてもおかしくないほどです。 「校長先生、なんとか言ってください」 中村先生は校長先生が前原先生を処罰するものと思っていました。 「前原先生のやり方は明らかに間違っています」 校長先生は今度はそう断言しました。 中村先生は「ほら、ごらんなさい」と勝ち誇りました。が、 「前原先生のクラスだけでやるから問題になるのです。これは学校の取り決めにしましょう」 校長先生がとんでもないことを言い出しました。 「それじゃ校長先生は前原先生のやり方を校則にすると言うのですか?」 すぐに中村先生が反撃しました。 「そうです。やはり遅刻はいけないことです。磔柱は今週中に作らせましょう」 そこまで言われては中村先生も玉砕するしかありませんでした。頭もさけずに部屋を出ていってしまいました。 それにしても大変なことになってしまいました。磔が校則だなんて。このままではまきは間違いなく磔にされてしまいます、それも多分丸裸で。 「前原先生、でも、今日のところはこれで勘弁してやってください」 さすがは校長先生、と思ったのもつかの間、 「そのかわり遅刻が二日続いた場合は一辺に二枚脱いで貰いましょう。まさかとは思いますが、三日続いたら即磔って言うことではどうでしょうか」 「それは良い。だったら今日で二日連続だからスリップも脱いで貰わなければならんなあ」 そんなー。 大変なことになりました。今朝急いでいたものですから、まきはブラをつけていないんです。スリップを脱がされたらバストがまる出しになってしまいます。 「そんなの聞いていません」 まきは叫びました。なのに前原先生は、 「うるさい。言われた通りにするんだ」 そう言ってまきのスリップに手を掛けました。絶対絶命です。 「まあ、待ちたまえ。前原君。今日はこのまま返すと約束したんだ。この子の服を返してやりたまえ」 「しかし、校長……」 「但し、こんなことは二度は無いよ。もし明日も遅刻するようなことがあれば間違いなく磔になって貰うからね」 まきは命拾いをしました。でも、校長先生の最後の言葉は、胸に深く刺さりました。
翌日、まきはゆっくりと通学路を歩いていました。まだ、たっぷりと時間はあります。夕べは早く寝たせいで頭もさっぱりしていました。 「京子に感謝しなくちゃ」 夕べのことです。京子がまきの家に来て、あれこれと面倒みてくれたのです。 「良いわね。お風呂は温めのお湯に長く漬かるの。そうすれば疲れもとれるし寝付きも良くなるわ」 京子はそう言ってまきをお風呂に入れると、目覚まし時計をベッドの左右にセットしてテレビやビデオの電源を全部はずしてしまいました。電話のベルも音を絞って押し入れの奥に布団蒸しです。 「これで良く眠れるわ」 そう言ってまきが布団に入るまで看視していました。 まきがいつもより早めに家を出たのは、京子のそんな友情に答えたかったからでもあります。ところが、通学路には生徒の姿が見あたりません。早めに出たと言ってもほんの少しです。こんな筈は……と思いながらまきは足を進めていきました。それが学校に着いた時には絶望に変わったのです。 校門まで来て見上げると、校舎の最上階に掛けてある時計は登校時間を過ぎていたのです。まきは驚いて腕時計と見比べました。腕時計はまだ七時半です。まだ三十分は余裕があります。 「どういうこと。家の時計だってみんな同じだった筈よ」 まきは学校の時計が間違っているのだと思いました。でも、それにしては様子が変です。どの教室でもホームルームが始まっています。教室の扉を開けた時の男子生徒の拍手喝采が、まきに遅刻を認めさせました。 (でも、なんで……) 教室では京子がにやにやしています。 (まさか……) いや、でもきっとそうです。まきはすべてを理解しました。京子が夕べ来た時にまきの家中の時計を遅らせていたのだと。 まきは目の前が真っ暗になりました。この瞬間にまきの磔刑が確定したのです。 「まさか今日遅刻するとはなあ」 前原先生が怖い顔をして近づいてきました。まきには京子を問いただす時間も与えられませんでした。 「まだ磔柱の用意が出来てないんだが、とりあえず素っ裸になって貰うかな」 教室に歓声が上がりました。みんなまきのストリップを期待しているのです。 (本当に丸裸にされちゃうの) (つづく)
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